【フルリモート下でベンチャーへ
夢はNECで「世界を変える道具」を作ること】NEC 宇佐美絢子さん -後編-


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 NECからベンチャー企業のケイスリー株式会社へのレンタル移籍を体験した宇佐美絢子(うさみ・あやこ)さん。このレンタル移籍で宇佐美さんが目的に掲げたテーマは、「事業」「広報」「組織」の3つでした。その中で、インタビューの中で宇佐美さんがたくさん語ってくれたのが「事業」と「組織」。前編では「事業」にフォーカスし、宇佐美さんがケイスリーのGovTechプロダクト「BetterMe」の営業に関わったお話をうかがいましたが、後編では「組織」をクローズアップします。
 若手をうまくモチベートするには、「心理的安全」を保った組織はどうすれば作れるのか、結束力のあるチームを作るには……NEC在籍時から考えていた組織作りへの問いを、宇佐美さんは次々に実践していきます。さらに、尊敬できる上司との出会いもありました。この半年間で、宇佐美さんの組織への価値観はどのように変わっていったのでしょうか。

若手をモチベートしながら、経営視点に近づけるためには

——前編では宇佐美さんが半年間の目的として掲げられていた中の「事業」についてお話をうかがいましたが、今度は「組織」について教えてください。フルリモートの状況下で、チームとのコミュニケーションなどで工夫したことはありましたか?

 私が入ることで、ポジティブなインパクトが与えられたら良いなと思っていました。ケイスリーでは新参者ですが、私より若手の社員も多くいたので、積極的な声かけなどでモチベートできたらと意識的に取り組んでいましたね。

 もともとNECで教育担当をしていたことがありました。当時から若手をモチベートしながら、ただ甘やかすのではなくて経営陣の目線や思考に近づけていく働きかけができれば組織がうまくいくと感じていたので、ケイスリーでも実践するようにしていました。

——ポジティブな宇佐美さんがチームにいることで、チームの空気も明るくなりそうです。

 そうなると良いなと思っています。でも、過去にNECで私がマネジメントに関わった時は、ポテンシャルを最大限発揮させることはできていなかったと感じていて。未だに連絡を取ることもあるので良い関係を築けていたとは思うのですが、意見が分かれた時に論破してしまう癖があったんですよ。ケイスリーに来て、もっと良いやり方があったなと思うようになりました。

尊敬する上司に出会い、「できる人」の定義が変わった

——なぜそう思うようになったのか、ぜひ教えてください。

 レンタル移籍の途中で上司になった、CFOの森山さんの影響が大きいです。とにかく私の心理的安全を気にかけて、モチベートしてくれるマネジメントスタイルだったんです。その環境で働いている時、自分がこれまで以上に色々なアイデアを出したり、積極的にチームに働きかけたりできている実感がありました。

 厳しさも大事だけど、本当に最良のチームを作るためには相手の意見を尊重し、間違った時にはきちんと指摘できる信頼関係が何よりも大切なんだと感じました。私もこんなマネジメントができるようになりたいと思いましたね。

——森山さんとのことで、何か印象に残っているできごとはありますか?

 とにかくものすごく仕事ができる人なのに、相手の意見を最大限尊重して、言葉もとても繊細に選ぶんです。1on1の最中も、「これができるようになりましたね……という言い方はちょっと偉そうでしたね」みたいに。

 こんなにすごい人なのに、どうして偉そうにせず誰のことも尊重できるんだろう? と思っていた時、「マイストーリー」で森山さんがご自身のことを話す機会がありました。そこで仰った「自分を証明しようと思ったことはない」という言葉が、森山さんの普段の行動とぴったり一致していて、すごく腑に落ちたんです。

 森山さんに出会ったことで、私の中の「できる人」の定義が変わりました。それまで「できる人」って勉強熱心だったり、勢いがあったり、人を圧倒するものを持っていたりするような人のことだと思っていました。実際、これまでに私が出会って「すごいな」と思った人は、自分を大きく見せて、証明することで成功する人が多かったですし、だからこそ私も論破する癖があったんだと思います。でも、私が本当に目指したいのはそういう人ではないと改めて気付くことができました。

 これまでも論破する癖を直さないといけないと思うことはありましたが、根本的なマインドセットができていなかったから長続きしませんでした。それが、森山さんと一緒に働く中で「これだ!」とピンときたんです。

