「ベンチャーで得た、チャンスだと信じてチャレンジする力」株式会社オージス総研 安藤崇周さん


 もしも1年間、大企業を離れ、ベンチャーで働いたなら、どのような変化があるのでしょうか。株式会社オージス総研で働く安藤崇周(あんどう・たかのり)さんは、1年間ベンチャーで働いてみたことで、「会社にしがみつくことなく、思い切りアクションを起こせるようになった」といいます。行き先のベンチャーは、ICTと先端技術で介護福祉課題を解決する株式会社ウェルモ。安藤さんは新規事業の事業責任者を任されたり、プロダクト開発部長を担うなどして、移籍先の重責を担ってきました。この1年を振り返り、「大変なこともあったけど、面白かった」と話す安藤さん。ベンチャーでの日々はどのようなものだったのでしょうか。働き方にどのような影響を与えてたのでしょうか。これまでの歩みとともに伺いました。

ーみんなが幸せに生きることに貢献したい

安藤さんは、オージス総研で働いて12年になります。ITアーキテクトやITコンサルタント、プロジェクトマネジャーとして活躍し、直近では技術部に所属していました。そんな安藤さんは「新しいものを生み出すこと」にやりがいを感じるといいます。

「基本的に新しいものをつくるのが好きなんです。他の人が解けなかったような問題を解くとか。とはいえ、ただ新しいものをつくるのではなくて、ITを活用してみんなが幸せに生きることに貢献したいと思いました。実はウェルビーイングを学んでいたことがあって、『IT × 幸せ』みたいな両軸を掛け合わせて、何か事業がつくれたらと」

一方、新たな事業をつくる上で、既存のやり方に課題を感じていました。

「事業をつくる際、やっぱりニーズベースでやらないとうまくいかないんじゃないかなと思っています。ただ、システムインテグレータで何か立ち上げようとすると、シーズ駆動になりがちで、これだとなかなか新規事業は厳しい。ですが、ニーズ駆動の経験はありません。そんなときに、ベンチャーへ行くレンタル移籍の募集があったので、応募しました」

それから、もうひとつ。

果たして自分はベンチャーで通用するのだろうかって。他流試合をやってみようかなと思ったわけです。やっぱり不安はありましたよ、全然違う環境ですから」

ーいきなり任されたビッグプロジェクト

そうしてベンチャーへ行くことになった安藤さん。選んだ先は、株式会社ウェルモ。ICTと先端技術で、社会課題の解決に愛を持って取り組む同社と、ITで幸せな社会をつくりたいという安藤さんの思いが合致した様子。

「ウェルモが面白いなと思ったのは、社会的な課題を技術力で解決するということを掲げているところ。自分もITの力で社会課題を解決してみんなが幸せになれる社会をつくりたいという想いがあるので、うまくマッチしました」

期待を胸にウェルモでの仕事をスタートした安藤さん。しかし移籍して早々、いきなり進行中のビッグプロジェクトを任され、四苦八苦することに。

「びっくりしました(笑)。いきなり事業責任者をポンッと任されたので。ちょうど前任者が辞めるタイミングで、引き継ぐことになったという感じです。高齢者のQOL向上のための生活モニタリングの事業だったのですが、事業戦略やチームビルディングの段階から考える必要があり、おまけに複数の企業がかかわる大プロジェクトでした。みんなの期待が両肩に乗っかってくるので、正直、辛かったですね」

「実は最初、『ベンチャーへ行くのは半年』という話があったのですが、自分から『1年間行かせてください』と言って、1年にしてもらいました。さっそく後悔しましたよ(笑)。当時は、ですけど」

そう話す安藤さんですが、苦しんだのは最初だけ。これまで培ったプロジェクトマネジメント力を発揮して、3週間足らずで軌道に乗せます。

「オージスで培ったプロジェクトマネジメント力をうまく組み合わせて、なんとかリカバリーさせることができました。不得意なことは得意なメンバーに任せるなど、だんだん自分のやり方ができるようになって。オージスでも結構ヘビーな案件が多くて、カオスな状況を回すことはある程度慣れていたので、結果的に、ベンチャーでの無茶振りは大体大丈夫でした(苦笑)」

