大企業人事が体感した「ベンチャー企業で働くことの価値」とは?

業務時間の20%で、3ヶ月間ベンチャー企業に参画できる越境プログラム「side project」。2023年からスタートし、その気軽さから様々な業種・職種の方々が参画しています。

そこで今回は、大企業の人事部門からside projectに挑戦した旭化成株式会社・竹花 晶さんと東京ガス株式会社・政春 敦史さんを直撃。越境学習というと新規事業やリーダー育成文脈で語られることも多いですが、人事という立場でベンチャーを経験するとどんな世界が見えたのでしょうか。また、ベンチャーで重宝されたという大企業人事の意外なスキルについても伺いました。
(※ 本記事は、2023年10月末に取材したものです)

業務時間のたった20%でできる、ベンチャー企業での越境体験


-はじめに、おふたりは参加者でもありプログラムの導入者でもあると伺いました。side projectを導入するに至った背景を聞かせてください。

旭化成・竹花さん:私は旭化成のビジネスパートナー人事として、主には研究・開発本部の新規事業創出と個の成長のサポートをしています。研究・開発本部では「対話を通じて、共創・イノベーションをめざす」という目標を掲げ、【働き方DE&I】【キャリア支援】【対話によるマネジメント支援】という3つの切り口で組織文化づくり・風土の醸成を進めています。

side projectを通じて、ベンチャー企業での越境体験が個のキャリア支援に繋がります。また、ベンチャーの働き方や仕事の仕方を学ぶことは、イノベーション風土の醸成にも繋がるのではないか。当社の目指す方向性と複数の観点でマッチするとの期待から導入を決めました。

旭化成株式会社 竹花晶さん
1998年に旭化成入社。半導体のプロセス開発から社会人スタートし、人事、広報、新事業開発などの仕事を経験。現在は研究開発や新事業開発のビジネスパートナー人事。22年より人財・組織開発領域のエキスパートに就任。工学修士、技術経営修士(MOT)

東京ガス・政春さん:私は東京ガスのカスタマー&ビジネスソリューションカンパニーで人事をしています。エンドユーザー向けにエネルギーやサービス等のソリューションを提供しているカンパニーです。当社でも人的資本経営の実践に向け、様々な取り組みをしていますが、その中の1つが「プロ人材としての成長・挑戦、自律的キャリア形成促進」です。

越境体験を通じてこれまで培ってきた力を社外で発揮し、学びを自身の成長やキャリア形成に結びつけてほしい。そんな考えからside projectの導入に至りました。

東京ガス株式会社 政春敦史さん
2014年に東京ガス入社。飲食店や事業所等、業務用にエネルギーをお使いのお客さま向けに、ガス・電気・サービスの拡販を、アライアンス先とともに担当。2023年4月より、カスタマー&ビジネスソリューションカンパニーの部門人事担当に就任。

-side projectの導入決定後、どのように社内で推進しましたか?

旭化成・竹花さん:初めての導入なので、オンライン説明会を4回ほど開催して、参加者の募集をスタートしました。公募制で年齢や職歴は不問。研究・開発本部のメンバーであれば誰でもエントリーできるようにしたのですが、人事3名含めて11人から申し込みがありました。

ちなみに、申し込めば誰でも参加できるというわけでもなく、ベンチャー側とのマッチングに成功しないと行くことができません。結果9人がマッチングし、この9月から参加しています。そのうちのひとりが私ですね(笑)。

東京ガス・政春さん:今回はトライアルという位置づけで実施したこともあり、当社は参加者を選抜しました。具体的にはカンパニーの中で新規事業やデジタル分野に関わるメンバーのうち、ベンチャー企業での体験に前向きな方を部で選抜するというやり方で、結果、事務局の私も含めた6名が、旭化成さん同様、9月から参加しています。

業務の20%で越境体験をすることがどのような効果をもたらすのか、今まさに肌で感じているところですね。

目標は与えられるものではなく、自分で設定するもの


-ここからは実際の越境体験について聞かせてください。スタートから2ヶ月弱が経過していますが(※取材時点)、ベンチャー企業でどのような経験をし、何を感じていますか?

