NEC、NTTドコモの中堅社員が本音で語る!越境経験がもたらした「キャリア自律」と「エンゲージメント」

働き方に対する価値観の変容や多様化に伴い、社員の「キャリア自律」支援に取り組む企業が増えています。一方で、「自律」してしまうことで離職につながるのではないか、自身のキャリアを優先し組織へのエンゲージメントが下がるのではないか、といった不安を感じている企業人事の方も少なくないのではないでしょうか。

そこでローンディールでは、3年以上前に「レンタル移籍」から帰還した2名の越境人材にご登壇いただき、「キャリア自律」と「エンゲージメント」をテーマに、起こった変化や葛藤など、リアルな本音を語っていただきました。その一部を要約してお届けします。

ーキャリア自律よりも大事な「自分のWILL」


大川:今回はレンタル移籍を経験し、帰還後3、4年が経過した方おふたりをゲストにお迎えしています。「キャリア自律」とは、「自らのキャリア構築と学習を主体的、かつ継続的に取り組むこと」とされていますが、越境経験がキャリア自律にどんな影響を与えましたか?

大川 陽介(モデレーター)・株式会社ローンディール 最高顧客責任者

亀山:そうですね。環境も規模もまったく異なるベンチャーに行って強く感じたのは、「自分は何者で、なぜここにいるんだろう」ということ。それを周囲に示さなければいけない状況でした。そうした場に身を置いたからこそ、結果的に自分のWILLの解像度が高くなって、「自分の軸」が出来たと思います。

ただ、「キャリア自律」を意識しているかというとそうでもなくて。自社に戻って数年経ちますが、自分の「WILL(やりたいこと)」がアップデートされていく喜びや、「CAN(できること)」が広がっていく楽しさを感じながら、“自分がやりたいからやっている”という感覚ですね。

それが結果的に「キャリア自律」につながっているのかなと思います。

亀山 直季さん・株式会社NTTドコモレンタル移籍期間:2018年8月〜2019年1月
千葉県我孫子市出身、1985年生まれ。新卒以来NTTドコモに在籍し、写真系サービスやドローン等の新規事業企画や、社内新規事業コンテストの運営事務局・伴走支援・人材育成に携わり、リーンスタートアップ普及&組織開発をめざす。大企業の事業開発プロセスであるBizDevOpsに強い課題を感じ、自身も2018年にLoanDEALにてベンチャー企業VALUにiOSエンジニアとして6ヶ月間参画。現在はNTT東日本にて、AIエンジニアとの内製化開発と事業開発プロセス構築にマネージャーとして従事。

大川:面白いですね。キャリア自律という言葉はあくまでも組織側の視点であって、自律している本人は全然気にしていないっていう。ちなみに、「自分の軸」が出来たということなので、「自分は何者か」という問いの答えが見つかったということでしょうか?

亀山:いや、分からないです(笑)。結局気づいたのは、自分探しの旅をいつまでもやり続けるのは違うんじゃないか、ということです。考え続けるよりも「自分はこれでいくんだ」「自分のWILLはこれだ」と決めることが大事かなと。そうやって、“自分で決めて動く”という経験が出来たのは、越境で得た価値のひとつだったのかなと思います。

大川:開米さんはいかがでしょうか。

開米:「自分は何者か」という問いについては、僕もまさにその通りだなって思っています。越境は子どもの頃の習い事に近いと感じていて、やってみないとその世界のことはまったくわからないし、自分が好きかどうか、合っているかどうかもわからないですよね。

自社の中でできないことを経験して、「本当に自分が好きなことってなんだろう。もっと好きなことがあるんじゃないか」とか、探求することなのかなと思います。

キャリア自律というキーワードは自社でもよく使いますが、僕の場合は、自分のやりたいことが自社で実現できそうであれば活用させていただく、という考えです。会社に実現してもらうのではなく、会社を活用して自分でやる、というイメージですね。

開米雄太郎さん・日本電気株式会社レンタル移籍期間:2019年4月〜2020年3月
青森県五所川原市出身、1986年生まれ。新卒以来NECに在籍し、システムエンジニアとして官公庁向けのアプリケーション開発・保守を経験。その後、社内プロジェクトをきっかけに将来的な社会の在り方や企業の在り方について考えが深まり、新たな経験を求めて2019年にLoanDEALにて、株式会社ランドスキップにレンタル移籍する。移籍後は1年間アライアンス担当として他の企業様とのコラボレーションやコンテンツデザインなどを経験。移籍後はキャリアの方向性を見直し、現在はNECの人事部門にてグループ企業も含めたカルチャー変革を推進。社内のジョブ型推進やエンゲージメント向上のためのコミュニケーションに従事する。

