「行列のできる経営相談所」チーフコーディネーター・秋元祥治さんに聞く。ひらめきのつくり方

今回で4回目となる起業家対談企画、ゲストは「行列のできる経営相談所」としてメディアでも話題の「岡崎ビジネスサポートセンター(オカビズ)」チーフコーディネーターの秋元祥治さんです。設立から9年間で中小企業3500社から2万2000件以上の経営相談を受け、1000以上の新規事業や新商品を生み出してきた、ひらめきと工夫のプロ。2時間にわたって繰り広げられた熱いトークの一部を、要約してお届けします。

企業のいいところを探して活かす

細野:まずは、秋元さんがこれまでに「オカビズ」で経験した事例を教えてください。

秋元:ひとつめは、従業員が12名の「稲垣石材店」という墓石屋さん。課題は石を切った後の端材が年間10トンも出ることで、捨てられないからお金を払って産業廃棄物として引き取ってもらうしかない。「なんとかしなきゃ」とこれまで花瓶や文鎮、ふくろうの置物、お皿などを作ったものの、どれもこれも売れなかった、という相談です。オカビズでは常に「いいところを探して活かす」ということを大事にしていて、相談者のこの話の中からいいところを見つけていくわけです

国産の墓石は高額で、1セットで150万とか200万はザラ。だから見方を変えると、「最高級の高級御影石を、熟練の職人が手仕事で仕上げたオーダーメイドの石のお皿」が作れるという発想になります。

「家庭で石の器を使うイメージは湧きづらいから、ターゲットはミシュラン星付きのレストラン。さすがに墓石の端材と言うと縁起が悪いから、稲垣石材店の創業者の頭文字をとって『INASE』というブランドを立ち上げよう。ミシュランガイドを買ってきて、上から順番に連絡してみて」と相談者に伝えたところ、わずか2、3ヶ月のうちに名古屋の2つ星イタリアンレストラン、金沢のミシュラン1つ星の寿司屋など、どんどん注文がやってきた。

販売価格は1枚1万5000円から2万円。これが10枚20枚と売れて口コミで全国に広まり、一時は半年待ちで受付停止に。それをテレビや新聞が聞きつけて取り上げ、新規事業を始めてわずか2年で、売上の10〜15%を占める事業に成長したんです。新規事業の垂直立ち上げで使ったお金はほぼゼロ。本人たちが気づいてなかった良いところを捉えてターゲットを絞り、ひらめきと工夫で流れを変えていきました。

秋元祥治さん|株式会社やろまい 代表取締役
01年より、人材をテーマにした地域活性に取り組むG-netを創業し03年法人化。15年8ヶ月にわたる代表理事を16年5月末日で退任し、現在理事。また、2013年・33歳で「売上アップ」に焦点を当てた岡崎市の公的産業支援機関「オカビズ」センター長に就任。2021年10月からチーフコーディネーター。開設9年半で3,500社・22,000件の来訪相談の対応を行い、時には予約は1か月待ちに。メディアでは「行列の絶えない中小企業相談所」として注目が集まっている。2021年には武蔵野大学アントレプレナーシップ学部の立ち上げに携わり、現在教授に就任。受賞歴に、内閣府「女性のチャレンジ支援賞」、「ニッポン新事業創出大賞」支援部門特別賞ほか。内閣府「地域活性化伝道師」・中小企業庁よろず支援拠点事業全国本部アドバイザリーボード等、公職も多数。慶応義塾大学SFC研究所所員。著作に「20代に伝えたい50のこと(ダイヤモンド社)」
細野真悟|ローンディール最高戦略責任者/ビジネスデザイナー
2000年にリクルートに入社しリクナビNEXTの開発、販促、商品企画を経験した後、新規事業開発を担当。 2013年にリクルートエージェントの事業モデル変革を行い、1年で100億の売上UPを実現し、リクルートキャリア執行役員 兼 リクナビNEXT編集長に。 現在は企業間レンタル移籍プラットフォームを提供するローンディールのCSOを務めながら、フリーのビジネスデザイナーとしても複数のベンチャーの戦略顧問や大企業の新規事業部門のメンタリングを行う。スモールグッドビジネスを立ち上げたい人のコミュニティ「Fukusen」主催。著書に『リーンマネジメントの教科書(日経BP)』がある。

