「映える」だけじゃない!デザインのチカラで課題解決を -東芝テック 角田 真結子さん-

東芝テック株式会社のリテール・ソリューション事業部にて、デザイン業務を行っている角田 真結子(つのだ・まゆこ)さん。コンビニのPOSレジの操作画面など、ユーザインタフェースやロゴなどのデザインが主な仕事です。

7年目となる今年、もっとユーザーの目線に立ったデザインを生み出すために、あえてデザイン以外の仕事に挑戦したいと、ベンチャーで働く「レンタル移籍」を決意しました。移籍先に選んだのは、排泄予測デバイス「DFree(ディー・フリー)」を開発・販売しているトリプル・ダブリュー・ジャパン。社会課題の解決につながる製品を生み出している現場に身を置くことで、自身の課題を解決できるのではないかと考え、移籍先に選びました。

半年間のレンタル移籍で、角田さんはどんな経験をし、何を得たのでしょうか。お話をじっくりと伺いました。

エンドユーザーを想定したデザインを生み出すために


ーなぜ、レンタル移籍を希望されたのでしょうか?

私はデザイン室で業務を行っていますが、商品企画・開発・デザインとそれぞれの仕事が分断しており、もう少しお互い踏み込んだ関係性を築けたら、もっと良い製品が生まれるのではと感じていたからです。

たとえばですが、「ここにこのボタンを配置して欲しい」というような具体的な指示が多く、「なぜその位置にボタンを配置する経緯に至ったのか」が見えてきませんでした。単にかっこいいインターフェースを作るというような、表面的なデザインが私たちの仕事になってしまっているのでは、と思う部分もあって。

そのために、まずは自分がデザイン以外の仕事に挑戦することで、他部門の考え方や知識を深めたいと思ったんです。

もうひとつは、「技術展」という社内向けの展示会があり、そこでデザイン室は毎年「3~5年後に実現すべき新規ソリューションのアイディア」をプロトタイピングして提案していますが、これまで提案で終わってしまうことがほとんどで、なかなか市場に出すことができなかったんです。

デザイナーはアイディアを考えるのは得意ですが、「ビジネスとして成立するのか」「お客様のニーズがあるのか」などの視点が足りていないのではないかと感じていました。レンタル移籍での学びが、この2つの課題解決の糸口になるのではと考え、応募することに決めました。

ー移籍先にトリプル・ダブリュー・ジャパンを選んだ理由は?

排泄という、生活に直結する困りごとと向き合って、商品を展開している会社だったことが大きな理由ですね。

ユーザーの意見に耳を傾けながら商品開発を行っているため、ユーザーとの距離が近い。これまではエンドユーザーが見えない距離で仕事をしていたので、お客様と直接コンタクトをとれる環境に身を置きたくて。

また、世界初の商品「DFree」を生み出している会社なので、新規ソリューションを生み出す際にヒントになることも多いのではと考えました。

まずは手探りで。できることから


ー移籍中は、どのような仕事を行っていましたか? 

トリプル・ダブリュー・ジャパンでは、排泄予測デバイス「DFree」の開発・販売以外にも介護用オムツの販売をAmazonで行っていました。私はそのマーケティング担当となり、毎日の売上管理、セールの設定、広告運用などを行いました。

メインの業務は、ネットショップに掲載している商品写真やテキストを工夫して、ユーザーの興味を引きつけることや、商品を優先的に表示するなどの広告運用を任されていました。広告費に対してどんな効果があるのか、ユーザーの反応が目に見えてわかる。自分の仕事が数字として結果に出るのは初めてのことだったので、数日で今までの仕事との違いを大きく感じました。

ー未経験の仕事だったと思いますが、どのように取り組まれたのですか?

Amazonの広告運用自体は、私が移籍する3ヶ月前に始まったばかりでした。前任の方から引き継ぐ時間もあまりなかったので、広告運用については調べながら手探りで行っていましたね。まずは自分の得意分野であるデザイン面で工夫できることはないかと、写真の見栄えをよくするなど、見た目の部分からアップデートすることにしました。残念ながら、大きな変化にはつながらなかったのですが……。

ーその状況をどのように打破されたのですか?

