尖った人材を、組織は活かせるのか

こんにちは、ローンディールの原田です。私たちが取り組んでいる「レンタル移籍」という事業は、大企業の人材をベンチャー企業に半年から1年間移籍させて育てる仕組みです。

この事業を始めたころから、大企業の人事の方々に懸念としてよく指摘されることがあります。それは、「ベンチャー企業に行ったら個人が成長するのはよくわかる。でもそういう経験をして”尖った”人材を、うちの会社で活かせない。だからその人材が辞めてしまうのではないか」というものです。

事業を始めてから4年近くたち、レンタル移籍をしてくれた人が組織に戻ると何が起こるのかという事例も少しずつ貯まってきています。それを受けて、この「尖った人材を活かせない」という懸念に対する私たちなりの考えを紹介したいと思います。

活かせるかどうかは、「活かそう」と考えられるか次第

結論から申しますと「大きな組織でも、尖った人材を活かせるんだ!」というのが、最近の感想です。(私は大企業での勤務経験がないので、昔はすごく不安でした・・・。)

確かに、完成した大きな組織に、いきなりちょっと変わった人材が入ってくると、ハレーションが起きるだろうことは想像に難くありません。今まで、何年も、何十年もかけて構築してきた仕組み、積み上げてきた秩序を壊そうとされたら、抵抗勢力が現れるのも当然です。だから、尖った人材は活かせない、という懸念が生まれるわけですね。

これは何もレンタル移籍に限ったことではなく、中途採用でベンチャー企業での経験豊富な人材を採用するときも同様の問題が起こります。さらには、最近、「元気のいい若手が辞めていってしまう」という大企業の人事が抱える別の問題も、根は同じ問題です。

では、どうすればよいか。

端的に言うなら「活かそう」とすればよいのだと思います。なんか当たり前すぎますかね・・・。

「活かせない」と考えるのではなく、「活かそう」と考える。どうしたら「活きるか」をみんなで考える。そうしたら「活きる」のだと思うのです。今まで、組織や、そこで決められたルールに、いろいろな個性を順応させようとしてきた。個人を活かすのではなく、組織やルールに合わせることに重点が置かれてきました。その結果、組織を個人に適応させるということはあまり考えられてこなかったように思います。

でも実は、今の大企業には、極端に言うと、個人を活かしやすい土壌や空気感ができつつあるような気がするのです。そして、鍵を握るのは、ミドルマネジメントです。

大企業には、自由にできることがたくさんある

最近、大企業のマネジメントについて、ベンチャー出身の私が感じていることの一つに、「大企業ってものすごく権限委譲が進んでいる」ということがあります。もちろん組織によって違いはあるでしょうけれど、数百人規模くらいのベンチャー企業の方が、よほどマイクロマネジメントになってしまっているように思います。大企業だと、明確に権限が規定されているし、役員クラスの方々が隅々までマネジメントすることは物理的に不可能ですし、結果的に現場にかなりの裁量が与えられています。

例えば、弊社のレンタル移籍の契約書ひとつとっても、押印していただくのは「代表取締役社長」ではなく「人事部長」だったりします。うちから出すプレスリリースだって、導入してくださった大企業のトップの方がすべてを見ているわけではない、もしかしたら新聞とかで知ることもたくさんあるのだろうな、と思います。(大企業の人からしたら当たり前なのかもしれませんが、私は「すごいなー」って思いました。笑)

これは範囲や裁量を明確に定義したうえで権限が各部門に与えられているからこそ、なせる業なのだと思います。もちろん、明確に定義されているからこそ動きづらいと感じるのかもしれませんが、逆に、そのルールさえ守っていれば、自由にできるということ。実際に、大企業の中で存分に動き回っている人はルールを熟知しているようです。

先日、ある大企業の副社長とお話をする機会があったので上記のような感想をお伝えしてみたところ、まさにその会社でもかなり権限移譲は進んでいるとのことでした。ところが、「権限を委譲しているにもかかわらず、役員に確認をとりながら仕事を進める人がとても多い」という感想をこぼされていました。権限があるのにそれを行使しないということですね。

なぜそうなってしまうのか、という理由については「自分で決めるという経験をしたことがないからだろう」とのこと。課長と部長という関係が部長と役員、役員と社長・・・というように縦の関係性が変わらないから起こってしまうことなのかもしれません。

他社でも同じような話を聞いたことがあります。「マーケティング部門に、予算○円までは権限が与えられている。にもかかわらず、いつも何にいくら投資するか、役員にお伺いを立てて判断を仰いでいる」そうです。

かつて、経験値から割り出される判断が「確からしさ」を持っていたときには、経験豊富な上司に確認するという行為が最適解を導き出す最善のやり方だったのかもしれません。

しかし今、不確実性が高まり、現場で起こることが大きく変化していく環境下においては、必ずしも過去の経験から導き出されるものが最適解ではない。今こそ、ミドルマネジメントが、与えられた権限を行使するべき時が来たのではないか、そんな風に感じます。