秋元:もうひとつの事例は、岡崎にあるスーパー銭湯「おかざき楽の湯」。コロナ禍の2020年夏、売上が4割減という相談を受けた私が目をつけたのは、当時盛んに言われていた「ワーケーション」です。

銭湯には大きなお風呂があり、Wi-Fiが飛んでいて、テーブルや椅子が置かれた漫画コーナーもある。そこで「ご近所ワーケーション」という新商品を市場投入したら、ものすごいことになりました。毎朝9時にパソコンを持ったサラリーマンが続々とやってきてテーブルに向かって仕事を始め、昼前になるといったん片付けてお風呂に入る。ランチを食べてまた仕事して、お風呂に入ってビールを飲む。これで、客単価が従来の3倍、2500円くらいになり、新規客を取り込めたんです。

世の中の問題や機会を知り、引き出しを増やす

細野:いやー、ひらめきと工夫だけでっていうのがすごいですね。まずは秋元さんのような発想力を身につけるにはどうしたらいいのか。僕なりに解析した内容を共有させていただきますね。

秋元さんには、ちょっとしたことからパーンと閃いてビジネスにしていく力があるようですが、これは2つの力に分かれると思います。ひとつ目は強みに着眼し、それをどの市場に誰に売るかという目の付け所です。先ほどの話でいうと「ワーケーションの場所で困っている人がいる」など、世の中にある問題を知らないと、絶対にひらめくことはできませんよね。世の中にあるいろんな問題や機会を、解像度高く、手触り感がある形で知っていることが、とても重要なんです。

もうひとつは、言わずと知れたソリューションですね。「どの問題にどの解決策がバチっとはまるのか」という引き出しをたくさん持つこと。先ほどの「高級レストランでは御影石のお皿を使いたがる」というのも、知らない人は思いつかない発想ですよね。

世の中の仕組みや面白いことを組み合わせて、解決策を思いつくのがソリューションの力。いろんな問題や機会に触れて解決策を知り、組み合わせられる量がたくさん必要で、それがないと発火しないのではないか、というのが僕が考えるビジネス発想力です。

秋元:めちゃくちゃ共感ですよ。「オカビズ」では「売りや強みを見つけて言葉にする」「ひらめきと工夫で売れる事業開発をする」と、大きく分けて2つの工程をやっているわけです。ここからは後者にフォーカスしていきます。

ひらめきの源泉は観察力が決め手

秋元:まずは改めて「ひらめき」というものを要素分解していきます。私の言う「ひらめく」とは小さなイノベーションを指しているんですが、そもそもイノベーションとは何か。仮に「新結合」と捉えるなら、いろんなものの組み合わせですよね。一見関係ないもの同士の結びつきがイノベーションに必要なのだとしたら、それには雑多で多様な情報や知識が必要で、「ひらめきは、雑多で圧倒的な情報量のインプットから生まれる」という結論に至るわけです。

すると次に「24時間しかないのにどうやってそんなにインプットするんですか?」という質問が出てくる。私は「ひらめきの源泉は観察力が決め手」だと答えています。

僕は本があまり好きではないし、MBAの学校に通ったこともない。だけどいつもの毎日に「ちょい足しする」だけでビジネスセンスを磨く7つの「ちいさな習慣」を実行しているので、今日はそのうち2つを紹介したいと思います。

ひとつめは 2の「たまに本屋に30分行く」。例えば女性誌のコーナーには「VERY」という雑誌がありますが、ハンサムママというコンセプトで、世帯所得は1500万円くらいをイメージしているのかな。旦那さんが商社とかにいて、奥さんはもともと上場企業で働いていて。上の子が5歳で下の子が2歳、世田谷に住んでそうな人がターゲットです。

一方で「レタスクラブ」や「オレンジページ」も30代女性がターゲットですよね。30代後半から40代向けでは、世帯所得3000万以上を想定している「Precious」という雑誌もある。女性誌はセグメントの切り方の見本市ですから「あんなに細かくセグメントを切れるんだ」というのが分かります。

