【細野真悟の「脱・平凡発想トレーニング」】みんなが「うん」と言いやすい発想は平凡
「アイデアそのものが良くないとイノベーションは起きない」
そう語るのは、リクルートで数々の事業開発に携わり、現在2つのベンチャー企業で事業戦略を行っている細野真悟氏。
イノベーションについて語られるとき、そのプロセスについて議論されることも多いが、どんなにプロセスを改善しても、アイデアそのものが面白くないといいサービスは生まれない。
「では面白いアイデアはいかにして生まれるのか?」
細野氏は、まずは“平凡発想”から抜け出すことが大切だという。そのためには発想のプロセスそのものを変えるトレーニングが必要とのこと。
そこで9月某日、ベンチャー経験を大企業でのイノベーションにつなげるべく、細野氏による、レンタル移籍者に向けた勉強会「脱・平凡発想トレーニング」が開催された。
平凡発想から抜け出すプロセスとは?
是非皆さんにも一緒に考えていただきたい。
目次
—平凡な気づきに平凡な打ち手だと平凡にしかならない
そもそも平凡じゃない発想とは、どういうことなのだろうか?
細野氏から「もしも、中高生向けの新しい教育ビジネスを考えるとしたら?」とお題が投げられ、参加者は各自アイデアを発表した。
発表されたアイデアは、勉強以外の教育(お金・スポーツ・マナー等)の提供、中高生同士が教え合うプラットフォーム、悩みを相談できるSNSなど。皆、それぞれの意見に共感する部分があるようで、「うんうん」と感心している様子。
細野:いずれもいいと思うが、皆がすぐにいいなって思えるアイデアって、一見すごいように思えて実は平凡だったりする。皆が受け入れやすいものは、ちょっと考えれば誰でも思いつくようなものが多いから。でも発想が“似てしまう”のは当然。大多数に受け入れられる企画じゃないと会社では通らないから、周囲を説得するために、みんなが「うん」と言いやすい方向にアイデアを持って行く癖がついている。
つまり、平凡になるような思考のプロセスが染み付いている。それをどうやって剥がすかが大事。
思考の癖を解放するためのポイントは2つあって。
1つめは着眼点。多くの人が気づいていない問題や欲求に気づく力を身につけること。2つめはソリューション。多くの人が思いつかない方法で解決するということ。このどっちかがないと平凡になる。平凡な気づきに平凡な打ち手だと平凡にしかならない。
細野真悟(ほそのしんご)
2000年にリクルートに入社。リクナビNEXT、リクルートエージェントなどのサービス企画担当を経て、リクナビNEXT編集長、執行役員。自ら実践を通じてイノベーションを起こすためのマネジメントスタイルの開発に取り組み、2014年当初300億だったリクルートエージェントの売上を2年間で400億に伸ばした実績を持つ。2017年から株式会社ローンディールのCSOとして参画。音楽SNSを手掛ける株式会社nana musicのCOOも務める。
—脱・平凡発想の入り口は視点を“ずらす”こと
「では、具体的にどこから着想すればいいのか?」細野氏は、自身も敬愛し、世界的に活躍するビジネスデザイナーの濱口秀司氏の例を紹介する。濱口氏はUSBメモリなどを発案した天才イノベーターである。
細野:米国のアウトドアメーカー・コールマン社で、濱口さんが「火災報知器」のコンサルティングを行った有名な話を例にしましょう。当時、火災報知機はレッドオーシャンにもかかわらず、その分野に縁もゆかりもないコールマン社が、たった1年で売上のシェアを約39%にした実績があります。なぜそれができたのか…?
