大企業人材との連携で、スタートアップの可能性は広がる—外部人材活用、2社のリアル—
大企業の人材育成施策として注目が高まる「越境学習」。でも実際、スタートアップに出向した社員は、どのような環境に置かれ、どう成長しているのでしょうか。
受け入れる側のスタートアップが、出向者をどう迎え、何を任せ、どんな変化を目の当たりにしてきたのか 。そのリアルを聞くことは、送り出す側の企業にとっても、社員にとっても、大きなヒントになるはずです。
2026年2月18日、東京都の「Tokyo Startup Talent」主催セミナー「スタートアップ×外部人材活用 最前線!〜出向・副業で広がる組織の可能性〜」にて、ローンディールの越境プログラムを活用してきたスタートアップ2社の経営者が登壇。成功例だけでなく、うまくいかなかった事例も交えながら、出向人材受け入れのリアルを語っていただきました。
<登壇者>
パネリスト:岩崎 亘さん(ベジクル株式会社 取締役)
パネリスト:宮田 昌輝さん(セブンセンスマーケティング株式会社 代表取締役)
モデレーター:後藤 幸起(株式会社ローンディール 代表取締役)
目次
出向者受け入れには、大きく3つのパターンがある
後藤: 出向者の受け入れは、大きく3つのパターンに分けられます。1つ目が、ローンディールのように、第三者機関を通じて受け入れる「出向者受け入れサービス活用型」。大企業が人材育成の一環として社員を送り出します。
2つ目が、VC・出資元・アライアンス先との関係をもとにした「資本・業務提携型」。
3つ目が、取引先・顧客・経営者同士の個人的なつながりによる偶発的な受け入れ、「その他の関係性・ネットワーク型」です。
1つ目のサービス活用型は、出向者の育成を大前提としながら、受け入れ先の事業にも貢献してもらうのが特徴です。送り出す企業にとっては人材育成の場として、受け入れるスタートアップにとっては即戦力として、双方にとって意義のある仕組みです。今回の2社はどちらも、このパターンでの受け入れを実践してきた企業です。

「社内で補えない領域を担ってもらえた」
ベジクル・岩崎さんが語る受け入れの手応え
飲食店向けの食材流通プラットフォームを運営するベジクル株式会社。創業30〜40年の老舗青果業から出発し、現在はスタートアップとして急成長を目指しています。ビジネス側の社員は約40〜50名規模です。
これまでローンディールのレンタル移籍(フルタイム出向)を通じて2名、side project(3ヶ月・業務の20%)では3名を受け入れてきました。担当業務は、新規事業立ち上げ、ブランディング、パートナーサクセスなど多岐にわたります。
後藤: 受け入れてみて、総合的な感触はいかがですか?
岩崎:率直に言って、とても助かっています。大手企業での業務経験や専門スキルを、スタートアップの現場でそのまま活かしていただいています。社内だけでは補いきれない領域を担ってもらえるため、事業が進みやすくなりました。

「いなくなることが、今一番の経営課題」
セブンセンスマーケティング・宮田さん
社員10名・業務委託20名超のセブンセンスマーケティング株式会社は、テレワーク時代の業務可視化SaaS「みえるクラウドログ」を運営しています。これまで累計20〜30名の副業・出向人材を受け入れてきました。
後藤: 宮田さんはいかがですか?
宮田: とても良い取り組みだと感じています。最近の例では、東芝テックから来ていただいた方に、CPO(Chief Product Officer)として関わってもらいました。当社にはそれまでプロダクト全体を統括する役割がありませんでした。
6か月の出向期間中に、新サービスの立ち上げを担当してもらいました。プロダクトの方針整理や開発体制の整備などを進めていただき、組織としての体制も変わりました。今は「この方がいなくなること」が目下一番の経営課題なくらいです(笑)。
後藤: 受け入れ側として、それほど頼りにしているということですね。
宮田:そうですね。本気で向き合っていただいていると感じています。大企業での経験や知見があるからこそ、プロダクト全体を俯瞰し、意思決定できているのだと思います。
成功のカギは「最初の1〜2週間」にある
では、どうすれば出向者に最大限活躍してもらえるのでしょうか。2人の話から、共通するポイントが見えてきました。
後藤: 受け入れにあたって、意識していることはありますか?
宮田: 最初は特に時間をかけていますね。入ってから1〜2週間は毎日本人と話しました。「昨日はどうだった? 何に困ってる?」を本人の動きが軌道に乗るまで繰り返す。ここをどれだけ丁寧にやるかどうかで、その後の動きが全く変わってきます。
岩崎: 同感です。転職者を受け入れるのとまったく同じだと思っていて。期間が決まっているという違いはありますが、最初の丁寧なオンボーディングは変えていません。
当社では、まず会社のミッションやパーパスを説明し、背景まで理解してもらいます。そのうえで、各部署のマネージャーと業務内容を共有する場を設け、全社への紹介も行います。飲み会もやります(笑)。
大企業から来られる方は、スタートアップ特有のスピードや進め方に戸惑うこともあります。だからこそ、最初に時間をかけて受け入れることが重要だと考えています。早い段階で環境に慣れてもらえれば、その後は自主的に動いていただけます。

