大企業を飛び出してみたら、「自ら動く」自分になれた。東芝テック株式会社 五條善雅さん

2006年に東芝テック株式会社に入社し、2021年までの15年間、海外ODM製品事業部に在籍し、海外の顧客からの要望に応じたソフトウェアの設計を担当してきた五條善雅(ごじょう・よしまさ)さん。2021年に海外ODM製品事業部で新規ビジネス展開の動きがあり、五條さんは長い間担当してきた開発・製造の分野から、新規ビジネス創造の分野に移ります。この配置転換をきっかけに、自身に足りていない力に気づいたのでした。

経験と成長を求めて半年間のレンタル移籍に立候補した五條さんは、人事労務管理クラウドサービス「WelcomeHR」を提供するワークスタイルテック株式会社に移籍します。ベンチャーでの経験によって、足りない力は身についたのでしょうか。

新規ビジネスに必要な「考える力」「行動力」の不足


――新規ビジネスの部門への配置転換は、自ら希望されたのですか?

そうです。事業部として、既存の製品・事業分野だけでは成長が見込めず、新しい製品・事業を拡大していこうと考えていた時期で、新規ビジネスの展開が課題に上がっていました。

私自身も、海外向け製品の設計開発という小さな分野しか経験がないことに不安を抱いたというか。もっと広い経験をしたいと感じていたこともあり、上長から話を頂いたときに「やってみたい」と、手を挙げました。

ただ、実際に新規ビジネスに携わると大変で(苦笑)。開発はプロセスも納期も決まっていて、その通りに進めていくのですが、新規ビジネスはプロセスも前例もなく、自分で考えて筋道を立てていかないといけない。その違いに慣れず、苦労しましたね。

――五條さんにとっての課題は「自分で考えて動くこと」だったと。

そうです。思うように進められていない状況を共有していた上長から、「レンタル移籍を経験すれば、ヒントが見つかるかもしれない」と教えてもらって。経験を増やし、成長できるチャンスだと思って、立候補したんです。

――長く勤めた東芝テックから外に出ることに、不安はなかったですか?

入社してからずっと同じ事業部にいた自分が、知らない世界に飛び込んで成果を出せるのか、不安やためらいはありました。

ただその不安よりも、プロセスや正解がない課題に対して自分で考えて行動し、切り開いていく力が足りていないことへの問題意識のほうが強かったので、新たな世界に飛び込んでみようと思ったんです。特にスタートアップは考える力や行動力が求められるイメージがあったので、成長につながるだろうと感じましたね。

知らない環境で成果を出すために、自分から仕掛けた


――移籍先は、どんなところを希望していました?

選ぶ軸が2つあって、1つはグローバルな体制や海外に関係する事業に携わるチャンスがあるところ。東芝テックで海外のチームと一緒に開発を行ってきたというバックグラウンドがありますし、海外ODM製品事業部の新規ビジネスを担当したいという思いもあったので、どちらでも経験を生かせるかと。

もう1つは、東芝テックとしてもソリューションビジネスに力を入れ始めたこともあり、ソリューションにつながるクラウドサービスを経験したいという思いがありました。

――移籍したワークスタイルテックは、まさにクラウドサービスを提供していますよね。

そうなんです。CEOのドリーさんやCOOのイーゴルさんがブラジル出身だったり、グローバルな体制の中で働ける会社でもありそうだなって。

なによりドリーさんが面談の時から話しやすい場をつくってくれて、最初から信頼感があったんですよね。「ワークスタイルテックは個々が自立して働き、自身の成長のために動く組織なんだ」と話していて、その中に入れば私も成長できるんじゃないかと感じました。

――面談の時点で、馴染みやすい雰囲気だったんですね。

移籍初日も、メンバーやその家族が参加するピクニックが開催されて、驚きました(笑)。当時のメンバーは10人くらいだったのですが、ビジネスの場ではなかったこともありカジュアルに話せる雰囲気で、ジョインする身としてすごくありがたかったです。

ワークスタイルテックでは、社内コミュニケーションを活発化することで個々が自主的に動きやすくなるという考えで、1on1や月1回の社内パーティーを取り入れていたんです。ピクニックで仲良くなったことで、その後の業務でも話しやすくなったり、効果を実感しましたね。

移籍初日のピクニックの写真

――いいスタートが切れたんですね。

はい。私自身も自分から動くことを意識しました。知らない環境で成果を出すには閉じこもっていてはダメだと思い、チームに関係なく声をかけて1on1で話させてもらい、お互いを理解するところから始めたのも良かったかなと。

――もともとコミュニケーションを取るのは得意だったんですか?

