単なる研修じゃなかった!outsightから生まれた、大企業とベンチャーの協業
大企業社員とベンチャー経営者がoutsightに参加した理由
――松井さんは東芝テックで新規事業部門にいらっしゃるそうですね。
松井:はい。新規事業戦略部に所属していて、新規事業のアイデア企画から実証実験などの仮説検証までを担当しています。最終的なミッションとしては、実際に検証したものを事業化していくことですね。
――東芝テックの事業領域と関係のある事業を生み出すイメージでしょうか?
松井:やはり東芝テックとしての強みを活かした事業でなければ自社でやる意味がないと考えています。ですが、これまでのターゲット領域である顧客に留まらず、新たな事業領域へサービスを創出していくことが新規事業戦略部の役割と考えて取り組んできました。
――そんな中で、昨年outsightに参加されたということですが、どのようなことを期待されていたのでしょうか。
松井:アイデア創出のやり方を学びたかったのはもちろんですが、ベンチャー経営者をはじめ、異業種の方とのコミュニケーションが取れるところが魅力的だと感じました。そうやって、つながりが増えることも期待していました。
――今回はそうしたつながりによって協業に至ったわけですね。では、緒方さんにもoutsightに登壇した経緯を伺えればと思いますが、yousualさんは今、“推し”のためのパーソナライズフレグランスというとてもユニークなサービスを展開されていますね。
緒方:ありがとうございます。我々のメインの事業は、“推し”のためのパーソナライズフレグランスサービス「Scently」です。お客様がウェブ上で記入したオーダーシートをもとに香水をお届けするサービスで、年間で非常に多くのお客様の方に使っていただいています。また、香りのサービス以外に、大手企業様向けの新規事業立ち上げ支援も行っています。
――2021年創業ですが、既に多くの方が利用しているってすごいですね。
緒方:近年の推し活の盛り上がりの影響は大きいと思います。視覚や聴覚は表現の手段として用いられる中で、“嗅覚 × 表現”でサービスを提供できないか、考えていました。
――そんな中、2022年10月にoutsightに登壇されたということですが、なぜでしょうか。
緒方:yousualという会社やサービスが大企業の方々にどう見えているのか、純粋に知りたいと思いました。これだけ多くの大企業の人と意見交換する場もありませんし。
それからもうひとつは、自分が大企業に勤めていた頃にベンチャー経営者と関わる機会が多く、刺激をたくさんいただいたので、今度は自身がベンチャー経営者として大企業の人に何か伝えられるのではないかと思ったんです。
大企業とベンチャーがアイデアを共有し合う貴重な場
――そうした中で、おふたりはoutsightで出会うわけですが、実際、outsightに参加してみていかがでしたか。想像していたような場でしたか。松井さんはどうでしょうか。
松井:まずは、参加者の皆さんと話せたのがよかったですね。皆さんのアイデアを聞いていると、自分にはなかった視点や気づきが得られて、「そういう発想があったか」と勉強になりました。
それから、自分のアイデアを客観的に評価していただける貴重な機会でした。自分の解像度が低いことに気づけたり、見えていなかったものが見えたりして、思いつきで書いたアイデアはダメなんだなって思い知らされましたね(笑)。
――緒方さんは、いかがでしたか。大企業からどう見えるのか?が知りたいということでしたが。
緒方:皆さんからアイデアをいただいたことで、自社の事業において大企業の方に評価していただける点を再認識できました。
評価していただいている部分を立たせて事業を展開していくことで、たとえ大企業が参入してきても揺るがないビジネスにできると感じましたね。客観的な視点で認識を深められたのは、outsightに参加して得られた大きな学びのひとつです。
――yousualの課題に対するアイデアもたくさん出ていたと思いますが。
緒方:たくさんの方が現在の仕事やその人の原体験をもとにアイデアを考えて提出してくれていました。「なるほど!」と思えるものも多かったです。想像以上でしたね。
――そうして、緒方さんが登壇された回に、松井さんが参加されたのが最初のご縁だと思いますが、最初はどんな印象でしたか。
松井:私も“推し”がいるので、最初から興味を持って話を聞いていました(笑)。所属する新規事業戦略部でも、推し活を事業化したいと考えたことがありましたが、なかなか難しくて。だからこそyousualさんの推し活をしている方をターゲットにした事業は本当に面白いしすごいなと。
緒方:そう言ってもらえて、嬉しいですね。
松井:香りやコスメも関心がある分野なので、「Scently」で実際に注文もさせていただいき、yousualさんの商品に推し活ユーザーとして満足しました。なのでyousualさんが登壇された際にアイデアを考えるのもワクワクして楽しかったですね。実際に出したアイデアに対して評価もしていただけて嬉しかったです。
これまでにない「香りの販促」が生まれるまで
――では、ここから協業のお話を伺っていきますが、そうして松井さんのアイデアが実際に協業につながったと?
