関西電力送配電の新規事業チームが“越境人材”と仕掛ける!大企業で事業を生みだす新たな試みとは?
新規事業人材に必要な“リアルな経験”
ー山口さんは、新規事業に取り組む中でベンチャーに行かれたんですよね。
山口:はい。新規事業グループに来てちょうど3年くらいになります。新規事業といっても色々なチームがありますが、私は、ゼロからコンセプトを考えてビジネス化していく開拓のフェーズに携わっています。そんな中で、指名でベンチャーに行くことになったのですが、私自身もベンチャーの事業開発には興味があり飛び込んでみようと。ベンチャーのマインドと新規事業開発と推進スキルを得て、自社の新規事業に還元できたら良いなと思いました。
ーまずは飛び込んでみようという意気込みだったのでね。では、山口さんを指名した林さんに聞いてみようと思います。林さんは当時、山口さんの上司だったということですが、なぜ山口さんをベンチャーへ?
林:一番は、大企業の新規事業開発とベンチャーの違いを直接体験して欲しかったということですね。リアルな事業開発の現場に身を置いて、学んで欲しかった。また、本人とも話していましたが、得たものを持ち帰って社内に展開して欲しいという期待もありましたね。山口さんは前向きでチャレンジ精神もありますし、適任かなと。
山口:ありがとうございます!
ーそんな中で、片道専用レンタカーのマッチングサービスを提供するPathfinder(パスファインダー)株式会社に移籍したわけですが、山口さんが同社に決めた理由は何でしたか? また、会社側からのリクエストなどもあったのでしょうか。
山口:純粋にビジネス自体面白いなと思いましたね。移籍前の面談時に、経営者の小野崎さんと、取締役の坂見さんと出会い、お二方の人柄に惹かれたところも強いです。それに、モビリティという領域は当社でも事業検討領域ですので、シナジーがあるんじゃないかって。
林:基本的には山口さんに任せていましたが、当事者意識を持ってベンチャーの文化などを学ぶことにおいては、「経営者に近いところで経験できるのが良さそう」という話はしていたよね?
山口:そうですね。創業期のベンチャーだと個人の裁量が大きく、より過酷でリアルな経験できるんじゃないかと。
ー確かに経営者の近くで働ける経験はベンチャーならではですよね。山口さんは実際に片道レンタカーの新路線開拓という事業開発を任されていたと思いますが、順調でしたか?また、これまでも新規事業に関わっていたと思うので、応用できたこともあるんじゃないかと思いますが。
山口:創業期ということもあって、ルールやマニュアルはほとんどなく。そうした中で、最初は「どう進めていったらいいんだろう」って悩みましたね。実証サービスの立ち上げに始まり、プロモーションの仮説検証やサービス機能の改善、顧客対応や配送オペレーションとか、全く初めてでしたので。やることも盛りだくさんで、時間も足りないし、数字も上げていかなければならないし、全然順調ではなかったと思います(汗)。
ただ、確かにこれまでの経験が活きたこともありました。路線開拓において企業にアプローチする中で、相手が大企業だったということもあって、どういう資料でプレゼンをすればいいか相手とどのように交渉を進めていけばいいか、立ち回りみたいなところは勘があったので、役に立ったなと思います。設備工事の部署にいたときに身に付いた、プロジェクトマネジメントの経験も活きたかと思います。
山口:とはいえ、関西からひとりで東京にやってきて、住む場所・働く環境も違っていたので、色々大変なことばかりで。人事の方や新規事業グループのメンバーの存在が支えになっていました。人事の方や林さん、海江田さんからコメントもらって、ジーンと熱くなるみたいな(笑)。
ー職場の仲間の存在も大きかったようですね。ちょうどお名前も上がってきましたが、海江田さんは、山口さんをどのように見守っていたのでしょうか。
海江田:週報やメールなどで移籍中の近況がわかるのですが、大変だけど充実していそうだなと、そんなふうに見ていましたね。
メンターの椿さん(レンタル移籍では外部メンターが付きます)が、いい意味で山口さんに発破をかけてくれていて。スピード感とか、人を巻き込むとか。ベンチャーならではの経験をしている様子でした。林さんどうでしょうか?
