【ベンチャーから学んだ大企業の風土変革】越境人材が仕掛ける3つの改革と、その背中を押す上司の存在
「自らやりたいことを上司に発信すること。そして、上司がそれをやらせてあげること。どちらも大事」。そう話すのは、東芝テック株式会社で組織風土改革に挑戦している須藤泰(すとう・ゆたか)さんとその上司・南恩美(みなみ・めぐみ)さんです。
須藤さんが風土改革に乗り出したのは、2022年に経験したベンチャー企業へのレンタル移籍がきっかけでした。ベンチャーで働いてみたことで、風土改革のヒントを見出したという須藤さんは、自社に戻り、上司の南さんの後押しもあり、現在、3つの風土改革を行っています。その取り組みは、着実に社内に変化をもたらしている様子。
そこで今回、改革者である須藤さんと上司の南さんに、現在取り組んでいること、そして社内に起こっている変化について、お話を伺いました。
目次
【組織風土改革 その1】チーム独自のミッション・ビジョン・バリューを設定
ーまず、南さんと須藤さんのいらっしゃる部門について教えていただけますか。
南:技術戦略部の中で、製品の設計開発における課題解決や、設計開発に使用するシステム構築・導入・サポート、および設計開発の効率化を目的としたプロセス革新を担っています。
-そんな中で現在、須藤さんが組織の風土改革に挑戦していると伺いました。それを南さんが上司としてサポートされていらっしゃると。風土改革のきっかけは、2022年に半年間ベンチャーに行ったことがきっかけだったということですが。
須藤:そうですね。私は「オカネコ」を始め、お金に関するデータ基盤に関連した企画・開発・運用を行う株式会社400Fというベンチャーに行ったのですが、みなさんとにかく仕事が楽しそうで。まずこの点に驚きました。決して仕事が楽なわけではないのに、イキイキと働いている。大企業にいるとどこか、仕事は「与えられるもの」ととらえがちですが、全くそんなことはないんです。
どこに違いがあるのか?と考えたとき、目標設定が大きいのではないかと思いました。私が移籍した株式会社400Fでは、ミッション・ビジョン・バリューが掲げられていて、皆が同じミッションの実現に向かって全力で走っています。
東芝テックにも、もちろんミッションやビジョンはありますが、大きな組織であるが故に内容がかなり抽象化されています。自分たちからは遠い世界の出来事としてとらえてしまっているのではないかと思いました。
Profile 須藤 泰さん|東芝テック株式会社 技術戦略部 グローバルモノ創りセンター 技術プロセス革新担当
2008年に入社。POS開発やWindows設計担当から始まり、量販店、コンビニなど様々なPOSのミドルウェア開発に携わった後、ソフトウェア開発生産性向上に取り組む。2022年、(株)400Fに半年間レンタル移籍し、ISMS認証の取得など情報セキュリティの改善、カスタマーサクセスの業務改善、業務環境構築に携わる。帰任後は、ソフトウェア開発生産性向上のためのプロセス革新戦略の策定などに従事している。
須藤:そこで東芝テックに戻って最初に取り組んだのが、チーム独自のミッション・ビジョン・バリューを設定することです。会社のミッションを踏まえて、自分たちのチームは何を目指し、どこに向かうのか。そもそもミッション、ビジョンとは何か?プロセス革新チームのプロセスとは?革新とは?何度も話し合いながら、言葉に落とし込みました。
当時、私のチームにいたメンバー4名と2ヶ月ほど議論を繰り返し、自分たちの言葉でミッション・ビジョン・バリューを設定したことで、今は全員が同じ方向を目指して走れるようになったと感じています。
