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2023 .12 .25

【レポート】越境学習による「キャリア自律」と「エンゲージメント」の育み方


 

人的資本経営の考え方が広がり、また働き方に対する価値観の変容や多様化に伴い、社員の「キャリア自律」支援に取り組む企業が増えています。

 

しかし一方で、個人の自律性が高まることの副作用として、職場上司や同僚とのすれ違い、組織へのエンゲージメント低下、離職率の上昇といったことが起こるのではないかと不安を感じられる企業人事も少なくないようです。

 

そこで、ローンディールでは、専門家・実践者の方々をお招きした連続セミナーを開催し、「キャリア自律をどのように実現するのか」、また「自律とエンゲージメントの両立をどのように実現するのか」について考えて参りました。

 

本レポートを通じて「キャリア自律」と「エンゲージメント」の双方を育むためのヒントをお届けいたしますので、ぜひご覧ください。

 

 

「キャリア自律」した人材像

 

まず、一般的なキャリア自律の定義を確認します。Career Action Centerによると「自らのキャリア構築と学習を主体的かつ継続的に取り組むこと」とされています。また、人材版伊藤レポートの中では、個の自律という点について「キャリアを企業に委ねるのではなく、キャリアオーナーシップを持ち、自らの主体的な意思で働く企業を選択すること。(中略)社会人になった後も継続的な学び直し、時代にあったスキルセットを身につけること」とされています。

 

しかし、言葉の定義だけではどのような人材像が「自律している」といえるのか、イメージが沸きにくいものです。そこで、連続セミナーではキャリア自律の体現者として、3名の方をゲストにお招きし、ご自身の経験やお考えをお聞きしました。

 

 

小国士朗さんのケース:複数の組織にまたがって自らのプロジェクトを推し進める。

 

まず最初にご登壇いただいたのは、小国士朗さん(株式会社小国士朗事務所 代表取締役/プロデューサー)です。

 

 

小国さんは、NHKのディレクターとして「プロフェッショナル  仕事の流儀」等の番組制作に携わっていましたが、病気で番組ディレクターを続けることが困難になってしまいます。そこで、番組を作れないディレクターから、番組を作らないディレクターになろうと発想を転換し、自分の「名刺」代わりとなるプロジェクトの立ち上げに注力されました。

 

また、その頃、社外に出向するという経験もしています。社外から自社を見るという経験を通じて、自社の可能性や社会への影響力を再認識し、復帰後は「注文をまちがえる料理店」や「プロフェッショナル 私の流儀」のアプリ制作など、NHKでも異色のプロジェクトを複数立ち上げました。

 

そして現在は独立し、「delete C」「Be Supporters!」等のプロジェクトをプロデュースされています。また、ローンディールで提供する、組織の個を支援する「4th place lab」の共同発起人としても関わってくれています。

 

亀山直季さんのケース:継続的に社外の機会を活用し、自らを研ぎ澄ませていく。

 

 

2人目はNTTドコモの亀山さんです。亀山さんは、「事業企画屋」として、事業開発プログラムの運営・伴走や内製の開発組織を組成するなどの取り組みを通じて、新規事業創出に携わっています。

 

転機となったのは、半年間ベンチャー企業で働いた経験です。これまで事業企画に偏っていたキャリアに不足を感じ、エンジニアとしてのスキルを獲得するための挑戦でした。まったく異なる環境で「自分は何者か?」という問いに晒されていた日々だったと振り返ります。

 

しかし、ベンチャーで働いたことをきっかけに「外に出ることにハマってしまった」「趣味、副業」になったそうです。現在も、副業で複数の企業や組織に関わるなど、越境し続けています。

 

自分のWILLが変容していくことやCANが広がっていくことが楽しいから動いているのであって、キャリア自律をするためにやっているわけではない、と言います。

 

開米雄太郎さんのケース:自社で見つけた「自分のWILLを実現する機会」に取り組む。

 

 

