半年で“別の自分”に生まれ変わる!?村田製作所の越境人材3人が語る「ベンチャー留学」のリアル
成長の停滞感、キャリアへの迷い、ゼロイチ経験への関心——。
それぞれのモヤモヤを解決するために、2025年春、村田製作所の3名が、ベンチャー企業に半年間フルコミットする「ベンチャー留学」に参加しました。
飛び込んだ先は、最新鋭の宇宙ベンチャー、小中高生向けキャリア教育を支援するソーシャルベンチャー、視覚障がい者を支援するハードウェアベンチャー。それぞれ全く異なる未知の世界。専門外の領域、圧倒的なスピード、意思決定のはやさに戸惑いながらも、3名は、自分をアップデートしていくのでした。
ベンチャーから帰任して約2ヶ月。当事者である株式会社村田製作所(以下、村田)の河田光司さん、新居慎也さん、盆子原彩可さんの3名に、ベンチャーに身を置いた半年で起こったこと、そしてどのような変化があったのか。リアルなエピソードを伺いました。
(※ ローンディールが提供する「レンタル移籍」を通じて、半年間ベンチャー等で働く取り組みを、村田製作所ではベンチャー留学と呼びます。本記事は2025年11月にインタビューしたものです)
目次
会社に所属しながら、新しい世界を体験できる
私たちがベンチャー留学を選んだワケ
ーーみなさんはなぜ、ベンチャー留学に参加したのでしょうか。これまでのキャリアと合わせて教えていただけますか。
河田:私は村田製作所に中途入社して5年目で、通信モジュール事業部の技術開発・商品開発のエンジニアをしています。
仕事にやりがいはあるものの、業務にも慣れ、インプットや環境に変化がなく、成長が鈍ってきたと感じていました。このプログラムなら「スタートアップで働く経験を通じて刺激を得られるのでは」と思い、挑戦してみました。
行き先に、視覚障がい者向けナビゲーション「あしらせ」の販売・研究開発を行う株式会社Ashiraseを選んだのは、大企業からスピンアウトしたハードウェアスタートアップだからです。
私も以前、大企業で新規事業を担当したことがあるのですが、スピンアウトして起業するといった経験はなかったので、どうしたらそこまでインパクトのあることができるのか、その知見を学びたいと思いました。

Profile 河田 光司(かわだ・こうじ)さん
2021年村田製作所に中途入社。通信モジュールの技術開発や商品開発を担当。ソフトウェアの開発や無線通信技術の開発を行い、そのソフトウェア・技術を通信モジュールに搭載している。 ベンチャー留学からの復帰後も、ベンチャーにて培った視座を活かしながら、新規商品開発や技術開発を行っている。 ベンチャー留学先は株式会社Ashirase
新居:私は新卒で村田に入り、約8年間、通信モジュールの技術営業を行ってきました。長く同じ部署にいる中でゼロイチの仕事に挑戦してもうまくいかず、また、前例も少ないので、悩んだ時に誰に相談すべきかもわからない状況でした。
そこで「ベンチャーのスピード感の中で、ゼロイチの力を本気で鍛えたい」と思い、上司に相談してこの制度を使うことに。初めてのベンチャーで不安はありましたが、ワクワクの方が大きかったですね。
宇宙技術を活用した事業開発を行うSpace Tech Accelerator株式会社を選んだのは、全く知らない領域の方が、半年後の成長が大きいと思ったからです。ですが、最初の2ヶ月くらいは内容が難しすぎて全然ついていけなくて、当時は後悔しました。勉強してもディープテックの話に全然ついていけない。宇宙業界難しすぎるぞ、失敗したかもみたいな(笑)。
でも、結果的に半年で成果も出せましたし、未知のジャンルに対する知識習得のスピードが上がって。今では正解だったと思いますね。