南:須藤さんは戻ってきて、ベンチャーで学んできたことを即座に実践してくれていました。「これをやりたい」「あれをやりたい」って自分から発信して、実行しています。期待通りに活躍してくれていますね。
須藤:今こうしてやりたいことが実現できている背景には、私の役職が上がったことに加えて、上司が「何でもやってみたらいい」というスタンスでいてくれることが大きいと思います。南さんは移籍中、いつも気にかけてくれていて。定期的に1 on1などを行っていました。
南:私は須藤さんが移籍に行くタイミングで上司になったので、以前の須藤さんを近くで見ていたわけではありません。なのでこうしたコミュニケーションが必要だと感じました。また、本人がやりたいということを「やったことがないからダメ」とか「前例がないから出来ない」と言っていたら、おそらく何も変わらないですよね。だからやらせてあげたいなと。
須藤:実は、ベンチャーに行っている時から、南さんに「戻ったらこういうことをやりたい」と話していました。
南:そう。「戻ったらこんなことをしたいから、予算をとっておいてください」と言われて(笑)。戻ってからの活動イメージを共有し、お互いが備えておけたのも良かったと思います。
Profile 南 恩美さん|東芝テック株式会社 技術戦略部 グローバルモノ創りセンター 技術プロセス革新担当 グループ長
1993年に入社。電子写真プリンタの要素技術研究から始まり、材料分析技術を駆使した製品不具合解決に長年従事。その後は、1D-CAEを活用した上流工程プロセスの改革に携わる。現在は、製品開発のプロセス革新を担うグループのマネジメントを行う。
【組織風土改革 その2】毎月の「ウェイセッション」でお互いを褒め合う
-南さんをはじめ、みなさんの理解もあってベンチャーでの気づきを、すぐに実行に移したのですね。他にも、ベンチャーで得た風土改革のヒントはありましたか?
須藤:人柄を知ると、話しやすくなり、仕事がしやすくなるというのも大きな発見でした。相互理解が進むと関係性が強くなり、お互いを尊重できるようになります。移籍先の400Fではお互いを知ることが大切にされていて、メンバー全員の自己紹介がnotionというツールに書いてあります。それを読むと、人柄がよくわかる。
私も、自分のことをみんなに知ってもらおうと、移籍後すぐに始めたのがランチログです。
ランチログの情報発信によって、社内で「ランチの人」としてすぐに覚えてもらい、「おすすめのランチ教えてください」「このお店良かったですよ」と自然に会話が生まれ、スムーズに溶け込むことができました。
-自分を知ってもらうために、情報を発信し、自己開示をする。素敵な取り組みですね。
須藤:自分から情報を発信し、褒めあうことの大切さも学びました。400Fの皆さんは、何かをリリースしたり、情報を発信したりするとオーバーリアクションで褒めるんですよね。Slackで何かを発信すると、スタンプの嵐(笑)。
また、褒め合う文化を醸成していたものの1つに「ウェイセッション」がありました。「ウェイ」は若者言葉の「うぇーい!」です(笑)。1ヶ月に1度、仕事でもプライベートでも、その月の良かった出来事を発表して参加者が褒め合うんです。メンバーの人柄を知るきっかけになりますし、褒め合うことでポジティブな感情が引き出され、リスペクトが生まれます。
須藤:このウェイセッションは東芝テックにも是非取り入れたいと思い、1年前から毎月欠かさず開催しています。当初は私のチーム4〜5名で開催していたのですが、半年前からは南さんが管轄する部署の14名に参加者を広げています。強制参加ではないのですが、緊急案件さえなければ、皆さん参加してくれるようになっています。
-ウェイセッションを始めて、南さんは何か変化を感じていますか?
