ベンチャーから大企業に戻ってきた26歳若手営業マン。社運をかけた新規事業へ -大和ライフネクスト 舟橋健太さん-
新規事業プロジェクトに突然アサインされて…
事の始まりは、2019年12月。マンションやビルなどの仕入れを担当していた舟橋さんに、とある役員から新規事業のプロジェクトへのアサインの声がかかった。決まっているのは施設の建設予定地と「自発的な学びを提供する場を作ろう」というコンセプトのみ。
「こんな規模のプロジェクトは会社でも取り組んだことがない。ましてや、移籍から帰ってきてまだ2ヵ月で、ストリートアカデミーで結果を出せなかったという心の傷もまだ癒えていない時。自分にできるか不安でした。でも、こんなチャンスはそうそう来るものではない。だから即答でやると決めました。」
大和ライフネクストはマンション管理のほかにも、老朽化した社員寮を手放したり、マンションを毎年借りている企業向けに、社員寮を提供している。この建設予定地にも、寮を建てる話はあったが、全く新しい宿泊型研修施設を建てるという方向に舵を切った。
施設のブランディングからあらゆるベンダーとのやりとりまで、全ての業務を任された。研修用の机・椅子、ホテル用の備品・ベッドなどの家具やレストランの什器・厨房機器といったものを揃えたり、ホテルのサービスを考えたりと、何もかもが初めてのこと。不安はなかったのだろうか。
「億単位のものを動かしている緊張感はありますよ。もともと思い悩む性格ではないということもありますが、コンサルティング会社や建築会社などのプロと一緒に仕事をしているので、彼らにコンセプトをしっかり伝えれば、失敗することはないと思えます。どんな場にするのが良いか、想像力を働かせながら備品を選ぶことも楽しいですね。上司もいますが、意図や想いをきちんと伝えれば分かってもらえるので、意思決定は任せてもらえています」
初めはいやいやだったが、気づけば夢中になっていた。
「2020年になってコロナの影響が出てきた時に、仕事すらできない人もいる中で、自由に任せてもらえている環境は有難いことだと改めて思ったんです。もともと大和ライフネクストという会社は、社員をベンチャー企業で研修をさせる仕組みを導入するなど、考えが豊かな会社だと思っていたんですが、これだけ大きなモノを動かせる現場に立たされると、ますます大企業の強みを感じさせられます」
「ダサくなってみよう」自分のスタイルを変える覚悟
大企業にいながら「給料をもらえるだけでも有難い」と語る舟橋さんには、ベンチャー企業にレンタル移籍した経験がある。これまた大和ライフネクストとしても初導入の取り組みだった。入社4年目で、賃貸マンションの管理を担当し、営業成績も好調で、楽しく仕事をしている時に、現在の仕事にアサインした役員から指名を受けた。
「その時は島流しだと思いました(笑)。ただ、やるからにはしっかり成果だしてやろうと。」
それでも移籍先にと選んだのは、”教えたい人”と”学びたい人”のマッチングサービス「ストアカ」を展開するストリートアカデミー株式会社。もともと、気に入ったお菓子を見つければ、みんなに大量に買ったり、学生の頃には写真部やバスケットボール部で技術やワザを練習して教え合うなど、人とシェアすることが好きだった舟橋さんは、スキルシェアという概念に共感を抱いた。
「代表の藤本さんと面談をして、考え方や価値観に似たものを感じ、息が合ったのも決め手になりました」
2019年4月から6ヶ月の期間限定で始まったレンタル移籍。営業チームに配属され、任された業務は、「ストアカ」の営業と、ビジネススキルに特化した講師を企業に派遣する新たな法人向けサービス(現「オフィスク」)の提案営業。
「振り返ると、自分でも思うくらい全然だめでした」
営業マンとしての自信はあったはずなのに、移籍当初は、サービスがなかなか売れなかった。それでもなんとか初受注。しかし、社内では全く評価されなかったという。
「1人でやっていたからだと思います。ベンチャーらしい、みんなで結果を出そうというような考え方や、熱を込めて話をする営業スタイルはダサいと思っていました。1人だけポケットをパンパンにするように資料やデータを揃えて準備をして臨んでいましたね」
そんな舟橋さんの考え方や動き方は、社内のメンバーとの衝突の原因にもなった。
「初めのうちは、売れない理由を『行きたくて行ったわけじゃない』『分かってくれない』と人のせいにしていました。そして『お客さんにこんなこと言われたんだけど、どうしたらいいですか』『金額はどうしたらいいですか』など、上司の窓岡さんに尋ねては『自分で考えて』と言われてばかり。自分の意見を主張しては社員の方とぶつかることも度々。途中で、ローンディールからも移籍はストップしたほうがいいのでは、なんて話も持ちかけられて、このままではまずいのかもと思い始めました」
「ダサくなってみよう。営業は1人ではなくチームなんだ」。そう思った舟橋さんは、少しずつこれまでの自分の営業スタイルも変えていった。どんなところに売れそうか、どんなパッケージにすると買ってもらいやすいかを考え、ストーリーを描いて話すようになった。自分がいかにこのサービスを面白いと思っているか、導入にはどんな意義があるのか、熱を込めて……。自分を主張するのではなく、相手との共感ポイントを探るようになったことで、後半には「これなら売れる」という手応えも感じられるようになったようだ。