それは視点をずらしたから。多くのメーカーがプライスとファンクションで戦っている中でコールマン社は全然違う視点で戦った。それは顧客が“製品がありすぎて選べない”という課題解決に徹底したこと。その方法とは部屋別、例えばリビング専用、キッチン専用などの火災報知器を販売したこと。“各部屋専用”を打ち出しただけで顧客から選ばれたというわけです。
普通だったら「どんな機能にするか? 価格はどうするか?」と考えがち。だからこそ、敢えてそのラインの上に乗らないようにした。みんなと同じ思考をやめた。
バイアスブレイクは、常識を疑えってことではなくて、多くの人が考えていることから離れてみるということ。その分野に精通した頭のいい人たちが頑張って考えている「考え方」でブレークスルーできないのに、新規参入で、同じ「考え方」をしたって勝てるわけがないと思った方がいい。
先ほどの中高生向けのサービスに話を戻すと、アイデアを考える時に、例えば「勉強以外の社会勉強はどうか…」という案が浮かんだとすると、これは他の人も思いつきそうか? と考え、そうだと思ったらバイアスと捉え、掴んじゃいけない答えだと分類する。むしろ「このアイデアの逆って何だろう?」と考えてみるとジャンプできる。誰もが思い浮かぶ面白そうなアイデアを裏切ることで脱・平凡度があがる。
—コストをかけなくてもイノベーションは生まれる
問題を問題で解決することもイノベーションになる。ビジネスは、コストをかけて価値を提供し対価を得る、その差分が利益と考えるのが通常。これを否定する人はいない。しかしこれこそがバイアスだと思った方がいい。
例えば動物園の事例をお話しすると。ある動物園では動物と触れ合いたい来園者のために、トリマー体験や散歩体験のサービスを実施しているのですが、これって見方を変えると、顧客からお金をもらって、動物の世話をしてもらっていることにもなる。もともと動物園では飼育員の人件費という課題があって、それを来園者の需要と組み合わせることで軽減するばかりか、新たな売上もつくっている。まさにコストイノベーションとバリューイノベーション。このように問題と問題を組み合わせることで解決する構造をつくる方法もある。1つの問題を1つのソリューションで、しかもお金をかけて解決するのはつまらない。
それから、会社が大事にしていることを否定してみることも時には必要。
僕がリクルートエージェントの部門に移動した時の話で。転職者が決まったら年収の数十パーセントをいただくというサービスで、当時のメンバーは皆、口を揃えて「面談が大事」と言っていた。とにかく一回の面談で希望を引き出し、マッチングさせることが重要。だから面談が大事なのだと一貫していました。
しかしながら、面談に注力するあまりに見えていない課題もあって。それは、サイトに登録してから求人を紹介するまでの期間が他社よりも圧倒的に長く、その間に他社で選考が進んでしまうなど、スピードという価値を失っていたこと。
だから求人紹介までの時間を0秒にしましょうと提案して、登録後すぐに画面上で求人を紹介しまくり、多すぎて自分では選べないからアドバイザーとの面談に行きたくなるような体験を実現しました。結果、スピーディーなマッチングで1年で3桁億の売上に貢献できた。もちろん面談を大事にしているからこそ、成約率が高いというのはあるが、「大事にしていることのせいで失われている顧客価値があるのでは?」と、徹底的に拾いに行った方がいい。
あとは、再定義をするということも大切。
例えば「革新的な目覚まし時計のアイデアを考えよ!」というテーマがあった場合、普通はどんなデザインにしようか、どんな機能にしようかって、“目覚まし時計”でインパクトを出すことを考えてしまう。でも目覚まし時計の本質的な価値って何だろうと考えてみると、起きたい時に起きるための道具、遅刻しなきゃいけないことをサポートするものだったりする。つまり目覚まし時計という形状である必要がない。目覚まし時計を考えてしまってはジャンプできない。何の要件を満たしていれば良いのか? それを考えて、アイデアを生み出した方がいい。
—「いつからアイデアを考え始めたらいいのか?」
答えは今
よく聞かれるのが「いつから(アイデアを)考え始めたらいいんですか?」ということ。未知のことを始めるときには、たくさん情報を集めればいい答えが出るはずっていうバイアスがある。知らないことだらけだからとにかく情報が大事だと。そして情報を集めて、会社に企画書を提出する締切一週間前くらいになってようやく答えを考え始める。情報を集める前や集めている間は考えていないというのが、あるあるです。
でも一週間前にまとめようとすると、整理しきれない程の情報があるから、上長が「うん」って言いそうな落としどころにまとめがち。脱・平凡しようと思っていても、結局はすごくわかりやすい答えを選んでプレゼンしてしまう。
だから「いつから考えるべきか?」の答えは初日から考えること。情報が少ない分、バイアスがかかりにくく自由な発想ができる。情報が少ない方がイマジネーションが生まれやすい。集めて集めて、答えを出すのではダメ。
濱口さんいわく、最初の10%の期間で考えたアイデアの方が確率的にうまくいくケースが多いのだとか。むやみやたらに情報を集めるのではなくて、情報が少ない中で「こうなんじゃないか」と仮説を立てていく仮説思考で、検証した方がいい。
—いきなりは無理。まずは既存の思考を歪めることから
いろいろお話ししましたが、とにかくいきなり面白いアイデアを無理やりひねり出そうとするのではなく、今までお話しした“発想のプロセス”をいろいろ試してみて、既存の思考を歪めることから始めたらいいと思います。
でも、今いるお客さんにやるべきことがあるときは、脱・平凡発想はしないで、まずはやるべきことをやったほうがいい。本当に必要なのは、平凡な発想では立ち行かなくなっている状態。競争が激しくなって、ビジネス自体を変える、顧客を変える必要に迫られているとき、ジャンプやシフトが必要なときだけ。そういうときに使ってほしい。
視点をずらしてみる、バイアスを外してみる。そしてアイデアの方向性を決めたら、めちゃめちゃ考える。これを1年間くらいやり続けたら平凡発想から抜け出せるようになります、絶対。
僕も、紹介したような発想のプロセスをアレンジして応用しているだけ。気合いでは続けられないので、会社でチームメンバーと集まってアウトプットの時間を設けたり、自分でトレーニングの時間を決めるなどして、ルーチンにしていくことをおすすめします。
(※本記事は、「脱・平凡発想トレーニング」の一部を抜粋して編集したものです)
Report:小林こず恵
【 レンタル移籍とは? 】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計24社48名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2019年8月実績)。→ お問い合わせ・詳細はこちら