社会人10年。宇宙ベンチャーで手に入れた、無限大の可能性!

大企業しか経験がない中で、ベンチャーで働くことに、どのような意味があるのでしょうか。
新卒で大日本印刷株式会社(以下、DNP)に入社し、約9年間にわたり機能性フィルムの研究開発に携わってきた加藤貴大(かとう・たかひろ)さん。入社10年目でマーケティング本部事業開発部に異動となり、オープンイノベーションの実現に向けて取り組み始めます。

スタートアップと関わる機会が増えていく中で、スタートアップでの働き方や社外から見たDNPの評価に興味が湧き、「レンタル移籍」への参加を決意したとのこと。2024年9月から半年間移籍したのは、衛星データ解析などの宇宙事業を展開する株式会社スペースシフト。

移籍先での取り組みやその経験から得たマインドセット、大企業とスタートアップの共通点について、加藤さんとスペースシフト・CBO(最高事業責任者)の多田玉青(ただ・たまお)さんに聞きました。

※ 本記事は、2025年2月(移籍終了直前)にインタビューしたものです。

宇宙開発に関わる中で、レンタル移籍が必要だと感じた

――移籍先は、最初から宇宙関連と決めていたのですか。

加藤:はい。もともと事業開発部で宇宙分野にアサインされたことも理由のひとつですが、私の前に将来宇宙輸送システム株式会社に移籍された北澤さんから「これから宇宙事業に関わる上で、視野を広げるためにもスタートアップに行ったほうがいいよ」と、背中を押してもらったことが大きかったですね。

――宇宙事業を進めるスタートアップはいくつもありますが、スペースシフトに移籍することになったのは、どのような理由からでしょうか。

加藤:ひとことで言うと、運命です(笑)。移籍先を決める1ヶ月前にたまたま社内で開かれた宇宙関連の勉強会に、講師として来てくださったのがスペースシフト代表取締役の金本さんと多田さんだったんです。出向先の選考が進んでいる最中で、スペースシフトが移籍先リストに新規に加わったと聞いて、これはぜひ行きたいと。

また、スペースシフトが進めている衛星データの利活用も、興味深かったです。印刷以外にも幅広い分野を手掛けているDNPと、衛星データを幅広い分野で活用するために動いているスペースシフトを掛け合わせたら、いままでにないことができるんじゃないかという想いもありました。

加藤 貴大さん
2015年、大日本印刷株式会社に新卒で入社。研究開発職として、高機能フィルムの新規開発に従事。9年目でマーケティング本部に籍を移し、カーボンニュートラルや宇宙分野での新規事業開発に従事。レンタル移籍では、株式会社スペースシフトに参画​

多田:DNPさんで勉強会をした後に、その参加者を受け入れることになるとは思っていなかったので、加藤さんのおっしゃるように縁を感じましたね(笑)。ただ、私たちにとっても、実は初めてのレンタル移籍者だったので、加藤さんが大企業からスタートアップに来てどれだけ馴染めるのか、正直、心配な部分はありました。人数の少ないスタートアップでは移籍者でも新卒者でも自走できる力が重要ですので。

しかし、加藤さんは最初から積極的に事業に関する情報をキャッチアップして動いてくれていましたし、企業風土や組織に関しても「これから社員を増やしていくなら、今整えたほうがいい」など自らを提案してくれたので、心配する必要はありませんでした。

多田 玉青 さん
スペースシフト・CBO(最高事業責任者)
大手建設コンサルタント会社において国際協力の業務に従事。気候変動や再生可能エネルギーに係る専門コンサルタントとして約6年勤務。東南アジアやアフリカ、中米など10ヵ国20都市以上で、各国の政府・企業と環境対策に係るプロジェクトに従事し、PMも経験。2021年7月よりスペースシフトに在籍​

加藤:「スタートアップに来たからには自分から動かないといけない!」というマインドは最初からあったので、とにかく動いた感じでしたね。

――ちなみに、加藤さんはスペースシフトでどのような業務を担当されたのでしょうか。

加藤:メインで担当したのは衛星データを活用したビジネス共創プログラム「SateLab(サテラボ)」で、マニュアルや規約の整備、新規パートナーの獲得、パートナー対応などを行いました。パートナーを増やすため、既存顧客を洗い出してアタックしましたね。最終的に「加藤が上げた成果」と言われることを目標に取り組みました。

「コミュニケーション」も「KPI達成」も地道に堅実に

――半年の移籍の中で、苦労したことはありましたか。

加藤:そうですね。最初は、メンバーの方とのコミュニケーションは苦戦しました。部屋が2部屋に分かれていたことやリモート導入も進んでおり、顔を合わせる機会も少なかったため、当初は多田さんから情報をキャッチアップするばかりでした。

多田:移籍前の面談の際に、加藤さんが「コミュニケーションを大事にしたい」と話していたのを覚えています。最初は大変そうでしたが、結果、多くの社員とコミュニケーションを取ってくれているように思います。

