「自社には、可能性しかない」。社員のWILLが混ざり合えば、イノベーションは自然と生まれる

「この会社には、まだまだ可能性がある」。
そう語るのは、トヨタ紡織株式会社で次世代リーダー育成を担う川嵜広志(かわさき・ひろし)さん。いま、トヨタ紡織の人材育成に大きな変化が起きようとしています。

正解のない時代に求められるのは、与えられた仕事をこなす人材ではなく、“自分の意志=WILL”で動ける人材。川嵜さんはその実現に向け、選抜型育成プログラム「CDP(クリエイターズ デベロップメント プログラム)」の中核に、ローンディールが提供する「WILL-ACTIONサーキット」を導入しました。社員一人ひとりが自分のWILLを言葉にし、そこから100個のアクションを選び、実際に動き出していく。そんな一風変わったこの取り組みが、参加者の心に火をつけ、組織の空気を変え始めています。

なぜ、このプログラムは社員の心に火をつけたのか。そして、どのような変化が組織に生まれているのか。仕掛け人・川嵜さんの言葉から、その裏側をひも解いていきます。

(※ 本記事は2025年4月に取材したものです)

白紙の地図を自分の足で歩けるようになって欲しい。突破口になるのは”自分だけのWILL”


ーーまずは、「CDP」立ち上げの経緯から聞かせてください。
 
リーダー資質のある30-40代の社員に研修を提供し、早い段階からその力を磨く機会が必要だと考え、2024年度に新しく立ち上げたのがCDPです。


2021年に人事に着任してから、様々な研修を実施してきましたが、 社員の皆さんは本当に優秀で、きちんと研修に取り組んでくれていました。

一方、「枠からはみだして、何かやってみよう」というタイプの人材は多くないように感じていました。決められたことをやりきる力には長けている。でも、白紙の地図の上を自分で歩くような、不確実さへの耐性は足りていないかもしれない。それが当社の組織的な特性なのかなと。だからこそ自分の意志で、道なき道を歩く力を育てるプログラムをつくりたいと考えていました。
そんなときに思い出したのが、ローンディール社が提供している「WILL発掘ワークショップ」です。私自身、2020年に受講した経験があって、今回のCDPに組み込むことにしたんです。

川嵜 広志さん トヨタ紡織株式会社 人材戦略部
2001 年、豊田紡織株式会社に入社。開発部に配属しエンジン部品の開発・実験に従事、2021年、プロコーチとして活動しつつ、人材戦略部に異動。以降、研修企画・講師・WSファシリテーターに従事。 リーダー育成研修とコミュニケーションスキル研修を担当し、縦と横の関係を紡いで、安心して話せる“場”をつくることを使命として、取り組んでいる。

ーーなぜWILLに着目したのですか

新規事業のプロジェクトがなかなか形にならない様子や、社員間のコミュニケーションを見て感じていたのが、本音が話せない空気感があるのではないか?ということ。

それは決して「言いたいのに我慢している」わけではなく、「そもそも、言うものではない」「言わないのが当たり前」という感覚が文化として根付いているイメージです。

誠実で、協調性に長けているからこそ、自分のWILLをなかなか表に出せない。出さないのが当たり前になると、WILLって見失ってしまうものだと思うんです。だからこそ、まずは自分のWILLを丁寧に掘り起こすプロセスが必要だと考えました。

「WILL-ACTION サーキット」で、100個のアクションにチャレンジ

 
ーーCDPにおいて、WILLのプログラムは具体的にどのように実施したのでしょうか。

第一フェーズは、リフレームからスタートしました。今まで通りのことをしていればこの先も安定している、という時代はもう終わり、VUCAの時代に求められるのは、「自分の意志で動ける力」だと現実をインプットしてもらうことから始めました。

(ワークショップ中の様子)

そこから本格的に自分のWILLを発掘するパートに入りました。
そもそも自分のWILLが何かを、考えたことのある人はほとんどいません。そこで、研修では参加者一人ひとりが自分の過去を振り返りながら、
「私はこんなことが好きだった」
「こんなWILLがあったのかもしれない」

と、少しずつ輪郭を浮かび上がらせていきました。自分で言葉にして、みんなと対話をする。このプロセスを通じてWILLが言語化され、発掘されていきました。

ただ、WILLが言葉になっても、実際に動くのは容易ではありません。そこで第二フェーズは、自分のWILLを実践するWILL-ACTIONサーキットを行いました。

実は、ここからは完全に任意参加にしてみました。「皆さんの人生です。やるか、やらないかはお任せします」という、無茶ぶりとも取れるスタンスでスタートしました。これこそが自分のWILLで動く第一歩、ということですので。蓋を開けてみるとCDP参加メンバー33名のうち、32名が最後まで参加してくれました。予想をはるかに超える反響に驚きましたね。

WILL-ACTIONサーキットの目的は、自分のWILLを実感すること。WILLというのは、言葉だけでは抽象的で、本当に存在しているものなのか、体感することができません。自分の中に確かにある実感を得るために、アクションを重ねるプロセスを踏みました。

