3ヶ月・20%の越境が引き出した“事業主”としての力

3ヶ月間、業務時間の20%程度をベンチャー企業のプロジェクト参画に当てるプログラム「side project」。継続的な越境経験により、社員のキャリア自律の推進や成長意欲の向上につながり、企業の事業成長や前向きな組織風土づくりも促します。

今回side projectに参加したのは、株式会社明治の結城遼さん。スタートアップ出資伴走・新規事業共創を行うベンチャー・TechHouse.Works株式会社の業務を経験し、酪農サプライチェーンの最適化プロジェクトに参画。3ヶ月の任期が終わった後も、プロボノとして参画を継続しました。

越境を通じて得た視点やマインドセット、ベンチャー側にとってのメリットなどについて、結城さんとTechHouse.Works代表取締役・沖岡豊大さんとの対談でお届けします。

“事業主”としてプロジェクトに向き合った3ヶ月


沖岡:
そもそも、結城さんはなぜside projectに参加しようと思ったんですか。

結城:参加を決めた理由は2つあります。1つは、明治で新規事業を支援する立場にいたから。ベンチャーに入って働くことで、ベンチャーとの協業を体感的に学びたかったんです。もう1つは、自分自身の市場価値や求められていることを知りたかったからです。

その中で、TechHouse.Worksを選んだ理由は、新規事業と酪農という2つの分野に携わった経験があり、そのスキルを活かせると思ったからです。参画前の面談で「宇宙で酪農ってできますかね?」って話になりました。

地球上の酪農を最適化し、惑星環境で転用できる形にするプロジェクトを沖岡さんが進めていると伺い、自分の子どもが大きくなったときに今やっていることが役立つかもしれないなら、宇宙という未知の分野と自分のスキルを組み合わせてみたいと感じたんです。

株式会社明治の結城遼さん

沖岡:まさに合致するところですよね。

結城:ただ、3ヶ月間実際に経験してみて、ギャップが大きかったです(苦笑)。事業構想に伴走する立場で入ると思っていたんですが、初日から「結城さんに事業主としてやってほしい」と言われて、衝撃を受けましたよ。新規事業を立ち上げる大変さは知っているので、正直戸惑いました。

ただ、「できません」という選択肢は頭になくて、3ヶ月やり切るしかないなと。事業をローンチする段階に入ったら、「事業主として放棄できない」「継続できるのか…」という不安はありましたけどね。

沖岡:でも、前向きに頑張ってくれていると感じていましたよ。

結城:ありがとうございます。ただ、3ヶ月を振り返ると、事業主としてできたことは2%くらいかもしれません。酪農の課題を見つけるだけで3ヶ月はかかってしまうので、最初の方向性やビジョンを設定するところまではできたのかなという感触です。

沖岡:そこにしっかり向き合ってくれたからこそ、1つの問いから事業全体のストーリーを構想する力が、結城さんの中で育っていっていたように感じます。

目の前の業務や立場を整理し、視座を上げて問い直す過程で、「自分は何に向き合えるのか」「どこまで価値を広げていけるのか」を言語化できるようになっていった印象です。新たなスキルというより、もともと持っていた思考力や構想力がしっかり発揮されたんじゃないかと思います。

TechHouse.Works株式会社 代表取締役・沖岡豊大さん

越境終了後、プロボノとして参画した理由


沖岡:side projectが終わった後も、プロボノとしての参加を決めてくれたことがうれしかったです。

結城:事業主の私が「後は任せました」と言って去ったら、継続するのは難しいのではないかと感じたんです。自分で方向性を設定したところもあるので、その後のアクションも携わるのが自然だと思いましたし、「続けてもらえませんか?」というお話もいただけたので。

明治の上司に話をして、プロボノで携わり始めたという経緯です。

沖岡:プロボノ期間も、結城さんが一貫して“自分事”としてプロジェクトに向き合ってくれたことに感銘を受けました。立場や役割に関係なく、常に「自分が責任を持って考える問いか?」という姿勢で発言されて、自ら調べて仮説を立て、行動に移されていました。

私たちのバリューの1つに“主人公であれ”という言葉がありますが、結城さんはまさに自分の意思でプロジェクトに関わる姿勢を体現されていたと思います。異なる文化の中でも、価値観を共有できれば深く協業できると実証していただき、私たちにとっても刺激になりました。でも、明治さんの業務との両立は大変ではなかったですか。

