「自分のスキルがこんなところで役に立った」ベンチャーを経験した大企業人材のリアル座談会
「外の世界で自分は活躍できるのだろうか?」
「このまま今の会社で働きつづけて良いのだろうか?」
企業で長く働く方であれば、一度は抱く疑問ではないでしょうか。
ローンディールは、大企業に所属しながら一定期間ベンチャー企業で働く「レンタル移籍」を提供しています。これまで145人(※ 2021年7月1日現在)がレンタル移籍を行っていますが、外に出てみて気づくのは「自分のスキルはベンチャーでも活かせる」「まだまだ自社でやれることはある」、ということだったりします。そこで、レンタル移籍を終えた4名を迎え、オンライン座談会を開催しました。その一部をレポートでお届けします。
参加者 Profile
(※ お名前 50音順)
経済産業省・足立茉衣(あだち・まい)さん
経産省では、主に新興国でのビジネス支援や、一部ベンチャー支援などにも携わる。移籍先は、人にも地球にも優しい植物由来の新素材KAPOK(カポック)を軸とした、持続可能なサプライチェーンの構築を行う、KAPOK JAPAN株式会社。
NEC・實方圭太(じつかた・けいた)さん
NECでは、大学向け、教育研究システムのセールスを経て、現在は全国の自治体向けビジネスを担当。移籍先は、1on1支援プラットフォーム「カケアイ」の開発・運営を行う株式会社KAKEAI。
日揮株式会社・藤間裕美(ふじま・ひろみ)さん
日揮では、医薬品プラントの機械設計・試運転業務などを担当。移籍先は、特殊冷凍テクノロジーでフードロスの削減事業を展開するデイブレイク株式会社。
株式会社村田製作所・山田高明(やまだ・たかあき)さん
村田製作所では、技術事業開発部門で、中期的なシーズ開発に携わる。移籍先は、コミュニケーションロボット「unibo(ユニボ)」の製造販売を行う、ユニロボット株式会社。
※ インタビュアー 原田未来(ローンディール 代表)
「大企業のスキル」はベンチャーで役に立つ
原田:藤間さんは、日揮で長くプラントエンジニアをされていたと伺っていますが、移籍先では、SNS運用やマーケティングをされたわけですよね? 全然違う領域に飛び込んでいますね。
藤間:そうですね、日揮ではヘルメットを被ったりしていました(笑)。
原田:一見、関連がないように思えますが、そうしたこれまでの経験が、ベンチャーで活きたことはあるのでしょうか?
藤間:ありますね。デイブレイクは特殊冷凍テクノロジーでフードロスを解決する事業を展開していて、日揮とは業界も職種も違います。私はフードロス事業のマーケティング全般を担当することになったのですが、短期間でものごとを試していく必要があったり、急遽、方針が変わって方向転換していなかければいけないことも。そういうときに、一個一個着実に進めていくとか、大人数でものごとを動かしていくとか、日揮で培った進捗管理が役に立ちました。
原田:なるほど。異なる領域といえば、足立さんはいかがでしょうか? 経産省で働く立場から、ベンチャーではファッションブランドの運営の取りまとめをされていたとか。
足立:私が移籍したKAPOK JAPANは、地球にやさしいKAPOK(カポック)素材を軸とした、持続可能なサプライチェーンの構築や、ファッションブランドの運営を行っています。社長と外部パートナー(マーケターやデザイナーなど)で成り立っている組織だったので、私はその間に入って、サプライチェーンマネジメントや、研究開発、広報周りをやりながら、全体の取りまとめをしていました。そうした中で、特に、メンバー間の調整やコミュニケーションという部分において、経験が活かせたかなと思います。
オンラインで進めていくことが多かったので、見えないところでメンバーの意識がバラバラになってしまっていたんですね。たとえば、社長は数字を見ているものの、パートナー側にも各々のこだわりがある。その乖離が大きかった時もあり、間に入って会話したり、ビジョン共有の場を設けたり、つなぎ役としてうまくまとめられたかなと。
藤間:それ、わかります。私の場合は、フルーツの加工場とオフィス側の間に入ることが多くて。思いは同じはずなのに、言語が違うんですね。なので、「フードロスをなくすという最終目標は一緒ですよね」って、目的を抽象化するためのコミュニケーションを重ねました。
原田:続いては山田さん。村田製作所ではマネジメントする立場にいらっしゃったようですが、ベンチャーではマネジメントの手法や組織も違ったのではと思います。そういった中で、自社でのやり方が役に立ったことはありますか?