具体的には「各自のWILLに基づいたアクション」をそれぞれ100個書き出して、実践します。100個も思いつかない人は、ローンディール社が提供するAIツールを活用して書き出していきました。アクションは、WILLに基づいた行動であれば何でもいいとしたところ、仕事に関わるものからプライベートまで、内容は多岐に渡りました。

100のアクションリストを実行するフェーズでは、ピアメンタリングと題して、3〜4人でチームを組んで定期的に進捗を共有しながら進めてもらいました。行動に移している人の話を聞くと、やっていない人は焦るんですよね(笑)。チームでの取り組みによって火がついて、皆たくさんアクションしてくれました。

「人と関わってこそ前に進める」
WILL-ACTIONサーキットがもたらした変化


ーー改めて、WILL-ACTIONサーキットを通じて、参加者にどんな動きがありましたか。
 
私が当初、想像していた以上の動きがいくつも起こりました。
たとえばある30代の受講者は、本業がシステム系の開発部門で、プロジェクトマネジメントを担当しています。これまで「自分は特別、何かに秀でているわけではない」と思っていたようですが、WILLに従って地元の仲間とゲーム開発を始めたと。

自分がワクワクする領域だからこそ主体的に動くことができて、周囲の人たちも少しずつ乗ってきてくれたそうです。そうした中で人にタスクを割り振ったり、解像度高く説明する力が活かせることに気づいた、と。

これまでトヨタ紡織では当たり前だと思っていたスキルが、外の世界に触れたことで、価値あるスキルだったと気づいたそうです。そしてこの体験が、本業への自信や工夫にもつながっていっている様子。まさに私自身が理想として掲げていた動きや経験をされていて、とても嬉しかったですね。

(ワークショップ中の様子)

また、別の受講者の方は、工場勤務で普段はあまり社外に出ることのない方でした。でもCDPで別部門の同僚から、ある展示会の話を聞いて、「自分も行ってみたい!」という気持ちが芽生え、人生で初めて、年休を取って展示会に行ってみたとのこと。

そもそもこれまで、展示会に行こうなんて思ったこともなかったようですが、「面白そう。自分も行ってみたい」と心が動いた。その思いこそが、まさにWILL。自分の内側から湧いた意志でした。ほんの小さな一歩かもしれませんが、この人にとってはまさに前人未踏の一歩ですよね。

こういったWILLに基づいた小さなアクションが各所で芽吹いています。
主催者としてこんなに嬉しいことはありません。
 
ーーすごいことが起こっていますね!

はい。皆さん想像以上にポジティブで、「プログラムが本当に良かった」と言ってくれました。何が良かったのか聞いたところ、仲間との関わりやマインドの変化だと。

これまで仕事にも人生にも、自分一人で悩み、苦労していた。人に頼るのは迷惑になるから、自分で解決しなければという思い込みを持っていたと言うんです。

ところが今回のWILL-ACTIONサーキットでは自分のWILLを発信し、人のWILLにも耳を傾けて対話を繰り返してきました。結果、人と関わってこそ前に進める体感が得られたとのことでした。こうした関わり方やマインドの変化が生まれたことで、「人のやりたいことを知り、自分の想いを発信することで新しい道が開ける体験」を周囲にもっと伝えたいという声もあがりました。

そこで急遽、参加者自主企画による「最終発表会」を開催することにしました。みなさんの活動を、若手やベテランはもちろん、次のCDP参加予定者にも見てもらう場にしたいと考えています。 

イノベーション創出の鍵は「WILL」と「対話」にある


ーーCDPにおいて、今後もWILLのプログラムを続けられる予定と伺いましたが、継続されることでどのようなことを期待されていますか。

 
もっと「対話が当たり前に繰り広げられる組織」にしたいと思っています。今の組織においては年代や部署間の人間関係で距離があるように思います。役割を超えて自由に対話する機会がなければ、コラボレーションも起きないですし、コラボレーションがなければ、イノベーションは生まれません。
今回のCDPでは、近しい世代・立場のメンバーをつなげましたが、これからはタテも積極的につなげて対話の機会を増やしていきたいですね。たとえば今度の最終発表会に若手だけではなく、上の世代も呼んで、世代を超えて語り合える場を作れたらいいなと考えています。逆に、上層部の研修に新入社員を呼んで「まずは混ざってみなはれ」という試みをしてみるのも面白いかもしれないですね。

ーー混ざってみることで、想像を超えた面白い動きが生まれそうですね。

そうですね。当社の社員は、皆さん本当に優秀で、しっかり仕事に向き合う素晴らしい人たちばかり。彼らが自分だけのWILLを見つけて、他者と関わりあう未来を想像すると、もう可能性しかないですね! ワクワクが止まらないです。

そのためにも、地道な対話の場を積み重ねることが大事。やがてそれが文化になり、対話が当たり前の組織になった時、そこには自然とイノベーションが生まれるだろうと、期待しています。

Fin


WILL-ACTION Lab.

“WILL”“ACTION”をつなぎ、自律型人材を育て、組織を活性化する研修プログラムを開発・提供


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