「以降は順調で、実証も予定通り完了しましたし、テレビや新聞など各種メディアで取り上げられるなど、結果は残せたのではないかなと思います」

ー「部長、引き受けます」

そうして順調にプロジェクトを進める中で、安藤さんはもうひとつ、大きな役割を担うことになります。

「開発のリーダークラスの人がやむなく退職するということがあり、マネジメントする人が必要というので、『部長を引き受けます!』と、これまた突然ですが、部のマネジメントを引き受けることに(笑)」

さぞ大変なのかと思いきや、安藤さんは「ラッキーだった」と話します。

「開発部門を全部任せてもらえたので、正直、ラッキーと思って(笑)。ウェルモ内の開発案件をマネジメントしながら、開発方針を見直して、開発体制を作り直しました。CTOや顧問はじめとする方々の意見を聞きながら進めましたが、かなり任せてもらっていたので、いい経験になりました」

「最初のモニタリング事業の案件ですでに信頼構築も出来ていたので、『安藤さんだったら任せられる』と言ってもらえて嬉しかったですね」

こうして、後任者のいない新規事業開発プロジェクトの推進、開発体制の立て直しなどを積極的に行い、ウェルモの“キーパーソン”となった安藤さんですが、自らもかけがえのない喜びを得ていました。

「あともう少し延長してやりたかったくらい楽しかったですね(笑)。やっぱり成果が出ることは嬉しかったですし、ものができあがる過程に携わって、実現していく姿を見られるのは、エンジニアとして最高の喜びです」

「それに、部長を引き受けたおかげで、経営陣のマネジメント会議にも出られました。そこでリアルに経営の話が聞けたのはいい機会でしたね。元々、経営的な話題が多い家庭環境で、小さい頃からそういうのは身近で聞いていたので、やっぱり面白かった」

安藤さんにとって、メンバーとのコミュニケーションや仕事への取り組み方も興味深かった様子。

「ウェルモのメンバーとのコミュニケーションもとても刺激的で面白かったですよ。みんなそれぞれ課題感を持っているし、熱い思いを持って働いている人が多くて。普通に大企業にいたら出会いにくいと思います。たとえば、一緒に仕事をさせていただくことも多かった木村さんはすばらしいホスピタリティをお持ちの方でした。常に相手の話に真摯に耳を傾け、コミュニケーションを取られている。それから、代表取締役CEOの鹿野さんは強い想いをお持ちでした。やっぱり想いが必要だなっていうのは、鹿野さんに出会ってわかりましたし、アントレプレナーになるにはこういう強さが必要なのだろうなぁって」

「同時に、視座を高くすることも大切なことだと思いました。鹿野さんも社員の方に、『目の前の仕事をするのではなくて、我々が目指している大きなビジョンをとらえて動かなければいけない』ってよくおっしゃっていました。会社員をやっていると、決まった業務を決まったルールでこなしていくことが基本ですが、新しく何かをつくるときなんかは、視座を高くして目的から考えてみることは必須だと思います。鹿野さんの姿を見てもそう思いましたし、メンターの渋谷さんからその大切さを教えていただいたことも大きかったですね」

写真左・ウェルモ執行役員 木村さん / 右が安藤さん

ー経営者目線で、世の中を見る

安藤さんのベンチャー経験に寄り添い、気づきを与えて続けてくれたメンター・渋谷さん。渋谷さんは株式会社リクルートにて新規事業提案制度「Ring」の事務局を運営している、新規事業を生み出し育てるスペシャリスト。

「渋谷さんから、いい意味でボコボコにしてもらいました(笑)。『安藤さん、元々の能力に安住して仕事してない?』って。『これまで培ってきた能力で仕事しているだけじゃダメだよ。従業員の目線で仕事していない?』みたいな感じで投げかけてくれたので、鍛えられました」