Profile 新居 慎也(にい・しんや)さん
2018年村田製作所に入社。通信モジュールの技術営業として世界的スマートフォンメーカーから車載メーカーまで国内外の幅広い顧客を担当し、製品提案から量産化までをリード。 2026年1月より新部署へ異動予定。異動先でもベンチャーで培った「稼ぐ力」を活かし、新規ビジネスや顧客開拓で価値創出を目指す。 ベンチャー留学先はSpace Tech Accelerator株式会社
盆子原: 新卒で調達部の企画課に配属となり、システム関連の企画を担当してきました。今年で5年目なんですが、知人がキャリアチェンジしたりする中で、「自分はこのままでいいのかな」とモヤモヤしていました。
何か変化が欲しいけど、転職したいわけでもない。そんな時にこの制度を知って、「これだ!」と思って応募しました。村田に所属したままベンチャーに挑戦できるのは、本当にありがたい仕組みだなと。
行き先のCHEERS株式会社は、こどもシゴト博®をはじめ、小中高生向けの事業を行っているベンチャーです。子どもが好きなので、一度関わってみたいと思って選びました。また、今の業務で企画やプロジェクトマネジメントをしているので、そのスキルが活かせると良いなという視点もありました。

Profile 盆子原 彩可(ぼんこはら・あやか)さん
2021年村田製作所に新卒入社。調達企画管理課に配属され、主に新規システムの企画・導入や既存システムの改善を担当している。 子どもに興味があったことから、CHEERS株式会社で半年間のベンチャー留学を経験。帰任後はベンチャー留学で得たスピード感を活かし、AI利活用の業務等にも携わっている。
課題設定、事業開発、プロジェクト推進ーー
ベンチャーで鍛えられた・役に立った力とは?
ーー具体的にどんな活動をされていたのでしょうか。河田さんいかがでしょうか。
河田:さまざまなことをやりましたが、メインは商品の海外事業展開でした。海外で医療機器として展開するため、法規制への対応や、それに必要な品質保証体制の構築、組織づくりを担当していました。
私自身も専門ではなかったので最初は戸惑いもありましたが、ここを整えないと前に進めない状況だったので、「やったことはないけどやってみましょう」という形で取り組みました。
ーー慣れない中でも、どんどんキャッチアップして、ご自身の意見をしっかり伝えていたと伺いました。
河田:半年しかないので、最初からそうしようと決めていたんです。Ashiraseのメンバーが好意的でコミュニケーションが取りやすく、ディスカッションもスムーズだったので、方向性をすぐに決めてサイクルを回すことができたのだと思います。
ベンチャーはステークホルダーが少なく意思決定もはやいので、そういう環境が、自分の特性とも相性が良かったのかなと。とても動きやすかったですね。
ただ、「しゃべりすぎて喉を痛めた」のは衝撃的な出来事でした(笑)。コミュニケーション量がとにかく多く、自分の考えをどんどん出す必要があったので、身体が追いつかなかった。人一倍意識して話していたのだと思います。

ーーちなみに、「経験がない領域」にもかかわらずスムーズに業務ができたのは、環境以外にも要因がありそうですが、いかがでしょうか。
河田:そうですね。しっかり勉強して、論理的に「何が必要か」を分析して、外部の情報も取りながら客観的に向き合えたからかもしれません。私、元々は研究者なんです。だから「これをしたい」というテーマを自分で創造して設定していましたし、課題から定義して、それに対して検証していくスタイル。
なので、経験もないけれど、今までも“よくわからないこと”ばかりを仕事にしてきたからこそ、できた部分はあるんじゃないかなと。そういう意味では研究職としての経験がすごく活きたと感じています。
ーーこれまでの経験が自然と応用できたのですね。続いて新居さんは、どんなことをやられていたのでしょうか。
新居: ゼロイチの事業開発・ビジネス開発を担当していました。私が入った時点では創業から2年。まだ事業の骨格を描きつつ、同時に売上の初動を作らなければならない局面だったので、とにかく事業開発にフォーカスして、半年間ずっと取り組んでいました。
村田製作所では、商品がある前提で「どう売るか」「どうお客さんにフィットさせるか」という技術営業だったので、“売ってお金を稼ぐ”という意味ではつながる部分もありますが、やっている中身は全然違いましたね。
ーー社長のシャドーイングをして、キャッチアップしていったそうですね。
新居: はい。とにかく社長の行動量がすごくて。「社長の動きを真似れば僕も稼ぐ力がつくだろう」という仮説で、最初はずっと社長について回っていました。
最初の1ヶ月は社長のサポートのような感じでしたが、2ヶ月目に入ると案件が増えて、社長の業務を自分がやることになったりして。そこでいろいろ経験させてもらい、めちゃくちゃ鍛えられました。

