WILLという「立ち返る場所」を得た高校生が選んだ未来とは?
子どもから大人に大きく成長し、自らその先の未来を考えていく高校生の3年間。この期間に、自分が何が好きで、何に力を注いでいきたいのかという「WILL」を見つけることは、未来の選択にも大きく影響をもたらすでしょう。社会人だけでなく、高校生にもそんな「WILL」に出会う機会を提供したい。そんな思いから、ローンディールでは高校生に向けた「WILL発掘ワークショップ」を実施しています。
埼玉県の筑波大学附属坂戸高校も、そんな学校の1つ。同校は総合学科として「探求」を軸とする教育課程を実践しており、ワークショップの性質がマッチしたことから、授業の一環として高校1年生が受講するようになりました。同校がWILL発掘ワークショップを導入してから3年が経ち、初回の受講生たちは春から大学生。彼らは授業でどんなWILLを見つけ、高校生活でどのように深めて次の道を選択したのでしょうか? 初回の受講生2人と、彼らの様子を見守ってきた2人の先生にお話を伺いました。
<インタビューに答えてくれた生徒・先生>
・関口りおさん(ワークショップを受講した生徒。民族衣装など、東欧の文化に関心がある)
・山中りあんさん(ワークショップを受講した生徒。ベイマックスとディズニーが大好き)
・熊倉先生(WILL発掘ワークショップの企画者)
・吉岡先生(関口さん、山中さんの担任)
目次
授業を通じて「自分」の輪郭が見えていった
ーこの授業が始まった経緯と、実施すると聞いたときの印象を教えてください。
熊倉先生:本校は単位制の総合学科で、探求活動に力を置いています。1年生の末には海外での校外学習を予定していましたが、コロナの影響でその年は中止になってしまって。どうしようか考えていたとき、「WILL発掘ワークショプ」の存在を知り「うちの学校にマッチするんじゃないか」と思いました。2年生の科目選択の前に自分を深掘りする時間を設けたいという思いもあり、すぐに相談を持ちかけました。
吉岡先生:私も、自分の興味について知る機会を1年生の終わりに設けたいと思っていました。学年の教員が一緒に受けることで生徒との共通言語になり、2年生以降も「あのときあんな風にWILLを考えたよね」と話せるのもとても良いなと思いました。
山中さん:1年生の授業では自分について分析したり、いろんな方の講演を聞いたりしてきました。その最後がこのWILL発掘ワークショップだったので、1年間を通じて自分にどういう変化があったのか、それを2年生以降でどう深めていくかを考える機会になり、とても良いタイミングだったと思います。
ー実際に授業を受けた感想はいかがでしたか?
関口さん:授業はとにかく自分について考え、掘り下げていくワークの連続でした。自分のことといっても向き合ったことのない部分が多くて、言葉にするのはとても難しかったです。自分が好きなものをWILLとして組み立てたり、他の自分の関心と結びつけたりしていく過程に苦労しましたが、授業を通して着実に見えた実感がありました。
山中さん:自分のことを知るには、良い部分だけでなく嫌な部分も見えてきます。また、他の人のWILLを聞いて「自分よりあの子のWILLの方がかっこいい!」と比較してしまうこともありました。でも深掘りし言語化していくことで、自分が何をしたいか明確になり、「自分のWILLも価値があるんだ」と感じられるようになりました。
ー印象的だったワークはありますか?
関口さん:互いに質問をするペアワークが印象的でした。自分では疑問に思っていなかった一面を、友人から問われることで深掘りするきっかけになりました。
山中さん:私は一人で「WILL発掘曼荼羅」を作成する時間も印象深かったです。自分の好きを「なんで?」と深掘りすることでより深い「好き」が見つかり、それを実現するにはどんな技術が必要だろう?と新しい問いがどんどん見えていくんです。それまで様々なボランティアに参加していたのですが、何気なく参加していても「実はこういうことがやりたくて参加していたんだな」と一貫性が見え、自分の興味の輪郭が生まれていくのが面白かったですね。
関口さん:自分が生まれてから今までの「人生曲線」を作成したこともよく覚えています。過去の出来事がどうやって今の自分につながっているのか、改めて認識できました。
山中さん:進路を考えると未来や「これから」にばかり着目してしまいますが、過去にも着目したことで、過去とのつながりや自分のモチベーションの原点が理解できました。より自分のことを理解しながら未来のことを考えられたかなと思います。
ー新しく見えた自分の一面もありましたか?