林:率直な感想としては、とにかく大変そうだなって(笑)。その分、成長というか、自立していく姿が3ヶ月目くらいからでしょうか、顕著に見られました。移籍の途中で、社内の役員やマネジメント層に向けて進捗報告みたいなものをやってもらったのですが、堂々としていて。成長しつつも楽しんでやっている印象を受けました。
海江田:やはり当社で新規事業を進める中で、カスタマージャーニーやペルソナ設計、ユーザーヒアリングなど事業計画を立てるまでの教育や経験はできても、実践の部分においては社内で経験者も少ないので、リアルな事業開発に触れにくい。明らかに当社ではできないことを経験していましたね。
ベンチャーで得た、新規事業を進めるための新たな打ち手
ー山口さんは戻ってきて1年くらい経ちますが、ベンチャーでの経験が活きていると感じることはありますか?
山口:考え方が大きく変わったなって思います。たとえば、以前は社内で何かを検討していく際、精度高く進めていくことが当たり前だったのですが、今はスピードを重視して、精度30%ぐらいでもとりあえず周りを巻き込んで前進させてみようって。新規事業なので誰も正解がわからない。だったら進めてみてそこから気づきを得た方が前進できるし、重要視すべきことなのかなって思うようになりました。
あとは、明らかに外に向けるようになりましたね。社外のコミュニティに参加したり、社内でも新規事業関連の集まりに顔を出したり。
ー人とのつながりや交流が大事だということでしょうか?
山口:社外との会話から何か生まれるみたいな経験をしたからだと思います。これまでこうした価値に気づいていなかった。Pathfinderにいた時、いろんな企業の人と話す機会があって、そこで「こうしたことが課題なんですよね」みたいな話を聞く機会や、「こんなことができそうですね」と何もないところから話が進むことがありました。それが新規事業の源泉になることもある。自分の頭の中だけで考えようとせず、対話の中でイメージを膨らませていく。そういうことを実感しました。
今、実際に取り組んでいる新規事業も、こうした対話を異業種の方とする中からアイディアが膨らみました。
ーそれは良かったですね。ちなみに山口さんが返ってきたことで、チームにも影響が出ていると思うんですが、海江田さんから見てどうでしょうか。
海江田:組織全体への波及はまだそこまで影響がないですが、山口さんが経験した「まず動いてみる」とか、「4割5割でも進めてみる」といったところは、私も風土として根付かせていきたいと思っているので、チームに浸透させている段階ですね。「机上で考える」みたいなカルチャーが強いので、私ももっともっと後押ししていかないといけないなと思っています。私自身も、「不確実なときベンチャーでは何パーセントの確率で動いてた?」って山口さんに聞いていたりします。
山口:そうですね(笑)。
ー林さんにも聞いてみたいと思います。送り出すときにいろいろ期待があったと思いますが、山口さんの現在の動きを見てどう感じますか?
林:山口さん自身はとても成長していると感じます。自身の新規事業にもベンチャーのやり方を取り入れているようですし。一方で、海江田さんも話していましたが、組織へ伝播させていくのは苦労しているなと感じていますね。自らの経験を能動的に社内に発信するなど、組織を変えようとしている姿勢は見受けられますが。
山口:おふたりが話していた通り、得た経験を組織に還元していく難しさを実感しています。社内の人と個別にコミュニケーションを取ったり、業務上の相談などで会話したときに、「新規事業では正解は誰もわからないので、スピード重視」「ベンチャーではこういう考え方でこういう動きをしていました」とか伝えたり、「このやり方は自社でもできるかもしれない」といった提案をしてはいるのですが、まだまだ全体に広がっている感じはしないので。地道にやって、自らの行動で示しつつ、組織のマインド変革まで繋げていきたいなと思いますね。
新規事業大好き人間が、会社を変える?