旭化成・竹花さん:私が参画しているのは株式会社HackCampという、共創による組織開発や中長期ビジョン形成の自分ごと化、新規事業開発などのプロジェクト伴走支援を行ってるベンチャー企業です。会社のパーパースは「多様性のある全ての人々の共創によって前進する社会」。旭化成の研究・開発本部が掲げる今期のゴールも「共創」なので、何かヒントが得られるのではないかと期待して参画しました。

HackCampのHPより

まず入って驚いたのは、社員が6〜7名と少人数なことに加え、マネージャーがいないティール組織だということ。なので、目標設定も自分でしなければいけません。360度評価で給与もオープンになっています。

3ヶ月間、しかも業務時間の20%なので業務委託的に仕事を受けるのかと思っていたら、「この組織にどう貢献したいか、自分で目標を設定して欲しい」と言われ、最初の1ヶ月はスランプ気味でした(汗)。大企業では全社方針や本部方針があって、何かしらの明確な期待の元にアサインされますよね。

ところがHackCampでは、参画する個人の視点でHackCampのどこに共感し、どんな繋がりを求めているのか。本人の自主性や湧き出てくるWILLを追求してほしいという考えで仕事が回っているんです。

-どのように目標を設定し、スランプを抜け出したのでしょう。

旭化成・竹花さん:事業を自分ごと化しないことには、WILLは生まれません。HackCampの皆さんに1on1の時間をいただき、なぜこの組織で働いているのか、ここで何をしたいのか、やりたいけど手をつけられていないことはないか、ヒアリングしました。

皆さんの考えに触れる中で、もともと興味・関心のあった組織開発をテーマに貢献したいという目標が見えてきました。HackCampが提供しているサービスを組織開発の観点で活用するとどのような意味や価値があるのか、旭化成や私自身のネットワークの中で体験する機会を設け、その様子をレポートしようと、今動いているところです。

とはいえ残り期間はもう1ヶ月(笑)。旭化成の人事業務の中にHackCampの要素を盛り込み、両社の仕事の重なりを意識して進めています。

人事として探求したい、新しいテーマとの出会い


-そうした中で、人事として自社に持ち帰れそうな気づきや発見はありましたか。続けて竹花さん、いかがでしょうか?

旭化成・竹花さん:あまりにも環境が違うので、たくさんの気づきがありました。中でも大きかったのが、組織カルチャーづくりの知見ですね。

HackCampには組織のカルチャーづくりをリードしてきた方がいらして、その方にこれまでの取り組みを総括してお話いただく場面がありました。旭化成のような100年を超える歴史のある企業にいると、「組織カルチャーとは代々受け継がれているもの」と捉えてしまい、着手しにくい面がありました。

ところがこの方は「カルチャーは丁寧につくりあげるもの」という概念を提唱されていて。もう衝撃でした。同時に、丁寧にカルチャーがつくられているからこそ、フルリモートでもこれだけ仕事が回っているのだと気がつきました。

コロナ禍でリモートワークがうまく回るところとそうでないところは、土台となるカルチャーに違いがあるのではないか? そんな新しい疑問も湧いてきて。組織のカルチャーづくりをもっと探求したい。人事として探求したい新しいテーマが見つかりました。

-政春さんはベンチャーでどのような経験をしていますか。

東京ガス・政春さん:私は「はぴこ」という誰もが自分でコミュニティを作ることができるWEBプラットフォームを運営する株式会社COクリエイトに参画しています。

「ボーダーの無い世の中を共創する」という理念に共感し、働いてみたいなと思っていたところ、先方からお声がけいただいてマッチングしました。また、人事としてベンチャー企業の働き方を実際にこの目で見て体感し、何か自社に持ち帰れるものがあればと期待して参加しました。

COクリエイトのHPより

実際に行ってみると、本当に驚くことばかりで。メンバーは私を含めて17名ほど。想像以上に少ない人数で事業が回っていることに驚きました。さらにほとんどの方が兼業で、自分で会社を持っている方ばかり。社長の三浦さんは石川県在住。テレワークが前提で住んでいる地域も皆さんバラバラです。東京ガスでは出社をしている人が多いので、本当の多様性を目の当たりにした感じですね。

業務内容は、「はぴこ」に掲載する商品・サービスの審査やお客さま対応。あとは社員の方の壁打ち相手をしたり、作っている資料をチェックしたりとさまざまです。

-ご自身のこれまでのキャリアを活かして、COクリエイトに貢献できているという印象でしょうか?

