【フルリモート下でベンチャーへ。夢はNECで「世界を変える道具」を作ること】NEC 宇佐美絢子さん -前編-
NECで官公庁に向けた営業に10年近く携わっていた宇佐美絢子(うさみ・あやこ)さん。日々の業務の中で「官公庁や大手企業のやり方には、構造的に改善できるところがあるのではないか」と考え、別の視点を学びたいと感じていたそう。そんな時にレンタル移籍の話を聞き、飛びつくように応募したと言います。
飛び込んだ先は、市民本位の行政サービスの実現につながる事業の研究開発及び導入支援を行うケイスリー株式会社。新型コロナウイルスの感染拡大でフルリモート勤務でありながらも、宇佐美さんは「とにかく仕事が楽しくて仕方なかった」と振り返ります。半年間の挑戦と成長の日々についてうかがいました。
目次
仕組みから人を変えていきたい
——宇佐美さんはNECではどんな業務を担当していたのでしょう?
入社して最初の4年間は、放送局が使う映像機材や、各家庭に電波を届ける送信機などの放送専用装置を担当していました。5年目に、航空自衛隊向けの様々なシステムの販売に関わる部署に異動。二度の産休を挟みながら、10年ほど担当していました。
——今回、レンタル移籍に応募した理由を教えてください。
「仕組みを変えられる人になりたい」と思ったことが理由の一つです。私は人間がここまで発展できたのは、道具の力が大きいと思っていて。iPhoneの登場によってスマートフォンが広く浸透して世の中が大きく変わったように、道具によって人間は進化して、歴史が作られてきました。
iPhoneを作ったのは、まだ今ほどの後ろ盾や技術の蓄積がなかったAppleです。そんなAppleにできて、豊富な蓄積や人材、知名度もあるNECにできないのは、仕組みが悪いからじゃないかなと思ったんです。
仕組みを変えて、技術が好きな人が生き生きと働きながら世の中にインパクトを与えるものを生み出せる場を作りたい。そう考えた時に、自分がいざその立場になった時に弱腰にならないためにも、今から経営の視点や組織運営についてもっと学ぶ必要があると感じました。
NECの子会社や関連会社へ行くことも考えていたんですが、もっとまったく違う環境に飛び込みたいと考えていて。そんな時にちょうどレンタル移籍について案内が来て、飛びつくように応募しました。
——そうしてケイスリーへのレンタル移籍が決まったのですね。数あるベンチャー企業の中からケイスリーを選んだ決め手を教えてください。
固有の社会問題を解決するというより、社会課題に構造的にアプローチしていたところです。それが私の「仕組みから人を変えていきたい」という考え方と合致していました。社員数が10数人と規模が小さく、経営者視点を学びやすいと感じたことも決め手ですね。
「すごい集団」の中で、どう価値を発揮するかワクワク
——ケイスリーへのレンタル移籍がスタートしたのは2020年4月です。緊急事態宣言の真っ最中でしたが、第一印象はいかがでしたか?
この状況もあってケイスリーにはフルリモートで勤務することになり、半年間で一日も出社しませんでした。NEC自体は以前からリモートワークが浸透していたものの、私がいた部署はセキュリティの関係からできなかったため、リモートワーク自体初体験です。真逆の働き方に触れたと感じましたね。
最初に驚いたのが、とにかく皆さんの経歴が多様なこと。しかも世界ランキング上位の大学出身者がたくさんいるなど、飛び抜けて優秀なんです。ベンチャー企業に対して学歴に頼らず、とにかく勢いで突き進むイメージを持っていたので、ちょっと戸惑いました(笑)。社内では英語の文献が一日に何本も共有されるなど、飛び交う情報の内容も量も圧倒的。こんなにすごい集団の中でどうパフォーマンスを発揮しようか、焦りながらもワクワクしていましたね。
——これまでとまったく違う環境に強く刺激を受けたのですね。一方、フルリモートだとなかなかチームの雰囲気に慣れるのは大変だったのではないでしょうか?
そうですね。ただリモートならではの良さもありました。毎朝始業時に一人1、2分ずつその日の体調や状況を共有する「チェックイン」や、30分ほどかけて自分の人生についてじっくり話す「マイストーリー」など、メンバーの様子を知る機会は多くありましたし、「オンラインの中ではこれがベスト」という方法を試行錯誤しながら追求していたと思います。
「多すぎる」と言われても譲れなかった、3つのテーマ
——宇佐美さんはレンタル移籍の半年間の目的として、「事業」「広報」「組織」の3つのテーマを掲げていらっしゃいました。このテーマはどのように決めたのでしょう?