関口さん:私は好きなものは明確だったのですが、授業で他の人のWILLを聞く中で「どのように社会に還元できるか」が見えていないことに気づきました。これから見つけなきゃいけないなという、課題認識になりました。
山中さん:この授業を受けるまでは幅広く様々なことに興味があったんです。学校では工業システム・情報科学という学群を選択していますが、それ以外にも福祉の分野などにも関心があり、学びに一貫性がなかったんですよね。進路を考えるときもブレブレで、新しい興味が生まれたらその関係の仕事を調べたりしていたんですけど、この授業を通じて自分のコアを見つけられたと思います。
吉岡先生:私は授業でみんなの姿を見ていましたが、どの生徒も「自分の好きなことが何かわからなくなりました。でもワークを通じてもう一度考え直し、再発見できました」と言っていたのが印象的でした。この授業の後、外部団体に出す小論文に「私のWILLは」から書き出した生徒もいました。外の人とやりとりするときにも、「私はこういうことがやりたい人です」としっかり言語化し自己紹介ができることは、大きな強みだと思います。
熊倉先生:今年の1年生にもこの授業を実施しましたが、改めてWILLが2年生以降の科目選択の判断基準になっていることがよくわかりました。この選択が将来につながっていると思うと、授業が始まってからも取り組みの姿勢が違うと思います。改めて授業の意義を感じました。
それぞれのWILLを知って、学年全体で互いを認めあえた
ーでは、ご自身が見つけたWILLについて、具体的に教えてください。
関口さん:私はもともと東欧の文化に興味があり、「好きなものを通して日本における東欧のイメージを変えたい」というWILLに辿りつきました。中学生のときにポーランドやウクライナの子と出会い、可愛いなと思ったのがきっかけです。
東欧圏って、政治や歴史的な面から悪いイメージを持たれやすいと思うんです。周りの大人に「ロシアの言語や文化に興味がある」と言ったときに、「やめておきなよ」と言われたこともあります。でも文化やそこに住む人たちと、政治を別に考えてほしいという思いがあって。自分が好きな東欧文化と日本の状況を掛け合わせてできることを考え、民族衣装や音楽などの文化を軸に、観光業界やバイヤーなどの仕事を通じて活躍できないかなと考え発表しました。
山中さん:私はこの高校を志望した当初からずっと、ディズニー映画に出てくるロボット「ベイマックス」を作るという目標がありました。ベイマックスは心をケアするロボットで、人と共存し癒す姿に憧れを持ったんですよね。加えて授業の中ではディズニーという自分の「好き」も深掘りして、「人を惹き込み、感動させる空間を作りたい」というWILLを見つけました。そのために必要な技術を学ぶという明確な目標も見つかりました。
吉岡先生:私は担任として二人の関心は知っていたのですが、授業でWILLを聞くことで新しい発見も驚きもありました。
関口さんはWILLを写真付きで発表してくれていて、具体的に文化のどんなことが好きなのか、解像度が上がった印象がありました。山中さんはそれまで様々なボランティアに参加していましたが、発表では全ての経験を踏まえて、今後はプログラミングをやっていく必要があると気づいたと話してくれて、改めて彼の中で繋がったのだな、と印象的でした。
熊倉先生:この二人は授業の最後、代表として選ばれ発表したのですが、「この子にしか言えない言葉」で語っている姿に驚きました。また代表に選ばれなかった子も含めて、それぞれにすごく良い発表をしてくれました。互いに発表を聞くことで、それぞれが持っている良さを認識できて、学年としてみんなを認め合えたように感じましたね。
ー自分のWILLを発表したり同級生のWILLを聞いたりしたことで、新しい気づきもあったかもしれませんね。
関口さん:発表をしたことで「ヨーロッパが好きな人」として認識してもらえたようで、「どの国が好きなの?」といった会話をすることが増えました。自分の好きなことをみんなが知ってくれているという環境に、変わったなと思います。
山中さん:みんなのバックグラウンドを聞く場にもなったので、同級生に対する発見もたくさんありました。進路を考えるにあたっても、互いのWILLを踏まえて「こういうところは繋がってるよね」など意見共有することで、自分のWILLを高めることも、相手のWILLを深めることもできて、切磋琢磨し合えたと思います。
WILLはこれからも「何度も戻ってくる場所」
ー2年生以降は、WILLを踏まえてどんな行動をされたのでしょうか?
関口さん:民族衣装の展示会に行ったり、自分でウクライナの民族衣装を買ったり、文化を軸に動きました。ただやはり、その関心を社会でどのように役立てるかはイメージが持てなかったんですよね。
そんなとき、2年生の授業でグループ型の課題解決学習があり、仲の良い友人が難民問題に関する映画上映をしたんです。実際に難民として日本に住む方との文化交流イベントにも参加しました。そこに関わる中で、自分の「好き」は必ずしも文化を通してだけでなく、もっと広く応用できるんじゃないかと感じたんです。
興味を広げてみたら、社会として問題になっていることと自分の得意なことも掛け合わせられるんじゃないかと気づいたんですよね。私は外国語が好きなので、この得意分野を掛け合わせたときに「多文化共生」というキーワードが見えてきて。今、自分の中でキーになりつつあります。
山中さん:私は、2年生のグループ型の課題解決学習で、山梨県笛吹市の地域活性化にICT技術を活用する提案をしました。実際に市役所の方に提案をしたり、ウェブサイトに観光情報をまとめるなど、情報技術を活用した取組みを実践することができました。
もう1つ。3年生になってからは卒業研究として、東京ディズニーシーのアトラクションを題材に、ディズニーとVR技術に関する研究をしました。自分が作りたい「人々を感動させるような空間」への理解が深まりましたし、まさにWILLを深める時間だったなと思います。
ーその行動をするにあたって、WILLはどんな存在だったのでしょうか?
