次世代リーダー育成の新たなアプローチ「越境学習」とは?

目次
1. 【はじめに】次世代リーダー育成の課題と新たな選択肢としての「越境学習」
「ビジネスの現場でかつては通用していた成功パターンが、今では通じない」
そんな変化の波が、私たちの働く環境を大きく揺るがしています。こうした状況に対応するためには固定概念にとらわれない多様な視点や、変革を推進する力が不可欠であり、特に企業の未来を担う次世代リーダー人材には、欠かせない重要なスキルとなってくるでしょう。
一方で、多くの企業においては 「企業・業界内での経験を積み重ねるだけでは、次世代リーダーとして視野が広がりにくい」 という課題があるのも事実。この解決策として注目されているのが「越境学習」です。越境学習では、自社や業界の枠を超え、異業種・異文化・異職種の環境に身を置くことで、新たな視点を獲得し、経営力やリーダーシップを養うことができるため、多くの企業が注目しています。
様々な越境プログラムを手掛ける私たちローンディールにも、「次世代リーダー育成のために越境学習を導入したい」もしくは「既存の育成プログラムに越境学習の要素を掛け合わせたい」というご相談をいただくことが増えています。
では、具体的に、越境学習が次世代リーダーの育成にどのような効果をもたらしているのでしょうか。本記事では、ローンディールでの事例を交えながら、改めて、越境学習による具体的な効果や事象を掘り下げていきます。
2.そもそも「越境学習」とは何か
「越境学習」とは、企業に所属する人材がその組織の枠を越えて学びを得ることの総称です。自社や業界の枠を超え、異なる環境に身を置くことで、新たな視点やスキルを獲得することを狙いとして各社で導入が進んでいます。人材に越境経験を積ませる、越境人材の活用など、昨今注目が集まっている概念です。
例えば、越境によって大企業の社員がスタートアップやNPO、自治体、海外市場などで実際に働くことで、これまでの仕事の常識を超えた発想力や、変化に適応する力を養うことが期待できます。
そして、大事なのは、越境学習の本質は「ホームとアウェイの往還」、つまり自らの組織(ホーム)と外部の環境(アウェイ)を行き来し、その経験を組織内で活かすことにあります。そのため個人の成長だけでなく、組織全体のイノベーションを促す効果も期待されています。
では、次世代のリーダーを育成するうえで、越境学習がどのような役割を果たすのでしょうか。従来の企業内育成の限界と、新たに求められるリーダー像について次章で詳しく見ていきます。
3.これからの次世代リーダーに必要な力とは?
変化の激しい現代において、次世代リーダーには、従来の「管理するマネージャー」ではなく、組織の変革を推進し、新たなビジネスの可能性を見出せるリーダーが求められています。そのために、たとえば、
・異なる価値観や立場の人々を巻き込み、共創する力
・主体的に行動し、新たな価値を生み出す挑戦力
・不確実な状況でも意思決定し、前に進める判断力
などの力が必要だと考えられます。こうした力を身につけるためには、「社外の環境で多様な価値観やビジネスモデルに触れる」「異なる組織文化の中で多様な関係者を巻き込む力を身につける」「新たな視点を得る・視野を広げる」などといった経験が必要になってきます。しかし、企業の中にはそのような機会が乏しく、社内でこれからのリーダーを育成することが難しくなっているのです。
そこで、組織の枠を超えて「修羅場・土壇場・正念場」 などを経験する機会を作る必要性が出てきています。
▶︎ 詳しくは「【レポート】「越境学習」を、経営者育成として活用するための要件とは」を参照
では、実際に越境学習を経験した次世代リーダーたちは、どのような変化を遂げているのでしょうか。次章では、その具体的な効果について掘り下げていきます。
4.越境学習が次世代リーダー育成にもたらすメリット
ここからは、次世代リーダー育成において、ローンディールを通じてベンチャーへ越境した人材に起こった3つの事例をご紹介します。
(1)「プレイヤー視点」から「経営者視点」への転換
多くのビジネスパーソンは、現場の業務を遂行する 「プレイヤー視点」 に慣れています。しかし、組織全体を動かすためには「経営者視点」 へのシフトが不可欠です。 ベンチャーのような小規模な組織に関わることで、事業全体を俯瞰する経験を積むことができるため、実務担当者ではなく、組織や事業を成長させる戦略的な視点を持つことができるようになります。
たとえば、NTTドコモの藤居大地さんは、1年間のレンタル移籍を通じて、ベンチャー企業で事業開発に従事しました。大企業の環境とは異なるスピード感や意思決定プロセスを経験する中で、プレイヤー視点から経営者視点へと意識を転換させたのです。藤居さんは「この視点は、ドコモで事業を行う上でとても大事になってくると実感しています」と話してくれました。
▶︎ 参考記事
プレイヤー視点から経営者視点へ。1年間という長期越境だからこそ得られた、事業開発への向き合い方
(本記事は、2024.07.22に公開されたものです)