個を活かすために与えられた権限を行使する

ミドルマネジメントに与えられた権限と、「尖った人材を活かせるのか」という課題は相性が良いな、と思います。組織から逸脱しようとする人がいない場所では、与えられた権限を使う場面もなかったかもしれない。そうなると、自分にどんな権限が与えられているのかを考える場面もなかった。でも、尖った人材がいろんな方向にはみ出そうとするなかで、組織の可動域を確かめるのに、とてもいいかもしれない。

サッカーだって、手を使っちゃダメ、ってだけじゃなくて、オフサイドってなんだとかフリーキックの時のルールとか(たとえが素人感、満載ですね笑)、細かくルールを知っているからこそ、その制約をうまく利用しながら戦略を立てる。もし、自組織にすぐにはみ出そうとする尖ったやつがいる・・・というマネージャーの方は、ルールを理解し権限を理解・行使するチャンスだととらえて、一緒に取り組んでみてはいかがでしょうか?

課題意識を持った個人を繋げる動き

もう一つ、「活かす」ために組織ができることとして、繋がりをつくるということがあります。今、社会のいろいろなところで変化が起こる中で、大きな組織に属していながらも「このままではだめだ」「組織をもっと良くしたい」と願う個人が増えています。例えば、ONE JAPANという若手の有志団体に、50社を超す大企業から、1,700人以上が参加するといった事も、その象徴的な事例です。

私も、大企業の方々とお話をするなかで、組織に対する愛情と危機意識と、両方を抱いている方が本当に多いことに気づかされます。今まではそのような危機意識があっても、その課題感を共有する機会が少なかった。しかし、今はSNSもあり、繋がりを生み出しやすくなっています。

尖った個人を活かすために、繋がりづくりを組織が後押ししていくのです。レンタル移籍の事例に即していうと、社内でレンタル移籍者の報告会を開催していただくケースが増えています。NTT西日本さんでは、年に2回、事業部長さんも参加してくださる形で定期的に移籍者の学びを社内に共有する場を設計しています。アステラス製薬さんでは、報告会に150人近くの方が参加してくださいました。

このような場を通じて、個人の課題意識がタテ・ヨコ・ナナメに共有され、社内で想いを持った個人が繋がれる機会を設計していくことで、尖った人材が何かしらの支えを得たり、いろいろなところでその人について興味を持つ人が増えることによって、その可能性がつぶされにくくなっていくのではないかと思います。

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活かしてほしい個人は、どう動けばよいか

一方、大企業に所属し、大企業のリソースを使って何か新しいことを仕掛けたいと思っている人(≒尖った人材。自分のことを「尖ってると思っているのもどうかな、と思うのですが笑、それはさておき)に必要なものは何か。それは、組織、特にミドルマネジメントから活かしたいと思ってもらうことだと思います。

どうしたら活かしたいと思ってもらえるか。

とにかく、自分の想いや挑戦を知ってもらうこと。相手の立場を理解し、会話をすること。そうやって、ミドルマネジメントに同志になってもらうことが大切です。

レンタル移籍者は、大企業に復帰した後に比較的活かしたいと思ってもらえる傾向にあるのですが、これ、実はレンタル移籍期間中に記載してもらう週報や月報に秘訣があるようです。そこには2つの理由があります。

自分の想いや挑戦、葛藤を知ってもらう

まず、この週報や月報は、常に元の職場(大企業のミドルマネジメント)にも転送されています。ベンチャー企業で働いているという特殊な状況から、マネジメントの方々に興味を持ってもらえる可能性も高くなります。そして、様々な試練にぶつかり、葛藤し、それを乗り越えていく赤裸々なストーリーが展開していく。そうすると、マネジメントの方々も感情移入しながら読み、毎週彼らの報告を楽しみにしている上司の方も少なくない、という状況ができます。(実際に、役員クラスの方でも、移籍者の週報を愛読してくれている方が多数存在しています。笑)そうやって彼らの挑戦してきた時間を知っているからこそ、復帰後に「何とか、彼らの経験を活かしてあげたい」と思うのです。レンタル移籍という象徴的な状況じゃなくても、自分がどんなことに取り組んでいるかを伝える術はいくらでもあるのではないかと思います。

人を動かすための言葉を磨く

もう一つは、内省し、言葉を紡ぐことです。週報や月報、そしてレンタル移籍の特徴であるメンターとの対話を通じて、単なる業務報告ではなく常に内省し、報告しつづけていきます。ベンチャー企業で経営者から感じた熱量や感動を、どうにか表現したいと思いながら言葉を紡いでいく。そういうことを毎週、半年から1年も続けていると、圧倒的に「内省し言語化する力」が磨かれていきます。そこで磨かれた言葉は、人を動かすに十分な迫力を帯びてくるのです。

