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2023 .12 .27

【レポート】大企業のイノベーションに「プロパー社員」が必要な理由


 

※本レポートは2023年10月〜11月に行われたオンラインセミナー「越境学習がわかる全11回 事業創造編」の内容および登壇者の皆様からのインプットを受けて、ローンディール社として整理した内容です。

 

イノベーションの創出に取り組みながらも、なかなか成果が上がらずに苦戦している企業も多いのが現状です。そもそもイノベーションに必要なのは「型(仕組み)」なのか「人」なのか。ローンディールでは「人」とくに「プロパー社員」が重要だと考えています。その理由をご紹介するとともに、その「プロパー社員」にどのような経験を積んでもらうべきか、私たちの考えをご紹介しています。ぜひご覧ください。



イノベーションに必要なのは「型」か「人」か

 

「イノベーションを起こせていない」

 

これは、人事担当者が感じている自社の組織課題として、常に最上位に挙がってくる項目です。実際に「イノベーション」という言葉を聞かない日はありません。しかしながら、日本企業において、近年明確にイノベーションの成功事例として挙げられるものが増えているようには思いません。それほどまでにイノベーション創出は難易度の高い挑戦であり、スタートアップの成功確率もまた推して知るべしというところでしょうか。

 

それでも企業としてイノベーションに取り組んでいかなければ、新しいプレイヤーによって現在の地位が脅かされ、いずれ市場から退場を迫られてしまう。頭では分かっていても、そこに本当の意味で危機感を抱いて取り組んでいくことにもまた、難しさがあります。

 

そのような背景から、イノベーションを支援するための多くの仕組みや取り組み、具体的にはCVCの設立やオープンイノベーション促進のプログラム、新規事業提案制度などの「型」が注目されてきました。一方でイノベーションを担う「人材」を育成する目的のプログラムにも様々なものがあります。私たちローンディールが提供する越境プログラムも「イノベーション人材」を育成するという目的で採用されるケースは少なくありません。

 

では、イノベーションを起こしていくために必要なのは「型」なのか「人」なのか。最も効果的な方策はどれなのか。もちろん、そこに画一的な正解があるはずは無いのですが、私たちは順番として「人」の育成から取り組んでいくことが必要なのではないかと考えています。さらにいうなら、特に大企業のイノベーションにおいて重要な「人」は、「プロパー社員」であるという考えを持っています。

 

※本稿における「プロパー社員」とは主に新卒入社の方を指しますが、明確な線引きはなく、第二新卒や入社歴の長さによって同程度の関係性を有している方も含みます。

 

以下、詳細をご紹介をしてまいります。

 

 

イノベーション創出の鍵は「プロパー社員」

 

企業において何か特定の目的を達成するために人材が必要となった場合、取りうる選択肢は主に3つです。社内で育成するか、中途採用するか、外部の専門家に業務委託などで協力を仰ぐか、です。これらの選択肢のうち、特にイノベーションという目的においては、プロパー社員の育成が重要です。

 

この点、意外に思われる方もいらっしゃるかもしれません。米国においてはアクハイアリングと呼ばれるように、企業を買収し、その経営者ごと自社に招き入れてイノベーションを担わせるといった事例も増えています。日本においても中途採用は活性化していますし、新規事業伴走を行う社外の協力者も増えています。

 

しかし、流動性が低く同質性の高い状態にある日本企業においては、それら「中途採用」や「業務委託」という打ち手が効果を発揮するためにも、まず、プロパー社員を「育成」し、活性化する必要があるのです。



プロパー社員の持っている「信用貯金」と「溜め」

 

なぜプロパー社員が必要なのか。20年以上ベンチャーキャピタリストとして活躍され、『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則』の著者でもある中垣徹二郎さんは、その理由を「信用貯金」と「溜め」という2つのキーワードで説明しています。(イノベーションといっても様々な領域が想定されますので、ここからはより具体的に、新規事業創出というテーマに絞って考えていきます。)

 

ベンチャーキャピタリスト 中垣徹二郎さん

ベンチャーキャピタリスト 中垣徹二郎さん

 