——組織のあり方を考える上で、ロールモデルになるような存在と出会えたのですね。

 そうですね。世の中にすごい人はたくさんいますが、こんな人になりたいとまで思える人は多くありません。そんな人と出会えた、とても貴重な経験でした。

 森山さんに限らず、ケイスリーの方々とは本当に良い関係を築けたと思っています。最終日にはCEOの幸地さんから「リモートワークの中でコミュニケーションを積極的にとってくれたおかげで、組織が明るくなってありがたかった」と言っていただきました。

 忘れられないのが最終日のこと。サプライズで社員の皆さんが私の家まで来てくれたんですよ。まったく知らなかったので、本当にびっくりしました。聞けば、若手が中心になって計画をしてくれたそうで、色々なつてを辿って私の夫にも連絡していたそうです。つまり夫もグルでした(笑)。計画を進めていたスレッドを見せてもらったんですが、全員でアイデアを出しながら主体的に計画を進めてくれていて。「結束力のあるチームを作りたい」と考えながら半年間働いていたので、単なるサプライズ以上にうれしかったです。若手がみんな輝いて見えましたね。

図1
ケイスリーのメンバーと。移籍最終日のサプライズ送別会

組織にとって本当に良いアウトプットを最優先に

——フルリモートの中でも、関係をしっかり築こうとした宇佐美さんだからこそのサプライズですね。充実した半年間を経て、NECに戻られた今はどんな業務をしているのでしょう?

 官公営業本部という部署で、観光庁や空港に向けた新しいビジネスを考えていく業務を担当しています。この業務には前任がおらず、完全に新規で立ち上げるものです。何もない中でとにかく自分で動いて進めていく必要があるのですが、それができているのはケイスリーでの経験があるからだと感じます。

 変な忖度をせず、まずは行動できるようになったのも大きな変化です。最近、私より上の役職の人が作った提案資料が、少し見づらいと感じることがありました。今までだったら「こういう風に変えたらもっと良くなりそう、でも私は配属されたばっかりだし、下手なこと言えないな」とスルーしていたと思うのですが、今回は先に手直しをして、「ちょっと変えてみたのですが、どうでしょう?」と提案することができました。

 組織にとって本当に良いアウトプットを考えたら、そんなことで躊躇する必要はないのかなって。そこでもしも「こういう理由で、元の提案資料のほうが良いんだよ」と言われたら、それはそれで私も勉強になりますし。自分の思考の枠を外して、まず行動できるようになったと思います。

 それから、昇格することもできました。あの時、昇格よりもレンタル移籍を選んだのですが、移籍前にいた部署の上司が上層部と掛け合ってくれて。感謝しかありません。

——最後に、宇佐美さんのこれからの展望を聞かせてください。

 前々から課題だと感じていたことですが、NECではアウトプットよりもプロセスを重視する風土があります。極端な言い方をすれば、アウトプットがなくても説明責任が果たせればOKというか……甘くてあたたかい会社だと思います。でも、私は厳しくてあたたかい会社のほうが良い。そうした社内の雰囲気が結果につながっていくと思うので、自分にできるところから見直していきたいです。

 私個人としては、どんなアプローチ方法でもいいので「世界を変える道具」を作りたい。それが人事なのか、プロダクト制作としてなのか、マネジメントなのか、関わり方やポジションにはこだわっていません。でも、いずれにせよ良いチームが作れなければ、それを実現することはできないと思います。

 まずは全員がいきいきしている組織を目指し、全員で目の前のお客さまを変える道具を作っていく。「チームだからこそできた」という成功体験を積み重ねて、その果てで「世界を変える道具」をNECから発信したいです。


若手社員との関わり方を思考錯誤し、ロールモデルとなる上司と出会う中で、目指すべき「組織の中の自分」像をアップデートさせた宇佐美さん。ケイスリーへのレンタル移籍の半年間を経て、忖度せずに良いと思える案を提案できるようになるなど、その変化は早くも行動に表れていました。良いチームから、世界を変える道具を作る——。レンタル移籍の半年間は、そんな宇佐美さんの夢に大きく近づく一歩となったようです。

Fin

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計41社115名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年10月1日実績)。

協力:NEC / ケイスリー株式会社
インタビュー:小沼理

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