ー自社で「やりたいことができるようになった」

大川:客観的に見るとおふたりはキャリア自律をしている人だと思うんですが、レンタル移籍後の3・4年間で仕事を通じてやりたいことができたのか、パフォーマンスを上げることができたのか。その辺のエピソードもぜひ教えていただければ。

亀山:戻った後は、外で得た知見やノウハウを活かしたいと考えていたので、新規事業支援プログラムを通じて、事業の伴走支援を進めてきました。最初からうまくいっているわけじゃなくて、失敗だらけで苦労したんですが、もがきながら改善を重ねて、徐々になんとかなってきた状況です。

自分自身に組織を変えていく意欲があって、実行させてくれる組織の風土さえあれば、「やりたいことはやれるんじゃないか」と感じています。

大川:開米さんはどうですか?

開米:僕は壁にぶつかってばかりです(笑)。そもそも越境する時、上司に「新規事業開発を学んでこい」と言われていて、戻ってきてからは新規事業という名前が付いた部署に入ったんですが、僕が考えていた新規事業とはズレがあったんです。あくまでも、決められた範囲の中で追加提案するというスタンスでした。なので、小さい枠組みの中でアイデアを考えている状態で、これは自分には合わないんじゃないかと悩んでいました。

そんなときに「お前がやりたいことって、もっとスケールの大きいことなんじゃないのか?」と投げかけてくれた上司がいて。それをきっかけに、視点が変わったというか、壁を突破できた気がします。

元々、社員がもっと働きやすく、自分のやりたいことができるよう、会社自体を変える必要があると感じていて。「自分はそれをやりたいんだ」ということがわかり、人事への異動を希望しました。

大川:キャリア自律した人が順風満帆なのかというとそうじゃない、という生々しいお話で、大変興味深かったです。続いては、越境経験がエンゲージメントに与えた影響について伺いたいのですが、まず亀山さんから教えてもらえますか?

亀山:そもそも、エンゲージメントというのは、絆の深さやつながり、貢献意欲みたいな感じかなと思っています。それでいうと、僕自身のエンゲージメントの量は移籍前後であまり変わっていないですね。

もともと60点ぐらいのエンゲージメントがありましたが、今も60点ぐらい。ただ、量は同じでも、質が変わったのかなと思っています。

「ある部分においては会社に対して信頼できるし、繋がりが深い。でもある部分は繋がりが弱くていいと思っている」といった感じで、エンゲージメントの質がクリアになってきました。

その背景には、外に出たことで自社を客観的に見られるようになったことも大きいですね。たとえば「自社にはこんな素晴らしいものがあるんだ」というヒト、モノ、資金といった潤沢な経営資源にも改めて気づきましたし、いわゆる「実現可能性」が高い状態にあるということも実感できました。

大川:会社に期待したい部分と、自分でやる、という部分を仕分けした感じでしょうか。

亀山:そうですね。会社でできないことは外に取りに行けばいい、みたいな感じです。僕は移籍を経験して、外に出ることにハマってしまって(笑)。

プログラミングの講師をやったり、メンター業をやったり、知り合いのベンチャー企業の支援をしたり。スモールグッドビジネスを創出するオンラインサロンでの活動も頑張っています。じつは、今現在は8ヶ月間の長期育児休業中なんですが、これも自分にとっては立派な越境だと思っています。

越境の良さは、自分である程度選択できることかなと。副業、ボランティア、自己学習など、ここだと思ったら自分で選択して飛び込むことができるわけです。そうやって社外をうまく活用したらいいと思います。

大川:開米さんはどうでしょうか。エンゲージメントについての考えを教えてください。

開米:NECではエンゲージメントは経営目標になっていて「SAY」「STAY」「STRIVE」と3つの要素で分析しています。

「SAY」は人に自分の会社を勧めたくなり、言いたくなるかということ。
「STAY」は自分の会社に今後もとどまり、もっとやりたいと思うかというこ
と。「STRIVE」は自分が与えられた仕事以上のことをやって、会社に貢献したいと思えるかということ。そういう意味で言うと、僕のエンゲージメントは移籍後、上がってきていますね。

