【第1章 入社9年目、胸をかすめた「もやもや感」】 自己イノベーションを起こすために

今回は、NTTドコモから株式会社VALUにレンタル移籍した亀山直季さんを紹介します。VALUが提供するのは、”なりたいもの”や”やりたいこと”を実現するために、個人を応援するアプリ。ドコモ入社以来、主に企画屋として事業企画の最前線に携わってきた亀山さんは、2018年8月から2019年1月までの半年間、VALUに移籍しました。そこで何を感じ、何を得たのか。全4回でお届けします。

亀山 直季(かめやま なおき)
2010年にNTTドコモ入社。入社後は4年ほど写真関連の事業企画・開発に携わる。その後3年間は人事部採用育成担当として若手社員の育成に尽力、2017年から現職のイノベーション統括部グロース・デザイン担当として新規事業開発を行う。日々の仕事をこなしながら、「自分も会社も、このままではいけない」という漠然とした課題を抱えていた。

自分がやりたいこと、自分に足りないものは何か

亀山さんが新卒でNTTドコモに入社したのは、ドコモのスマートフォンXperiaが発売された頃。スマホアプリが本格化し、スマホの普及率が急速な伸びを見せていた時期だった。

NTTドコモは、携帯電話やスマートフォンの移動通信事業のほか、dマガジンやdTVなどのコンテンツ、dカードやiDなどの決済サービスなど、さまざまなスマートライフ事業を展開している。

亀山:入社後は写真とクラウドを活用した新規事業の企画に従事していました。。人事部を経て、直近ではドローン新規事業のプロジェクトに携わっていました。ドコモの携帯電話通信とドローンを組み合わせて、遠隔でのリアルタイム動画配信を災害時の状況確認等に実用可能か、様々なパートナー様と共同で実証実験を繰り返しビジネス検証を続けていました。

新規事業に携わる亀山さんは、社内ではゼロイチの新規事業のタネを生み出してゆく組織に在籍する。

ユーザー目線のニーズを実現するために、リーンスタートアップの考え方を基に新しい事業を自分たちで立ち上げていくのが役割だ。

途中人事部で採用・若手育成という経験をしながら、ずっと企画畑で仕事をしてきた。順風満帆とまではいわないが、9年間の経験から、仕事の範囲も拡大し、仕事の進め方も自分なりのやり方を構築するようになり、社会人としての自信ややりがいも感じていた。

しかし、仕事を順調にこなしながらも、心の中には常に漠然とした憂いが消えない。

亀山:様々な仕事に携わることで、幅広く企画を進められるようになった一方で、自分自身や会社へ対し、それぞれ「課題感」のようなものがぼんやり見えてきました。

まず、自分自身について。
「このまま企画屋として、ずっとやっていくのかな」というもやもやした疑問が、胸をかすめるようになりました。

僕は100%企画に向いている人間というわけではないと思っています。
どちらかといえば思考を積み上げてモノづくりをしていくタイプで、突拍子もない天才的なアイデアを思いつくような才能はない。

その中で自身が何を得意としているか、何に夢中になれるか、これまでの仕事の経験から振り返ってみました。
思い返すと、企画オンリーよりも、ユーザーのお困りごとを想定して、そのための解決策を考え、それをアプリなどプロダクトで表現する。その後ユーザーからフィードバックをもらって改善したりという、モノづくりのプロセスみたいなものが好きなんだとわかったんです。

オンリーワンの人材になるために

亀山さんは、自分自身のキャリアの軸について考えるようになっていた。

亀山:これまでの自分のキャリアから、「Strategy」「Design」「Technology」の3つを抽出し、これらを軸とした上で事業企画に携わる人間になりたいと思うようになりました。

これら一つひとつに秀でた人材はいても、3つすべてができる人材はなかなかいません。例えば「美意識あるエンジニア」という2つの掛け算でもぐっと母数は減ると聞いたことがあります。

自分がこの3つのスキルを強化して、世の中に価値を届けることに携わることができれば、個々のスキルで100点をとれなくても、オリジナリティのある人材になれるのではないか。そう考えるようになりました。

入社したばかりではわからなかったかもしれない。
これまでの9年間で、自分の向き不向きがわかってきた。自分の目指すべき姿も明確になりつつあった。同時に、そのために何が足りないかも見えてきたのだ。

亀山:この3つの中で自分に圧倒的に足りないのは、「Technology」の部分でした。だから、自分なりに少しでも学んでいこうと考えたんです。

ドコモでの業務にプログラミングそのものはない。
自分自身への課題感を感じた30歳頃から、亀山さんはプログラミングを学びはじめた。
週末は自らプログラミングの学校に通い、日々の業務以外の時間を活用し、学校からの課題に取り組み、自ら勉強会のイベントに出席し、理解を深めていった。

