“How”から“Why”、「部門」から「全社」へ「レンタル移籍」が導いた視点のアップデート

「レンタル移籍を通じて、自分の仕事の見方も、自社の事業を捉える視点も大きく変わりました」。そう話すのは、トヨタ紡織株式会社(以下、トヨタ紡織)初のレンタル移籍に参加した、鈴木雅祥(すずき・まさよし)さんです。人事部門、IT部門という異なる分野を経験する中で、キャリアの軸が定まらないことへの焦りを感じていたという鈴木さん。そんな中、自分の力を試したい!と1年間飛び込んだのが、設立から4年のベンチャー企業でした。

ベンチャーでの日々は、鈴木さんにどんな変化をもたらしたのか。未知の環境での経験と、帰任後の変化についてお話を伺いました。

幅広いキャリアだからこそ、
守備範囲の広い環境で仕事をしてみたい


ー鈴木さんは、トヨタ紡織で初のレンタル移籍に挑戦されました。どんなきっかけで応募したのでしょうか。

これまで当社で人事を5年、IT(経理システム担当)を4年担当してきました。どちらもそれなりに頑張ってきた自負はありましたが、どうしても専門性が中途半端なように感じていました。

大きな手応えを感じる成果が少なく、自分のキャリアに尖った特徴がない中で、この先どう歩んでいくと良いのかという漠然とした迷いがありました。

そんなとき、レンタル移籍の制度が始まることを知りました。スタートアップ企業では一人ひとりの守備範囲が広く、さまざまなことをやらなければいけない環境と想像し、人事とITという異分野を経験してきた知識やスキルが活かせるのではないか、幅広い貢献が求められる環境で自分を試してみたい、という思いで応募を決めました。

1年限定であれば最後まで全力を尽くして、また自社に貢献できると考えたのも理由の一つですね。

ー幅広い活躍が求められること、軸足を自社に置きながらチャレンジできることが、鈴木さんの求めていた挑戦環境と合致したんですね。とはいえ、社内で前例もない中での挑戦です。迷いはなかったのでしょうか。

当然、やっていけるだろうかという不安はありました。ただ、それよりも挑戦しないことの方が不安でした。いつかは環境を変えて挑戦したい、スタートアップ企業でのサバイバルから得られるものがあるはずという気持ちの方が強かったですね。

ー移籍先には、モビリティサービスの研究開発を行うPathfinder株式会社を選択されました。どのような観点で選んだのでしょうか。

幅広く様々な経験をしたいという思いから、人数規模の小さな会社が良いと思いました。

また、すでにサービスを開始していて、さらに事業が大きくなる絵が描けている会社にいきたいという思いもありました。これまでバックオフィス業務が中心だったため、ビジネス全体や売上に直結する業務に関わる機会はほとんどありませんでした。せっかくなら売上が増えていく過程に直接関与したいと考えていました。

Pathfinderは当時メンバーが10人ほどで、「カタレン」という片道乗り捨てレンタカーサービスを拡大させるフェーズにあったので、私がイメージしていた環境にちょうど良く、ぜひここで経験を積みたいと応募しました。

(左はPathfinder 代表 小野﨑さん、右は移籍者 鈴木さん)

遠慮せず意見を言うことで、道が広がった


ー移籍後は、具体的にどんな業務を担当されましたか。

移籍の序盤は、「カタレン」の予約管理や顧客対応などのオペレーションや、連動するアプリケーションの開発要件をまとめる仕事が主な業務でした。

ただ、終盤には、何でも幅広く対応しました。まったく未経験だったマーケティング領域の仕事も担当し、マーケティングの基本的な考え方を知ることができたことは、とても貴重な経験でした。経験がない業務でも同僚がサポートしてくれたこともあり、不安なく進めることができましたね。

ーまさに「守備範囲広く活躍する」を実践されていたんですね。

そうですね。半年くらい経って自分から提案ができるようになると、周囲から頼られることが増えました。特に、データの抽出・解析ではそれまでの経験もフル活用しました。「鈴木さんにお願いすればこういうデータも見れるんですね!」と周りのメンバーからの要望に対して答えることもできるようになりました。

ーご自身から提案をするなど、積極的に動いたゆえに生まれた信頼なのだろうなと感じました。

でも、最初は全然できませんでした。「スタートアップには独自の文化があるから謙虚に学ぼう。大企業感覚であれこれ口を出すのは良くないだろう」と、勝手に遠慮してしまって。

そんな中、4ヶ月目にメンターの笹原さんから「意見があるなら一度言ってみたら?」と背中を押されたことが転機になりました。たしかに、同僚や同時期に在籍していたレンタル移籍者は、自分の考えでどんどん進めていく。それに気づいてから少しずつ自分の意見を言うように意識しました。

そうすると、次第に「これくらいは意見をしても受け入れてもらえる。これは自分で判断して動いて大丈夫だ」とわかるようになり、ペースが掴めてきて自律的に動けるようになりましたね。

ー意見を交わす中では、経営層や社長と議論する場面もあったと思います。

そうですね。移籍前は、「スタートアップの創業者=会社経営から営業や開発までこなすスーパーマン」のイメージがあったので、最初は緊張しました(笑)。

ただ、一緒に仕事をしていくうちにそうではない一面も見えてきました。代表の小野﨑さんにも迷う場面はある。私の意見に耳を傾けてくれることもあり、議論を通じて一緒に課題を整理できることもありました。経営者と議論を交わすというのは本当にありがたい経験でした。