「結局、思うように売れなかったし、事業の種まきもできなかった。それでも、チームで熱量を持ってゴールに向かうストアカでの仕事が楽しかったんです。たくさん迷惑をかけている自分を、上司の窓岡さんは心配までしてくれて。1人じゃ何もできないと分かったし、それでも支えてくれる人がいることに、最後は感謝の気持ちでいっぱいでした」
ストリートアカデミーのメンバーと。
プライドを捨て、熱意と信念を持ってチームメンバーと共に歩む
移籍終了前のストリートアカデミーでの報告会には、大和ライフネクストの人事部でレンタル移籍の導入担当者である竹下さんも駆けつけた。舟橋さんの入社時の採用にも関わった竹下さんは、感謝の言葉を述べる舟橋さんに「あいつが感謝できるようになった」と驚いた。”とんがって”いた舟橋さんに、大きな成長を感じたからだそうだ。レンタル移籍から戻って1ヶ月ほどで今の仕事にアサインされ、さらに大きく成長している様子だ。
「移籍前はたしかに”とんがって”いたと思います(笑)。負けず嫌いだから、絶対に失敗させたくないし、仕事に対する姿勢は丸くなっていないと思いますが、人に対して変につっかかるようなことはなくなりました。プライドが高かったんだと思います。以前は教えてもらうことさえ恥ずかしいことだと思っていましたが、今は全てが新しいことばかりだから人に聞くしかないですし、プライドなんて持っていたら進められないですよね」
施設のグランドオープンに向けて膨大なタスクがある今の環境が自分を成長させているのか、レンタル移籍の経験が成長させたのか、正直わからないという。しかし、話を伺っていると、レンタル移籍の経験は、彼の心にしっかり根付いている。
「あらゆることに物怖じはしなくなりました。移籍前だったら、きっと全てを上司に確認して、頼っていたと思います。もちろん迷うこともありますが、自分の考えは伝えた上で、これとこれで迷っている、という形で上司に相談するようにしています」
最初はほぼ1人だったのが、今ではチームメンバーも増え、プレイヤーではなく、マネジメントの視点も意識している。
「任せている仕事については、なるべく自分の色は出さず、最後は決めてもらうようにしています。そのほうがメンバーにとっても手触り感があるじゃないですか。こうしてよって言うのは簡単だし、言われるほうも楽なんですけどね。そんな視点に立てるような働き方をさせてもらえる上司にも恵まれ、有難いですね」
マネジメント側に立ってみると、分からない人に教えることは結構なストレスだということも気づいた。分からないことばかりの舟橋さんにこうしろとは言わなかったストリートアカデミーの窓岡さんを思い返し、本人が気づくまで我慢比べするのが成長の本質だと気づかされたともいう。舟橋さんがレンタル移籍の最終月に提出した月次報告には、こんな報告があった。
「自分に部下が出来たらこういうマネジメントをしよう、これはやめよう、みたいなことが何となく見えてきた。ゴールははっきりと見せたうえで好きに山登りさせようかなーと。(中略)遠回りのルートでも修正せずにほっておく。こちらも何か学べることがあるかもしれないし、その道を選んだ理由を聞く。(中略)ただ、そこに共感や納得がない場合や本人の中から湧き上がってくるモチベーションがないと破綻するのだろうな、と思った。相手がどんな人間なのかを見極めて、伴走が好きなら一緒にゴールまで寄り添うし、一人で考えてできる感じならば信頼するし、相手の琴線を探ることなんだろうな、と思いました。」
当時に思い描いていたマネジメントのイメージは、まさに実現できているのではないだろうか。「みんなで成果を出そうなんてダサい」と考えるプレイヤーから、チームと共に歩むプロジェクト担当となった舟橋さんは、今、何を感じているのだろうか。
「この施設も『学びを提供する』というところはストリートアカデミーと共通している。そう思うと、あの時の経験は今に繋がっているんじゃないかと思います。レンタル移籍が終わって以来、ストリートアカデミーのメンバーには会えていないし、今この事業に携わっていることもお知らせできていません。上司だった窓岡さんには、直接お礼を伝えたいですね。そして改めて代表の藤本さんと話したいです。面接の時に、営業には自信があると言ったのに成果を出し切れない後ろめたさもあってか、移籍中は藤本さんに話しかけられなくなっていたんです。少しでも成長した自分を感じてもらって、ひとりのビジネスマンとして、いろんな深い話をしてみたいです」
プライドを捨て、それでも信念は曲げずに堂々とプロジェクトを取り仕切る舟橋さんの今の姿は、藤本さんや窓岡さんの目にはどう映るだろうか。L stay&growが無事にグランドオープンを迎え、舟橋さん自身が「プロジェクト成功!」と思える時が来たら…再会が楽しみだ。
2021年2月グランドオープン予定の「L stay&grow南砂町」前にて
※写真は2020年12月の取材時。2021年2月1日開業のプレスリリースはこちら
Fin
協力:大和ライフネクスト株式会社 / ストリートアカデミー株式会社
インタビュー:黒木瑛子
提供:株式会社ローンディール
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計46社122名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年1月1日実績)。