(2)「チーム」を超えて「組織全体」の変革に携わる
レンタル移籍では、ベンチャー企業が規模拡大するフェーズで参画することも多くあり、組織づくりに携わる方も多くいらっしゃいます。
NTT東日本の宮崎大輔さんは、NPO法人にレンタル移籍し、急成長する組織の経営企画部門立ち上げを担い、チーム編成や内部体制の整備を主導しました。移籍元企業では管理職としてチームを束ねる宮崎さんですが、「チームのマネジメントと、経営のマネジメントは全然違うんだなと痛感している」と話します。
また、「自ら中期計画を執筆する経験や、経営チームの一員として課題に対する議論や対話を繰り返す中で、徐々にビジョン・ミッションのどこにどうつながり、社会づくりへの貢献となるのかを意識するようになってきました。今まさに、社会全体に向き合うという視点や視座を獲得していると感じています」とのこと。
宮崎さんは現在もNPOで奮闘中ですが、「NTTの技術や人の力を融合させ、活用することで、本当に社会に貢献するためにはどうしたらいいのか。これは移籍中に限らず、NTTに戻った後も含めて人生のテーマとして考えていきたいと思っています」と思いを語ってくれました。
▶︎ 参考記事
与えられた期限は2年。大企業の管理職がNPOの経営に挑む
(本記事は、2024.11.19に公開されたものです)

(3)変革を推進する「リーダーシップ」を身につける
先ほどの宮崎さんの例もそうですが、マネジメント層が越境学習に参加するケースもだいぶ増えました。大企業では上層部の意思決定に従い業務を遂行することが一般的ですが、越境先では、自ら考え、行動する力が必要になります。これにより、受け身のマネジメントではなく、変革を主導するリーダーシップが醸成されます。また、特に組織の規模が小さい環境では、経営層との距離も近く、組織を導く経験に触れ、リーダーシップの本質を学ぶことができます。
小野薬品工業の大野さんは課長職で、レンタル移籍を経験しました。行き先のベンチャーでは、会社全体を見渡せる環境下で、やれること、やるべきことには線引きせずに自分自身で意思決定する経験をしました。
移籍後の変化として、「移籍前は、組織や人のマネジメントが仕事の多くを占めていました。一方で本来求められているのはそこではなく、リーダーシップを発揮することだったと思っています。移籍を経験したことが、リーダーシップに割く時間を増やさなければならない、と意識することにつながりました」と話してくれました。
▶︎ 参考記事
なぜ、小野薬品工業は「経営者育成」でベンチャーを経験させるのか? 導入から3年で見えてきた効果と課題
(本記事は2023.10.17に公開したものです)

6. 【まとめ】次世代リーダー育成に越境学習を取り入れる意義
企業の枠を超え、異なる環境に身を置くことは、一見リスクに思えるかもしれません。しかし、真に変革を起こせるリーダーは、未知の領域に飛び込み、これまでの枠を超えて挑戦することで生まれます。
今回は、
・「プレイヤー視点」から「経営者視点」を身につけた
・「チーム」を超えて「組織全体」の変革に携わった
・変革を推進する「リーダーシップ」を身につけた
という3つの事例をご紹介しました。
本記事でご紹介した事例のように、越境学習を経験した人材は、従来の視点を超え、次世代リーダーとしての視座を手に入れ、組織を変革する力を養っています。 そして、社内に新たな風を吹き込み、これまでになかった挑戦を生み出しています。
これからの時代、企業の枠を超えた学びは「特別な機会」ではなく、「当たり前の選択肢」になっていくでしょう。どれだけ多様な経験を設計できるかが、次世代リーダー育成の鍵となるはずです。
ローンディールでは、さまざまな越境の機会をご提案しています。
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