京セラの越境者が語る!「越境でひらく組織と個人の可能性」

近年注目される“越境学習”。京セラ株式会社は、2022年度から「X-Border Program(レンタル移籍)」を正式導入。これまでに15人の社員が1年間、ベンチャー企業へと“越境”し、新たな視点と力を持ち帰ってきました。

今回はその第1期生として挑戦した大村遥さん、三宅貴士さんに登壇いただき、移籍の目的、移籍先での実際の業務と苦労、そして戻って1年以上経過した今、経験がどう活きているのかについて、おふたりの挑戦を移籍する前から帰任後までサポートしてきたローンディールの後藤が深堀りしました。

※本レポート記事は、2025年に開催された「LoanDEALセミナー挑戦者のリアルボイス 第2回」の内容を要約したものです。

キャリアが途切れる不安よりも
「新たな経験」で得られるメリットのほうが大きい

後藤:おふたりは、なぜ「X-Border Program(レンタル移籍)」に手を挙げたのでしょうか。

大村:技術者として成長するための機会や経験を多くいただいてきました。でも30代後半からは、社外に出て、少人数のチームで新しいことに挑戦する。そんな経験こそが、自分が求めていたものだったと感じました。

Profile 大村 遥(おおむら はるか)さん
ファインセラミック事業本部 セラミック1事業部 セラミック1第2技術部 技術4課 課責任者
2005年、京セラ株式会社入社。真空気密部品の技術者として構造設計、見積り、図面作成などを担当。2023年2月から1年間、株式会社Skillnoteへレンタル移籍し、製造業目線でのプロダクト改善や新たな価値創出を経験。 2024年2月に京セラへ帰任し、現職。前例を建設的に否定し新しい考えを取り入れるマインドを活かし、受注拡大を目的としたマネジメントに取り組んでいる。

三宅:当時、新製品の開発を担当していたんですが、毎日議論しても前進せず、市場に響く製品のつくり方も見えなかったんです。「外に出て武者修行したい」と思ったタイミングで募集がかかったので、飛びついた感じでした。

Profile 三宅 貴士(みやけ たかし)さん
研究開発本部 システム研究開発統括部 通信ビジネスソリューション研究開発部 第1開発部第4開発課
2009年、京セラ株式会社入社。入社から通信端末の機構設計を担当。その後、自ら手を挙げ2023年 2月から1年間、yousual株式会社へレンタル移籍。スタートアップへのレンタル移籍を経て、現在は新規事業開発チームに所属。移籍中は経営者の右腕として、新規事業の立ち上げ、事業開発全般、メンバーのマネジメントなど、多岐にわたる業務を経験。2024年1月から京セラに復帰し、現職。ベンチャーで培ったスピード感を活かし、新規事業創出に取り組んでいる。

後藤:1年間の移籍に伴い、京セラでのキャリアがストップするといった不安はなかったですか。

三宅:正式制度化した1回目においては、京セラ内にベンチャー経験者がほぼいなかったので、この経験が強みになるだろうという期待のほうが大きかったです。他社を知らずに終わるより、外に出るメリットのほうが大きいなと。

大村:本来であれば転職しないとできないことに挑戦できて、なおかつ移籍先の業務に集中できるメリットが大きすぎて、デメリットは考えなかったですね。

後藤:その時点で、移籍後のキャリアもイメージしていましたか。

三宅:イメージできていなかったというのが正直なところです。移籍前の技術職からキャリアチェンジしたいな、という漠然とした想いはありましたが。

大村:ロールモデルもいなかったので、具体的なイメージはなくて。なので「何を持ち帰れるかがカギ」だと思ってました。

後藤:移籍先候補は何百社ありますが、それぞれのベンチャーに行こうと思った決め手はどこにありましたか。

大村:私は、人材管理システム「Skillnote」の開発・提供を行う株式会社Skillnoteに移籍して、既存機能の改善やオンボーディングの短縮化、新領域の価値訴求などに携わりました。

「つくる人が、いきる世界へ」というビジョンを掲げ、「人」に特化していることに魅力を感じたんです。面談の際、代表の山川さんとリーダーの中村さんが私の成長について真剣に考えてくださる熱意にも心打たれ、移籍を決めました。

三宅:推し香水サービス「Scently」を展開するyousual株式会社に移籍して、新規ライセンスビジネスの立ち上げを担当しました。営業から企画、プロダクトマネジメントまで幅広く経験することができました。

経営者のそばで学びたかったので、少人数のベンチャーに絞り、従業員10人程度だったyousualに決めました。後藤さんから「yousualは立ち上がったばかりの会社だから、担う役割も多くて大変なこともあると思うけど、その分いい経験ができると思うよ」と言ってもらったのが逆に気になって。その環境で働いてみたいと思ったのも決め手のひとつです。

(上左:司会・野島(ローンディール)、上右:後藤(ローンディール)、下左:大村さん・下右:三宅さん)

「この年齢でも成長できるんだ」
確かな成長実感を得られた

後藤:移籍中の様子について伺いたいのですが、想定内だったことと想定外だったことをそれぞれ教えてください。

三宅:想定内だったのは、比較的やりたいことを経験させてもらえたことです。面談の時点で「1を10に伸ばす経験がしたい」と伝え、実際にその部分を経験させていただきました。

