「3年目のモヤモヤ。ベンチャーで見つけた、大企業で働く意味」大和ライフネクスト株式会社 荒巻謙之さん


“入社3年目の壁”と言われるように、社会人になって数年が経つと業務への新鮮さが薄れていきます。理想と現実のギャップに悩み、仕事へのモチベーションが下がってしまうこともあります。大和ライフネクストの荒巻謙之(あらまき・のりゆき)さんがレンタル移籍に応募したのも、社会人3年目の時。「常に新しいことに挑戦していたい性格」だという荒巻さんは当時、やりたい仕事に全力で打ち込めない状況に悩んでいました。そんな中、環境を変えて新しい経験ができるレンタル移籍は魅力的に映ったと言います。
 
荒巻さんが選んだのは、防災備蓄プラットフォーム「あんしんストック」を提供する株式会社Laspy。レンタル移籍の経験は、仕事に迷いが生まれていた荒巻さんが大きく変化する転機になった様子。Laspyで過ごした半年間を、じっくり伺いました。

3年目のモヤモヤを解決するために

 
——まずは、大和ライフネクストでどんな業務を担当していたか教えてください。
 
ファシリティコンサルティング事業本部で、物件担当者としてオフィスビルやテナントビルを中心に、ショールームや地下駐車場、霊園など、さまざまな種類の建物を管理していました。
 
——入社3年目でレンタル移籍に応募していますね。
 
「社会人3年目あるある」かもしれないですけど、自分がこの会社にいる意味があるのか考えてしまったんです。当時はやらなくてはいけない不動産管理の仕事と、強くやりがいを感じていたプロジェクトの両方が忙しい状況でした。プロジェクトだけに注力したい気持ちも生まれ、集中できていない自分にモヤモヤしていました。
 
新卒の時にしっかり考えて入社した会社ですし、やりきりたい!そう思う一方、これ以上どうしたらいいのかがわからなくて。その中でレンタル移籍の存在を知り、「外に出ることで変わるかも」と思いました。
 
——移籍先として決めたのは、マンションなどに防災備蓄プラットフォーム「あんしんストック」を提供するLaspyということで、大和ライフネクストとも事業領域が重なりますね。
 
事業領域が近い方が、早く移籍先に貢献できると思いました。こう考えたのは、入社3年目だったからでもありますね。他の移籍者の方は、30〜40代のある程度社会人として経験を積んできた方が多いと聞いていました。その方々より抜きん出たスキルがあるとは思わなかったので、自分が移籍先に何を還元できるか考えると、素早く戦力になることだろうと。
 
加えて、移籍にあたって自分がすべきことは違う事業領域に触れることではなくて、スタートアップだからこそのスピード感や裁量権の大きさを学び持ち帰ること。近い領域で素早く貢献できたほうが、本質的に学べるのではないかとも考えましたね。

——移籍前から、自社に戻ってからのことをしっかり見据えていたのですね。そのほかに、移籍先を検討する上でどんな点をみていましたか?
 
裁量権が大きい環境がよかったので、人数が少ない企業を選ぶようにしましたね。フルリモートではなく出社があることも条件でした。
 
ちょっと古臭いかもしれませんが、僕は不動産管理の仕事をする中で、現場に行くことをすごく大事にしていました。建物ごとの事情や、お客さまが実際に困っていることなどは足を運んで話してみないとわからないことが多いんです。その価値を身をもって知っているので、せっかく半年間の移籍をするなら顔を合わせて仕事がしたいと考えました。
 
当時私が住んでいたのは大阪で、Laspyがあるのは東京です。それでもやはりLaspyしかないと思っていました。そこでどうしたかというと、まず大阪の部屋を解約して京都の実家に引っ越しました。平日は東京に滞在する生活を送ることにしました。自分は一度こうすると決めたら曲げない頑固なところがあるんです(笑)。

できない理由を並べても、新たな価値は生み出せない

 
——移籍中はどんな業務を担当していましたか?
 
移籍開始時は「色々な案件でのサブ担当やサポートをお願いします」と伝えられていたのですが、実際は営業案件のメイン担当、大企業のスタートアップ連携のメイン窓口、事業企画など、それ以上の業務を任せていただきましたね。「あんしんストック」のスペックがまだ明確に固まっていなかったこともあり、サービスについて一緒に考える機会も多くありました。
 
——少人数であらゆる業務に関わるスタートアップの働き方は、大和ライフネクストと比較していかがでしたか?
 