あるいは「月刊住職」という雑誌があるんですが、パラパラとめくると「筆文字がヘタな住職のための上手そうに見えるか書き方」特集などがある。これを知ることで、例えば京都で書道教室をやっている先生から相談を受けた時に、「お坊さんのために1週間でうまくなる筆文字トレーニングキャンプというのをやったら、ニーズがある」と思いつくわけですね。

大事なポイントは、自分の興味がないところを見ることです。みんな興味のあるところに注目しがちですが、それでは何も広がりません。欲しい本を買いに行くんじゃなくて、市場のトレンドやマーケットの温度感を掴みにいく気持ちで、本屋に行っていただきたいですね。

「見る」のではなく「観察」する

秋元:もうひとつは、3の「コンビニはスマホ片手で」。コンビニは坪あたりの販売効率が最も高い業態だと言われていて、大企業がしのぎを削って棚を取りに行くわけですから、そこで売られている新商品からはトップマーケッターたちの知恵とか工夫が透けて見えるんです。ポイントは「見る」のではなく「観察」すること。「これは誰向け? なんで今売っているの? どういう特徴なの?」と考えたら、今度は答え合わせをしたいじゃないですか。その方法がプレスリリースを検索することで、「商品名 プレスリリース」で検索するとPR TIMESなどの記事が出てきて、販売時期やターゲット、特徴がすべて書かれているわけです。

「どうやったらアイデアが続々と生まれるようになるのか」と聞かれることがありますが、私はよくインスタグラムの投稿のように、ハッシュタグを付けることで要素分解してモノを見ています。たとえば「乳酸菌ショコラアーモンド」というチョコレートをコンビニで見つけた時には、「#乳酸菌 #食物繊維 #在宅ワーク #健康志向 #ギルトフリー」などタグ付けをしていきました。そして、自分の頭の中でこれらのハッシュタグから検索していくと、「ヨガ、ヤクルト1000、ランニング 干し芋 大人のたけのこの里」など、似たような、他の何かが浮かんでくるんです。

これをどうやって新規事業に活かすかというと、新聞販売店からの「購読者数が減って売り上げが下がっている。どうやったら売れるのか」という相談があった時に、私の頭の中のハッシュタグは「#戸別配達 #自宅配送 #訪問営業 #差別化ゼロ #みんな同じ」など。この中から頭の中で「差別化ゼロ」「みんな同じ」でハッシュタグ検索すると、出てきたのは本屋さんです。本屋さんは値引きができなくて、どの店でも売れている本は同じ、商品の差別化ができないという点で、新聞販売店と同じなんですね。

そこで全国の本屋さんからうまく行っている事例を調べると、北海道・砂川のいわた書店の「1万円選書」や、岐阜の菊川選書の「名前だけでインスピレーションで本を選ぶ」などが出てくる。同じように新聞販売店でも何かできないか。こんなふうに頭の中でハッシュタグ検索することで、似たような他の何かを探し出し、そこからビジネスのアイデアを広げていく。身の回りの日常を観察する癖をつけ、要素分解をしてタグを付けることで脳内検索をする。すると連想ゲームのようにどんどんアイデアが湧いてくるわけです。

日常の中で「見る」のではなく「観察する」視点を持つこと、そして、考えて調べることを繰り返す。MBAスクールや勉強会に通わなくても、誰もがビジネスセンスを磨いていけきます。

細野:7つの「ちいさな習慣」のうち2つを教えていただいたのですが、もうひとついいですか? 7番目の「気づいたらつぶやけ」。これはどういう意味でしょうか?