東京ガス・政春さん:そうですね。実は人事に着任したのは今年に入ってから。貢献でいうと、それまでは営業をしていたので、その経験を踏まえて少しはお役に立てているかなという手応えもあって、働いていて楽しいですね。


-人事として持ち帰れそうな発見や気づきはありましたか?

東京ガス・政春さん:COクリエイトは引き続きside projectを活用していて、次期side projectの参加者の採用にも少し関わらせていただいています。採用チームは少人数ながら、しっかりと選考基準が考えられており、私自身がどのようなプロセスで採用に至ったのかも明確になりました。

ベンチャー側がどんな人を必要としているのか。要件を満たす人物をどのように探しているのか。一連のプロセスに立ち会う中で、ベンチャー企業の期待を目の当たりにしました。期せずしてside project採用の裏側を見せていただいたことが、今後自社における業務においても大いに役立ちそうです。

論理的思考やドキュメント作成……
「スキルと認識していなかったこと」が役に立った


-改めて、side projectに参加して、どのような点に価値を感じていますか?

東京ガス・政春さん:スキルの相対化というか、自分自身のスキルが社外でどう役立つのか、客観的な視点を得られる点に価値を感じました。

スキルと言うと、一般的には高度な専門性をイメージしますよね。ところが実際にベンチャーで働いて感じたのは、これまでスキルだと思っていなかったスキルが、実はすごく役立つということ。例えば、物事を論理的に組み立ててドキュメントに落とし込むのは、大企業では当たり前に訓練されるので、スキルとも認識していませんでした。でもこれが意外と重宝される。新しい発見でした。

他の参加者からも「自分にはこれといったスキルがなく、ベンチャーで通用するか不安を感じていたけど、side projectを通じて自信がついた」という声も上がっています。

旭化成・竹花さん:私も同じようなことを感じました。先方が作成している資料をチェックして、「ここはこういうフレームワークで表現した方がいい」とか、「表現を変えたほうがいい」とか。一見、誰がやっても変わらないような仕事だと思っていたことが、喜んでいただけたというのは意外でしたね。

また当社の場合、side project参加者の仕事の仕方に少しずつ変化が生まれているんです。ベンチャーの仕事のスピード感やフットワークの軽さに触れ、これまで話したことのない社内の有識者に積極的に話を聞きに行くような動きも出ています。こうした変化にも大きな価値を感じています。

越境経験は必ず化学反応を生む。
多くの社員に、この体験をしてほしい


-社内でside projectを推進する立場として、今後どんな方に参加して欲しいですか。

東京ガス・政春さん:自分にはどんなスキルがあるのか、社外でも通用するのか、長く大企業にいると不安を感じる方も多いと思うんです。実際、私自身もそうでした。そういう方には外に出て自分の力を試す良い機会と捉え、積極的に参加してほしいです。

また、普段の生活では自分に何ができて何をやりたいのか、改めて考えることってあまりないですよね。side projectでは最初に「WILL・CANワークショップ」を受けて、「やりたいこと」と「できること」の棚卸しをします。そして実際にベンチャーに行くと「自分も案外捨てたもんじゃない」と自信に繋がる面もあれば、「社内の論理でしか通用しない」「このままではダメだ」と危機感を感じる面もあると思います。

いずれにしろ、side projectを通じて得られた気づきは今後の成長のエンジンになるに違いありません。せっかく会社が提供している機会ですから存分に活用して、自律的なキャリアを形成していただきたいです。

旭化成・竹花さん:業務の20%をベンチャーで過ごす、自社から半歩はみだす経験は、必ず何かしらの化学反応を生み、変化をもたらしてくれるはずです。だからと言って、何らかの変化を期待する、受け身な姿勢で参加できるほど易しいものでもありません。

竹花さんが実際に社内の説明会で用いたスライド


自ら変化を望み、組織に良い影響を及ぼしてくださる方に是非参加してもらえたら。当社の研究・開発本部メンバーであれば年齢も職歴も問いません。多くのメンバーに経験してほしいですね。

 

Fin

協力:旭化成株式会社・東京ガス株式会社(50音順) / 株式会社COクリエイト・株式会社HackCamp(50音順)
インタビュー・文:藤井 恵
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/


㈱ローンディールでは、人材育成や組織開発など、様々な目的に合わせた越境プログラムをご提供しています。自社に合うプログラムをお探しの方は、お気軽にご相談ください。

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