「業務時間の20%」で参加できる越境プログラム「side project」スタート

「もっと気軽にできる越境があってもいいんじゃないか」。
ローンディールではこれまで、半年や一年、ベンチャー企業で働く「レンタル移籍」を行なってきました。71社・260人以上(2023年5月時点)もの方々が参加し、大企業ではできない貴重な経験をしています。一方で、半年や1年という長期にわたって自社を離れることや、ベンチャーという未知なる環境で働く不安などから「挑戦してみたいけどできない…」という声もあがっていました。また、組織として多くの人に経験させたいと考えても、一度に社外に送り出すわけにはいかず、手をあげても行くことができない。そんな風景を目の当たりにしていました。そこでローンディール では「業務時間の20%」かつ「3ヶ月間」という条件で越境ができる「side project」をスタート。事業責任者である東香織が、その背景と展望について答えます。

【Profile】
東香織 / 「side project」の事業責任者

新卒でブライダル業界に従事した後、株式会社リクルートへ入社、法人営業・営業企画・販促企画、出産育休を経て25名の女性メンバーマネジメントを経験。その後、「日本的な人材の流動化を創出する」というミッションに強く共感し、2020年よりローンディールに参画。レンタル移籍のプロジェクトマネージャーを経て「side project」の事業責任者。

(インタビュアー=三上 由香利)

レンタル移籍には、手を上げられない人がいた


三上:どのような背景から、今回の「side project」は始まったのでしょうか。

東:これまで「レンタル移籍」に興味を持ってくださる方はたくさんいらっしゃったのですが、公募すると「行きたい気持ちはあるけど、実際には行けない」という声が多くありました。業務を離れることができないという物理的な理由もありましたが、「ベンチャーのチャレンジングな環境に対応できるか」「自分の力量では、通用しないのではないだろうか」というような不安を抱える方も多くて。また、企業側も長期間、同時に何人もの社員を社外に送り出すというのは現実的ではありませんでした。

そういった背景も含めて、フルコミットではなく、今の業務を担当しながら社外経験を積んでもらうことができれば、大企業としても導入しやすいし、これまで手が上がらなかった社員の方にも挑戦しやすい機会になるだろうと。そんな着想を得て出来上がったプログラムです。

三上:これまで参加できなかった方にも焦点を当てたプログラムなんですね。どのようなポイントを重視して、設計されたのでしょうか。

東:期間や時間が短くても、できるだけ越境学習の効果を高められるように設計しています。例えば、プロジェクトに参加する前にまずは事前研修を受けていただき、企業と面談をしていただきます。フルタイムのレンタル移籍と同様に、面談で合格をもらわないとプロジェクトに参加できないシステムです。

これは、自分で機会を獲得するというプロセスを経ることで「会社から言われたから」「とりあえず参加してみる」というマインドではなく、なぜこのプログラムに参加しようと思ったのかを内省し、本人の中に動機がある状態をつくることができるからです。

また、事前研修でも「教えてもらおうというスタンスではなく、受入先の一員としてまずはできることから成果を出し、自ら動いて挑戦の機会を得よう」と、挑戦と貢献のバランスについて話をしています。そして、ただ経験をして終わりではなく、きちんと内省の機会を持つこと。これまでレンタル移籍を通して見えてきた、経験学習サイクルを回すために重要なポイントを組み込んでいます。

三上:レンタル移籍では、週報を通じてメンターとコミュニケーションを取り、繰り返し内省することで成長を促すという仕組みがありますね。こうした仕組みもあるのでしょうか。

東:side projectの場合は、週報や月報を通した内省と言語化に加え、他社からの参加者を含む3〜4人で、グループメンタリングを行います。同じ時期にプロジェクトに参加している人たちと意見を交わす中で、悩みを共有したり、みんなで解決策を考える機会を持つことを目的としています。

たった3ヶ月でも、仕事に自信が生まれた


三上:もうすでに複数社がトライアル実施されているそうですね。どのような目的で実施されたのでしょうか。

東:事業環境の変化に対応できる主体的な人材を育成すること、社外の価値観を取り入れ、事業のあり方や仕事のやり方についての議論を活性すること等を目的にトライアルにご協力いただきました。参加者は20代後半〜40代後半・メンバーから管理職クラスまで幅広く、職種も様々。受入先でのプロジェクトが現業に近い方もいれば全く未経験の業務に取り組まれた方もいらっしゃいましたね。