実はギャップは少なかったですね。Laspy 共同代表の藪原さん・神山さんはそれぞれKDDIと大和証券の出身のため、大企業がどういうものかご存知でしたし、大和ライフネクストも比較的自由な会社なので。ありがたいことに自然体のまま働きはじめることができました。
 
移籍前はベンチャー・スタートアップはガツガツしていて、自己成長を追い求める人たちばかりの場なんじゃないかと。実際、会社が成長期やメガベンチャーであればそうなのかもしれませんが、Laspyは起業後間もない段階。成長を追い求めるというより初のサービス提供に向けてしっかり土台を固めておくような段階だったのだと思います。
 
とにかく本音をさらけ出して話し合わないとうまくいかないので、藪原さんと神山さんが意見が食い違った時には何時間も議論を交わしていました。その場にいることで、自分も思ったことを正直に言うべきなんだと考えるようになっていきましたね。
 
——移籍中で印象に残ったできごとを教えてください。
 
思い出すのは、働いて3ヶ月目に同席したある大企業とのスタートアップ連携の打ち合わせでのことです。実績のないスタートアップとのプロジェクトはなかなか成就しにくいですが、大企業側としては当然やるからには成功させたいものです。そのため「これって本当にできるんですか?」というふうに聞かれます。
 
その時、薮原さんは
 
「今までやったことがないことに取り組む時、これまでの常識や物差しで測ろうとすればできない理由のほうが見つけやすいです。だからここは一旦『できる』と割り切って仮定して、どうすればできるのか議論する方が建設的ですよね」
 
とお話ししていました。
 
その話を隣で聞いていて、すごくハッとしたんです。できない理由を並べるのは簡単だけど、それでは新しい価値は生み出せない。実際に3ヶ月一緒に働いたうえで聞くその言葉にはとても重みがあり、今の自分が仕事に向き合う上でも支えになっています。半年間の移籍で一番大きな気づきを得た瞬間でした。

左は移籍者の荒巻さん、右が代表取締役社長の藪原さん

こんなに仕事を任せてもらえるなんて

——Laspyが学びの多い環境だったことが伺えます。業務や、ご自身のスキルについてはどうでしょう?
 
お話しした通り、最初に期待されていた以上の業務を任せていただきました。たくさんの案件をこなすことで、すごく成長できたと実感しています。

それまでは正直、自分がこんなに仕事を任せてもらえる人間だと思っていなかったんですよ(笑)。会社の外に出てLaspyの方々からフィードバックを受ける中で、「自分にこんな力があったんだ」「大和ライフネクストにいると当たり前だったけど、知らないうちにちゃんとスキルが身についていたんだ」と改めて気づくことができました。
 
——荒巻さんが、多くの仕事を任せてもらえたのはどうしてだと思いますか?
 
藪原さんからも神山さんからも「先を見通す力があるよね」と言っていただいたことがあります。大和ライフネクスト、ひいては不動産管理業界はストックビジネスなので、目先の利益よりもお客様との関係性を長く続けることを重視する、それが企業の収益を最大化させることにもつながるという考えが浸透しています。自分ではきちんと気付けていませんでしたが、僕の「先を見通す力」もその中で養われたものだと思います。
 
立ち上げ期のスタートアップ企業は、売上は立てなければいけないものの目先の利益ばかりだけ追って本質からずれてしまうのも良くない。そのためには長い目で見る力が重要です。自分が持っていた力でLaspyの考え方を素早くキャッチアップし、信頼関係を築けたことで、たくさんの仕事を任せていただけたのではないかと考えています。
 
——移籍期間をさらに有意義なものにするために、意識して取り組んだことはありますか?
 
自分の学びのためだけに何かをするのは本質的ではないので、Laspyのためになる新しいことはないか、常に考えていましたね。その中では、メンターの須藤さんとのやりとりも参考になりました。移籍当初、僕は自己成長という考えをあまり大事にしていなかったのですが、Laspyに貢献し学びを経て帰るためにはその観点も必要だと感じるようになって。須藤さん方から「具体的な経験を自分の中で抽象化することで、他の場面に活かしてください」と言われ、意識して取り組むようになりましたね。
 
インプットと行動を増やすのも意識したことです。それまでは、自分から率先して情報を取りに行くことはしていなかったと思います。目の前のお客さまとどう向き合うかに気を取られていて、本を読む、資格の勉強をする、展示会に行くなど、アンテナを十分に張ることができていなかったんです。
 
僕が人生で大切にしているテーマとして、「不確実な状況を楽しむ」があります。行動する前にじっくり考えるのが僕のやり方でしたし、先の見えない状況で思考するのが楽しくもあったんです。ただ、それだけで終わらずに結果を出すには、積極的に行動に移す必要もあると気づくことができました。 

