現場で活躍する“期待の若手“を、“戦略を自分ごと化できる人材“へ ―組織視点を育み、主体性を引き出す育成ステップ
現場で経験を積み、責任ある役割を任されている若手人材。
日々の業務は着実に回し、現場では頼もしい存在になっている。
一方で、
・事業や組織を”自分ごと”として捉え、
戦略を自分なりに意味づけて実現していく力をどう育むのか
・他部署や外部と連携して価値を生み出す力を、どう伸ばすのか
・自らの意思を言語化し、合意形成する力を、どのように鍛えるのか
そんな悩みをお持ちの人事・育成担当者の方も多いのではないでしょうか。
任せるだけでは足りない。
正解を教えすぎても主体性は育たない。
それでも、これからの組織をリードする存在として、
事業を推進してほしい——。
こうした若手を「組織視点で動ける人材」へと育てるために、
どのような育成ステップを設計できるのか。
その問いに向き合う中で、
越境という学びの設計を組み込んだ一つの取り組みがあります。
本記事では、ローンディールが2025年に実施した
「次世代リーダー育成プログラム」の事例をご紹介します。
目次
なぜ「内部育成」だけでは難しかったのか?
ご紹介するのは、特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクールでの取り組みです。
同法人では、小学生の放課後の居場所(アフタースクール)の現場運営を起点に、
拠点責任者やプロジェクトリーダーとして若手が成長していく
キャリアパスが築かれてきました。
現場でのマネジメント力や実行力を身につけた人材が多く育っています。
一方で、事業が拡大し、自治体や企業との連携が増える中で、
次のフェーズの課題も見え始めていました。
「現場の運営やプロジェクト推進はできる。
ただ、自治体や企業と連携した事業を推進するポジションを任せるには、
他組織のニーズを捉えた提案や交渉、協業の経験値が足りていない——
そんな感覚がありました」
そう振り返るのは、副代表理事で事務局長の島村友紀さんです。

内部にはロールモデルが限られ、
上司・部下の関係性の中では「正解を求めてしまう空気」も生まれやすい。
日々の現場業務に追われる中で、
自組織以外の論理や視点に触れる機会も多くはありません。
「育成の対象として考えたのは、新卒で入職して7年目以降の、
プロジェクト責任者の立場にある若手たちです。
自組織の中だけで育てようとすると、
どうしても視点や問いが内向きになってしまう。
加えて、上司側にも育成に十分な余裕がなく、リソース不足もありました。
それでも、今後の事業拡大や組織力強化を考えたとき、
社会的インパクトの拡大を担う人材として
現場で活躍中の若手を育てていくことは、
組織として最も大切なテーマでした」
どんなゴールを描き、育成を設計したのか?
こうした課題をどう乗り越えるか。
その相談先として名前が挙がったのが、
大企業からのレンタル移籍*の受け入れ先として
4年以上の付き合いがあったローンディールでした。
「レンタル移籍で来てくださった方々が、
メンターに伴走してもらいながら成長していく姿を間近で見て、
“越境”の価値を強く感じていました。
当法人の若手たちにも同じような機会を提供できれば、
自組織以外の視点を獲得できるのでは、とも考えたのです。
ただ、人員不足の中で物理的に外へ送り出すのは現実的ではありませんでした」

そこで相談を重ねる中で実現したのが、
「社会的インパクト拡大のための次世代リーダー育成プログラム」です。
本プログラムは、
前半3ヶ月で他流試合型のオンライン研修プログラム「outsight(アウトサイト)*」に参加し、
後半3ヶ月で実際の業務にメンターが伴走する構成で、
同法人の若手7名が参加。
前半3ヶ月の「outsight」では、
ベンチャー企業が抱えるリアルな事業課題に向き合い、
仮説を立て、構造化し、言語化して提案する。
その過程で得られるフィードバックを次の思考に活かす——
こうしたプロセスを繰り返します。
この思考のトレーニングを経て、
後半3ヶ月で、仮説思考を使い、実際の業務で実践していく。
そして自治体や企業といった他組織との合意形成ができるようになること。
それが、本プログラムで設定したゴールでした。

他流試合型のオンライン研修プログラム「outsight」参加への期待と不安
7名の若手たちが「outsight」に参加するにあたっては、
期待と同時に不安もありました。
「outsightには、過去に登壇者として関わったことがあり、 思考力や事業開発力が養われるプログラムだと感じていました。 一方で、参加者の多くは経験豊富な大企業の方々で、 当法人の若手たちがついていけるのか、 正直なところ不安もありました」
こうした背景から、「outsight」参加前には
マインドセットや前提知識をそろえるためのキックオフ研修を実施。
「まず調べてみる」「他者から学ぶ・盗む」
「複数の視点に立つ」「問いを立てる」
そんなスタンスを共有した上で、プログラムがスタートしました。