「恵まれた環境にいるはずなのに」という歯がゆさ

NTTドコモという会社にも、課題を感じていた。
その理由は、NTTドコモという企業のメリットと相反するものだった。

いまやドコモは本体だけでも7000人超、グループ全体を合わせると2万6000人超の大企業だ。ヒト・モノ・カネという経営資源があり、ブランド力もある。「やりたいことが実現できる環境」にある。

亀山:他の企業にもいえることかもしれませんが、恵まれた環境にいるはずなのに、僕らはリソースを十分に活かし切れていないんじゃないか。そんな思いが常にありました。
事業企画にこれまで携わる中で、まさに“イノベーションのジレンマ”同様の状況が起きていました。新規事業を立ち上げる際に将来的に多くのお客様に利用いただけることを想定し、いわゆる“しっかりした”サービスに組み上げていくんですね。その分、時間とコストが多く発生し、お客様のニーズや競合への対策が遅くなることが少なからずありました。特にモノづくりのプロセスに大きな課題を感じ、このままではいけないと漠然と感じていました。

ドコモの場合、アプリをはじめとするサービス開発ではアウトソースを活用することが多い。実際のモノづくりに際して自分たちでプログラムを組むということはなく、パートナーと一緒に作り上げていく方式がほとんどだ。

亀山:そうなると、実際のお困りごとを抱えているお客様とプロダクトを生み出す開発の現場との距離が非常に遠いんですよね。

例えばモノづくりのビジネスフローでは、ユーザー目線でアイデアを考える人がいて、そのアイデアを開発目線で仕様を決めるチームがあり、それを社内のシステム設計を行うチームが理解し、その向こうにパートナーである企業があり、さらにその奥にプログラムを実際に書く人がいる……というイメージです。

僕は最初のフェーズであるユーザーとコミュニケーションしながらアイデアを考える部署にいるのですが、どうしても連携がうまくいかず、想いや意義を伝搬させることが難しくなり、組織間で途切れてしまっている。そのような状況では他社のスピード感や良いモノを作っていく熱量の部分で、どうしても100%の力を発揮できていないと感じました。

また、社内の新規事業企画を俯瞰してみたところ、開発だけで起きていることではないと気づきました。事業の戦略構築の部分では、戦略コンサルの知恵を借り、UI/UXではデザイン会社の知恵を借りる。モノづくりでは開発会社の知恵を借り、マーケティングでは広告代理店の知恵を借りる。もちろん、自分たちだけで事業を創ることは難しいかもしれませんが、関係者が増えることでその分、スピードと熱量の伝搬が薄くなっていくことも事実かと思います。また、助けを借りている分だけノウハウが内部にも残らず、自分たちの“コア”が分からなくなっていることへの危機感を覚えました。

亀山さんがNTTドコモに入社したのは「このサービスで生活が変わった」「このサービスがあって本当によかった」というプロダクトを提供したいという思い。それは入社以来変わらない。

入社9年目、30代になり、自分自身にも、そして会社にも、漠然と「このままではいけない」という気持ちが消えなかった。

それなら、自分たちで変えるしかない。いままでと違うやり方をしなければならない─。
そう考えるようになった。

自分や会社を変えるには、外からの刺激が必要だ。
ベンチャーやリーンスタートアップなどの研修や講習には参加したものの、なかなか聞いた話からでは実感までは得られない。

そんなとき、上司から「レンタル移籍」のオファーがあった。
移籍先の株式会社VALUは「人に投資をし、応援する」という、いわば個人版クラウドファンディングサービスのプラットフォームを提供している。
メインとなる業務は、アプリのプログラミングだ。

亀山:ドコモにいて鍛えられないのは、プログラミングというまさに「モノづくりの現場」の部分。現場を知らないことは、自分と会社にとって共に弱点だと思っていました。
スピード感を持ち、良いプロダクトを生み出し、先進的なビジネスに取り組んでいるベンチャー企業に留学(留職)させてくれるプログラムがあると聞いて、「これは自分にぴったりのチャンスかもしれない」と、飛び込んでみることにしたんです。

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「&ローンディール」編集部よりお知らせ!
【参加者募集】7月3日(水)開催
「ローンディールフォーラム2019 人材流動化の先にあるもの」

昨年5月に開催し、250名もの方にご来場いただいた「ローンディールフォーラム」を今年も開催します。今回のフォーラムでは「人材流動化の先にあるもの」と題して、レンタル移籍を経験した方々による事例紹介、大企業のマネジメント層の方々による社外経験が組織にあたえる影響についてのセッション、さらに、特別ゲストをお招きし「人材の流動化」についてのパネルディスカッションを行います。ぜひご参加をお待ちしております。

<イベント概要>
日程:2019年7月3日(水)
時間:15:00〜18:30 終了後、会場で懇親会あり。
場所:Base Q(東京ミッドタウン日比谷 6階)
費用:一般 3000円(税込)
詳細・お申し込みはこちら → https://eventregist.com/e/loandealforum2019

 

協力:株式会社NTTドコモ、株式会社VALU
Interview:山崎潤子

 

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