【2026年 人事も越境しよう!】人事が外に出ることで、組織はもっと面白くなる
ローンディールでは、「人事の越境」をテーマに、 イベント「人事はもっと面白くなる!人事のレンタル移籍体験」を開催しました。場所は、人事をはじめとする「人・組織課題に向き合うすべての人」のための学びと交流の場「人事図書館(東京都中央区)」。
人事が社外に飛び出すと、何が起きるのでしょうか。当日は、ローンディールが提供する越境プログラム「レンタル移籍」、「side project」を経験した2名の人事パーソン、日産自動車株式会社の小島奈津子さんと東京ガス株式会社の政春敦史さんが登壇。ローンディール・笠間が進行役となり、リアルな越境体験から「人事が越境する意義と可能性」を探りました。
会場に集まった人事担当者からは共感の声があがり、会場全体が越境ムードに包まれました。盛り上がったそのイベントの一部を要約してお届けします。
目次
10年で得られる経験を1年間のベンチャーで獲得する
日産自動車ではたらく小島さんは新卒で人事コンサルタントを経験したのち、2021年に日産自動車へ転職。組織や人材の側面から事業成長を支援するHRBPとして、さまざまな事業に関わってきました。
「採用も異動も研修も評価も幅広く経験し、充実していました。一方で、大企業なので仕方ないのですが、会社全体を見渡す視点を持つのが難しくて。年数をかけて複数部署へのローテーションを重ねる前に、もっと早く経営を体感したいと思ったんです」
そんなとき、担当部門の社員が「レンタル移籍」を通じてベンチャー企業に出向。担当人事の立場でその社員の週報・月報を読み、現場で経営に近い立場から事業を動かす姿に触れ、「これだ!」と直感したといいます。
「経営者に近い立場でビジネスを回す経験ができる。小さな組織で全体を見る力を養えば、日産でも活かせると思いました」と語る小島さん。日産自動車としては、人事部門では初めてのレンタル移籍。2024年4月から1年間日産を離れ、前例のない挑戦が始まりました。
越境先は、定期巡回・随時対応型訪問介護看護(サブスク型の訪問介護事業)と、介護現場向けアプリを自社開発する、介護 × テックのベンチャー・スリーエス株式会社。
「高齢者が在宅で最期まで過ごせる世界をつくることを掲げている会社で、とても共感したんです。社員は(当時)約50人でほとんどが介護職の方、数名がエンジニアとコーポレートスタッフという現場でした」。
では具体的にどのような活動をしていたのでしょうか。
「前半は、採用や業務改善から行うことになりました。アナログな契約手続きを効率化したり、新しい介護の事業所を開設するために、自転車で開設予定エリアを走り回ったり(笑)。毎日が未経験のことだらけで、手探りでしたね。後半は、事業の収益にも関わる立場となり、ひとつの事業所のビジネスリーダーをさせていただくことになって。ケアマネージャーの方への営業活動や事業所のカルチャー改革などを担っていました」