まずは売り上げ管理のシートを一新しました。というのも、「移籍終了月までに数百万の売上達成」が提示されていたので、売上の数字は毎日確認していたのですが、数値をただ入力するだけになってしまっていて。
なので、売上達成を日次に細分化し確認することで、変動にいち早く気づき、施策を立てようかと。まだまだ社内にAmazonの広告運用の知見が貯まっていないということは、誰も正解を知らない。売り上げに繋がっていないなら、変化を起こしていかなくてはいけないと感じました。

一方、広告と同時に、新規顧客獲得のための施策として商品の割引を行うなどの取り組みをしていたのですが、どこまで踏み込んで進めていいのかわからずモヤモヤしてしまい、思い切った動きができずにいました。

背景を知って、“自分ごと”として取り組む


ーそのモヤモヤは、どのように解消したのでしょうか。

ちょうどそのときに合宿があったんです。
合宿では代表の中西さんから、社会情勢を考慮した長期的方針、また、その背景や想いを共有いただく時間がありました。その上で、取締役の小林さんが、具体的な短期の経営方針をしっかり説明してくださいました。

なぜ「DFree」の販路を拡大する必要があるのか。なぜ介護の市場に可能性があることを示さなくてはならないのか。そういった根本的なお話でした。日頃から売上を確保する必要性の話は聞いていましたが、それをやる意味、背景までは認識できていなかったんです。合宿でそれを認識することができて、ようやく自分ごととして捉えられるようになりました。

ー合宿以降、変化はありましたか?

実はその翌月から売上も上がり、移籍が終わる頃には目標金額を達成することができました。新しい商品の販売が加わったこともありますが、「売り上げることの意味」を理解したことで、思い切った戦略が取れたのは大きかったと思います。

東芝テックでは、何をするにも上司が一緒に行動し、決断してもらえることが当たり前でした。でもトリプル・ダブリュー・ジャパンでは、担当は私だけ。

「どんどん決めて良い」と言われていたものの、最初は何度も上司に確認をとっていました。

けれど時間の経過とともに、自分で決断し、順序立てて進めていくことができるようになりました。上司に頼ることが当たり前だった意識が変わり、決断力が養われた。その結果、売り上げを細分化して施策を練ったり、自分一人では難しいことは他の方に声をかけて協力を仰げるようになりました。

迷った時は、一人でモヤモヤとした思いを抱えるのではなく、周りに頼ったり、上司と進むべき方向の認識を合わせるようになったことで、結果的に売上を達成することができたのだと思います。

またメンターの窓岡さんからも、適宜アドバイスをいただいたことで、目の前のタスクに追われたり、目的が曖昧になってしまっていた時などでも、方向を見失わず進めていくことができました。

ゼロイチから取り組んだ新規事業


ー他には、どのようなことに携わっていたのですか?

定期的にオムツを購入してくださる方の需要を見込んで、サブスク化するサービスをスタートしました。初めて立ち上げたサービスだったので、どうやっていいかわからず、かなり時間がかかってしまいました。細かいことを決断するのはできるようになりましたが、自分が中心になってゼロイチでプロジェクトをまわすのはとても難しかったです。

ー特に難しいと感じたとは、どのような部分ですか。

いくらで提供するのか、問い合わせフローはどうするか、運送会社はどこにするか。サービスの流れ、関連業者との折衝など、まずは土台を固めることばかり気にしていました。

けれど、上司からは「1件でも契約を取ってほしい」と言われていました。契約が取れたときに、お客様のニーズや状況がわかってくる。その時にルールを決めればいいということでした。

確かにお客様にヒアリングしていくと、想定以上に地方からの依頼が多く、配送料を想定した価格設定をする必要があるなど、自分が想定した以上のことが起こり、たくさんの仮説より一件の実績だなと感じました。

残念ながら多くの契約を取ることはできませんでしたが、お客様から問い合わせいただいた内容をもとにWEBサイトの変更、アプリのデザインなど、この先の契約獲得に向けた取り組みを行うことができました。

現場を知ることで、仕事の解像度が上がる


ーお客様と直接コンタクトをとれる機会が多いということも、トリプル・ダブリュー・ジャパンを移籍先に選んだ理由の一つでしたが、何か印象深い出来事はありますか?

2週間介護施設に出向き、「DFree」のユーザーさんの生の声を聞くことができました。この時は開発者と一緒に現場に行きました。

それまでは電話によるサポートを行っていたんですが、利用者の方のリアルな生活を見ることで多くの学びがありましたし、何より「DFree」が正しく装着できていない、「もうすぐ尿がでる」と通知をしても現場が忙しすぎてトイレに連れて行けないなど、色んな課題が浮き彫りになりました。

ー現場を見たことでどういった変化がありましたか?