そもそも新規事業がすぐに企業の既存事業と比肩するような売上になることはあり得ません。中垣さんは以下のように指摘します。

 

新商品と新規事業は違います。新商品であれば数年単位で上市されるものですが新規事業は時間がかかる。10〜20年かけて二次曲線にしていくものなので、R&Dに近い捉え方をしなくてはいけません。10年経って認められるようになっていく。そういう時間軸を経営層も、執行側も理解して取り組む必要があります。

 

 

しかし、短期的に数字が上がらない状況が続くと、社内からその存在意義を懐疑的にみられてしまいます。だからこそ、社内で信用を持っている人、つまり「信用貯金」がある人が新規事業に取り組むことが重要だと中垣さんは指摘します。

 

実際に日本特殊陶業で新規事業に取り組み、先日オンラインセミナーに登壇いただいた伊藤夏海人さんは、以下のようにコメントをしています。

 

私はもともと営業部にいたんですが、その時は今自分がいる新規事業部門に懐疑的な思いを持っていたんです。だから理解できない人の気持ちがすごくわかりますし、そんな経験があるからこそ、既存部署の人をつなぐパイプになれる。そうやって動いていって、「この人がやっていることなら、きっと大丈夫だろう」と私自身を信用してもらうことがすごく大事だと考えています。
 
伊藤 夏海人さん 日本特殊陶業株式会社 モビリティビジネスカンパニー 戦略マーケティング部

伊藤 夏海人さん 日本特殊陶業株式会社 モビリティビジネスカンパニー 戦略マーケティング部

 

(レンタル移籍経験者でもある伊藤さんのインタビュー記事はこちら。)

 

 

続いて、中垣さんが指摘する2点目のポイント、「溜め」についてご紹介します。

 

大企業で新規事業に取り組むものの、事業化していく過程で「売上規模が小さい」という理由で頓挫してしまうことが多くみられます。数百〜数千億円規模の既存事業を持つ大企業にとって、新規事業だからといって数億円しか見えない事業に取り組むことに意義を見出しづらいのが実情です。出島的な組織をつくり、新規事業創出を担わせるという方法もありますが、これも同様の障壁に直面します。

 

だからこそ、どこかのタイミングで既存事業と「融合」し、売上に対するインパクトを強める仕掛けが必要になります。そして、その際に重要となるのが「溜め」です。新規事業や協業先のスタートアップが持っているポテンシャルと、既存事業の状況や課題、その両者を把握し、適した時期を見極めて融合を図らなくてはならないのです。そのために新規事業担当者は新規事業を生み出すことと並行して、自社の既存事業にも精通していなくてはなりません。

 

つまり、大企業でイノベーションを創出するためには、蓄積された「信用貯金」に基づいて周囲を巻き込み、主力事業の状況や課題を把握して「溜め」を作りながら適切なタイミングで既存事業と新規事業(もしくはスタートアップ)の接続を図っていく必要があるということです。

 

この2つの要素によって、新規事業が大企業において具体的なイノベーションの成果として現実的なものになるのです。もちろん中途入社の社員でも「信用貯金」や「溜め」を作れる人材になることは可能ですが、組織が大きくなるほど時間がかかるため、プロパー社員を育成し、この役割を担わせることが効率的であると言えます。



プロパー社員にスタートアップを経験させる

 

ここまでのお話で、プロパー社員の方が活きるポイントは明確になったかと思います。しかし、当然ながら現状のままで良いわけではありません。そこにはどのような育成課題があるのでしょうか。

 

再度、中垣さんのコメントを引用します。

 
学習機会として重要なのは、社外に出て、さまざまな事業に触れる機会です。気がつくと社内や自分のいる業界のことしか見ない状態になってしまう。外を見にいく機会を作りにいかなくてはなりません。

 

特にプロパー社員には、必然的に社外での経験が不足しています。では、どのような経験を補完すれば良いのでしょうか。

 

冒頭にも申し上げたように、イノベーションを創出するという取り組みは、圧倒的に成功確率が低いものですから、スピード感を持って仮説検証を繰り返していかなくてはなりません。そして、前例や実績がない中で、意思決定をしなければなりません。