越境経験をすると、自分の肌に合った動き方が見えてきて、やりたいこと、好きなことがクリアになります。逆にクリアになることで、やりたいことが今の部署で実現できないと「他に行ったほうがいい」と会社へのエンゲージメントが下がってしまう可能性もあります。

でも、自分がやりたいと思えば、会社の中でやりたいことができる環境に身を置いたり、必要な環境を会社の中で作れば良いわけで、そうした動きができるようになったのは、越境経験のおかげですね。

ベンチャー企業ではなんでも自分でやらないといけなくて、逃げ道もほとんどありません(笑)。そこで鍛えられた経験というのは大きくて、壁を壊す力、新しいことに飛び込む勇気も得られました。

だからこそ、今は人事という立場で、社員にも同じように「この会社で実現できることはなさそう」と簡単に諦めないよう、環境やカルチャーをつくっていきたいですね。

ーキャリア自律とエンゲージメントは両立できる

大川: 開米さんは今の仕事が人事なので、どちらかというとウェットな感じのエンゲージメントですね。一方の亀山さんはドライというか、「お互い利用し合おうぜ」みたいな感じなのかなと思いました。最後に「キャリア自律とエンゲージメントの両立」についてお聞きしたいと思います。両立は難しいと思っている人が多いかもしれませんが、いかがでしょうか。まずは亀山さんからご意見をお願いします。

亀山:キャリア自律とエンゲージメントは、トレードオフではないと思います。自分の「WILL」ど真ん中のことを探した時に、あまりにも自社とかけ離れている場合はさすがに離れた方がお互い幸せになると思いますが、意外と重なることも多いんじゃないでしょうか。

また、WILLの実現を考えた時に、実現可能性や社会的インパクトも考えると、実は自社の環境ってすごくいいかもしれない、という視点もあるのかなと。

僕はよく「隣の芝生は青かった?」と聞かれるんですが、答えはいつも決まっていて「確かに隣の芝生もめちゃめちゃ青かったんだけど、外から見ると、自分の芝生も青いよ」って。そこをしっかりおさえておけば、うまく両立していく方法はあるんじゃないかと思いますね。

大川:ありがとうございます。亀山さんの合理的かつ論理的な考え方、いいですね(笑)。では開米さんもお願いします。

開米:キャリア自律している人が会社に必要ということは、もはや明白な事実です。市場の変化とスピードについていくためには、たくさん動ける人、いろんなことを知ってる人が必要で、いろんな知見を持った人をどんどん入れないといけない。NECも外からどんどん人を入れていて、新入社員よりも中途採用の方が多いくらいなので、カルチャーも変わってきているのを肌で感じています。

ですので越境に関してポジティブにならざるを得ない世の中になってきていますよね。ではどうするのかというと、さきほどもお話しした通り、「この会社ではあなたのやりたいことができますよ」という材料・素材を会社として用意してあげる必要があると思います。

NECも来年度から本格的にジョブ型が始まるんですが、そうなると社員が選べる立場になるので、今までのように人材が入ってくるのを待ってるだけじゃダメで、「自分の部署はこういうことが経験できるよ」とか「こういうキャリアを積むチャンスがあるよ」」とか、どんどん発信しないといけない。そうしてうまくマッチングした人と会社は、互いにエンゲージメントが高いんじゃないでしょうか。

つまり双方の努力が必要で、会社と社員は“選び選ばれる関係”である必要があります。NECにも社内版の転職サイトがあり、AIによる「あなたに合うのはこの仕事です」というメールが届く仕組みがあるんですが、会社としてはそうした努力も必要。エンゲージを高めたいなら、個人も会社も頑張らなきゃいけないですね。

大川:おふたりの話を聞いて、自社に戻った後も、自ら動き続けられるというのが越境を経ての強みかなと感じました。結果、それがキャリア自律につながる。そして、キャリア自律した個人、会社が双方協力し合いながらエンゲージメントを高めていくことが、大事ですね。本日はありがとうございました!

Fin

協力:株式会社NTTドコモ / 日本電気株式会社(※ 50音順)
Report:渡辺裕希子
提供:株式会社ローンディール

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