専門性を磨くだけがすべてじゃない。ベンチャーに行って広がった、エンジニアの可能性

「ベンチャーに行ったら、エンジニアとしての可能性が広がった」。
そう話すのは、最先端のAIベンチャー・株式会社データグリッドに飛び込んだ、株式会社オージス総研・岡山博明(おかやま・ひろあき)さんです。

同社では、オージス総研グループの価値創造や変革に取り組むことのできる人材を育成する「トレーニー制度」の一環として、社員が自社に籍を置いたままベンチャーで実践経験を積む「レンタル移籍」プログラムを導入しています。

岡山さんはその制度を活用し、2024年1月から1年間、ベンチャーでプロダクト開発に携わるだけでなく、営業や事業開発といった未知のフィールドにも果敢に挑みました。

安定した環境を離れてまで、なぜ岡山さんはベンチャーへの移籍を選んだのか。移籍して得た気づきや、成長とはどのようなものだったのか。越境体験のリアルに迫ります。
(※ 本記事は2025年4月にインタビューしたものです)

スキルの停滞、ビジネス分野への関心、そして社風への挑戦——
越境を決意した3つの理由


――岡山さんのこれまでの経歴を教えてください。転職経験もあるそうですね。

はい。新卒で東京の小さなSIerに入社し、数年間エンジニアとして働きました。その後、もう少し規模の大きな中堅SIerに転職し、経験を積みました。そして2021年には、「地元である大阪を拠点に働きたい」という思いからオージス総研に入社しました。

入社後は、受託開発の業務システムプロジェクトにエンジニアとして参画しています。リーダー的なポジションも任されるようになりました。

――充実しているように思えますが、ベンチャーへ行くことを決めた理由はどこにあったのでしょう。

大きく3つあるのですが、1つはキャリアへの漠然とした不安です。経験を積み、プロジェクトリーダー的ポジションに立つようになると自分で手を動かす機会が減り、「尖ったスキルを磨けていない」と感じるようになりました。また、広く浅い知識しか持っていないことにも危機感を抱いたんです。

2つ目はビジネスへの関心です。実は当時プライベートで、趣味でもあるプロ野球のデータをまとめたウェブサイトを立ち上げました。その運営を通じて「どうすればビジネスを成功させられるのか」といったことに興味が湧くようになりました。

3つ目が、オージス総研の風土です。互いの意見を尊重する風土は醸成されている一方、新しいものを取り入れて変化していくことにはやや慎重な印象です。だからこそ、自ら新たな経験を積むことでその変化のきっかけになれたら、と考えました。

人事部門の方に今後のキャリアについて相談した際に今回のプログラムを教えていただき、「面白そう!」と立候補しました。私は考え始めると躊躇してしまうタイプだからこそ、考える前に飛び込んでみました(笑)。

――移籍先はデータグリッドでしたが、どのように決めたのでしょうか。

社会的にも注目されている「AI」に関する知識を身につけたいという思いがあり、AIの開発を行っているベンチャー企業を希望していました。

また、ローンディールの担当の方から「事業の立ち上げフェーズにある小規模なベンチャーの方が、より実践的で幅広い経験を積みやすい」とアドバイスをいただきましたので、ちょうど事業を拡大している最中だった株式会社データグリッドに魅力を感じ、志望することにしたんです。

正直、ベンチャーの方は野心にあふれていてとっつきにくいイメージがあったのですが、面談の際、CEOの岡田さんをはじめ、皆さんフランクで物腰も柔らかく、いい意味でびっくりしました。素直に「一緒に働きたい!」って思いましたね。

(左から、データグリッド庵原さん、CTO斎藤さん、岡山さん、代表取締役CEO岡田さん)

「エンジニアだけで終わらない」AI開発から商談、事業戦略まで

――移籍して環境が大きく変わったと思いますが、すぐに馴染めましたか

移籍初日には、社内のメンバー全員と1on1の時間をセッティングしていただきました。そのおかげで、それぞれの人柄や雰囲気を早い段階で知ることができ、すぐに業務に集中できました。最初はどうしても受け身になりがちなので、とても助かりました。

最初に取り組んだのは、AIデータを生成するクラウドサービス「Anomaly Generator」の開発です。エンジニアとしてのこれまでの経験を活かしつつ、AIに関する知識を新たに学びながら取り組めたことで、自然とチームに馴染むことができました。

――プロダクト開発と並行して、営業活動にも関わったそうですね。

はい、移籍後すぐに展示会の企画・運営にも携わりました。ブースに来られた方にプロダクトの仕組みを説明したり、デモを見せたりする中で、製品についてインプットしながらアウトプットする、まさに学びながら伝える貴重な経験になりました。

オージス総研では受託開発が中心だったため、まだ顧客になっていない方々と直接コミュニケーションを取るのは初めてで、最初は試行錯誤の連続でした。名刺交換ひとつとっても、それをどう次のアクションにつなげるかが難しく、その点では営業や商談の奥深さを実感しましたね。