 

また、オープンイノベーションという形でスタートアップとの連携を図るのであれば、どのようなスタートアップが存在するかを幅広く知っていなければなりませんし、その情報を得るためのネットワークも必要です。さらに言えば、スタートアップ側の行動原理を理解していなければ、良いパートナーシップは築けません。

 

これらの要素をどのようにして、プロパー社員に学んでもらうべきか。結論から申し上げると、実践的に経験することが重要です。いくら本で読んで頭で理解しても、経験していなければ行動に反映されることは難しいからです。

 

では、どのような環境であれば経験を得られるのか。それが、スタートアップの現場であると考えています。スタートアップは、イノベーション創出に実践的に取り組んでいる環境です。

 

そして、スタートアップの現場を経験する具体的な手法として、私たちローンディールが提供する、「レンタル移籍」「outsight(アウトサイト)」という2つのプログラムがあります。

 

「レンタル移籍」は半年から1年間、実際にスタートアップで働く機会を通じてそのプロセスを経験し、イノベーションに取り組む人材としてのマインドセットを醸成するプログラムです。レンタル移籍を経験し、復帰後は新規事業に取り組んでいる朝日新聞社の梅田高史さんはレンタル移籍の経験を以下のように振り返ります。

 

 

 
「自分の仕事の線引きをしなくなったこと」でしょうか。マルチタスクでできることを増やしたいと考えて取り組み、とにかく前に進めていく機動力・馬力・能動性が身についたと思います。

現在の新規事業の仕事は、既存のプロダクトやサービスを深掘りする従来の仕事と異なり、「まったく新しいことをやりましょう」というものなので、しんどくなることもあります。そんな時も「とりあえずやってみようか」というマインドは、レンタル移籍の経験を通して得たものですね。

 

梅田高史さん 株式会社朝日新聞社 メディア事業本部 事業創造部 次長

梅田高史さん 株式会社朝日新聞社 メディア事業本部 事業創造部 次長

 

 

もう一つのプログラム「outsight(アウトサイト)」は、スタートアップが抱えている経営課題を題材に、経営者や他社の人材と議論するオンラインプログラムです。このプログラムは主に大企業のミドルマネジメント層を対象にしています。なぜなら、大企業においてミドルマネジメント層になるにつれて社外に対する情報感度が低くなってしまうという傾向にあるからです。

 

 

しかし一方で、信用貯金を持ち、既存事業に対する知見の深さという点で、イノベーションを創出するためのキーパーソンとして、ミドルマネジメント層が担う役割は大きいと捉えています。そこで、「outsight」は、多忙なミドルマネジメントの方々でも参加しやすいオンラインで週90分という設計をしています。

 

もちろん弊社の取り組み以外にも、スタートアップ的な動き方を学ぶ手段はあるかと思います。重要なのは、それを「経験」として蓄積し、行動に反映できるかどうかということです。そのような観点を抑えながら、プロパー社員に対する学習機会を設計していくことが大切ではないでしょうか。



まとめ

 

前段では、大企業のイノベーションには、長期的な時間軸に基づいて、既存事業との融合を図りながら取り組むことが重要であるということ。そして、そのためには「信用貯金」と「溜め」を作ることが重要であり、プロパー社員が果たすべき役割は重要であるということをお話ししてきました。そしてそのプロパー社員に、スタートアップを経験させ、イノベーション創出に適した行動様式を獲得してもらう必要性があるというお話をしてまいりました。

 

さらに補足すると、このような社員が増え、ハブになることによって、中途採用で獲得した人材やスタートアップとの連携も円滑になったり、外部の専門家が提供するイノベーションに必要な「型」を活かしたりすることができるようになります。

 

つまり、イノベーションはすべて、人から始まる。そして、大企業においては「プロパー社員」がその鍵を握る。私たちはそのように考えています。

 

>>「レンタル移籍」他、越境施策導入のご相談はこちらから

 

(文・原田 未来)

 

 

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