いえ、以前は自分からコミュニケーションを取るタイプではなかったです。でも、そのままでは何も得られないし、メンターの高梨さんからも「最初から“自ら動く”という意識を持つことが大事」というアドバイスをいただいたので、自分に甘えず、積極的に動くことを移籍中の課題に掲げました。

同じ組織の中にいたままでは、自分から動こう、変わろうという意識は持てなかったと思うのでいいきっかけになったと感じています。

コワーキングスペースでのメンバーと打ち合わせ

「100%を目指さなくていい。まずやってみよう」


――ワークスタイルテックでは、どのような業務を担当されたのでしょう?

携わった業務は大きく3つあり、1つめはパートナー企業との販売連携、システム連携の推進。2つめは「WelcomeHR」の直販セールスやマーケティング。3つめは海外展開を目指し新規開拓する国の検討でした。

――業務は順調に進みましたか?

それぞれに苦労というか、驚く部分がありましたね。特に2つめの直販セールスでは、スピード感に戸惑いました。

営業に携わる中で、リード顧客が少ないという課題が表面化してきたのですが、私は施策を1つ打つにも準備に時間がかかり、遅くなっていたんです。ドリーさんに相談すると、「最初から100%を目指さなくていいよ。まずやってみよう」というアドバイスをもらいました。

それまでの私は、確実性の高い施策1つを慎重に進める形で取り組んでいたのですが、ワークスタイルテックでは、アイデアが複数あるなら同時にやってみるという形で進めていたんです。スモールスタートで複数の施策を動かして、うまくいきそうなものを改善しながら進めていく。失敗することも1つの成果なんですよね。

――東芝テックとは異なる進め方だったんですね。

そうですね。特にワークスタイルテックのやり方では、振り返るプロセスの重要性に気づかされました。短いサイクルで複数の施策を試し、継続していくか判断するにはチームで検証するプロセスが必須でした。PDCAサイクルのCAの部分ですね。

スモールスタートで始めて検証するサイクルは初めてでしたが、新規ビジネスのように正解のない課題に対してはこの方法が合っているんだと感じました。スピードが速いですし失敗することで見えてくる課題もあるので。

一方で、既存事業のようにリスクを抑えて確実に進めなければいけないものは、時間をかけて検証するプロセスも必要だと感じました。

「周囲を巻き込む力」が事業を進めていく


――セールス以外の業務でも、発見はありましたか?

パートナー企業との連携は、なかなか進まないという課題がありました。連携による相手のメリットが明確になっていなかったので、パートナー企業のモチベーションを上げるのが難しかったんです。

どう進めたらいいか1人で悩んでしまった時に、ドリーさんから「自分で解決しようとするよりも、周りを巻き込んだほうがスピードも質も上がるよ」と言ってもらって、視界が開けました。

ちょうどそのタイミングでセールスチームの合宿があったので、メンバーで集まって課題を共有し、議論を重ねました。カスタマーサクセスチームや開発チームにも相談してさまざまなアイデアをもらいましたね。

そのアイデアをもとに、パートナー企業向けのウェビナーなどを開催しました。改めて「WelcomeHR」の機能や魅力を伝えることで、パートナー企業のリード顧客獲得といった価値につなげていきました。

――アイデアを実践に落とし込んでいったんですね。東芝テックでは、他部署を巻き込むような動きは少なかったですか?

あまりないですね。事業部間の連携や情報共有はそこまで盛んに行われていません。大きな組織でリソースもたくさんあるのに新しい価値を生むチャンスがなかなか作れていません。

ベンチャーで働いたことで社内連携はもちろん、外部のパートナーと協力することの大切さも知りました。自社だけで新しいものをゼロからつくるには多くの時間やリソースが必要ですが、既にそのものを開発している企業や団体と組めば時間もリソースも削減できます。可能性を広げる方法を知れたのは、とても大きいです。

CEO・グスタボ ドレさん(通称:ドリーさん)(左)と、COO・イーゴル イノシマさん(右)

業務を「成長するための手段」と捉える


――海外展開は、五條さんが移籍先を決める軸の1つでしたよね。

やりたいことと重なる部分だったので、自ら「やってみたい」と伝えて、任せてもらったんです。ドリーさんやイーゴルさんがブラジル出身ということもあり、ブラジルでは既に展開していたのですが、他の国となるとメンバーの誰も目星がつけられない状態でした。

ヒントを得るため、海外事業のコンサルタントや海外事業支援を行う団体、海外経験のあるメンター・高梨さんなどに話を聞き、市場調査も進め、そこで得たヒントやアイデアをドリーさんに提案しながら、展開する国を決めていきました。

――自ら動いていったんですね。

そうでしたね。自分で動けたのは、ワークスタイルテックで大切にされている“言われたことをやるのではなく、自分が経験したいからやる”というマインドが、私にも馴染んできたからだと思います。

