「ミドルシニアに新しい風を」〜人的資本経営を支える、自律的キャリア支援のかたち〜【朝日新聞社・人事担当者の声】

 人的資本経営の推進に向け、社員の自律的なキャリア形成を支援する様々な施策を進めている株式会社朝日新聞社(以下、朝日新聞)。その一環として、50歳以上のミドルシニア層を対象に社内公募を行い、2025年9月より4名がベンチャー企業へのレンタル移籍を開始しました。
 同社は2020年4月からレンタル移籍を導入していますが、ミドルシニア層向けに対象を絞って実施するのは今回が初めてです。今回は、2025年4月から人事・給与・年金制度の改革を取りまとめる田中麻本呂さんと、レンタル移籍の事務局として制度運用を担う飯田啓太さんに、ミドルシニア向けのキャリア支援への思いや、今後の期待について伺いました。

<基本情報>
■企業プロフィール
・企業名     :株式会社朝日新聞社
・業種/事業内容 :新聞・デジタルメディアによるコンテンツ事業、展覧会などのイベント事業、不動産事業
・導入開始時期  :2025年9月〜
・導入プログラム :「レンタル移籍」
・人数・期間   :4名(半年間)

■担当者プロフィール
・お名前(ご所属):田中 麻本呂さん(人事・給与・年金改革担当)・飯田啓太さん(コーポレート本部 経営企画ユニット)


【プログラムに関わるようになったきっかけ】

ーレンタル移籍に関わるようになったきっかけを教えてください。

飯田さん:入社以来ずっと販売局で営業一筋、30年弱勤めてきましたが、この4月に経営企画に異動となり、人材施策チームとしてレンタル移籍の事務局を担当することになりました。2022年に販売局の後輩がレンタル移籍を経験していて、聞いたことはありましたが、人事の仕事自体も初めて。レンタル移籍のことも人事のことも、色々な人に教わりながら進めています。

田中さん:私は人事をはじめコーポレート部門の部長職などを務めてきましたが、数年前、朝日新聞デジタルの新規事業を担う部門からレンタル移籍者を送り出していた頃に、人材戦略部門として関わりました。今年4月からは人事制度改革の担当役員となり、レンタル移籍を含むミドルシニア向けのキャリア支援策を推進しています。

ーなぜ今、ミドルシニア向けのキャリア支援施策に力を入れているのでしょうか。

田中さん:2017年に65歳定年制を導入したことで社員のキャリア年数が延びる中、約3,700人の社員のうち半数以上を50代以上が占めています。そのため、ミドルシニア層のキャリア自律がますます重要になっています。2024年に社長が交代しましたが、「中期経営計画2026」でも「人的資本経営の推進」を中心に据えています。社員が自律的にキャリアを形成し、会社がそれぞれの挑戦と学びを支援するという方針です。ミドルシニア向けには、社内でスキルを磨くためのリスキリング的な施策と、社外で新たな道を模索するセカンドキャリア支援の両軸を用意し、レンタル移籍は前者の施策に位置付けています。


【運用の現場でのエピソード】

ー社内公募はどのように行いましたか?人選の際に印象に残ったことはありますか。

飯田さん:50歳以上の社員を対象に希望者を公募することを、全社員にメールでお知らせしました。公募準備は、ミドルシニア向けのレンタル移籍を決定した前任者が進めてくれていたので、私は応募者の書類選考から関わりました。7名もの方が手を挙げてくださり、志望動機の熱量も高く、驚きました。当初は2名を想定していましたが、皆さんの意欲が非常に高く、最終的に4名を選出しました。

ー運用する中で、工夫した点や大切にしていることはありますか。

飯田さん:4名の方のサポートはもちろん、社内広報にも力を入れています。レンタル移籍が開始した際には、それぞれの移籍先の情報や本人のコメントを社内イントラネットに掲載し、全社員にメールで案内をしました。

田中さん:このような施策を行っていることを、社員に知ってほしいんです。これまでのキャリア支援は、「単線型のレールの上を、いかに速く走るか」を会社が後押しする形だったと思うんです。でも今の社会では、社員一人ひとりが自分の行きたい方向に進めるような“帆船”のような形に変わっていく必要があると感じています。そのために、多様な機会や支援を通して、会社が色々な「風」を吹かせることが大切だと考えています。

ー社内からの反応はいかがでしたか。

飯田さん:レンタル移籍者の4名を紹介したイントラネットには、700以上のアクセスがあり、関心の高さを感じました。ある社員の方からは「4名の方が前向きに思いを語られていて良かった」と直接声をかけてもらいました。

田中さん:こうして色々な取り組みをすることで、社内の雰囲気が少しずつ明るくなってきているように感じます。もっと体系的なキャリア支援をという声もありますが、しばらくは多様な施策を並行して提供していくつもりです。レンタル移籍以外の施策も飯田さんが取りまとめてくれていますが、私は「もっと斬新な施策を!」といつもお願いして困らせています(笑)。

飯田さん:人事の仕事は初めてで、法務や労務に関することも専門部署に相談しながらですが、自分自身もまさに越境しているような感覚で、楽しみながら取り組んでいます。

田中さん(写真左)と飯田さん(写真右)


【取り組んでみて気づいたこと】

ーレンタル移籍が始まってから、印象に残ったことはありますか。

飯田さん:自分と同じ世代の方々がベンチャー企業に行くと聞いた時は、正直「やっていけるだろうか」と少し心配でした。でも、週報を通じて皆さんが新しい業務にも挑戦して活躍している様子が分かると、嬉しいです。ある記者の方が「活かせるスキルや資格もない、つぶしのきかない仕事だと業界内で言われてきたが、意外と汎用性があり、他でも活かせると気づいた」といったことが書かれていて、レンタル移籍が自己理解を深める機会にもなっているのだと感じました。それぞれメンターからの返信も読んでいますが、本人の不安なども受け止めながら寄り添う姿勢などにも、いつも感心しています。

※メンターとは:レンタル移籍者の伴走者として、移籍期間中のサポートを行う存在。ベンチャー企業で未知の環境に挑戦するレンタル移籍者に寄り添い、対話を通じて内省を促し、経験の言語化を支援します。


【これからの展望】

ー今後、プログラムや参加者にどんなことを期待していますか。

田中さん:外に出ることで、新しいスキルだけでなく、新しい「姿勢」や「意識」を取り入れてもらいたいと思います。それを周囲に見せて、伝えていってもらうことで、社内にも新しい風が広がっていくことを期待しています。

飯田さん:自分自身も50代なのでよくわかりますが、この世代は考え方や行動が固まりやすい一方で、キャリアがまだ10年以上あると考えた時に、「このままではいけない」という思いを抱く方も多いと思います。ベンチャーでの経験を通じて成長されるのはもちろん、戻ってきた際には、同じ世代の仲間に「自分たちはまだやっていける」という姿勢を発信してほしいですね。そうした前向きな刺激が社内に伝わり、「次は自分も挑戦してみよう」という循環が生まれることを願っています。同じ世代の方々が頑張っているので、自分ももっと、人事やキャリア関連の勉強をしていこうと思っているところです。

<関連情報>

朝日新聞社、ミドルシニアのキャリア支援に「レンタル移籍」を初導入──50歳以上社員の自律的なキャリア形成支援で「人的資本経営」を推進(2025/11/4 プレスリリース)

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