「本人がやりたいこと」と「会社の課題」をマッチさせる
もう一つ、宮田さんが特に強調していたのが、ミッションの渡し方でした。
後藤: 社長が直接マネジメントするとうまくいくのに、メンバーに任せるとうまくいかないケースがある、というお話がありました。その差はどこにあるのでしょうか。
宮田: シンプルで、メンバーは「自分が今困っていること」をアサインしてしまうんです。でも大事なのは、本人が何をやりたいか、何が面白いと感じるかを引き出しながら、会社の経営課題とマッチさせること。そのズレを合わせられるかどうかが、とても大事だと思っています。
後藤: 面談の段階からそれをやる、というのが宮田さんのやり方ですよね。
宮田: そうです。面談の時点でうちの経営課題を全部オープンにして、「どれが一番一緒にやりたいですか?」と聞く。うちにはこういう課題があって、あなたと共にやりたいと思っている。そう伝えた上で選んでもらうと、入ってからの動きが全然違います。本人のやりたいことと会社のニーズが重なることで、出向者自身の成長にもつながると考えています。
副業型(20%稼働)は「一つのミッション」に絞ることが鉄則
side project(3ヶ月・業務の20%)の活用については、宮田さんからこんなアドバイスがありました。
宮田:短期間・短時間の場合は、絶対に一つのテーマしか担当させません。複数頼むと、何も進まないまま3ヶ月終わる。一つに絞ると確実に前に進む。中でも、緊急度は低いけど重要度が高い課題を渡すのが一番ハマります。本人にとっても明確なミッションがある方がやりがいを感じてもらいやすいと思っています。
岩崎: 同感です。業務をきちんと切り出して定義して、「いつまでにこういう成果を」と明確に伝えてやってもらっています。出向者の方も、自分が何に貢献しているかが見えると、より本気で取り組んでくれますよね。
大企業のスキルが、スタートアップで輝く瞬間
2社に共通していたのが、大企業出身者のスキルや経験が、スタートアップならではの環境で独自の輝きを放つ、という実感でした。
宮田: スタートアップの優秀さって、1歩目の速さだと思うんです。でも大企業の優秀さは、綺麗な計画を立ててターゲットを絞る緻密さ。これはどちらが正しいとかではなく、それぞれの強みなんですよね。大企業の方がスタートアップのスピード感に慣れてくると、その緻密さや構造的に考える力が一気に武器になる。自社のメンバーにはできないことを、自然とやってくれるんです。
岩崎: スタートアップの人間って、仕組み化が本当に苦手で。とにかくやっちゃう(笑)。でも大企業の方たちは、属人化した業務をマニュアルに落とすのがものすごく得意で、それをお願いするとめちゃくちゃ助かります。大企業での経験とスキルが、スタートアップという環境でより活きる場面が多々あると感じています。
出向が「ネットワーク」や「事業連携」につながることも
出向受け入れは、人材の活躍にとどまらない価値も生んでいます。
宮田: 東芝テックから来た方はDX担当者でもあったので、あるとき「あなたはCPOとしてうちのサービスは売れると言うのに、東芝テックの担当者としては買えないと言う。その差は何ですか?」と聞いてみたんです。そうしたら、社内の購買プロセスや意思決定のボトルネックを率直に教えてくれました。大企業で現場を知っている方ならではの視点で、外部からは絶対に取れない情報でした。
岩崎: 弊社でも東芝テックのCVCや日本郵便のCVCを紹介していただいたことがあります。すぐにビジネスにつながったわけではないですが、個人として関係が続いていて、出向期間が終わった後も一緒に飲みに行く仲になっている。期間が終わっても人としてのつながりが残るのが、この仕組みのいいところだと感じています。
受け入れたスタートアップから見て、出向者は成長しているか?
会場から「受け入れ側として、出向した大企業の人材が成長していると感じることはあるか」という質問が上がりました。
宮田: めちゃくちゃ成長していますね。30代後半の方だと、うちの会社では最年長になる。社長の私が年下なので、構造上、圧倒的な当事者として動かざるを得ない環境なんです。最近、担当してくださっている出向者の方が「寝ていてもみえるクラウドのことを考えている」と言ってくれました。視座が上がり、サービスへの当事者意識が育っていくのを間近で感じます。送り出した大企業の方にとっても、これは社内では絶対に得られない経験だと思います。
岩崎: 間違いなく成長されていると思います。大企業で培ってきたスキルに、スタートアップのスピード感と当事者意識が加わった人材は、帰任後に本当に頼もしい存在になるんじゃないかと。うちのメンバーも一緒に仕事をしながら刺激を受けていて、双方にとって価値のある経験になっています。
まとめ:大企業にとっても、スタートアップにとっても、得るものがある
最後に、両氏からのメッセージが届きました。
岩崎: スタートアップの経営者の方には、ぜひ一度試してみてほしいです。大企業の方々の経験や視点が、自分たちにはないものをもたらしてくれます。
宮田: 大企業とベンチャーの良さが交換されて混ざる感覚は、社会的にもすごく良いことだと思っています。出向者の方はスタートアップで圧倒的な当事者経験を積んでいく。自社のメンバーも出向者の方から学ぶ。どちらにとっても成長の場になっているんです。そういった交わりが増えていくと、本当にいいなと思います。
※ 本記事は、Tokyo Startup Talent主催イベント「スタートアップ×外部人材活用 最前線!〜出向・副業で広がる組織の可能性〜」(2026年2月18日開催)のパネルディスカッション①の内容をもとに、株式会社ローンディールが編集・作成したものです。




