毎期10~20人を越境に送り出すKDDIが見出した、副業型越境を“事業共創”につなげるヒント

人材育成・組織開発のキーワードの1つとして浸透し始めているのが、社員が社内外の新たな環境に飛び出して経験や学びを得る「越境学習」。

 ローンディールが提供している「side project」は、3ヶ月間、就業時間の20%程度を副業のような形でスタートアップの業務に充て、大企業人材のキャリア自律や変化に前向きな組織風土づくりを促すプログラムです。

 そこで今回、「side project」がスタートした2023年から同プログラムを導入し、これまで約80人の社員の越境経験を実現させているKDDI株式会社 オープンイノベーション推進本部・一色望さんに登壇していただき、副業型越境を社内に浸透させる工夫や効果などについて伺いました。ファシリテーターはside project事業責任者の東が務めました。

※ 本レポート記事は、2025年に開催された「KDDIの施策に学ぶ|副業型越境研修による組織変革のヒント」の内容を要約したものです。

「外を見て内を知る」を体現しながら
本業と両立できる取組み 


東:まずは、KDDIでside projectが導入された経緯から教えていただけますか。

 一色:当社では、2011年から「KDDI∞Labo(ムゲンラボ)」を開始しています。国内最大級の事業共創プラットフォームとして大企業とスタートアップの事業共創を推進するもので、その一環として「side project with MUGENLABO」という形で導入しております。 

導入の背景には、経団連が2022年に発表した「スタートアップ躍進ビジョン」があります。その中で、大企業とスタートアップの人材流動化の必要性について言及されていました。 

事業共創を推し進めてきたKDDIとして、新たな仕組みを取り入れるタイミングと考え、スタートアップでの業務経験を希望する社員と人材不足に悩むスタートアップをマッチングするプログラムという位置づけで始めました。

(写真左:ローンディール 東 香織 / 写真右:KDDI 一色 望さん)

東:社会的な大きな視点に加え、御社にとってのメリットはどう考えていましたか。

 一色:大きく3つあると考えています。1つめは、社員個人に対する成長機会の提供。2つめは、組織・文化の違いの習得による組織風土の改革。3つめは、大企業とスタートアップのアライアンスやイノベーションを積極的に起こせる人材の育成です。 

 

私自身、ゲーム会社に2年間出向した経験があります。そこで決裁のスピード感やアジャイル型開発などのスタートアップ的な文化を学び、KDDIに戻ってからも新たな視点で業務の見直しができたことは貴重な経験だったと感じています。

また、いままで得てきた業務経験やスキルを社外で活かすチャレンジの機会にもなったので、同じように大企業で働く仲間にとってもいいきっかけになるのではないかと思っています。

 東:導入はスムーズに進みましたか。

 一色:当社の行動指針を明文化した「KDDIフィロソフィ」の中に「外を見て内を知る」という言葉が出てきます。この言葉を体現できる取組みとして、社員にも経営層にも認識していただきやすかったと感じています。

仕組み的にも、もともと就業時間の約20%で自部署以外の業務を経験できる「社内副業制度」があり、その枠組みの中で運用する形にしたので、スムーズに導入できました。side projectに参加する社員はオープンイノベーション推進本部で副業する形で、スタートアップの業務に従事していただいています。

「社内副業制度」の中での業務という位置づけなので、人事評価に反映しやすい点もよかった部分だと感じています。参加者自ら、所属部門の上長にスタートアップで行った業務や成果を報告していただき、上長が評価に反映する形を取っています。

東:これまで70人以上が参加されていますが、属性の傾向はありますか。

 一色:当初は、新規事業に携わる部門やオープンイノベーション系の部門の方が多いと考えていましたが、実際は個人のお客様向けのモバイル販売を行う部門や法人対応を行うビジネス部門からの参加が30%程度ともっとも多くなっています。

続いて技術部門が24%程度、コーポレートやオープンイノベーションの部門が10%程度という分布です。年代は20代から50代まで幅広く、管理職の参加も複数ありました。 

東:「本業に支障が出る」といった声は出ませんか。

一色:経営層や各部署の上層から「本業のリソースが減る」といったネガティブな意見が出ることを懸念していたのですが、いままで難色を示されたり拒否されたりしたケースはありません。