三上:多様な方が参加したのですね。受け入れ先のベンチャー側の反応も気になるところです。

東:満足度がとても高く、また受け入れたいと言ってくださっている企業がほとんどで嬉しかったです。ベンチャーは日常的に業務委託やプロボノ人材を活用しており、限られた時間で関わる人材に業務を切り出して依頼することに慣れているケースも多い。実際のプロジェクト内容は、たとえばSNS運用、育成研修の企画運営、データ関連業務の効率化などがありました。

参加者の中には終了後も継続して、副業やプロポノという形で関わりを続けている人もいます。私たちが御膳立てしたわけではなく、ベンチャーと合意して、ご自身で関わりをつくることができたようで。そこまで想定してはいなかったのですが、越境し続けるきっかけになったのは良かったですね。そういった意味では、副業制度の活用を促進したい・社員のキャリア自律を支援したいと考えている企業にも効果があるのではと思います。

三上:実際に参加した人の反応はいかがでしたか。

東:自分が当たり前にやってきた仕事に対して自信が持てたり、スキルが自社以外でも役立つことを認識できたといった声がありました。「side project」は期間が短い分、できる業務は限られてきますし、ベンチャー側もその仕事にマッチしたスキルを持つ人を厳選してアサインします。参加者からするとやり方のイメージが湧く業務が多いため、すぐに仕事に取り組み成果を出すことができ、短い期間でも十分、自信に繋がったようです。

ある40代の参加者は、これまでの経理実務経験を活かして支払フローを構築する業務にアサインされました。当初は初めて触る会計ソフトに戸惑い、「本当に自分にできるか自信が持てない」とこぼしていましたが、なんとか役に立ちたいという一心で、出来ることから着手していきました。少しずつアウトプットが出せるようになってからも、「期待に応えられているのか」と不安を抱えたままでしたが、周囲からのフィードバックなどを通じて自分ができたことへの内省が深まり、「自分を過小評価しすぎず、取り組もう」と気持ちを新たに臨んでいました。

最終的には、期待されていた業務を完遂しプロジェクト終了。今までの経験や過去に勉強した知識が役に立った部分が多くあり、自信につながったといいます。終了後も「今の業務経験が成長につながっていると意識できるようになった」と前向きに話されていましたね。

ベンチャーの経験を自社の仕事にリアルタイムに取り組める


三上:たった3ヶ月で「自信が生まれる」ってすごいですね。

東:事前研修や月報の様子を見ているとなかなか自信を持てない人もいましたが、グループメンタリングの中で取り組み内容を他のメンバーに伝えたときに「それはすごいことですよ!」と褒められたことで、まず最初の自信につながったという方も。

そして実際に3ヶ月経験したあとには「今までの自分のキャリアは無駄ではなかった」「経験すべてに意味があることに気づいた」という話を聞くことができて。社外に出たことによって初めて自分に対する評価基準がアップデートされたんですよね。

他にも、会社や仕事について改めて見直し、取り組み方を変えるヒントを得たという方も多かったです。「社内にはこんなにたくさんリソースがあるじゃないか」「この情報って、業界内ではうちの会社が一番持っているんだ」と大手企業が持つアセットに改めて気づく。そこから「もっとこんなことができるんじゃないか」というアイデアが生まれていく。

「side project」の良さは、目の前の仕事に取り組みながら社外を経験できることです。つまり、新しい経験を通して自社の現状に向き合い、その経験をどう活かしていくかをリアルタイムで考えられるということ。今後みなさんの仕事にどのような変化があらわれてくるのか、私たちも楽しみにしているところです。

三上:最後に。どんな想いを持つ人に参加して欲しいですか。

東:少しでも社外経験に興味がある方、自分に何ができるか悩んでいる方がいたらぜひ挑戦してみてほしいです。多くのビジネスパーソンが、自分の成長やキャリアに自信が持てず不安を抱えています。その不安を解消する一つの打ち手が、社外に出て自分を見つめてみることだと思うんです。

「業務時間の20% × 3ヶ月」という限られた時間の中でも代えがたい経験ができる。マインドが変わる。そんな方がたくさんいました。「side project」は自分のキャリアを改めて見つめ直すきっかけになる時間を提供できるはずです。ぜひ多くの皆さんとご一緒できたらと思っています。

Fin

インタビュー・文:三上 由香利

撮影 : 原田未来

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