ローンディールのメンターさんからは「3つは多いよ」と言われたのですが(笑)、どうしても譲れませんでした。
一番のメインは事業で、ケイスリーから依頼を受けたプロダクト「BetterMe」の事業・営業企画です。二つ目の広報は、私が客観的にケイスリーを見て「変えていきたい」と感じたところ。レンタル移籍をする前にケイスリーを調べた時、ホームページを見てもどんな企業なのかわかりにくかったんです。ちょうどホームページなど広報面を変えようとしているプロジェクトがあるというので、きっと貢献できると思って手を挙げました。三つ目の組織は、NECに戻った時に良い組織が作れる人でありたい、組織を変えていける人になりたいという思いから決めました。
——自身の成長のために欲張った半年間だったのですね。メインだった「BetterMe」の事業・営業企画は順調でしたか?
「BetterMe」の来年度の導入前提での契約を5件獲得することを目標に掲げていたのですが、前半の3ヶ月間はまったく芽が出ませんでした。ケイスリー自体、それまではコンサルティング業を中心としていたので、プロダクトを販売する営業職の人が一人もいなかったんですよね。新しく事業展開をはじめた分野で、情報が少ないなか暗中模索の状態でした。
とにかくできることは何でもやろうと、「飛び込み営業の極意」のようなテレアポのマニュアルを読んでみたり、営業の心理学を学んでみたり、パワーポイントの提案資料の作り方を変えてみたり……。人脈があって提案にこぎつけた時は、積極的にCEOに感想を聞くこともありました。
NECでは既存顧客がいたこともあり、ゼロから顧客を獲得したり、提案資料を作ったりする機会がなかったんです。営業活動の上流から下流まで全体を体感する機会になりましたね。
「大変」はたくさん、だけど「つらい」は一つもなかった
——新規事業でなかなか成果が出ず、かつフルリモートと聞いている限りハードな状況に思えますが、つらくて心が折れそうになったことはなかったのでしょうか?
結果が出なかった3ヶ月、とても大変だったのは事実です。目に見える結果が出ない中で、上司から「テレアポ300件」という、それまでの自分のキャパシティを越える目標を言い渡されたこともありましたし……(笑)。でも、どこかで「もうちょっとだな」とも感じていました。そうして試行錯誤を続けていたら、7月頃から一気に成果が出はじめたんです。
商談を頂いた自治体の多くは、過去に連絡をとるなどして種まきをしていたところでした。改善を繰り返しながら続けていて良かったと感じましたね。最終的には目標を大幅に超える成果を残すことができて、事業の拡大に貢献できたと思います。
大変な状況でも、仕事が楽しくて仕方なかったです。当時、ローンディールのメンターさんからは「嘘っぽい」と言われもしたんですが(笑)、私としては厳しい状況も含めて心から楽しんでいましたし、「この窮地で自分は成長しているんだな」と感じていました。「大変」はたくさんあったけど、「つらい」はまったくなかったですね。
——どこまでもポジティブに仕事と向き合っていらっしゃいますね。
もともと楽観主義なのもあるかもしれません。「なんとかなるだろう」「つらいと思うまで追い込まれたら別のことをやればいい」と思って、いつも新しいことにチャレンジしてきました。
実はこのレンタル移籍も、NECですごく大きな関門と言われる昇格試験と重なっていて。色々あってどちらかを選ばないといけなかったんですけど、「今しかできなくて、人生で糧になるのはこっちだな」と思ってレンタル移籍を選びました。NECの人に話すと、誰に言っても驚かれます(笑)。
私、本当に重要なものって人生にそんなにない気がしていて。それを忘れずにいれば、どんな場面でも迷わず選択できると思っています。私が大切にしているのは、過程も含めて自分の人生を楽しめるかどうか。昇格よりも今は自分がとにかく成長できる方が大切だし、その方がきっと楽しく生きていけると思っていたんです。
慣れない環境で3ヶ月間芽が出なくても、「もうちょっとだな」と自分を信じ続けた宇佐美さん。そのポジティブなエネルギーは、結果的に目標を大きく上回る成果をもたらしました。
さらに、そんな明るい宇佐美さんのパワーはチームにも良い影響を与えていきます。後編では、宇佐美さんがケイスリーの少人数組織の中で学んだこと、仕事哲学を変えるにいたった上司とのエピソードをお届けします。
→ 後編はこちら
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計41社115名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年10月1日実績)。
協力:NEC / ケイスリー株式会社
インタビュー:小沼理