特に海外に関する事業は私が経験したい分野でもあったので、指示を受けてやるものではなく、自分の成長のために行う“自分事”として捉えられたのではないかと感じます。仕事を自分事にすると、自ら考えて行動に移すことが楽しくなり、スピード感が出ると知りました。

――五條さんが足りないと感じていた「自分で考えて動く力」ですね。

あらゆる業務から、「スモールスタートで始める」「周囲を巻き込む」「自分事にする」といった、自分で考えて動くためのステップやマインドを得られた気がします。あとは、ドリーさんや上長としてサポート頂いたセールスチームのマネージャーなど、周りのメンバーの思いついたらすぐ行動するスピード感や自由に考えて働く姿を見て、自分もこうなりたいと思ったことが大きかったです。

移籍が終わる頃に、ドリーさんから「五條さんは確度50%くらいでも行動に移すことができていたし、いい方向に向かっていた」、セールスチームのマネージャーやカスタマーサクセスチームのマネージャーから「五條さんは吸収力がすごい。人からインプットしたことをやってみようという意識が良かった」と言ってもらえて、うれしかったです。

ワークスタイルテックに来たことで、やってみないとわからないし、わからないことがあれば周りに聞けばいいというマインドになれた気がします。コミュニケーションも自ら動くことも苦手でしたが、そんな自分でも変われるんだなって。

――たった半年間で、貴重な経験を積んだといえそうですね。

おっしゃる通りです。スピード感や個々の自立を実現するマインドを、メンバーに浸透させるチームづくりの方法や工夫も、勉強になるところばかりでした。1on1やパーティーなどのコミュニケーション術は、今後の参考にしていきたいです。

そして、大切な学びを得られたのは、人に恵まれ、周囲の人のサポートがあったからこそ。ドリーさんやイーゴルさん、セールスチームマネージャーの内藤さん、メンターの高梨さん、東芝テックの関係者、みなさんがさまざまな場面で手を差し伸べてくれたので、業務を楽しみながら、多くの発見が得られたのだと思います。

ワークスタイルテック メンバーとの1枚

マネジメント層、上司と積極的に1on1を実施

――東芝テックでは、海外ODM製品事業部に戻られたのですか?

はい。事業部では新たに“Creating Value ともに創る”というビジョンを掲げ、他の事業部や外部パートナー、顧客と一緒に新しい価値をつくるという方向に向かっています。

今までの事業形態の顧客から言われた通りに製品を開発するだけでなく、顧客の事業を支援するような価値、新たな製品やサービスの提供を目指しているので、ワークスタイルテックで経験したことを生かしていけたらと考えています。

――実際に動き出していることはありますか?

まずはメンバーとフランクに話せる場を設けて、さまざまな考え方を聞き、私自身がインプットを増やしたいと思い、積極的に1on1を行っています。事業部の上長やメンバー、海外の子会社の社長やマネジメント層に1on1をお願いすると、意外と気軽に受けてもらえるんですよね。さまざまなフィードバックをもらって、情報を蓄えています。

ちょうど一緒に業務を行っている海外のチームに新人が入り、ドリーさんやワークスタイルテックのように人を育てることにも興味が出てきたので、メンター・教育担当を希望してやり始めました。毎朝10分くらい1on1の時間を設けて、タスク管理の方法といったビジネスの基本から開発技術に関することまで、フランクに話せる場、信頼関係を築くことを意識して丁寧に共有しています。

――以前はコミュニケーションが苦手とのことでしたが、周囲も驚いているのでは?

移籍を終えてから、上司やメンバーに「変わったね」と、よく言われますね。以前の私は自分からは動かないタイプだったので、1on1をお願いしたり新人教育を行ったりする姿を見て、変化を感じてもらっているのだと思います。

――評価の言葉は、モチベーションにもなりますよね。

はい。何事もスモールスタートで始めてみて、うまくいかなければ別の方法を試せばいい。とりあえずやってみよう。そういうマインドを持てたことで、自ら考え動くことのハードルが下がりました。

このマインドを大切にして、いずれは売上の向上や新たな製品・サービスの創造など、目に見える成果につなげていけたらと思っています。

「自分で考え動く力」が足りないと感じ、レンタル移籍を決めた五條さん。スタートアップという未知の環境での経験を積んだことで、スキルそのものよりもマインドが重要なのだと気づきました。「まずはやってみる」「周りを巻き込む」「自分事化する」このマインドを得て、早くも東芝テックで動き出している五條さんは、新規ビジネスを支える柱になっていくことでしょう。

Fin

協力:東芝テック株式会社 / ワークスタイルテック株式会社

インタビュアー:有竹亮介(verb)

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