越境した人事が社内にいると、現場の安心につながる
こうして未経験の活動にチャレンジする中で、さまざまな気づきがあったといいます。
「一つ目はお金の重みです。人事にいると自分でお金を稼ぐという経験はあまりできないですよね。でも、(介護サービスの)利用者の方やそのご家族にサービスを提供してお金をいただくという経験をして、お金をいただくことの裏には、その人の人生があるということを身をもって実感しました」
「二つ目は、『本当に守るべき条件は何か』という考え方。新しい事業所を開設するときに、物件がなかなか見つからなくて、もう無理だ!となっていた時期がありました。そんな時、代表に、『これだけは譲れないという条件はどれだと思う?』と問われて、ハッとしました。譲れない条件と、柔軟に考えても良いことを整理して考える必要があるんだと。手放すことを決めたことで、前に進めることができました」
「三つ目は、結局、営業も人事も対人職種だということです。相手がどう感じるかを敏感に察知して、言葉遣いを変えたり、伝え方を工夫したことで、初めての業界の方々ともスムーズな会話ができました。 人事で培ったコミュニケーション力が営業にもそのまま活きたなと思います」
こうした気づきを経て帰任した小島さんは、改めて「人事が越境する意義」を実感しており、以下のように整理しました。
・結局は人だということ・・・一人ひとりの特性を活かすも殺すも人事次第。 越境してから、人を見る目が変わった。
・ビジネスの解像度が段違いに上がる・・・現場に近い経験をすることで、お金を稼ぐことの意味が見えてくる。数字の裏に人の暮らしや想いがあると分かった。
・社外のリソースという選択肢が増えること・・・社内だけじゃなく、外にも助けを求められる。
小島さんは現在、社内で「越境ラウンジ」という小さな試みを始めています。人事フロアの一角に本棚を設け、月に一度ランチをしながら語り合う場です。「まずは人事自身が越境のきっかけをつくる。それが社内の空気を変える第一歩になると思っています」と話します。
また、越境経験のある人事が社内にいるだけで現場の安心感につながっている様子。「事業側のレンタル移籍経験者に、“人事が越境してくれて嬉しい”と言われたんです。経営側に理解者がいることが、現場にとって励みになるようです」とのこと。
小島さんの越境体験は、「人事」という仕事の輪郭をもう一度描き直す時間だったのかもしれません。

午前はベンチャー、午後は東京ガス。
二足のわらじで得た気づき
東京ガスではたらく政春さんは、2011年に東京ガスへ入社。営業支援などを経て、現在は小売部門の人事に就任。主には人事異動、昇格、賞与などを担当しています。
元々は、人事担当者として「side project」を導入。社員に、越境体験を通じて社外で発揮し、学びを自身の成長やキャリア形成に結びつけてほしい。そんな考えがありました。
同プロジェクトはフルコミットで長期間参画する「レンタル移籍」とは異なり、業務の20%を使って3ヶ月間ベンチャーへ行くというもの。
政春さんは「効果を実感するため、まずは自分も参加してみようと思いました」と、事務局でありながら、参加者のひとりとしてもベンチャーへ行きました。
行き先は、「はぴこ」という誰もが自分でコミュニティを作ることができるWEBプラットフォームを運営する株式会社CoCreate。ユーザーはお得に商品・サービスが購入でき、サプライヤーは安定して供給ができるという革新的なしくみです。政春さんは主に営業や営業支援として参画。商品を掲載したいサプライヤーと面談をしたり、掲載する商品の選定などにおける整備に取り組みました。また、人事の経験を活かして採用に関するアドバイスや面接シート作成のサポートなども行いました。
働き方も特徴的で、「午前はCoCreate。午後は、東京ガスで働くという時間の使い方をしていました。side projectは自分含めて、現地に行くよりもテレワークで参加していた人が多いと思います」と話します。

3ヶ月の越境だけでは終わらない。
社内で生まれている新しいチャレンジの数々
小島さん同様、政春さんも未経験の領域に飛び込み、数多くの気づきを得たといいます。中でも印象に残っているのは、次の2つでした。
・経営者の視座と行動を間近で見る
「最も新鮮だったのは、経営者の考え方や行動を目の当たりにできたこと。ベンチャーでは社長自らが発信し、スピード感を持って事業を前に進めていきます。メンバーへの伝え方や、ベンチャーキャピタルとの資金調達の話など、経営の現場をリアルに感じられる機会が多かった。経営者の視座で物事を考えるというのはこういうことか、と肌で学べた経験だった」と振り返ります。
・自分の行動がどう見られているかに気づく
チャットツールで日々の業務を共有・発信する中で、さまざまなフィードバックをもらうことがあり、「自分はいま何をしているのか」「周囲にはどう映っているか」を意識するようになったそう。普段の職場では得られない“外からのフィードバック”を受けることで、自分の仕事を客観的に捉え直すきっかけになったそう。
また、他の参加者からも同様の意見が出ており、「スキルを相対的に見ることができた。普段している業務を社外から評価してもらうことはなかなかない。それで自分の立ち位置がわかった」という声も多々あった様子。
そして、3ヶ月の越境プログラムを終えたあとも、政春さん含め、参加者の越境は続いています。自ら手を挙げて新規事業開発の現場へ異動した社員、兼業制度を活用してベンチャーと関わり続けるメンバーなど、新しい動きが次々と生まれているとのこと。
政春さん自身も社内で越境施策を立ち上げました。カンパニー内で手を挙げ、他部署の仕事を期間限定で手伝う。そんな小さな社内越境の仕組みづくりが始まっています。
「外に出たことで、社外の動きにも敏感になり、知らない世界から新しい知見を得ることができた。自分自身にとっても社員にとっても価値ある取り組みだったと感じています」
越境の経験は、一人の視野を広げるだけでなく、組織の中に“動き出す空気”を生み出していく。それが次の挑戦を生む原動力になっていくのかもしれません。