「『視座を高める』というのも、渋谷さんから『なんでルールを確認するの? 視座が低くないですか? 覚悟が足りなくないですか?』と問われたのがきっかけです。『依頼された既存の仕事をしているならば納期とか予算とか制約条件を確認することは必須。しかし、新規事業開発する上では、先に制約条件を考えてはいけない。事業を成功させるために、どうすればベストか? を思考の自由度を高くして考えるのが最優先。前提を全部取り払って考える必要がある。予算もスケジュールも、自分の責任で全て設計するのが経営者目線。予算なんて引っ張ってくれば良いし、良い案ならば予算はつくはず』って、バシッと言われたことでハッとしたんです。それ以降、鹿野さんの動きとかも見ながら、ずっと視座を高めることを考えながら過ごしていましたね」

こうして、1年間の移籍を終えた安藤さんは、オージス総研に戻ってきました。実際に社会課題に向き合う現場に身を置いたことで、ソーシャルビジネスの難しさも知ったそう。

「改めて社会課題というのは、ビジネスにするのが難しいんだなぁというのが正直なところです。これまでは、単純にニーズがあればビジネスになると思っていたので、理想と現実の大きなギャップがあり、そこを埋める相当な努力をしていく必要があるということを実感しました。それが体感できたというのは大きな進歩です」

ーやるべきことをやれる人間に

そんな気づきを経て、安藤さんはベンチャーで学んだことを自社で活かすため、新規事業開発チームのマネジャーを志願しました。

「 経営者の視点で考えるということをやってきたので、これを活かせる環境で働きたいと思いました。移籍での経験を使えるポジションかと思いますので、学んだことを実践するだけですね(笑)」

「それから、これは渋谷さんの受け売りですが、『新規事業開発と組織開発は車の両輪』という考え方があって。両者が紐づいていなければうまくいかないと思っています。なので、事業を起こすだけではなく、事業がどんどん立ち上がってくるような組織作りも同時にしていきたいと。組織の規模が大きくなると、一度決裁取ったらそのままローンチみたいなやり方になりがちだと思いますが、ダメなものは途中で変えなきゃいけないし、時には撤退も必要。そういう仕組みづくりもちゃんとしないといけないと思います」

「あとは、やっぱりシステムエンジニアリングの会社なので、新規事業人材が自社でどのようにキャリアを歩んでいくべきなのか、というキャリアパスもまだできていない状況だと思います。新規事業人材のキャリアの作り方は、人事のみなさんと一緒に考えていけたらと」

戻って2ヶ月にも関わらず、安藤さんは、さっそくベンチャーで得たことを行動に変え始めています。なぜ、こうしたアクションが次々と起こせるのでしょうか。

ひとことで言うと、自信がついたんだと思います。ベンチャーで通用するってことがわかったので。これまでやっぱり守りに入っていたと思います。どうしても会社員をやっていると、『こういうことを言われないように気をつけよう』『ここまでやりすぎてはいけない』とか、自分を守ることを考えて動くこともありましたが、それを取り払えました

「自信がついたことで、自分は個人事業主として働いているくらいの気持ちで仕事をしようと、思えるようになりました。決して会社をやめるとかではなくて、いつでも外で働けると思って働くことで、会社にしがみつかずに、バーンと思い切った行動が取れるわけです。そうしたマインドで働くことで、やるべきことをやれる人間になれると思います」

「オージスはすごいスペシャリスト集団だと、外に出て改めて感じましたね。こういう人たちと仕事ができるというのは有り難いですよ。『チャレンジしないで後悔するよりは、チャレンジして後悔』って思っているので、どんどんアクションしていきたいです」

ウェルモのキーパーソンとして成果を残し続けてきた安藤さんですが、それと同時に、自信というかけがえのないプレゼントを受け取ったのでした。
それはきっと、安藤さんが構想する幸せな世界をつくる架け橋となるでしょう。

Fin

協力:株式会社オージス総研 / 株式会社ウェルモ
文:小林こず恵
写真:宮本七生

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