他方、小野﨑さんからスタートアップの基本的な考え方もたくさん教えていただきました。そこはまさにスタートアップの創業者、尊敬しかありません。

失敗を通じて、「ビジネス全体を捉える」という視点がクリアになった


ービジネスの全体像を捉える視点を培いたい、というのもレンタル移籍に期待したひとつの要素だったと思います。その視点についても学びがありましたか。

ありましたね。ある意味失敗から学んだとも言えるのですが…。

あるとき、過去のデータを見ていて、ハイシーズンはもっと数字を伸ばせるのではないかと考えました。積極的に受注することを提案し、予約数を前年の3倍程度まで増やすことに成功しました。一見すると結果は成功なのですが、実際には、予約数が現場の処理能力を超過してオペレーションを圧迫、さらにはお客様にご迷惑をかけることもありました。

この出来事の背景として、私の中でビジネスの成功を「受注数を増やす」という小さな点で見てしまっていたのです。でも、実際には、お客様に対してどのようなサービス体験を提供するか、そのためにどのような価格設定や受注目標などの戦略を設定するのか、その結果として企業としての売上や成長があります。ビジネスに対して「売上が大事、受注を増やそう」という発想は短絡的だったと反省しました。。

思い返せば、小野﨑さんは、常に短期的な売上だけでなく、中長期的な視点を持っていましたし、同僚も常にサービス全体を考える視点を持っていました。また、ある企業との協業において顧客体験を考える重要性を求められたりもしていました。それらの考え方を自らの実体験をもとに考える機会となり、とても大きな学びになりましたね。

ーご自身の知識やスキルが活きるのか試したい、という思いもあったと思います。その点はいかがでしたか。

知識やスキルを活かすことはできましたが、それよりも重要なことがあったと考えています。

移籍前は、どのような知識が活かせるかと“手段”ばかりを考えていました。でも、スタートアップで働く中で気づいたのは、その業務に対する知識はさることながら、それらを問題解決に正しく適用することの重要性です。私はそれを、解決すべき課題を明確にすること、そして、それに対する筋の良い仮説を立て、妥当な手段で検証するという仮説検証の考え方だと整理しています。

学生時代から当たり前のようにやっていたことなのですが、その大切さに改めて気づきましたね。

ーそれは未経験分野に取り組んだからこその気づきですね。

そうですね。同僚からよく「“How”ではなく“What”や“Why”を考えましょう」と言われたのも印象的でした。先ほどの知識やスキルを活かしたいという話も“How”にこだわった考え方ですよね。そうではなく、本当に解決したいものは何かを何度も問われました。

これまでも業務の目的を考えることはできているつもりでしたが、あくまでIT部門の目線に留まっていて視野が狭かったように思います。会社にとって何を解決すべきかを考える、後半ではそれを意識して業務に取り組むことができました。

部門目線ではなく、全社目線で仕事を捉えるように


ー今年4月からは、トヨタ紡織のIT部門に戻られました。レンタル移籍を経て、意識するようになったことはありますか。

“What”や“Why”を考えることは、戻ってからも意識しています。移籍前は、どういうシステムを作るか、こんな機能が必要じゃないかといった具体的な解決策ばかりを考える傾向がありました。一方、帰ってきてからはユーザー部署に本当に困っていることは何なのかをよく聞くようになりました。後輩にも「本当に解決したい課題を明確にしよう」と伝えています。

また、スタートアップのカルチャーを見習って、他部署ともフットワーク軽くコミュニケーションを取りたいと考えるようになりました。

たとえば、本来は自分のタスクには入っていなかった業務なのですが、他部署の方と話している中で業務上の大きな課題に気づきました。これは解決するべきだと思ったので上司に提案して進めることにしました。こういう動きはこれまであまりしてこなかったのですが、スタートアップのカルチャーを経験したからこそ、できるようになったことですね。

ー大きな変化ですね。自社の事業に対する視点が変わった点などもありますか。

たとえば、会社としてどうビジネスを展開していくのかということを、改めて自分なりに考えるようになりました。これまでは、自分のいるIT部門としてどのようなシステムを開発するべきかを考えていましたが、そうではなく、会社としてどう事業を展開するのかを考えた上で、そのために必要なシステムとは何かといった視点で捉えるようになりました。

原価計算を例に取ると、いかに高い精度で計算できるか、そのために必要な機能は何かを考えることに何の疑問もありませんでした。でも、そうではなく、当社はどういうビジネスを目指すのかを考える、すると、求められる原価計算の精度も変わるし、そのためのシステム要件も変わってくる、そういったことに考えを巡らすようになりましたね。

原価計算そのものが目的ではないので、「そもそも何を解決したいのか」と立ち返るようになりました。

ー先ほどの“Why”の話にも繋がりますね。最後に、社内でこれからレンタル移籍に挑戦する方もいらっしゃいます。おすすめのポイントを改めて教えてください。

やはりまったく違う環境に身を置くことは、ものすごく学びになります。自分の対応力や視点も変わるので、そこは本当におすすめですね。また、小さくても自分で考え判断して動く経験ができる点もぜひ体験してほしいと思います。

若い方にももちろんおすすめですが、管理職の方にもぜひトライしてほしいです。私と比較にならないほどの知識やスキルを持っている方がスタートアップ企業にレンタル移籍したらどのような世界が見えるのか、とても有意義な挑戦になるのではないでしょうか。

ー次にどんな方が続くのか、楽しみですね。レンタル移籍を通じた鈴木さんの変化が、とても眩しく感じました!今日はありがとうございました!

Fin.

協力:トヨタ紡織株式会社 / Pathfinder株式会社
文・インタビュー:大沼 芙実子
撮影:畑中ヨシカズ

関連記事