山田:私が移籍したのはユニロボットというコミュニケーションロボットの開発・販売、AI電話サービス等コミュニケーションテクノロジーを開発するベンチャーです。営業チームの人数が少ないことから、一定範囲の役割分担をして、その中で積極的に営業をしていくスタイルです。
そうした中で、そもそもマネジメントという中間の役割が必要かというと、規模感的なこともあるかと思いますが、必要なかったように思います。ただ、足立さんと藤間さんのお話であったように、お客様の案件によっては、経営者(ビジネスサイド)の提案の持っていき方や粒度と、技術サイドのこだわりのすり合わせが必要で。コミュニケーションがうまくとれていないと感じたこともあり、その対策を提案したりはしました。
原田:ちなみに山田さんは、村田製作所では技術開発のお仕事をされていましたが、ユニロボットでは営業企画をされていますね。そのギャップはありませんでしたか?
山田:事業開発を加速させるために、技術開発だけではなく、経営、企画、営業ができないといけないと思って、意図的に対局な業務を選びました。ギャップでいうと、以前より、仕入先メーカーと交渉するなどの機会はあったので、メーカーさんのノウハウをモノマネしたらいいんじゃないか、みたいな気軽な気持ちで乗り切りました(笑)。
大企業の方が自由かもしれない!?
原田: NECからHRベンチャーに移籍した實方さんはいかがでしょう? ベンチャーでも、これまでの営業経験を活かして、セールス周りに携わっていたとか?
實方:そうですね。僕が行ったのは、1on1支援プラットフォーム「カケアイ」を開発・販売しているKAKEAI。セールスもでそうですが、カスタマーサクセス、マーケティング、ユーザーサポート業務など何でもやりました。確かにみなさんが言うように乖離を調整するということはありましたが、僕が一番役に立ったのは人脈でした。
ベンチャーに行って思ったのは、一件一件のアポイントがとても大切だということです。そのため、大手のグループ会社に対してセールスのアポイントを取ることもすごく重要になります。一方、NECはグループ会社も多くありますし、関係構築できている企業やクライアントもたくさんいる。そうした人との繋がりに助けられたこともあり、その当たり前のありがたさに気付きました。
原田:セールスという業務の中では、ギャップはありましたか?
實方:色々ありました。一番感じたのは、もしかしたら、ベンチャーより大企業の方が自由かもしれない、ということ。ベンチャーって個人に権限依存されていてルールも決まっていないみたいな、めちゃくちゃ自由な印象でした。でも実はそうでもなくて。少ない人数でやっているからこそ、一人ひとりの動きが会社全体に影響する。なので、お互い密に情報共有しながら、かつ、それぞれがスピードを出しながら、進めていかなければならない。当然個人プレイは多いですが、ひとりで突っ走りすぎないように、そうした調整をしながらやる必要があって。それはそれで鍛えられましたが(笑)。
原田:これは意見が分かれそうですね。
藤間:規模にもよると思いますね。私の場合は、フードロス事業部の責任者の方と私の2人で動くことが多かったので、不自由さはあまりなく。
實方:規模感とフェーズによって違うのでしょうね。ベンチャーであっても、ある程度サービスが出来上がった事業をぐぐっと伸ばしていく段階の場合、進め方は足並みをそろえる必要がある。
学生に戻ったとして、もう一度大企業に入る?