ーー盆子原さんはどんな活動をされていましたか。
盆子原: 私はこどもシゴト博®というイベントのプロジェクトマネジメントや、企業のファミリー向け企画など、とにかくプロマネ業務を担当していました。分野は違いますが、これまでシステム関連でプロジェクトマネジメントをしていたので、周囲と連携しながら進めていく方法など、経験がすごく活きたと思います。
一方で、これまで、ユーザーの方と触れ合う機会がなかったので、子どもや親子と直接触れ合うことができて、“生の声”を聞けたのは新鮮でした。直接ユーザーに届ける、触れるという初めての経験で大変さもありましたが、やっぱり「子どもたちが可愛いな」とか「ありがとうって言ってもらえた」とか、そういう瞬間が原動力になっていました。

半年で起きた“内側の変化”
タガが外れ、自信が芽生え、軸が定まった
ーー刺激的な日々が伝わってきました。改めて半年間のベンチャー経験を経て、マインドやスキルの変化はありましたか。
河田: “タガが外れた”感じがあります。スタートアップで視野が一気に広がり、フットワークも軽くなって、コミュニケーションも以前よりずっと積極的になりました。
ベンチャーはお金も組織も全部見える環境なので、その視点で組織のことを考える癖が自然とつきました。これまで知識しかなかった部分に経験が乗って解像度が上がり、自信につながっています。
組織づくりを任されたことで、技術視点だけでなく会社全体をどう動かすか考えるようになりましたし、たった半年ですが、(ベンチャーに行く前の)3月の自分とは全然違いますね。
ーーご自身の中での成功体験はありますか。
河田: やはり組織づくりです。品質保証や法規対応のような曖昧な領域をゼロから整理し、ルール化することができました。医療機器の法規対応も国際規格を満たす形で構築できて、自分は「言語化」と「表出化」が意外と得意なんだと、初めてわかりました。

ーー得意なことがわかるのも越境の魅力ですよね。新居さんはいかがでしょうか。
新居: 「何でもできるかも」という変な自信がつきました。宇宙・エネルギー・環境など未経験の分野ばかりで、人も少ないから契約まで自分で動いてまとめることも多くありました。
ベンチャーでは今日勉強して明日提案するというスピードだったので、未知の分野を高速で吸収しアウトプットする力が徹底的に鍛えられました。これはどの分野でも応用できると思います。
ーーインドネシア出張でも活躍したと伺いました。
新居: インドネシアには3回行きました。最後は一人で行って新規ビジネス開発に挑戦させてもらいました。政治情勢もあり苦労しましたが、大きな案件の引き合いを頂くことができ、嬉しかったですね。現地まで赴き、相手と関係性を作り、刺さる提案をしっかりできたことが要因だと思います。
これらができたのも社長の指導のおかげです。相手の予算・サービス品質・ストーリー構築など、提案が採用されるために必要なことを実務の中で徹底的に学べた結果。そこに辿りつくまで、めちゃくちゃ苦労しましたけどね(笑)。でも社長に「考えすぎず、まず動こう」と言われ続けたことで、成長しました。

ーーそれは貴重な経験でしたね。盆子原さんはいかがでしょうか。
盆子原:側から見るとあまり変わっていないように見えるかもしれませんが(笑)、自分自身と向き合う時間がとても多く、内省できた半年でした。
全く違う環境に身を置く中で、「私って何がしたいんだっけ?」と考え続け、行動そのものは大きく変わっていないけれど、今やっていることに納得感が生まれたというか。自分が大切にしているものを再確認できた期間でした。マインドがガラッと変わったというより「今やっていることが腑に落ちた」という感覚に近いです。
ーーイベントをイチから立ち上げた経験も大きかったのではないでしょうか。
盆子原: 大きかったです。自分がワクワクするテーマを形にできて、しかも裁量も大きく、ある程度任せてもらえました。なので楽しんでできましたし、その結果、うまくいったと思います。
周りのメンバーが「どうやったらできるか」を考える人ばかりで、まず「できない」という思考にならないんですよ。大きな組織だと、自分だけでは変えられないという理由で止まることも多いです。もちろん現実問題できないこともありますが、まずは「どうしたらできるか」という思考が大事なんだとわかりました。