南:チームを超えてメンバー間のコミュニケーションが活性化し、話しやすい雰囲気になってきたと感じています。業務の中では見られないような一面がふとしたところで見えたりして。メンバーの意外な一面が見られるのも楽しいですね(笑)。参加している方々がとても楽しそうで、交流するモチベーションも高まっているようです。
須藤:頑張っているのに褒められないと、誰でも辛くなります。「今月はこれを頑張りました!」と自分から発信し、南さんや周りのみんなが褒めてくれるので、承認欲求が満たされている。また発表を通じてメンバーの人柄に触れることもできる。相互理解や関係性の強化にも一躍買っている場です。
【組織風土改革 その3】オープンコミュニケーションで仕事にスピード感を
-レンタル移籍での学びを、着実に自社の風土改革に活かしているのですね。
須藤:ベンチャーでの学びはもう1つあります。それは仕事のスピード感です。移籍前の私は、仕事のスピード感とは仕事を効率的に行い、意思決定を早くすることだと捉えていました。でも移籍して感じたのは、スピード感とはコミュニケーションの取り方だということ。
移籍先の400FではSlackの「分報」という、X(旧Twitter)のタイムラインのようなものが使われていました。メンバーが自分の分報に「今こんな仕事してる」とか、「こんなおやつを食べてみた」とつぶやく。すると誰かがリアクションをして盛り上がる…そんなコミュニティが作られていました。
方や、東芝テックではTeamsを使っているのですが、されているのは仕事の会話のみで、メールの延長という位置づけです。クローズドコミュニケーションが前提で、Aというプロジェクトの話題では、関わっていない人はしゃべれません。
だからこそ、ベンチャーのオープンなコミュニケーションに驚きました。誰かが「資料作成で困っている」とつぶやくと、「この資料を参考にしたら?」とアドバイスが飛んでくる。一見、必要ないと思われるつぶやきや雑談など、オープンなコミュニケーションが仕事のスピード感を生んでいることに気がつきました。
なので、今はTeamsを活用したオープンコミュニケーションに取り組んでいます。Teamsの中にチャンネルを作り、南さんの直属メンバーである14名分の個人スレッドを立て、つぶやいてもらう。400FのSlackには敵いませんが、誰かのつぶやきに誰かが返したりと、これまでにないコミュニケーションが生まれ、スピード感も出てきました。
-コミュニケーションによってスピード感が生まれていると。南さん、どうでしょうか?
南:とにかくメンバーの反応が早くなりましたね。以前はメールで事細かに説明したり、電話をかけたりしていたことが、Teamsに投稿するだけで見た人がすぐさま反応してくれるので、スピード感が圧倒的に変わりました。おかげでコミュニケーションも活性化しました。
須藤:メールのようなクローズドなコミュニケーションは、レスポンスがくるまでタイムロスがあります。迷った時はスレッドでつぶやく。すると、見ている誰かが反応をする。スタンプを活用し、見たら即リアクションすることも大切にしているので、仮に間違った方向に進むとすぐにツッコミが入ります。オープン且つリアルタイムでの情報共有がスピード感を生むのだと考えています。
-風土改革の取り組みについて、今後のビジョンを聞かせてください。
須藤:ベンチャーから戻って1年。様々な取り組みを通じて、チーム内でのコミュニケーションが活性化し、仕事にスピード感が生まれている実感があります。
ただ取り組みの範囲や変化の兆しは、あくまで私の所属する組織に閉じた話です。より大きく影響の輪を広げるには、「あの部署は何かが違う」と周りの組織から感じてもらうことが大切ですし、東芝テック全社がもっともっと心理的安全性の高い組織になる必要があります。まずは自分たちが変わることで、取り組みの輪を広げていきたいです。
南:とにかく、今、新しい風が起きていることは確かです。少なくとも須藤さんのチーム、そして私の組織では風土が確実に変わりつつあります。
どんな業務であっても、結局は人と人との繋がりです。コミュニケーションが活発化するメリットは大きいはず。今はまだ部門の中だけですけど、部門を超えて、関係するいろんな方々も巻き込んで発展して欲しいなと思っていますし、彼にはそれをやり遂げる力があると感じています。
須藤:ありがとうございます!
南:広げていく部分は私の役割かなとも思うので、そのあたり、須藤さんと一緒に取り組んでいけたら。組織の風土改革って、本当に難しいテーマだと思います。一方で、会社のが一気に変わっていくきっかけにもなり得る。なので須藤さんには先陣を切って進めてもらえたら嬉しいです。
今回、須藤さんが越境したことで、こうして風を吹かせてくれました。外から自分のいる場所を見つめるってとても大事だなと改めて感じています。組織のいいところも改善すべきところも、外に出て初めてわかることがたくさんあるので。須藤さんのような越境者を増やしていくことも、風土改革には大事ですので、引き続き取り組んでいきたいですね。
Fin
協力:東芝テック株式会社 / 株式会社400F
取材・文:藤井恵
提供:株式会社ローンディール
https://loandeal.jp/
㈱ローンディールでは、人材育成や組織開発など、様々な目的に合わせた越境プログラムをご提供しています。自社に合うプログラムをお探しの方は、お気軽にご相談ください。