「ベンチャーの魅力を知ってしまった大企業人材は今、何を思うのか?」
「自分がやるしかない」環境が、人を変える
【大川:モデレーター】まず3名のみなさんは、規模も環境も働き方も異なるベンチャーで働いたわけですけど、大変なことも多かったんじゃないかと思います。どうやって打破したんですか。
【泉】僕は他業種で新規事業に挑戦したくてデイブレイクというベンチャーへ行きました。事業企画、プロダクトの仮説検証、営業などあらゆる経験をして、どれも初めてだったんですが、人がいないので「できない」なんて言ってられない状況でしたね(笑)。
とはいえ、保険の会社から特殊冷凍を扱う全然違う領域に行ったので、自分にできないことだらけ。なので「他人に頼る」ということはすごく意識しました。最初はプライドが邪魔して自分一人でなんとかしなきゃって思っていたんですけど、本当に成し遂げたいことのために、どう動くのがベストなのか? と徐々に思考が変わっていきました。
【大川】泉さんは確か「社長賞」を取っていましたよね。過去最大の大型案件を受注したとか。経験がない人がそんな実績出しちゃうってかなりすごいことだなって。
【泉】自分でも驚いていますが(笑)、自分だけの力じゃなくて他の人に支えてもらったからこそ出せた成果です。
【鈴木】「できない」なんて言ってられないというのは僕も同じで。大きい組織にいれば、わからないことがあっても、詳しい人とかできる人がどこかにいると思うんですね。でもベンチャーはそもそも人がいないので、得意ではないけど、自分がやるしかないっていうのは結構ありましたね。
「海外のデザイナーを入れたデザインコンペを運営して」っていきなり言われたり、絶対に元の組織にいたらやる機会もなかったようなことばかり。当然できないときは周りを巻き込むしかないんですけど、まずは自分ができる範囲で一生懸命やろうという感じでした。
【大川】鈴木さんは、元々「地域の現場で手触り感のあるような仕事がしたい」ということでしたよね。実際に現場に行ってみてどうでしたか?
【鈴木】オプスデータという地方創生に関わるベンチャーに行ったのですが、地域の農家の方たちと意見交換する機会をたくさんいただきました。役所にいるとそういう機会も少ないので。本当に困っているのはこういうことなんだっていう、危機感をリアルに感じることができました。ただ、そういう人たちに“よそ者”である自分が事業説明をして興味を持ってもらわないといけなくて。なので、まずは自分が何者かを伝えなきゃと、自分のことを知ってもらうとか、そういう工夫はしていましたね。
【大内】むすびえというNPOで、こども食堂の支援に携わっていました。そんな中で、先程の鈴木さんの話ではないですが、私も企業の方に対してむすびえの事業紹介をするシーンが多々ありまして、衝撃的だったのが「大内さんが言うとなんか嘘くさく聞こえる」と言われたんですね(笑)。営業力とかプレゼン力は自信があったので、ショックでした。
【大川】その嘘くささってどうやって払拭したんですか。
【大内】やっぱりこども食堂の現場に行ったことが大きかったですね。それまでは、ミッションやビジョンを自分の言葉で語れなくて、資料をそのまま読んでるだけみたいな。でも現場に行って、こども食堂の運営者さんやスタッフの皆さんとしっかりコミュニケーションを取ったことで、社会課題に対して当事者意識を持てたんです。ミッションを「自分ごと化」できたことで、会社へのエンゲージメントも高まりましたし、個人としてのWILLも強くなりました。
外に出たことで当事者意識の大切さを実感
【大川】先ほど大内さんが、「当事者意識を持った」ということですが、これまではどうだったんですか? 大内さんは小野薬品で営業としてだいぶ現場に触れてきていると思うんですが。
【大内】そうですね。会社の理念は大事にしながらも、言葉を選ばずにいうと、目の前の仕事に追われて、自分が組織の歯車のひとつのように感じてしまっていて。そこまで意識できていませんでした。なので外に出たことで、当事者意識を持たないとやっていけない状況を体験できて、今はその大切さを実感しています。
【大川】外に出ると自組織を相対的に見られますよね。大内さんはまだ移籍中ですが、戻ってきた鈴木さんはその違いをどのように感じていますか。
【鈴木】今、歯車って話が出ましたけど、「何の仕事がしたいか」っていう話になったときに、これまでだと「どのポストに行きたいか」みたいな話になりがちだったんですね。でも、「こういうことを実現したい」「こういう問題を解決したい」とか、そういうことが大事なんだってことに改めて気付かされました。
なので、今は目的と手段が入れ替わらないように、「これは何のためにやってるんだっけ?」っていうのを、いろんな人と対話しつつ、自分でも考えながら仕事をするようになりました。
背中を押してもらいたい
【大川】今回みなさんは、組織のサポートを受けてベンチャーに行っているわけですが、たとえば、自分で勝手に外に行く、という状況だったとしたら、挑み方も違ったんでしょうか。
【大内】やっぱり「勝手に外に行く」だと、あまり会社には還元したいと思えないのかなと。チャレンジを会社が後押ししてくれたからこそ、社外の経験を社内へ生かすにはどうしたらいいのかということをおのずと考えられていると思います。
【大川】そうすると「行ってもいいよ」みたいな許可ではなくて、背中を押されている感じも大事になりそうですよね。
【泉】自分は、まさに「行ってこい」って背中を押してもらっている感じでした。
【鈴木】自分もそうです。だからこそ何か持って帰らなきゃというか、戻ってから何かしなきゃっていうのは強くあって。組織に対して何か還元しないとって思います。
【大川】それはプレッシャー? それともモチベーションですか?
【鈴木】両方だと思います。移籍中、「何か持ち帰って残さなきゃ」っていう緊張感は常にありましたけど、一方で、やらないといけないなっていう責任感がモチベーションになっていたかなって。今は外で経験を積んできたっていうところがひとつの自信になって、説得力を持って話せるようになっていますし、全部背中を押してもらったからこそ、できていることかなと思います。
【大川】ちなみに、いろんな背中の押され方があると思いますが、たとえばどんな後押しがあるとより良いんでしょうか。
【大内】自分の場合は、移籍直後が一番孤独感を感じていたんですね。特に1ヶ月から3ヶ月目くらいに、行ったは良いものの上手く馴染むことができなくて。何か1人で働いてるような気分でした。そのときが一番気力が落ちてしまった時期かなと思ってて。そういうときに「気にかけてるよ」みたいなコメントをもらえたんですね。「見てくれてるんだな」って感じられて心の支えになったというか、ありがたかったですね。
【泉】大内さんが言うように、移籍元から1人って結構極限の状態にあるので、そういった中で、会社の人が気にかけてくれてアドバイスしてくれるっていうのは、本当にありがたいなって思いました。実際、上司に悩みを相談した際に、すごく的確なアドバイスがきたんですね。上司は、自分がベンチャーの経験も特殊冷凍の分野の経験もないはずなのに。
【大川】意外と自分の上司イケてるって思いました?
【泉】思いました(笑)。
【大川】やっぱり「好きに行ってきていいよ」という気軽なものではなく、ちゃんと目的を持って背中を押してくれる、応援してくれる会社や仲間の存在が、みなさんにとって大事だということがわかりました。
Fin
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