「夢中に仕事をするために会社ができること、個人ができること」
優秀な人材こそ、外に送り出す
入山:越境すると外に出っぱなしになる、あるいはそれがきっかけで辞めちゃうんじゃないかって心配する大企業も多い。僕は常に辞めろ辞めろって言っているんですが、レンタル移籍でスタートアップに行った人は実際どうなんですか。
原田:150人が大企業に戻ってきて、1年以内に辞めたのは5人ですね。
入山:それ問題だと思う。南場さんどうですか。ほとんど辞めないで残っていると。これっていいことなんですかね。
南場:残るのもいいとは思うんだけど、DeNAはどんどん外に出て行ってもらっています。入社して4年も経てばどこにでも通用するような人材に育っていますので、実績をあげた人で起業家精神を持っている人は、『そろそろいいタイミングなんじゃないの? 起業したいって言ってなかった?』って。デライト・ベンチャーズ(DeNA発のベンチャーキャピタル)で出資したりして、独立をしてもらうわけです。
入山:できる人をむしろ出したいっていう感覚はすごい。
南場:だって、絶対起業したい人はいつか辞めるでしょう。良いタイミングで出てもらって成功したら戦略的提携も考えられるし。とにかく中に閉じ込めるんじゃなくて開放するのが大事で、後押ししたりいろんなサポートをする中で強い繋がりができる。DeNAがたったひとつの星でいるより、外の星と繋がって星座になったほうが世の中に提供できることが大きいよねっていう考えです。それでも離職率はIT業界の平均より低いし、出戻り率も高まっているんですよ。ずっとコミュニティで繋がっていて、出たり入ったりすればいいっていう考え方ですね。
あと、就職しないで世界一周していましたとか、キャリアにブランクがある寄り道経験者も大歓迎ですし。そういう人たちもメインストリームに乗れますよってメッセージを出していくことも大事です。
原田:魅力的な取り組みがあるからこそ関係性が続いていくわけですね。
南場:あとは創業当時からやっていることなんだけど、大黒柱を抜いちゃうんですよね、その組織から。大黒柱が決まってきちゃうっていうのは、すごくもったいない。配置転換しないと次の人が活躍できないから。
外に出ていかない大企業人材
入山:でもこれ、DeNAだから良くて、大企業はやらないほうが良いと思うんですよね。会社っていろんな仕組みが噛み合っているから全体がうまく回っているわけで、つまみ食いしてもうまくいきません。そもそも外に出てくれても構わないって言われても、そんな人はほとんどいない。
南場:うちは将来起業したいとかっていう人はターゲットだし、起業家精神を重視しています。
入山:そもそも採用の入り口が違うんですよね。既存の大企業だと、いい大学出てちゃんと勉強ができる人を採っているわけなので、無理なんですよ。だからローンディールのやっている大企業からベンチャーへのレンタル移籍は、“そうじゃない人”に火をつけていることになるので苦労も大きいんじゃないかな。
原田:これまで起業というとハードルが高くて超えられなかった人たちが、別の選択肢を用意することで外に出られるようになるということにも意味があると思うんですよね。
南場:一旦辞めて行けばいいのにって思うんだけど(笑)。でもDeNAでも、出向先で経営に触れたことでかなり育って、戻って大活躍した後に起業した例もあるので、そういうやり方でも成長はしますよね。
原田:レンタル移籍でいうと、残してきた仲間や上司がいる状態で、なんとかしなければっていう計り知れないプレッシャーも大きいと思います。
南場:そうやって、人材が輝けるようなステージをまずは企業が用意しないといけないし、それが社外にあるなら行っておいでよって送り出す。優秀な人材を惹きつけるためには当然必要なことですよね。
才能を持った人たちが夢中になれていない
原田:南場さんとは経団連のスタートアップエコシステム委員会でご一緒させていただきましたが、やはりその中でも人材の流動性を高める必要性はかなり議論されました。
南場:とはいえ、絶対に流動性が必要だとは思わなくて、いま目の前のことに夢中になってる人はそれをとことん極めたらいいと思っているんです。でも、やりたいことが見つからないとか夢中になっていることがないっていう人は外を見たらいい。才能を持った人たちが夢中になれていないってすごく残念。
日本ってエンゲージメントが世界の中で最も低い、つまり仕事に夢中になってないんですよ。やっぱりそこが、生産性が低い一つの大きな要因だと思うんですよね。夢中って幸せじゃないですか。
入山:外に、もしかしたら夢中になれるものや素晴らしい機会があるかもしれないけど、結局出ない限り知らないままなんですよね。レンタル移籍とかで、ベンチャーに行ってすごい何かに夢中になっている人たちに出会って、みたいなところから火がついていくといいのかもしれないです。
南場:それ以外にも、手を挙げて「自分はこういうことやりたいんです」っていう人に、なるべくやってもらう機会をつくるとか。自分のWILLを発表した人が報われるんだっていう前例を作ることも大事かもしれない。
入山:ただ、元々大企業の人はWILLがない人が多い。日本の教育がそうなっているんですね。自分たちの頃は将来の夢って小学校しか書いた記憶がなくて。中高になるといきなり偏差値になって、よくわかんないけどとりあえず偏差値の高いところに行くのが偉いと。そういう時代だったのでWILLを考えてないんですよね。
それに、自分にどういう可能性があって、何ができるのかもわからない。転職サイトに登録すれば一発で市場価値がわかるんですが、大企業の人は知らないんですよ。自分は何ができて何をやっていきたいかが明確になれば、この企業にいたほうがいいのか、外に行ったほうが能力発揮できるのかわかるのに。
南場:その組織でしか通用できない人材にどんどんなっていっちゃうパターンってありますよね。
原田:大企業の整った環境によって、最初の数年ぐらいはある程度までレベルがあがるという利点はあるような気がするんですよね。それが、成長カーブがなだらかになってしまうことで、そのような課題を生むんじゃないかって。だからこそ、越境が新しい成長の機会となれば良いなと。
「なぜ、自分は今この会社で働いているのか」
入山:僕はやっぱりスタートアップが盛り上がってほしいと思うんですが、一方で、ぜひ大企業からもイノベーションを起こして逆襲してほしいなと。だってどう考えてもリソースは大企業のほうがあるので。
南場:大企業で仕事に夢中になっている人たちも、スタートアップに行って、“本当の夢中”がどういうものかギャップを感じてきたらいいと思う。そうやって目線をあげることで、組織の中でどうやって火をつけたらいいのか、考えられるようになるんじゃないかなと思いますね。
入山:スタートアップはお金がないので、必死さがある。
南場:そのヒリヒリ感が夢中を生むんですよね。
原田:僕らとしては、外を見てきた個人が組織に働きかけられるようになるといいなと。外に出ていくこともそうですが、それを社内に還元していくことを大事にしたい。
南場:やっぱり、多様性が組織を強くする上で非常に重要なんですよね。いろんなバックグラウンドを持つ経験の多様性ですよ、ジェンダーとかじゃなくて。それが組織を強くしますし、新しい発想を生むことにも繋がると思いますね。そういうバックグラウンドの多様な人材を生かす取り組みを企業がやっていくことで、夢中になれる人も増えていくんじゃないでしょうか。
原田:個人が夢中に働き、外に行くことが組織の力にもなる。そんな時代だからこそ、一人ひとりが夢中になれることに向き合い、「なぜ自分は今この会社で働いているのか?」を語れるようになることが大事なのかもしれません。
Fin
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