(スペースシフトのメンバーと。社内イベント後、居室での1枚)

(Zoomインタビュー中の多田さん)

加藤:事業開発メンバーは気軽にDMできるくらいの関係になりました。最初の頃は、出社している人に「おはようございます」「お疲れさまでした」と挨拶するところから始めて。業務でわからないことがあれば、質問できそうな人やタイミングを見て声を掛け、関係を築いていく草の根運動もしました。

コミュニケーションを重視したことで、わからないことがすぐに解消して、業務が円滑に進むことを実感しました。

(スペースシフトのメンバーと。展示イベントでの1枚)

多田:加藤さんのおっしゃる通り、事業開発においても、社内コミュニケーションが活発だと不要なコストがかからないですし、スピードも上がるんですよね。会社としても、今後より社員同士が円滑なコミュニケーションができる環境にしていきたいと考えています。

――加藤さんにとってもスペースシフトにとってもコミュニケーションが課題だったんですね。一方で、成果を上げられた経験はありましたか。

加藤:2024年5月に発足した「SateLab」のパートナー数は、私が移籍した9月時点で10社。KPIは「年内に30社」と設定されていました。「KPI=絶対に達成しなければいけない目標」と捉え、多少無茶をしながらも30社到達したことは成果だと感じています。

現状のパートナー数を数字で示し、事業開発メンバーには3日に1回くらいのペースでメールで共有して、週1回の定例会議でも進捗を報告するといったことを行いました。

(Zoomインタビュー中の加藤さん)

多田:日々意識していないとKPI達成は難しいので、加藤さんが自発的にパートナー数や可能性がありそうな既存顧客を可視化し、共有してくれたことが大きな流れを生み出したと感じています。おかげで、メンバーもKPIを意識するようになり、達成につながりました。

また、「KPIは達成するものだ」というマインドセットも重要で、加藤さんが責任感を持って自分事として動いてくれたことも大きかったです。自分たちが何を目指しているかを日々社員間で共有していくことが大切だと、改めて実感しました。

移籍先と協業を生み出すことがこれからのミッション

――加藤さんは半年間の移籍を経て、どのようなスキルやマインドセットが身につきましたか。

加藤:大企業のブランドネームを再認識しました。DNPでは聞いていただけそうな話でも、スペースシフトでは相手の興味を引くような提案を行わないと聞いていただけないんです。「相手の気持ちに寄り添う」というマインドセットを持てたことが大きな変化です。

大企業にいても、相手の気持ちをわかろうとする努力は必要だと感じています。たとえば、上長に新規事業について話すとき、その上長の考えに合う話し方や進め方でないと伝わりにくいんですよね。外に出たからこそ気づけた部分です。

多田:加藤さんは目標に向けた動き出しがすごく早くて、業務の中で改善すべきところをトライアンドエラーでどんどん変えていっていましたよね。顧客への提案の仕方も、だいぶ変わった印象があります。半年の間にすごいなって。

加藤:ありがとうございます!

――逆に、加藤さんが移籍したことで、スペースシフトにも変化はありましたか。

多田:移籍が始まった頃の事業開発メンバーは4人だったので、1人加わるだけで影響が大きかったです。加藤さんの人柄やコミュニケーションの取り方、KPIに対する取り組み方など、会社にとってプラスに働いているところは間違いなくあります。

新しく事業開発チームに入ったメンバーを加藤さんがサポートしてくださったのも、いい影響につながったと感じています。加藤さん自身が新たな環境で悩みや疑問に直面したからこそできるフォローがあって、新メンバーも取り組みやすかったようです。

――互いにプラスの影響を与え合っていたんですね。最後になりますが、加藤さん、今後DNPに戻ってからの目標を教えてください。

加藤:実は、2024年末にDNPが「SateLab」に参画したんです。なので、DNPに戻ってからも自分が窓口を務め、DNPとスペースシフトで事業を生み出すことが最優先のミッションだと考えています。

多田:当社としても、DNPさんをはじめ「SateLab」のパートナー企業から「組んでよかった」と言っていただける関係を築き、共創を経て社会にソリューションを提供していくことを目指していきたいです。

――それは素敵です!スペースシフトさんに移籍して、本当に良かったですね。

加藤:はい。こうして協業にも貢献できそうですし、外の世界に出ることで、自分のスキルや市場価値を改めて認識する機会になりました。社会人として10年が経った今でも、まだ成長の余地があること、外に出て挑戦することでできることがたくさんあるんだということを実感できています。ぜひ、みなさんもチャレンジしてみるといいんじゃないかと思いますね。

(スペースシフト CEO 金本さん(中央)、エンジニア 安井さん(右)。酉の市での1枚)

Fin.

協力:大日本印刷株式会社 / 株式会社スペースシフト
撮影:宮本七生
インタビュー・文:有竹亮介
提供:株式会社ローンディール

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