秋元:たとえばコンビニで見つけた面白いモノや自分で考えて調べたこと、新聞や雑誌で見つけた面白い記事をツイッターでつぶやく。あるいは会った人にどんどん話していく。そうすると、同じように気になっている人から情報がどんどん集まってきますよ。

細野:実はこの対談企画は4回目なんですが、みなさんの共通点が見えてきました。みなさん気づいたことをSNSでつぶやいたり人に話したりと、アウトプットする習慣があるんですよ。インプットのやり方は人それぞれなんですが、「面白い」と思ったら必ずアウトプットする、というのは共通しています。

秋元:アウトプットすることで自分の中に定着しますし、さらに周りからインプットをもらえますからね。大事なのは、消費者の視点に立つのではなく、作り手側の目線でモノを見るということです。自分が企業の人だったとして、誰をターゲットにしてどういう特徴で、なぜこのタイミングでやるのかを考えると日常のインプットがバンバン増えます。

みんながやらないことを、ひっくり返すのが面白い

細野:今日話していて。秋元さんは「地球人最強系」だと思いました。サイヤ人は会話が成立しないけど、秋元さんはめちゃくちゃ修行を積んだ地球人なので、どんなふうに修行を積んだかが知りたい。秋元さんのビジネスセンスや紐づける力、ひらめく力は、「オカビズ」での9年間で身に付いたものなんでしょうか?

秋元:毎日5、6社の相談を受けているから、会ったことがない業種がほぼなく、数を重ねることで力になっている実感はありますね。また、モノを観察する習慣がついているので、それが増えるにつれて掛け算が起きやすくなっています。面白がる習慣がつくと、さらにいろんなモノを面白がれるようになり、よりセンサーが磨かれていきますね。

細野:僕も今の話には共通点が多くて、3年前の自分より今の自分の方が面白いと思っています。それはやはり量によるもので、食わず嫌いをせずにいろんな相談を受けることで広がっている感じです。でも秋元さんと僕との一番の違いは、企業側が弱みと思っているものを強みに転換するという、とてつもない天才性を持っていること。秋元さんはもともと若い頃から持っていたのでしょうか?

秋元:期待をいい意味で裏切るとか、ダメだと思われているモノをうまく活かす、という力はもともと持っていたかもしれません。みんなが地方より東京がいいよね、と言うから地方の岐阜で起業したり、あえてNPOで起業したりと、みんなが大事だと思っていてもやらないことを、ひっくり返すのが面白いなって。

細野:どうしてそういうご自分になっていったと思われますか?

秋元:僕の好奇心の芽を育てたのは父親でしょうね。小学5年の夏休みにいきなり1万円を渡されて「大阪の阪神百貨店でタイガースの500円のグッズを買ってきて」と言われまして。時刻表と地図で行き方を調べて、「初めてのおつかい 小学校5年生版」ですよね(笑)。中学生の時は10万円を渡されて「家族旅行に2泊3日で長野に行くから企画して」と。まだ「じゃらん」がない時代ですから本で調べてペンションを予約し、地図見ながら段取りを組みました。そうしたことが「自分で調べてみる、面白がる」という原点だと思いますね。

細野:面白いエピソードですね。でも、みんなとあえて違う方を選ぶ理由としては、その答えには納得してないですよ(笑)。

秋元:差があった方がもっとモテると思ったんでしょうね。2枚目より3枚目になりたいと。普通のイケメンでは面白くなくて、「3枚目なんだけど実はかっこいい」というのがマジでかっこいいんですよね(笑)。

細野:本当ですか(笑)? 

秋元:自分がキャリアや意思決定をする際に意識しているのは、「想像できる人生を生きたことにして、想像できない選択肢を選んだ方が面白い」ということ。先が想像できるとしたら、それを選ばなくてもいいんじゃないか。振り返った時に「あの時の自分、生きてるな。めっちゃ面白かったな」と思えるのは、先が分からない時の方だと思います。

僕としてはみんなが選ぶ方向に行くのは面白くなくて、難しいことをやった方がかっこいいと思う。たとえばトラックレースで、100mを9秒8で走るのも凄いんですけど、河原の石がゴロゴロしているところで早く走る方が、試されている感じがします。もちろんロジカルにモノを考えて整理はしますが、意思決定するときには、必ずしもロジカルでなくてよくて、エモーショナルでいいと思っています。

細野:今日は秋元さんの発想の原点にある「いいところを探して活かす」という技、そして、そのひらめきのきっかけとなる「観察力」というものについて、一部を具体的にお話しいただきました。皆さんも、日々目にするものを、ただ「見る」のではなく「観察する」という行動から始めていただければと思います。秋元さん、ありがとうございました!

Fin

 

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レポート:渡辺裕希子

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