この事例から考えるに、大企業の経営資源を使って何かを仕掛けるには、日々、力を貸してほしい人と常に深いコミュニケーションを取っておくこと(やりたいことがでてきたら、いきなりコミュニケーションを取り始めるのではなく)、自分の言葉を常に磨いていくこと、ことのあたりが大事なのかな、と思います。

上司も人だ、ということを忘れないように

さらにもう一つ付け加えると・・・大企業の現場の若手はマネジメントを過大評価しすぎないようにしよう、ということが挙げられます。上司の喜怒哀楽をとらえ、一人の人間として接するということが、実は現場の若手が上司に対してできていないケースがあるように思います。極端な言い方をすると、「俺はこんな経験を積んできたのだから、俺を活かせ、それが上司の仕事だろう」という態度をとられたら、上司はどう思うかを想像できますか?ということです。上司の立場や感情もちゃんと配慮することが大切ですね。

例えば、レンタル移籍が終わった後に「ベンチャーでは(こうだった)」という表現は使わない方が良い、というのがあります。一般的な大企業の上司はベンチャーで働いたことがない。そんな人に「ベンチャーはこうしている」といっても、響くはずがないし、無用の反発を招きかねない。だからそうではなく、自社の言葉に置き換えることが大切だ、と。例えば、「ベンチャーのようなスピード感でやってみたいんです!」というのではなく、「まずは必要最低限の完成度で、リスクをヘッジしながら挑戦させてもらえませんか?」という感じでしょうか。

個性の発揮が組織の成長につながる

「尖った人材」、その一例として「レンタル移籍をした人」ということを引き合いに出してお話してきましたが、結局はこれって組織が、個性をどこまで活かせるのかということだと思っています。本当は誰もが何かしら特別な個性を持っているはずで、尖った人材でありうるはず。

そしてそんな一人ひとりの個性を活かすことは、組織と個人、双方の工夫と努力によって絶対に可能だ、と思っています。今、価値創造や変革を担える人材に対する要請はどんどん高まっています。だから、一人ひとりの個性を活かし、それが組織の成長に繋げていくことができる。何もそこに特別な制度や仕組みは要らない。組織は、みんなで力を併せて何かを実現するための舞台でありうるのだ、と。だって、それこそが、組織が組織であることの本来の目的だと思うのです。

レンタル移籍をしてくれたみんなが組織に戻って個性を発揮すること、それが一つの象徴的な事例になるよう、最近は復帰後の移籍者のみんなに何ができるか、をよく考えています。それは何も、移籍者だけが活躍すればよいのではなく、発揮される個性を見た周りの人たちが勇気を得て、自らの個性を発揮していく。(この「&ローンディール」もそういう想いでつくられているわけですが・・・)そんな循環が少しずつでも、生み出していければいいな。そう願う、今日この頃です。

最後にちょっと私的なコメントを。「大企業は、尖った人材を活かせるんだ!!」と私が確信をもって発信できるようになった背景には、NTT西日本という会社があります。レンタル移籍の事例がごくわずかであったころから、社内調整に始まり、人選、移籍中のフォロー、移籍が終わったあとの配置や報告会の企画、そして復帰後に苦労している「尖った人材」を陰に日向に支援し、活躍の機会を作ってくださいました。足掛け3年にわたってご尽力くださり、イベント登壇や取材にもご協力をいただいたビジネスデザイン部の北口さん・山下さんに、心よりお礼を申し上げます。本記事のヘッダー画像は、先日開催されたNTT西日本の報告会後に撮影されたもので、4名の移籍者と、彼らを応援してくれたビジネスデザイン部の猪倉さん・北口さん・山下さん(と、大好きなスタートアップALEの岡島さん)が映った、個人的にすごく感慨深い写真であることを申し添えておきます。

End

「&ローンディール」編集部よりお知らせ!
【参加者募集】7月3日(水)開催
「ローンディールフォーラム2019 人材流動化の先にあるもの」

昨年5月に開催し、250名もの方にご来場いただいた「ローンディールフォーラム」を今年も開催します。今回のフォーラムでは「人材流動化の先にあるもの」と題して、レンタル移籍を経験した方々による事例紹介、大企業のマネジメント層の方々による社外経験が組織にあたえる影響についてのセッション、さらに、特別ゲストをお招きし「人材の流動化」についてのパネルディスカッションを行います。ぜひご参加をお待ちしております。

<イベント概要>
日程:2019年7月3日(水)
時間:15:00〜18:30 終了後、会場で懇親会あり。
場所:Base Q(東京ミッドタウン日比谷 6階)
費用:一般 3000円(税込)
詳細・お申し込みはこちら → https://eventregist.com/e/loandealforum2019

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