関口さん:WILLを通じて、自分の「好き」のコアが見えたと思っています。先日久しぶりに当時の授業資料を見返したのですが、コアの部分は今とあまり変わらなくて。「これが自分の軸なんだな」と改めて思いました。その後の2年間も、WILLは自分が戻る場所というか、自分が迷ったときに振り返る大事なものだったなと思います。そしてこれからも、何度も戻ってくる場所なんだろうなと思います。
山中さん:進路を考える中で「この選択で本当に良いのかな?」と不安になることがありました。そこでもWILLの存在は大きくて、WILLと自分の「好き」にもう一度戻ってくることで、一層自分の進路に自信が持てたと思います。今後も迷うことがあると思いますが、「進路」と固く考えモチベーションが下がるよりは、進路をWILLと一緒に捉えてワクワクし、モチベーションを上げる方が良いなって思ってます。
ー春から進学する大学では、どんなことを学ぶ予定なのでしょう?
関口さん:ヨーロッパの言語や文化を学ぶ学科に進学します。インプットもたくさんしたいですが、留学生と交流できる場所で運営ボランティアをして、異文化交流の場を実際に作る側にもなりたいと思っています。また、東欧に限らず多地域に興味も生まれてきたので、いろんな国に行ってみたいとも思いますね。実際に行動してこそ得られる経験があると思うので、外部の人との関わりも大切にしながら、自分の可能性をもっと広げていきたいと思っています。
山中さん:VRやAIなど、最近普及し始めた技術を専門的に学ぶ分野に進学します。VRを研究したかったので、進学先は即決でした。受験は自己推薦方式を選択し、まさに自分のWILLを伝えたことで合格できました。
たくさんあった興味の中から進路はVRに絞りましたが、VRの中にもいくつも分野があります。今後細かい専門分野を選択するときにもWILLに立ち戻り、何をしたいのかを見直して、自分がやりたいことに近い進路を選んでいけたらと思います。
ーその先のご自身の人生や、社会との関わりについてはどうお考えですか?
関口さん:WILLの授業を通じて、「自分の好きに自信を持っていい」と気づけたのが大きかったと思います。自信を持つことで、様々な場面で原動力になるなって。これからも「好き」を大事に生きていきたいなと思います。それと同時に、自分だけじゃなく、みんなが自分の「好き」を大事にできる社会にしたい。多文化共生にも繋がりますが、多様性や違いが受け入れられる、みんながありのままでいられる社会になったらいいなって思います。
山中さん:「ベイマックスを作る」という土台は変わらず、「人々の心を癒したい」という気持ちが大きいです。そのために人を感動させる空間を作り、たとえ不安な気持ちを持ったときにも一瞬解き放つような、不安を超える感動空間を構築して、心のケアに貢献できたらと思っています。
吉岡先生:これまで、仕事や目標というと今ある職業から探す生徒が多かったんです。ただこの先どうなるかわからないし、その仕事がなくなるかもしれない。そんな中で、WILLという軸に立ち返ることができれば、自分の力を活かせる場所を見つけていけると思っています。自分のことを知って社会に出ていくことが大事だと思うので、二人の姿を見てとても心強く感じました。
熊倉先生:二人とも、自分で学びの種をしっかり作ってきたんだなと思いました。本校が大事にしていることがしっかりと伝わっていたんだなと。後輩にもしっかりと引き継がれていってほしいですね。
授業を通じて自身のWILLを見つけ、高校生活の中でアップデートさせ、そして次なる進路を自ら選択したお二人。「この先の未来でも、迷ったときにはWILLに立ち返って選択していきたい」という言葉が印象的でした。お二人が手にしたWILLは、きっと一生の武器になることでしょう。大学生活、さらにはその先の人生でも、自分らしい選択を続けていくことを願い、エールを送り続けたいと思います。
Fin.
協力:筑波大学附属坂戸高校
インタビュー:大沼 芙実子
撮影:宮本七生
【学生に向けたWILL発掘ワークショップを実施】
ローンディールでは、高校におけるWILL発掘ワークショップを実施しています。不確実性の高い現代社会において自身のコアを見つけることは、高校生が先の未来を選択する際にも大きな指針となるはずです。ご興味がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。全国の先生からのご相談をお待ちしております。
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***本イベントは終了いたしました***
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