人事の越境が、組織に新しい風を吹き込む
お二人の発表を受けて、会場からの質問タイムへ。
笠間:会場からの質問です。「大企業にどんな条件が揃っていれば越境経験が社内で広がるのでしょうか」とのことですが、いかがでしょうか。
小島:越境の位置付けにもよると思いますが、自社の場合は、30歳までの若手向けで展開しています。そのため帰任後も目の前の業務をやらねばならず、身につけた知識や経験をすぐに活かせる環境が得にくい場合もあります。
なので、周囲の理解が大事じゃないかなと思います。特に、経験を活かそうとサポートしてくれる上司の存在は大きいですね。またはいかにチャンスを作るか。日頃の業務から離れて、経験を発揮できるようなチャンスをしくみとして作ってあげると良いかなと思います。
笠間:続いての質問です。「初めて越境プログラムを実施するなら、 何から始めたら良いか」とのことですが。
政春:新規事業開発の職場はどうでしょうか。ベンチャーで実際にどう事業開発を行っているのか。さまざまなフェーズがあり、そのまま使えるかはわかりませんが外の動き方を見て、自社でどう動くべきかと反映しやすい部門だと思います。side project の場合は、両社で同時に業務をしているのですぐに反映できます(笑)。
あと弊社の場合は、現場の設備点検をしている人なども一定数出しています。そういう職場は戻ってきてどう反映するかは難しいところですが、「固定的な仕事が多いため、外の世界に触れてほしい」と後押ししてくれる上司もいます。
笠間:皆さんのお話を聞きながら、改めて確信しました。人事が外に出るというのは、単に“外の世界を知る”だけでなく、“自分たちの仕事の意味を再定義して経営を推進する”ことに繋がります。
社内にいると、どうしてもロジックや判断軸が内向きになりがちです。けれど、越境を通じて経営や社会のリアルに触れた瞬間、「自分たちの仕事がどこにつながっているのか」「なぜこの制度をつくるのか」といった本質的な問いが立ち上がってきます。小さな組織で全体を見渡す経験をした人事は、もはや“制度を運用する人”ではなく、“経営と現場をつなぐ人”になります。
つまり越境は、人事の仕事を「守る」から「創る」へとシフトさせるトリガーなんです。多様な視点を得て、経験の質を上げ、経営のリアルに触れるといった越境は特別な冒険ではなく、これからの人事の“日常”になって欲しいと感じます。

参加者からは、「キャリア自律の取り組みの選択肢のひとつとして越境機会を作りたいと思った」「越境を組織に取り入れるとき、得られる学びを整理して共有すると理解が進みそうだと感じた」などのコメントが寄せられ、越境への関心と理解が一段と深まった様子でした。
そしてこの日は、川崎重工業株式会社ではたらく原純哉さんが越境活動で行っているグラレコを披露。当日の様子をわかりやすくまとめてくれました。

越境とは、肩書きを脱いで “自分” として働く経験。その視点の変化が、人事としての眼差しを少しずつ変え、組織にも新しい風を吹き込む。
小島さんと政春さんの体験は、「人事が外に出ること」が、個人としての学びだけではなく組織そのものをしなやかに変えていく力になることを示していました。人事が越境することで、組織はもっと面白くなる――その可能性は、まだ始まったばかりです。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!
Fin
文・レポート=&LoanDEAL編集部