そして3人目の開米さんは、NECでカルチャー変革に取り組んでいる方です。新卒でシステムエンジニアとして入社し、会社の未来を議論する会議に参加したことをきっかけに、社外を知る必要性を感じるようになりました。

 

そして、亀山さんと同じくベンチャー企業で働く経験をします。そこで、「パーパスへの共感」が重要だということを実感し、それがきっかけで会社のカルチャーを変えていく仕事に興味が高まり、現在のポジションに就ています。

 

自分のキャリアに対して、エンジニアとしてのスキルを高めることが重要と考えていましたが、その根底にあるのは人に感動を与えるということがあったということに気づきます。また、外から会社を見ることで、自分の会社のことが好きになったといいます。

 

このような背景から、自分のWILLを会社で実現できそうだから、その機会を使わせてもらって、やらせてもらっているという感覚をもっているとのことでした。

 

 

3人のケースから浮かび上がるキャリア自律のサイクル

 

上記3名の方のお話を伺いながら、キャリア自律していく個人に共通する「サイクル」があることが見えてきました。

 

 ①自己理解が深まる

 ③選択肢・機会に気づく 

 ③実際にアクションする

 

自分や自社への理解を深めることで「もっと〇〇をしたい、〇〇が出来るのでは」という意欲が高まります。そして、社内外問わず自分の周りにある選択肢に気づき機会を得て、実際にアクションする。そのアクションの結果として、自己理解(「できること」や「やりたいこと」)がアップデートされる。このようなサイクルが回っているようです。

 

そして3人が「自己理解のきっかけ」として挙げているのが「越境経験」です。越境とは、自分が置かれている環境を離れることを指しますが、重要なのは、外から見てもう一度戻ってくるということです。社外の視点を持ちながら、改めて自分の居場所に戻り、自分自身や自社を見詰め直すことが、自己理解に繋がる手段として有効であると言えそうです。

 

 

越境経験で自律を支援するプログラム

 

このような越境経験を、計画的に提供する方法として、ローンディールが運営する2つの越境プログラムを紹介します。

 

①sideproject

 

「side project」は業務時間の20%×3ヶ月間で、社員をベンチャー企業のプロジェクトに参画させるプログラムです。

 

 

このプログラムは3つのプロセスで構成されています。

 

①内省:ワークショップ・対話・フィードバックを通じて、自分のWILLやCANを言語化

②マッチング:自分の経験が発揮できるベンチャーを探索

③実践:ベンチャーで業務を実施、主に自分のCANを発揮して事業に貢献

 週報や参加者同士での振り返りを実施

 
 

各プロセスで、参加者・ローンディール・ベンチャー等の他者の視点を交えながら、振り返りを行い、気づき学びを言語化します。

これらを通じて、自分のスキルやこれまでの経験が役立つことを実感し、キャリアに対する肯定感を高め、更に新しい挑戦に向かっていく意欲を醸成します。

 

②レンタル移籍

 

「レンタル移籍」は12か月程度、社員をベンチャー企業の事業に参画させるプログラムです。このプログラムは5つのステップで構成されています。

 

 

①内省:ワークショップ・対話・フィードバックを通じて、自分のWILLを言語化

②マッチング:個人の共感や導入目的に即してベンチャーを探索

③実践:これまでの経験にとらわれず、新たな挑戦に取り組む

④振り返り:メンターとの対話を通じて、経験学習(経験→振り返り→教訓化→挑戦→経験・・)のサイクルを回す

⑤組織還元:個人の「できること(CAN)・したいこと(WILL)」と組織のやるべきこと(MUST)を紐づけ、経験や学びの組織還元を後押し

 

 

これらのプロセスを通じて、自社・自分の可能性に気づくとともに、マインドセットをアップデートし、正解がない状況でも主体的に行動できる人材へと成長します。

 

いずれのプログラムにおいても「内省する」「機会を獲得する」「実践する」というプロセスを丁寧に設計することで、キャリア自律のサイクルを回す仕掛けがプログラムに組み込まれています。(自律に向けたサイクルについては私たちも試行錯誤を繰り返しています。サービスの導入に限らず、プロセスの設計にご興味がある方も、お気軽にご相談ください!)