ー自社を見つめ直す機会にもなったんじゃないでしょうか。外に出て気づいた関西電力送配電のことってありますか?
山口:ありますね。まずは、いろんなスキルを持った人がいるということの価値。ベンチャーはギリギリの人数でやっていますから。ただ、一番の気づきはブランド力です。
ベンチャーだとまだまだ知名度もなく、何社当たっても商談までいけるところは少ない。一方で、大企業は組織名が知られているので、基本的に話を聞いてくれることが多く、大企業の強みというかありがたさを感じました。これまで関西電力送配電が積み上げてきた信頼やブランド力みたいなところを改めて実感できました。
ーいろんなスキルを持った人を巻き込んで、大企業のブランド力を活用することで新規事業がより前に進められそうですね。ちなみに海江田さんは、山口さんのように新規事業に挑むメンバーが動きやすいようにしている工夫はありますか?
海江田:メンバーに伝えているのは、「僕たちは新規事業という新しいチャレンジをしているわけで、千三つなんだから失敗するのは当然。だから本業の大企業目線ではなく、チャレンジャーの気持ちで取り組んでほしい」ということ。私自身、そういうマインドでいますので、チャレンジするみなさんの後押しをしたいですね。
だからこそ、口だけじゃなくて実際にそれを経験した山口さんの存在は大きいですし、メンバーにもそうした経験をしてもらうために、第二の山口さんじゃないですが、チャレンジングなことができるベンチャーで経験させたいと思っています。
ー最後に。引き続きそれぞれの立場から新規事業を起こしていくことになると思いますが、これからみなさんがチャレンジしていきたいことを教えていただけますか。まず、山口さんどうでしょうか?
山口:今は事業の立ち上げに向けて走っている中で、春には実証実験も行います。ベンチャーでの経験を踏まえて試行錯誤しながら進めていくさまを周囲に見てもらって、「こういう進め方があるんだ」と知ってもらうことで、どんどん周りへの波及に繋げていけたらなって思います。
あと、まだ明確には見出せてないですが、ベンチャーの進め方と、大企業ならではのやり方をうまくいいとこ取りした事業開発の新しい仕組みを考えられたらいいなと、模索中です。
林:我々の事業は電気をご使用いただく顧客から遠いことも多いので、新規事業で顧客との接点を増やして、顧客視点を大事にしていきたいなと思います。山口さんはそれを経験しているので、学んだことを社内に発信してもらえたらいいんじゃないかなと。あとは組織として稼ぐ力をもっとつけていかないとこの先生き残れませんので、顧客視点に加えて稼ぐ力、これらをどんどん伸ばせる仕掛けを考えていきたいですね。
それから、我々の新規事業グループって社内ではすごくちいさな組織なんですけど、会社の事業や文化の変革を担う重要な部署だと思っていますので、「新規事業大好き人間を増やして、我々が会社を変えていく」、そんな未来をつくっていけたら。
海江田:大企業の新規事業でいうと、一般的にうまくいってない事例やスケールしないことも多いと思うんですけど、「そもそもなぜ大企業で新規事業をやるんだっけ」っていう命題に向き合っているところです。
やはり売上のためか、それとも風土改革なのか人材育成なのか、関わるみんながどこに意義を持っているのか、経営層も含めてちゃんと認識を揃えることで、もっと大企業の中で新規事業がやりやすい体制になっていくのでは。その上で、新規事業の制度面とか仕組みをもっと充実させていきたいですね。少なくとも顧客目線やベンチャー風土の還元は本業を成長させるためにも絶対に必要な要素だと思っているので、越境みたいなことがあってもいいのかなと、思います。
ーありがとうございました!それぞれの立場から、新しい事業を起こそう、会社を変えようという思いが伝わってきました。また1年後くらいにお話を伺ってみたいです。どんな未来になっているでしょうか。楽しみです。
㈱ローンディールでは、人材育成や組織開発など、様々な目的に合わせた越境プログラムをご提供しています。自社に合うプログラムをお探しの方は、お気軽にご相談ください。