これまでは営業担当が商品を説明し、2週間お試しで使用していただくという流れで販売促進を行っていましたが、お試し期間中でも開発メンバーと直接やりとりができる環境を整えようということになり、開発メンバーがプロジェクトを進めることになりました。現場を見ることの大切さを、身をもって体感する出来事でしたね。
また、Amazonのオムツ販売で在庫切れを起こしてしまったことがあったのですが、そのときに少しでも早く出荷しようと、発注先の工場へ出向いて、納品用のシール貼りに行ったことも良い経験になりました(笑)。これまでメールで発注を行っていて、実際にどんな作業をしているのか見えていなかったんです。在庫切れを起こしてしまったことは反省すべき点ですが、現場を見ることができる良い機会になりました。

実は以前から、納品用のシールを貼る作業が大変だから、何とかして欲しいという声をもらっていたのですが、改善できていなくて。軽作業だから何とかやって欲しいと思っていたんです。けれど、箱からすべてオムツを出してシールを貼るという作業を自分でやってみて、工数はかかるし、とても重労働だと理解しました。

それを発注先の営業の方も一緒に作業をしたことで、バーコードをパッケージに印字したものを作ろうという話が進んだんです。課題を頭で理解するだけじゃなく、実施して共感する大切さを学ぶことができました。事業担当者である私だけではなく、関わる人が現場を見て気づきを共有することで、早く課題解決に向けて進められたのだと思います。

角田さん(左)とトリプル・ダブリュー・ジャパン 代表の中西さん(右)

課題解決の一端を担えるデザインチームへ


ー東芝テックへ戻ってきてからの、現在の仕事について教えてください

以前は、「リテール・ソリューション事業本部」と「プリンティング・ソリューション事業本部(現在はワークプレイス・ソリューション)」の2つの事業部からの依頼をデザイン室で請け負っていたのですが、それぞれの事業本部内にデザイン室が分かれて配置され、私は、リテール・ソリューションの専属のデザイナーになりました。商品企画や開発と距離が近くなり、意思疎通がしやすくなったと感じています。

ーレンタル移籍の経験で、変化したことはありますか?

トリプル・ダブリュー・ジャパンでは、手を動かして試行錯誤するということが基本だったので、「まずはやってみる」精神が身についたと思います。

それと10%時間制度(仕事の10%を自己啓発の時間に使用できる制度)を使って、アプリ開発の勉強を始めました。トリプル・ダブリュー・ジャパンで開発の方と一緒に仕事をする内に、自分でも実践してみたいと感じたからです。開発の部署と共通言語ができることで、デザインを実装するときにもっと踏み込んだコミュニケーションができるようになると思うんです。

私としては、デザインは見栄えがよくなるための表面的なものだけではなく、課題解決の一端を担えることを、一緒に仕事をする仲間には知ってもらいたいと思っています。けれどこれは私の個人の思いなので、まずはデザイン部門のみんながどんな思いを持っているのか、どんなことをやっていきたいのかを知りたくて、「オフサイトミーティング」というものを始めました。上司、後輩も含めてみんなの意思を聞き、ネクストアクションを決めていきたいと思っています。

ー今後、どんなアクションを起こしたいですか?

これまでは自分自身がお客様との打ち合わせに同行することは少なかったのですが、可能な限り同行できないかと声をかけています。お客様と共創することで新しい変革を起こせればいいなと思っています。

また、実現可能なデザインを生み出す素地となる、思考や考え方は身につけられたのではないかと思っています。Amazonの広告運用、新規事業のWEBのデザインなど、自分で考えて実施しての繰り返しをスピーディーに実現していく現場を経験できたので、より一層エンドユーザーを想定したデザインを意識して取り組んでいきたいですね。

レンタル移籍中に東芝テックにて部署の再編があり、ゼロイチで行うプロジェクトもスタートするなど、社内の流れにも変化がありました。そういった環境に、良い刺激を受けているという角田さん。レンタル移籍によって得た学びを実行できる環境が整い、会社内のより良い変化に拍車をかけられるかもしれません。デザインが課題解決の一端を担い、多くの人たちが笑顔になれるデザインを目指し、角田さんはアプローチを続けていきます。

Fin

協力:東芝テック株式会社 / トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社
インタビュー:三上由香利
撮影:宮本七生

 

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