 

自律人材にとっての「エンゲージメント」とは

 

ここまでキャリア自律についてお伝えして参りましたが、冒頭に記載したように、企業人事の本音としては、「エンゲージメントの低下」や「離職率」という心配もあるのではないでしょうか。そこで、ここからは「キャリア自律とエンゲージメント両立のヒント」についてお伝えして参ります。

 

エンゲージメントとは「自社に愛着を感じ、自発的に仕事に取り組む意欲を持っている状態」と言われます。

 

では、自律的に行動することができるようになった人材は、自社とのエンゲージメントをどのように捉えているのでしょうか。先述の亀山さん・開米さんはセミナーの中で以下の様に語っています。

 

自分にとってのエンゲージメントは「絆」のような感情的なものではありません。自分のWILL実現に対して、自社にリソース(人・物・金・情報・ブランド)があるということ。それがクリアになったということが、質的にエンゲージメントを高めたと感じます。一方で会社に全部を期待することはできないので、それは外に取りに行けばいいと思っています。(亀山さん)
 
エンゲージメントにも波があるというのが実情。自分のやりたいことや好きなことが見えてきたからこそ、それができない時にはエンゲージメントが下がることもある。でも、自分自身が環境を変えれるように動けば、エンゲージメントを高めることができる。だから、会社側も、そういう環境を用意することも重要だと思います。双方の動きが大事なのではないかなと思います。(開米さん)

 

この2人のコメントから、エンゲージメントにも論理的な要素と情緒的な要素があるということが見えてきます。自ら行動を起こすことができれば、論理的な要素においては社外を活用することで補完することができ、情緒的な要素については社内にある機会にアクセスできるという実感によって高めることができると言えるかもしれません。

 

エンゲージメントのために越境経験を活用する

 

亀山さんや開米さんのコメントから、社外を見て良い部分のみならず悪い部分も含めて自社を客観的に知ることがエンゲージメントに重要な役割を果たしているということが言えそうです。亀山さんは、自社に対して「隣の芝は青かったけど、外から見た自分の芝も青かった」とコメントしています。

 

つまり、キャリア自律とエンゲージメントというのはトレードオフではなく、むしろ、自律したからこそ、論理的・情緒的双方の要素においても質的な部分でエンゲージメントを高めるために動ける人材になっていけるということではないかと思います。

 

だからこそ、組織の側も、自社にどういう機会があるかを発信したり、その機会に人材がアクセスできるような環境を整えたり、という形で支援することが重要ではないでしょうか。

 

また、小国さんはすでにNHKを退職していますが、今でもNHKのことが好きで、一緒に仕事をするほどに良好な関係が継続していると言います。良好な関係を継続するために重要なことを小国さんは以下のようにコメントしています。

 

嘘がない会社、パーパスとやっていることが一致しているかどうかが大事ですね。できてるかどうかよりも、やろうとしているということ。そういう意味で、「がっかりさせないでほしいな」と思っています。

 

もちろん、離職が望ましくないという場合もあるでしょう。しかし、より広く長期的な目線をもって捉えれば、会社に所属しているかどうかではなく、関係性を継続し、組織の目的と合致させていくことは可能なのかもしれません。

 

最後に小国さんからは、「自律した人材がたくさんいることは、会社にとってもハッピーなことなはずです。だからこそ、自律的に動くことを許容できる制度や、そういう人と関係を継続していけるような組織風土を作ることにクリエイティビティを発揮してほしいと思います」とのコメントをいただきました。

 

 

以上、越境学習による「キャリア自律」と「エンゲージメント」の育み方について、セミナーを通じて学んだことをご紹介させていただきました。ローンディールは、越境を活用したキャリア自律とエンゲージメントに繋げる仕掛けづくりについて試行錯誤し、知見・ノウハウの蓄積に取り組んでいます。ぜひ、本テーマに関心のある企業人事の皆さんと一緒に取り組んでまいりたいと思います。

 

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(文・笠間 陽子)

 

 

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