想定外だったのは、20代の取締役やインターン生など、メンバーとの年齢差が想定以上に開いていたことですね(笑)。

大村:私はよくも悪くも想定外ばかりでした。よかった想定外は、毎月のように成長実感を得られたこと。当初は思った以上に役に立てないことにショックを覚えたんですが、足りない部分を埋める努力をすることで、この年齢でも成長できることを知りました。

驚いた想定外はスピード感。ベンチャーだと遅くとも1週間で結論を出すので、最初は追いつけずに「遅い」って言われました(苦笑)。

後藤:想定外の状況では苦労したのでは。

大村:もともとわからないことはすぐ聞くタイプなので、コミュニケーションで乗り越えた部分は多かったです。リモートワークの方ともチャットではなくビデオ通話などで直接話したことで、齟齬がないように進められたのかなと。

三宅:私は、苦労しましたね。手掛けた製品がなかなか売れず、撤退の話が出たときは辛かったです。取締役と一緒に、試行錯誤したりユーザーにヒアリングをしながら、少しずつマーケット感覚をつかんでいって。最終的に販売数を伸ばせたのでよかったです。

(移籍中の三宅さん・yousualのメンバーと)

後藤:改めて、移籍を通して、期待していた経験値を得られた感覚はありますか。

三宅:1を10に伸ばす経験を積んで、製品づくりのヒントを得ることができました。一方で、0から1を生み出すことができなかったのは反省点ですね。

大村:経験値は得られました。注文が入らないと事業を継続できないという環境下で、仲間と泥臭く必死に動くという経験を積んだことで、「かつての京セラもこういう時期があったのかな」と感じました。

「感じた違和感を自ら打破」
動いてみる大切さを改めて実感

後藤:京セラに戻ってから1年以上が経っていますが、どんな変化がありましたか。

三宅:戻ってからのほうが大変ですね。移籍中は1を10に伸ばす経験を積みましたが、現在は0から1を生み出す部署にいるので、戻ってすぐの頃はうまく動けませんでした。意思決定のスピードもベンチャーの感覚になっていたので、最近ようやく大企業で働く感覚を取り戻した気がします。

活きていることとしては、営業を経験したことで、つながりのない会社へヒアリングすることに抵抗がなくなりましたね。打席に立つことも意識しており、提案書を書いたらすぐに上長やクライアントに見せに行くようにしています。

後藤:マインドや行動に変化が起きているようですね。

大村:私も戻ってすぐは違和感がありました。目標が抽象的だったり、ゴールが不明瞭なのに物事が進んでいたりする場面があると、それは違うのではないかと感じることがあって。

それをみんなで変えていきたいなと思って、Skillnoteで学んだ周囲の巻き込みを実践するようになりました。1年以上続けると、メンバーの目標設定の仕方などにも変化が現れて、動いてみることの意義を改めて感じているところです。

周囲の変化は私が感じているだけでなく、京セラ内で実施しているエンゲージメントサーベイの結果からも見えてきているので、確かな実感につながっています。

後藤:なぜ変化が起こったのだと思いますか。

大村:私が移籍を通じて変われたきっかけは、メンターや上司からのフィードバックのおかげだったんです。なので、メンバーとの1on1でフィードバックを心掛けました。「あなたはここができてるよ」「こうしたら改善するんじゃないかな」と伝えていくことで、変化が起こりました。

(移籍中の大村さん(右から2番目)・Skillnoteのメンバーと)

後藤:いいですね。ちなみに移籍中、周囲からの言葉で印象的だったものはありますか。

大村:具体的な言葉ではないんですが、メンターからのアドバイスは私の三歩先を行っていたので、その時は咀嚼し切れないこともありました。ただ、1週間後、1カ月後に振り返ると、「そういうことだったのか」と理解できることばかり。常に、高い視座から伝えてくれたから、成長できたのだと思います。

三宅:「1年はあっという間だから、後悔しないように全力で」と言っていただいたことで、日々を大切に過ごした実感がありますね。

ちなみに、京セラでのキャリアは、どのように考えていますか。移籍を通じて何か変わりましたか。

大村:「人はいつでも成長を実感できる」と身をもって知ったので、みんなが成長していける環境を整えて、提供する活動を起こしたいと考えています。

三宅:移籍をしたことで、自身のキャリアを意識し始めるようになりました。同じようにキャリアに悩む仲間と定期的に集まって、相談し合う機会を設けています。

後藤:最後に。ベンチャーへの越境に興味がある方にメッセージをいただけますか。

三宅:迷うんだったら行ったほうがいいですね。私自身、「一歩踏み出してよかった」と胸を張って言えますし、環境を変えたことで新たな自分の価値に気付くことができました。チャンスなので、挑戦してほしいですね。

大村:私も行ってほしいと思います。「できないかも」と思うかもしれませんが、ローンディールやメンターの方々のサポートが手厚く、失敗を糧にする方法もアドバイスしていただけるので、心配しなくて大丈夫。絶対に活かすべきチャンスだと思います。

後藤:移籍前から移籍中、そしてその後のフォローまで伴走させていただきましたが、改めて、帰任後もご経験を活かして活躍されているとお聞きし、嬉しい気持ちになりました。今日はありがとうございました。

Fin

協力:京セラ株式会社 / 株式会社Skillnote / yousual株式会社
レポート:有竹 亮介
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/

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