ベンチャーから大企業に戻って5年。越境人材はいま。「レンタル移籍者アルムナイ」で起こっていること
こんにちは。ローンディールの楠原です。私たちローンディールは大企業の人材を、一定期間ベンチャーでの事業開発に参画させ、育成する「レンタル移籍」という仕組みを提供しています。これまでで336名(2024年11月時点)の方がレンタル移籍を経験しました。
そうした中で、ベンチャーで奮闘する移籍者が、情報交換したり交流できる場として「LoanDEAL salon」というコミュニティを運営しているのですが、今日はその中で「アルムナイ」の取り組みについてお話ししたいと思います。
アルムナイとは、「卒業生」の意味の通りレンタル移籍を終えた方を対象とした場です。「アルムナイ」のはじまりは、「自社に戻ってしばらく経つと、移籍中の情熱を忘れてしまいそう」と、移籍経験者から相談をもらったこと。私たちとしても、移籍を終えた後も自社で挑戦し続けるエネルギーを絶やさないで欲しいという思いもあり、近況報告をしたり、意見交換できる場としてスタートしました。
移籍を終えたばかりの方もいれば、レンタル移籍を終えて5年以上経つ人もおり、そうした中で、それぞれのフェーズによって起こる障壁や悩みなどを分かち合ったり、互いに刺激を受け合う姿などが見られ、アルムナイという場の価値を実感しています。
そこで今回は、アルムナイで何が起こっているのか。運営を通じて見えてきた、移籍経験者のいまをご紹介します。
焚き火を囲むように、ゆっくりと語り合える場にしたい
最初に、そもそもアルムナイをどのように運営しているか、簡単にご紹介します。まずは、移籍終了時期が近い方同士が集う場を提供しており、これまでに約250名を超える方々が参加してくれました。
地域も幅広いことから基本はオンラインで行っており、参加者には「今挑戦していること」「今日みんなと話したいこと」「皆からアドバイスしてほしいこと」などをワークシートに記入してもらい、他の方に共有して対話を進めていきます。
【Miroのシート】
ここで大事にしているのは、参加のハードルを下げること。気軽にふらっときて話ができるように話やすいテーマを設定しています。
私たちがこだわっていることとして、かっちりとした場ではなく、「焚き火を囲むように、ゆっくりと語り合う場にする」ということがあります。
というのも、参加者の置かれている状況は人によってまったく異なります。ワークの中で、自分のいまの心の状態を火にたとえてもらっているんですが、仕事で結果を出して火柱のように燃え盛っている方もいれば、なかなかうまくいかずに燻っている方もいます。また、その間くらいの人もいる。どんな状態の人であっても参加しやすく、気軽に語れる場にしたい。そう考えています。
誰しも、ずっとうまくいっているなんてことはありません。いい時もあれば悪い時もある。同じレンタル移籍を経験した仲間のリアルな姿を見ることができて、自然体でいられることがこの場の魅力であり、多くの方が参加してくれる理由だと思います。
参加者からは、「他の移籍者の取り組みがとても参考になった」「悩んでいるのは自分だけじゃなかった。またこれから頑張ろうと思う」などというメッセージをもらったり、話が盛り上がってこの場だけではたりず、個別につながり、その後も交流が長く続いているという方もいらっしゃいます。
5年経過しても、あの時の熱量は取り戻せる
越境がひとつの指針に
こうして、対話のしやすさを大事にしているアルムナイですが、では実際、どんなことが起こっているのか。つい先日、移籍を終えて5年くらい経った方(ローンディールでは初期の頃のメンバーです)の集まりがあったので、そこで起こったこと、感じたことをシェアしたいと思います。
移籍終了時期を見てみると2018年〜2020年ということで、レンタル移籍を終えて1、2周ご自身のキャリアを積み重ねられている方々。数名の方が集まりましたが、昇進してマネージャーになった方、子会社の立ち上げに参画した方、新規事業に取り組んでいる方、社内の留学制度を活用して海外で学んだ方など、皆それぞれ悩みを抱えつつも、奮闘している様子でした。
お話を聞いていると、「移籍経験をどう活かすか」というフェーズを終えて、次の5年〜10年において組織でどんな動きをしたいか。自分自身のキャリアをどうしていきたいかといった視点で考えている方が多く、今後チャレンジしたいことなどをお互い共有しあって、盛り上がりました。
皆さん、組織還元をしながらも、「一個人として何がやりたいのか」という視点を持っており、キャリアを自律的に考えている姿がとても頼もしく見えました。
そんな中、現在複数の新規事業にチャレンジしている方が、「いま全力で燃やさないと自分に嘘をつくことになる」と話をしてくれました。悩むことや苦しいこともたくさんあるけど、諦めてはいけない。熱量を持って取り組むと道が開けてくるということをベンチャーで身をもって体験した。それを思い出すことで、いつでも熱量高く動けるようでした。
また、こうした話になった瞬間、周囲の参加者も、その感覚が蘇った様子で、挑戦の火が燃え移っていくようにその場が熱くなったように感じました。
5年経っても、あの時の経験がしっかり残っており、いつでも取り戻せる熱量元になっているのは良かったなと思いますし、ある参加者が「レンタル移籍以上にワクワクするものを見つけるのが大変」と冗談まじりに言っていましたが、ベンチャーでの、想像を超えた圧倒的経験や成長があるからこそ、「それ以上の経験をしたい」「自分次第で面白くできる」と期待感を持つことができるのだと思います。
改めて、年月が経ってもなお、レンタル移籍の経験が大きな糧になっているようで、嬉しく思います。
「新たな一歩を踏み出すきっかけ」となるように
今回ご紹介したのは一例ですが、参加者の皆さんのお話を伺っていると、日々の業務が多忙で、ぼんやり将来を考えることはあっても言語化する機会はほとんどないように思います。そういう意味でも、アルムナイは自らの価値観を再確認し、同じ経験をした仲間同士で共有できる貴重な場になっているんだと思います。
また、移籍を終えて間もない参加者のアルムナイでは「移籍経験をどう活かすのか」「どう社内に還元すると良いのか」という相談が多いです。既に取り組んでいるモデルケースに出会えることもあり、その方が自身の体験を共有することで、他の参加者にアドバイスをして解決することもあります。
このように、移籍を終えてからの経過期間によって悩みや状況が違うのも興味深いです。
今後も、まずはこの場があり続けることが大事だと考えていますが、それだけではなく、移籍を終えた方が活躍していく姿を見ていきたいと思っています。そのために、新たな取り組みや移籍者同士でコラボレーションする動きを後押ししようと、移籍者同士のランチ会の開催をお手伝いしたり、専門的なテーマでの勉強会を実施しています。
これからも、アルムナイが、自分の火を灯し直したり、移籍者の皆さんにとって「帰ってこられる場所」「新たな一歩を踏み出すきっかけ」となるよう、引き続き全力でサポートしていきたいと思います。
文:楠原ジュンヘン