(キックオフ研修でのグループワークの様子)
思考の質や問いの立て方が変わり、視座が上がり始めた
outsightを通じて現れた変化は、
「スキルが身についた」というよりも、
思考の質や問いの立て方が変わり始めたことでした。
それを感じたのは、3か月間・合計12回のoutsight受講後、
振り返り研修の場で語られた、参加者自身の言葉です。
・相手の組織が、何を課題として捉えているのかを考えるようになった
・相手の課題を、自組織の文脈にどう接続するかまで意識するようになった
・一つの正解に固執せず、複数の仮説を立てて検討するようになった
「outsight」では、正解のない事業課題に対し、仮説を立てて提案を行い、
登壇ベンチャーやファシリテーターからのフィードバックを通じ、
思考力を磨いていきます。
あらゆる業種・業界のベンチャー6社が登壇し、
このプロセスを繰り返す中で、
「相手の視点に立つ」「仮説を言葉にする」
「次の提案に活かす」という思考サイクルが、
少しずつ身についていきました。
主語が「自分」や「現場」から、
「相手からどう見えるか」「他組織はどう考えるか」へ。
「outsight」の3ヶ月は、
若手責任者が、任された業務をこなす立場から、
戦略を自分なりに意味づけて考える立場へと移行していくための
助走期間だったと言えるでしょう。

(最終振り返り研修での様子)
実務と向き合う中で芽生えた、戦略を自分ごととして実現する意識
後半3ヶ月では、前半の「outsight」で鍛えた思考を土台に、
実際の業務にメンターが伴走しました。
そこで見られたのが、
仕事への向き合い方そのものの変化です。
共通していたのは、
「任された業務」ではなく
「戦略を自分なりに意味づけて実現していくプロジェクト」として仕事を捉え直し、
仕事へのオーナーシップを高めていた点でした。
「戦略は“上からおろされるもの”だと思っていましたが、
向かいたい方向を言語化し、道筋をすり合わせることで、
自分で“えがく”ものだと捉えられるようになりました。
自分が推進する、という意識も強くなりました」
(企業協働事業・Iさん)
また、メンターとの対話を通じて、
プロジェクトの進め方だけでなく、
自分自身の癖や課題に気づく場面も多くありました。
「納得できていないことを流してしまう自分の癖に気づきました。
主体的に進めるためには、
早めに関係者とすり合わせることが必要だと感じ、実行しました」
(自治体支援事業・Aさん)
「outsight」で獲得した思考の型が、
メンタリングを通じて実務に接続され、
戦略を自分ごととして捉える思考が、実際の行動へとつながっていった——
それがこのプログラムの大きな特徴となりました。

(次世代リーダー育成プログラムの参加者と事務局の皆さんと、ローンディール後藤・黒木)
「最初は『自分は外で通用するのか』という不安を抱えていたメンバーが、
半年で見違えるほど自信をつけ、組織を前に進める存在へと成長しました。
outsightで思考を磨き、実践フェーズで自分の意思を伴って動く姿は本当に頼もしく、
このプログラムを任せて本当に良かったと、心から感じています」
(島村さん)

(本プログラムの事務局を務めてくださったキャリアデザインチーム加藤夕子さんと)
現場で活躍する”期待の若手”が、
“戦略を自分ごととして実現していく人材”へと育っていくには、
何が必要なのか。
本事例は、その問いに向き合う企業人事の方にとっても、
一つの示唆になるのではないでしょうか。
組織の未来に必要なテーマを見つけ、
自ら旗を立て、推進していく人材は、
ある日突然生まれるものではありません。
その背景には、
“与えられた戦略を実行する人材”から、
“戦略を自分なりに意味づけ、実現していく人材”へと
立ち位置を変えていくプロセスがあります。
今回のプログラムでは、
正解のない問いに向き合い、
他者の視点に触れながら自ら仮説を立て、言語化し、
様々なステークホルダーとの対話を重ね、
合意形成に挑むプロセスを組み込みました。
その積み重ねが、
戦略を“自分ごと”として捉え、
自ら意味づけ、実現していく人材への転換を支えています。
若手をどう育てるかは、
組織の未来をどう描くかと、深く結びついています。
もちろん最適な方法は組織によって異なりますが、
本事例が、その育成ステップを設計する際の
一つの具体的な参考になれば幸いです。
協力:放課後NPOアフタースクール
文=ローンディール編集部 黒木 瑛子