ー会場からの質問「もしも今、学生に戻ってキャリアパスを選べるとしたら?」
足立:ベンチャーっていろんな働き方ができるので、まずは学生の頃に、インターンやバイトで関わって。就職では大きな組織で働く。そうしてジェネラリストになってから、改めてベンチャーに行ったら、見えることやできることも増えて、いいんじゃないかなと思います。
實方:僕はベンチャーに入ってから、そのあと大企業に行きたいですね。失敗しても若い方が痛みも少ない(笑)。なんでも吸収できるうちにベンチャーに行っておきたい。そうやって力をつけてから大企業に入って大きなことに挑戦したいですね。
ー会場からの質問「自社でこれから、どのようなことをしていきたいと考えていますか?」
藤間:個人のWILL(意志)を大事にしていきたいと思うようになりました。大企業だとみんながいいものじゃないと通らないし、承認されない。でも、そうしたアイディアだと新規性がなかったりします。また、フードロス事業に関わり、背景を知っていく中で、自分たちにできることもたくさんあるんじゃないかと、日揮でもサステナブルにおいて関与できる道筋が見えてきました。「日揮でどのように実現できるか?」ってことを、正解を求めるのではなく、自分の答えを探すようにしています。
山田:新規事業を回すには、小さく安く早く回さないといけないので。組織の中で、現場のリーダーへ権限委譲していくのが良いと思っています。そのためにもまずは自分が事業で実績を出していきたいですね。
足立:ベンチャーに行って思ったのは、やることを厳選していかないといけないということ。人数も限られているので、あれもこれもやりたいとなっても全部はできない。一方、お金と人材が豊富な組織にいると、プライオリティを整理せず、とりあえずやる、みたいなことがある。そういう文化を改善できたら。
そのためにも、足元から出来ることとして、自分の所属する場所で、みんなでビジョンを共有できるようなチームを作れたらなって思います。
實方:僕がベンチャーで感じたのは、圧倒的な自責感覚。自分でやったことは自分に返ってくる。全責任を持ってやり切るんだっていう気持ちを個々人が持つことが大事だと思いました。NECで、そうした責任感覚をどうやったら持つことができるか、再現できるかって考えています。周りを巻き込みながら、絶対にやっていきたいですね。
原田:なるほど。その責任感覚を持つにはこういう方法がいんじゃないかという仮説みたいなものはあるんでしょうか?
實方:ひとつあるのが、若手や現場のプレイヤーに、「そういう期待を持っている」と伝えきることが大事なんじゃないかと。責任を押し付けるとかそういうことじゃなくて、「期待があるからやってほしい。勿論サポートは全力でするから」という、こちらの思いと覚悟をしっかり伝えていくことが大事じゃないかと思います。
原田:また、どうなったか教えてくださいね。それでは、最後にひとことずつお願いします。
足立:組織に戻ると、ベンチャーでの感覚を忘れてしまうこともあるので、移籍中のことを思い出しながら、取り組んでいけたらと思います。
藤間:かなりいいタイミングで移籍できたと感じます。戻って、やりたいことを会社に報告したところ、今年度の取り組みに取り入れてもらうことができました。なので、本当にいい流れで新しいことにチャレンジできそうです。
山田:移籍はあくまできっかけにしか過ぎなくて。これからが大切な時期だと考えています。
實方:そうですね、ここからがスタート。移籍に行く1年前に比べて、明らかにものごとの見え方、捉え方が変わっていると感じています。ベンチャーでの経験をどんどん活かしていけたら!
原田:みなさん今日は、ありがとうございました!
Fin
協力:経済産業省 / 日揮株式会社 / 日本電気株式会社 / 株式会社村田製作所
(※ 50音順)
レポート:小林こず恵
撮影:宮本七生(足立さん、實方さん、山田さん)、畑中ヨシカズ(藤間さん)
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【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計50社 145名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年7月1日実績)。