結城:明治での新規事業関連の業務でも日常的に他社との打ち合わせがありますし、自分なりに通常業務と調整をつけながら実施していきました。

私のような勤務時間を比較的調整できる業務に就いているからできたことかもしれません。もともといろいろな打ち合わせの時間を調整しつつ、複数のテーマを同時に扱っているので、そのような働き方ができたのだと思います。

外に出て気づいた大企業の制約と可能性


結城:
改めてside projectを通じて気づいたことはいくつかあります。たとえば、99%オンラインでのやり取りでしたが、新規事業を立ち上げるにあたってチームで壁打ちする際に、オンライン上だとそれぞれの発言の行間を読み取りにくい感覚がありました。核心に迫っていない議論が多くなり、深まりづらいんだと気づきましたね。

一方で、明治で経験してきたことが活きるということも知りました。最終的に、酪農の最適化に必要なDX化の検証まで持っていけたのですが、新規事業に携わった経験があったからなのかなと。事務局として社員や取引先の思いを汲み、実現するための道を探す経験が応用できたのは良かったですね。

沖岡:繰り返しになるんですが、結城さんを見ていて感じるのは、side projectが新たなスキルを得る場ではなく「本来持っている力を解放する場」だということです。

大企業の中だと、役割や組織のルールによって個々の力の使われ方が限定されがちですが、制約が少なく、個々の裁量が大きいベンチャーでは力がそのまま発揮されます。結城さんにとって、自身のスキルや可能性を再認識する機会になったのではないかと思います。

結城:大企業ならではの制約は、やはり感じました。グループとしての一体感がある一方で、そこから外れるアクションを取ろうとすると、ブレーキがかかることもあります。また、「結城だから信頼されている」のではなく、「“明治の”結城だから信頼されている」のだと実感する場面もありました。

一方で、その看板があるからこそ実現できるアクションが数多くあることにも気づきました。個人としての力を磨きながら、大企業の強みもうまく掛け合わせていけるといいのではないかと思っています。

沖岡:その通りだと思います。結城さんがそこに気づき、力を発揮してくれたからこそ、私たちも結城さんを対等な仮説検証パートナーと見ることができ、協働できる関係が成立したのだと感じています。

「明治の事業として進めていく」ための挑戦


沖岡:
プロボノとして参画してもらう中で、「結城さんが積み上げてきた仮説やアクションをきちんと共有したい」という話になり、明治の方々にこれまでの活動についてプレゼンする場をつくっていただきましたね。

結城:プロボノという契約形態では、実際に事業をローンチする段階で「事業主として関われるのか」という疑問がありました。そこで、明治の上司に、業務時間内の活動として認めてもらえる可能性があるか相談しました。
その際、「明治として価値があると判断できれば、業務にできる可能性があるのでプレゼンしてほしい」と言われました。サービスのポテンシャルも見てもらうため、社内の酪農分野に詳しい方にも同席していただきました。
結果として業務化は実現せず、プロボノも満期終了となりましたが、有意義な経験になりました。

沖岡:結城さんがより一層責任と期待の大きなポジションに移られたこともあり、会社としての判断はとても自然なものだったと思います。

この結果によって、結城さんと築いてきたプロセスが否定されたとは考えていません。同じ志を共有した仲間であることに変わりはないと感じているので、今後はそれぞれの場所で前進し、いずれ互いが出した成果や結論をいい形で共有できる日が来たらうれしいです。

結城:そう言っていただけて光栄です。当初の期待の通り、side projectに参加したことで自分の市場価値に気づくことができたので、明治で励みながら自分の強みを伸ばし、また沖岡さんとご一緒したいと思っています。

業務時間の20%の「社外兼務型越境」や「プロボノ」といった限定的な参画でありながら、TechHouse.Worksの業務に実直に向き合い、自社へのプレゼンにまでつなげた結城さん。事業化に向けたストーリーを構想し、そのためのアクションを言語化する能力を発揮できたからこその結果です。side projectが自身の価値や強みを認識し、パフォーマンスにつなげる場であることを体現してくれました。

協力:株式会社明治 / TechHouse.Works株式会社
インタビュー・文:有竹亮介
撮影:宮本七生
提供:株式会社ローンディール

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