越境後に始まる“第2のチャレンジ”
それぞれが描く、これからの姿
ーーみなさんが越境経験を活かしてこれからチャレンジしていきたいことを教えてください。
新居:一旦元の部署に戻ってきたものの、1月に新たな部署への異動が決まっています(※ 取材は2025年11月)。なのでまずは、新しい部署でどう価値を出すか考えているところですが、少なくとも、ベンチャーで得た「稼ぐ力」を活かし、新規事業や新しいビジネスづくりで売上に貢献したいと考えています。
新しい部署でも技術営業に関わるのですが、ゼロから顧客開拓する場面も出てくると思います。扱う製品をベースに新しいビジネスをつくる話にも展開していくと思いますので、新規事業の部分でも動いていけたらいいですね。
河田: 私は異動がないので、今の部署で活かしていきたいです。現在、周りの協力もあって裁量も大きく、本当にやりたいことができる状態にあります。ベンチャーで視野が広がり、脳が活性化している感じをしっかりキープしておきたいですね。
QMS(品質管理システム)づくりや法規対応など、会社が今必要としているテーマと自分のスキルがちょうど重なっているのでリードできるのではと。すでにこれらのことを動かし始めており、「条件が揃いすぎてこわい」くらい良い環境です。今後さらに忙しくなるので頑張りたいです。
ーー盆子原さんもお願いします。
盆子原: まずは今の部署で、外で見てきたスピード感や姿勢を少しでも活かしたいと考えています。私が全部を変えられるわけではないですが、自分次第で動ける部分があるなと気づいたので、意識して取り組んでいきたいです。

ーー最後に。組織に属しながら、“あえてベンチャーに行く”意義はどこにあると考えますか。
河田: 一言でいうと「違う自分になれる機会」かもしれません。ベンチャー留学は、今までの仕事をいったん全部手放し、住む場所も変えて、100%その会社にコミットする。そうすると、これまでとは全く違う立場・役割で働くことになるんです。
大人になってから“別の自分として生きる”経験って本当に少ないので、そういう意味でめちゃくちゃ価値があると思います。
盆子原: 私は「大企業の当たり前が覆る場所」だと思っています。大企業にいると、良くも悪くも“仕組みの中で働くことが当たり前”になりますよね。
でもベンチャーでは、それが全然当たり前じゃない。自分が何を大事にしているのか、どんな時にワクワクするのか、逆にどんなことにストレスを感じるのか、そういう自分の根っこの部分にも気づけます。
新居: 僕は「レベルアップできる場所」です。大企業の強み・弱みもよく見えるし、全く違う仕事を半年間フルコミットでやるから、本当に成長のジャンプ幅が大きい。普通なら何年もかかる経験を、半年で一気に積める感覚です。
しかも期間限定だからこそ本気でやれるし、帰ってきた時に別の景色が見える。そういう極端な成長機会って、他にはなかなかないと思います。

ーー村田製作所は、経験した先輩や、同期がいるというのも、安心してベンチャーへ行ける理由かなと思います。
一同:(うなずく)
新居:同期の週報をお互い見られるようになってて。盆子原さんや河田さんがどんな状況なのかふむふむって読みながら、「あ、自分も頑張ろう」って思えたんですよ。それだけで心が支えられましたね。
また、どう動けばいいかとか、相談に乗ってくれる先輩がいたのも大きいです。仕事が始まれば各自で頑張るしかないんですけど、道しるべがあるってありがたいです。
次は自分たちが社内でそういう存在になれたらいいですね。

Fin
協力:株式会社村田製作所 / 株式会社Ashirase / Space Tech Accelerator株式会社 / CHEERS株式会社
文・インタビュー:小林 こず恵
撮影:清水 泰人