ネガティブな影響以上に、社外で経験を積んだ社員が成長し、新たな視点を取り入れて組織も成長するといったプラスのインパクトのほうが期待されているのだと思います。

越境から始まる「事業共創」も事務局が伴走・支援していく


東:参加による成果や効果は、どのように測っていますか。

一色:参加者とその上司にアンケートを取っています。9割以上の方が満足度1~5のうち「5」または「4」をつけ、7割以上の方からリピート参加の希望をいただいております。 

スタートアップ側にもアンケートを実施し、「社員を派遣してよかったか」「どのような点がプラスに働いたか」と細かくヒアリングしています。当社では“スタートアップファースト”を掲げ、スタートアップにとっても効果的な施策を目指しているからです。

東:多角的に効果を測っているのですね。ただ、人材育成の施策は定量的な効果を示すのが難しい領域だと思います。工夫されていることはありますか。 

一色:参加後の事業共創の進捗も追いかけて計測しています。経験を本業に持ち帰り、新たな事業につなげている事例は、施策を継続するうえでもポジティブな判断材料となるからです。個人の成長よりは、組織への還元や事業連携の創出にフォーカスして測定しています。

もともと「越境先と事業連携できるといいよね」というアナウンスで参加者を募集していることもあり、効果測定も当初から想定していました。

参加者の皆様には事業連携にフォーカスし、スタートアップの業務に従事しながら「KDDIだったら何ができるだろう」と常々考えていただいています。その経験はとても難しいことだからこそ、個人の成長にもつながると考えています。

東:改めて、side projectによる社内への影響や変化は、どのように捉えていますか。

一色:10年前は「オープンイノベーションより目の前の事業が大事」という空気がありましたが、最近はどの部署もオープンイノベーションに対してポジティブな反応を示してくださるように変化しています。

参加者の方々がイノベーション的なマインドセットやカルチャーを打破していくスタンスを得てくださった結果なのかなと感じています。

一方で、参加者の方から「スタートアップの業務が楽しすぎて、のめり込んでしまう」といった声をいただき、実際に稼働が20%をオーバーしてしまうことがあります。そこは事務局でコントロールしなければなと(苦笑)。

長く継続するポイントは
越境先と参加者の「ニーズ」をつかむこと


東:side projectを導入されて約2年半が経ちますが、今後も継続していくために考えている工夫はありますか。

一色:スタートアップと社員の双方に対して、事務局としての働きかけを強化していこうと考えています。

“スタートアップファースト”に基づいてスタートアップの事業に貢献するため、求められている人材や成果に関して、もっとヒアリングしていく必要があります。

そして、スタートアップの要望にフィットするスキルセットを持つ社員の参加を促進する働き掛けもしていきたい。そうすることで事業連携が生まれやすくなり、双方の満足度も上がっていくと思っています。

東:ちなみに、side projectを導入される前は御社独自の仕組みで副業型の社外越境を行っていたそうですが、外部のサービスを使う場合との違いはありますか。

一色:当初は派遣期間を定めていなかったので、参加者が想定以上の長さでスタートアップの業務にのめり込んでしまうことがありました。施策の認知度も低く、参加者も集まりづらかったです。

side projectを導入してからは周知が進み、毎期10~20人の参加者は集まりますし、派遣期間も明確に設定されているので、メリハリがつきやすいと感じます。外部のサービスを使うことで整理できた部分がたくさんあります。

東:最後にひとつだけ、多くの方から「就業時間の20%で効果はあるの?」という質問をいただくのですが、一色さんはどのように考えていますか。

一色:100%スタートアップに常駐して業務を担う形の越境は、そこの業務にフルコミットできる反面、現業とのアライアンスやシナジーを忘れがちになってしまうと思います。

その点、20%だと現業とのシナジーを念頭に置きながら業務に当たることができるので、十分な成長と成果を得られるのではないかと感じています。 

東:それぞれに異なる効果がありますよね。フルコミットだと、赴いた先の価値観や判断基準を習得できます。一方、20%のコミットは軸足が自社にある状態で自社と他社を相対化し続けるので、自社のアセットに気づいたりアライアンスの可能性を見出したりしやすくなると、私も感じています。

 一色さん、ここまでありがとうございました。事例も交えていただき、副業型越境の可能性や効果が伝わるお話しでした。

Fin

協力:KDDI株式会社
文:有竹 亮介
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

関連記事