――初めての営業活動ですよね。難しさを感じたということですが、どのように次に繋げて行ったのでしょうか。

データグリッドの経営層やローンディールのメンターの方から「仮説と検証を繰り返して進めよう」というアドバイスをいただきました。それをもとに、「相手はこんな課題を抱えていそうだ」と自分なりに仮説を立ててから商談に臨み、会話の中でフィードバックをもらうようにしました。

すると、お客様が本当に求めていることや、言語化しきれていない不安・疑問が少しずつ見えてくるようになって。結果的に、それが受注にもつながって嬉しかったです。

また、プロダクト開発にも関わっていたので、商談で得たニーズをそのまま開発に反映させることもできました。お客様の声をすぐプロダクトに活かせる――。そのスピード感は、1人で複数の役割を担うベンチャーならではだと感じました。

――それは貴重な経験でしたね。

貴重な経験といえば、経営層の方々が集まる会議にも参加させていただきました。プロダクトの料金体系や、継続契約を増やすための施策について話し合う場で、自分の考えを伝えるだけでなく、経営層の方々の意見を間近で聞ける貴重な機会となりました。

もちろん、AIやビジネスに関する知識は、経営層の皆さんにはまだまだ及びません。そのため、新しい事業アイデアを出すといった面での貢献は難しかったのですが、「必要なフォローを行う能力は高い」という評価していただけたようです。

――具体的にその力が発揮された場面はありましたか。

たとえば、「展示会で名刺交換した方との商談を自動で調整できるようにしたい」という要望があったときに、案内メールを自動送信できる仕組みを自分で構築しました。そうした工夫が評価につながったのだと思います。

最初から、自分から積極的に動き、プラスアルファの価値を提供することを常に意識していました。「自分が入ったことで、少しでもチームがスムーズに回るようにしたい」という思いがあったんです。オージス総研でリーダーとして周囲をフォローしてきた経験が、ここでも活きたのかもしれません。

一方で、自らリードしていく推進力が今後の課題だと感じています。正直、うまくいかなかった部分もありました。特に事業開発の場面では、サポート役にとどまってしまい、もっと主体的に提案したり方向性を引っ張ったりする力が必要だったと痛感しています。

(移籍中の1枚。展示会にて)

専門性だけじゃない。ニーズをくみ取る力が武器になる

――改めて、移籍した1年間でどのようなスキルや知識が身につきましたか。

一番大きく変わったのは、「尖ったスキル」の捉え方です。移籍する前は、エンジニアとしての専門性を極めることこそが「尖る」ことだと思っていました。でも、エンジニアとしての技術に加えて、営業やコミュニケーションのスキルを組み合わせることで、お客様のニーズをくみ取り、それを開発に反映できるという、自分ならではの価値を出せることに気づいたんです大きな収穫でした。

また、プロダクト開発だけでなく、展示会の対応や商談など、いろいろな立場を経験したことで複数のスキルが身につきました。こうしたスキルをかけ合わせることが、むしろ武器になると実感しました。もちろん、技術を深く極めるタイプのエンジニアも必要です。でも、お客様の声を直接聞いて、それを開発に活かせるエンジニアがいることで、プロダクト開発はもっとスピーディーに、価値あるものになると思います。

――元々尖ったスキルが持てていないことに危機感を抱いていたようですが、ある意味、岡山さんの中で「尖ったスキル」の捉えなおしが起きたのですね。顧客と対話したのも初めてということでしたので、その部分も大きなインパクトがあったのではないでしょうか。


最初はやはり苦労しました。でも、皆さんから聴き方・伝え方のコツを丁寧に教えてもらって。周囲に頼りながらではありますが、徐々に対応力もついていきました。


それまでの自分は、「何でも自分で解決しなければ」と思いがちだったのですが、人に頼ることで気持ちがラクになるし、結果的に成長も早くなるということに気づけたのも大きかったですね。

移籍前は、今後のキャリアに対してモヤモヤや不安がありましたが、いまは「なんとかなる」「やってみよう」と、楽観的に考えられるようになりました。営業としても貢献できる手応えを得たことで、自信にもなりました。

――移籍した甲斐がありましたね。オージス総研では、元の部署に戻られたのですか。

いえ。移籍期間終了後、3ヶ月間の育児休業を経て、現在は、AI製品を開発する部署に異動しました。移籍前から上司と「戻った後はここを目指したい」と話していたので、明確なビジョンを持って移籍できたことも良かったと思っています。

2025年4月に立ち上がったばかりの部署で、社内でも「AI事業を発展させよう」という機運が高まっているタイミングです。私も、「移籍の経験を活かしたい」という思いでいっぱいです。お客様と対話しながら課題を見つけ、新たな事業を生み出したいですね。

――岡山さんが動くことで、オージス総研の組織風土にも、変化をもたらせそうですね。

データグリッドでは、新しい技術やツールが出ると、すぐにチーム全体で情報を共有し、実際の業務にもすぐ取り入れていました。そのスピード感や柔軟さはすごく印象的でした。 オージス総研でも、私自身がまず実践し、少しずつでも「動き出す空気」をつくっていけたらと思っています。

Fin

協力:株式会社オージス総研 / 株式会社データグリッド
インタビュアー:有竹亮介
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール

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