移籍後に見つけた、ここで働く意味

——持っていた能力に気づいて生かしながら、新たな課題を発見して成長もする。充実した移籍ですね。
 
ただ、悔しさもあるんですよ。正直に言えば、移籍中に達成感を得られたことは一回もないんです。
 
Laspyは僕が移籍したタイミングではまだ売上がない状況でした。だからはじめて出社した日に、「僕が最初に売上を作ります」と言ったんです。目標設定を求められたわけではなく、自主的にわかりやすいマイルストーンとして掲げたんですね。でも、僕が移籍中に自力で売上を立てることは最後までできませんでした。
 
9月末に移籍を終えて、10月の半ばに報告会がありました。その時、売上を立てるという目標が達成できなかったことを話しながら泣いちゃったんですよ。思っている以上に悔しかったみたいで、本当に大号泣しちゃって……。藪原さんと神山さんは「荒巻くんが頑張っていなかったわけじゃなくて、フェーズ的に仕方なかった部分もある。よくやってくれたと思っている」と言ってくれたのですが。
 
仕事をしてきた中で、泣くほど悔しかった経験ははじめてでした。売上が立たないことはスタートアップではより深刻です。そうした環境でもがいたからこそ出た涙だったのだと思います。
 
——達成感を味わう以上の、得難い経験をした半年間だったのですね。現在は移籍を終えてどんな業務を担当していますか?
 
現在は主に人事部の新卒採用と、新入社員配属後の定着を目的としたオンボーディングの二つを担当しています。
 
移籍を終えたあと、人事部の採用担当になると聞いた時には戸惑いもありました。もっと大きな枠組みで事業にかかわったほうがスタートアップでの経験を生かせるし、会社としてもそうした人材を育成するためのレンタル移籍だと認識していたからです。
 
だからその思いは、配属初日に上司との面談でも伝えました。すぐに思いを伝えるという行動に移したのは、レンタル移籍を経て変わったことだと感じます。よくも悪くも素直になったというか、わがままになったというか(笑)。
 
今は、レンタル移籍を経験した自分が採用に携わることに大きな意味があると感じています。大和ライフネクストは「あしたのあたり前を、あなたに。」というビジョンを掲げています。ただ、あなたに「届ける」ところまで果たしてやりきれているのか? と考えると、まだ課題はあると感じます。
 
その時に必要なのは、物事を積極的に進めていく人、前向きに取り組み、既存の枠組みからはみ出していく人。Laspyでの経験をもとに、自分自身がそういう人を採用していくのだと考えれば、僕がやる意義、僕だからこそできることが見えてきます。
 
また、いずれ自分が事業を立ち上げたいとなったときに、ここでの経験を糧にしたい、というのも一つですね。採用の仕事では入社前の学生たちや、さまざまな部署の方とコミュニケーションを取ります。つながりが増えていくと将来的には部署横断チームをつくったりもできるでしょうし、協力してくれる人が増えていくことにもつながります。自分のステップアップにつながる、良い経験をさせてもらっていると思いますね。
 
——最後に、荒巻さんの今後の展望を教えてください。
 
今、人事の仕事に向き合いながらも、将来実現したいスタートアップ連携について構想しているんです。めまぐるしく変化し多様化する社会で、大和ライフネクストのビジョンである「あしたのあたり前」をもっとスピードを上げて届けないといけない。その時、カジュアルにスタートアップ連携ができることが打開策になると感じています。まだ試行錯誤の段階ですが、道筋だけでもつけておきたいと動いています。
 
長い目で見た時の展望については、明確なイメージはなくてもいいと考えているんです。「不確実な状況を楽しむ」が僕の人生のテーマでもありますし、社会は変わるのに決めすぎても仕方がない。まずはこの先5年くらいは、人事の仕事やスタートアップ連携に取り組み、経験を重ねていきたいと考えています。
 

Laspyのために何ができるか、大和ライフネクストに何を持ち帰れるか。その視点を忘れないようにしながらも、さまざまな業務を通して成長し続けた荒巻さん。仕事を通じて得た信頼、目標を達成できなかった時の悔し涙……山あり谷ありの半年間は、荒巻さんが仕事への自信と情熱を取り戻す道のりでもあったのかもしれません。
冷静に状況を見つめながら、不確実な要素があってもそれすら楽しむ。移籍を経た荒巻さんの落ち着いた語り口には、「この先もきっと大丈夫」と感じさせる強さが宿っていました。

Fin

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協力:大和ライフネクスト株式会社 / 株式会社Laspy
インタビュー:小沼理
撮影:宮本七生

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