松井:実はそうではないんです(笑)。具体的にいうと、yousualの緒方さんがoutsightに登壇された際のテーマについて私が出したアイデアは、評価はしていただけたものの、それをそのまま自社で実現することは難しそうな状況でした。
そんな中で、他の方から出されたアイデアからも着想を得て(※ outsightで提案されたアイデアは登壇ベンチャー企業に帰属)、「これなら自社でできるかも!」というアイデアが見つかり、緒方さんに個別に連絡をした、という流れがきっかけでした。
緒方:松井さんから連絡が来ていなかったら、協業に至っていないと思います。
松井:出てきたアイデアの中に「嗅覚看板」というものがあったんです。これは私のアイデアではなかったのですが、サイネージから食べ物の香りを出すようなアイデアで弊社のアセットを活かして実現できる面白い発想だなって感じましたね。緒方さんもチェックをつけて、評価されていました。
一緒にoutsightに参加していた上長も「緒方さんに『一緒にやりませんか?』と声をかけてみたら」と背中を押してくれたので、すぐに緒方さんに連絡をしました。
緒方:連絡をいただいた時はびっくりしました。outsightの参加企業とつながれたらと期待してはいたのですが、実際にそうなるとは。「嗅覚看板」は私もいいなと感じたアイデアだったので、松井さんにお話をいただいて、積極的に取り組んでいきたいと思いましたね。
――具体的にはどのようなアイデアなのですか。
松井:小売店での香り販促として、柔軟剤やシャンプーなどの香り製品の店頭販促における課題を解決し、店舗集客・売上向上を実現できるサービス「香りリテールメディア」を検討しています。
たとえば、ドラッグストアでよく見かける香り見本は棚前での行動が把握できないため香りの効果が見えないことや、消費者が手に触れることによる破損など、管理における課題など普遍的な課題が存在しています。
それらの課題を解決するためにデジタル化された香りテスターを、弊社のカート POS やアプリなどの店内タッチポイントと連携して消費者へ香り販促を行うことで、小売店での香りによる集客・購買促進による継続的な売上・利益の向上を図る構想を検討しています。小売店のネットワークが豊富という弊社の強みも活かせるのが大きなポイントです。
――緒方さんが登壇されたのが2022年10月なので、約9ヶ月で、実証実験にこぎつけたのですね。
松井:もともと弊社が推進していたリテールメディアに絡めて“嗅覚に訴求する”というプロジェクトにすることで、比較的進めやすかったかなと思います。香りを訴求したいメーカーさんの課題を解決することで、リテールメディア事業の拡大にもつながる可能性を秘めているところも大きかったように思います。
――自社とうまくマッチしたのですね。
松井:そうですね。また、yousualさんの新規事業立ち上げの知見を共有していただけたことも、スムーズに進められた理由のひとつです。緒方さんの知見があったからこそ、課題の精緻化が進み、戦略を固められたのだと感じています。
緒方:我々は総合電機メーカー様含めて様々な大手企業様の新規事業のご支援もしていますし、我々自身が新規事業を立ち上げた経験もあるので、そこを活かしながら東芝テックさんにも積極的に提案しつつ、一緒に進められたのかなと思っています。松井さんの社内調整の手腕も頼もしかったですね。
松井:ありがとうございます(笑)。
互いの強みを活かし、業界を変える
――ここまでのお話を伺っていると、とても順調そうですが、松井さんはこれまでも新規事業を立ち上げた経験はあったのでしょうか。
松井:それが、協業先が決まっている状態で進めていく経験はあるのですが、自ら事業をつくり上げるところまできたのは初めてです。
outsightがあったからこそ、緒方さんとの出会いにもつながったので、参加して本当に良かったです。outsightで経験を積んだことで、自分からグイグイいっていいんだという気づきも得られて積極性と自信に繋がりました。手を挙げた者勝ちなんだなって。
――それは良かったですね。
松井:はい。なので、私のような新規事業を担当している方はもちろんですが、新規事業に携わっていない方や入社以来ずっと同じ業務を担当している方こそ、外の世界を見ることで新たな発見につながりますので、参加してみるといいと思いますね。
緒方:それでいうと、ベンチャー側も、積極的に登壇したらいいんじゃないかと。大企業に勤めている方に集まってもらい、自社の事業や戦略を聞いてもらう機会は多くないと思います。私のように自社の強みや課題を再認識する場になると思うので、会社の規模や年数を問わず、経営者自ら登壇してみるのは有用だと感じます。
――最後になりますが、実証実験が始まる「香りリテールメディア」の今後は、どのように考えていますか?
緒方:東芝テックさんのアセットはものすごいものがあるので、そこに我々ならではの味を加えながら、我々だけでは成し得ない規模感のビジネスを一緒につくりたいです。そして、日本の小売店やメーカーに気に入っていただき、いち早く「香りの販促といえばアレだよね」と言ってもらえるツールにしていきたいと考えています。
松井:今は日用品メーカーの課題解決を目指していますが、いずれは飲食店でも香りを活用したソリューションを提供し、リテール業界全体を盛り上げていきたいです。コロナ禍が落ち着いてマスクを外す機会も増えた今だからこそ、嗅覚に訴求して、新たな購買体験を創出できるサービスを実現していきたいと考えています。
アイデア創出の経験を積み、知見を深めるだけでなく、現実のビジネスへと発展させた今回のケース。これからの展開への期待感に満ちた表情や声色で話してくれた松井さん、緒方さんは、outsightに参加することで、想像していなかった未来を生み出しました。これをきっかけに、outsight発のビジネスが増えていくかもしれません。
Fin
▶プレスリリース「東芝テックとyousual、香りのマーケティング活用に関する 実証実験を開始 ~香り販促のデジタル化で店頭での購買を検証~」はこちら