「お客様と事業のために、カッコつけてる場合じゃない」NEC 實方圭太さん
NECに入社し、営業として経験を積んできた實方圭太(じつかた・けいた)さん。「新規事業を立ち上げたい…」そんな気持ちがきっかけとなり、一定期間、ベンチャー企業で働く「レンタル移籍」を通じて、1on1支援プラットフォーム「KAKEAI(カケアイ)」を提供する株式会社KAKEAIの一員に加わりました。
自分自身のこれまでの常識が通用しない環境でのギャップの数々。働く中で見えてきたのは、社長をはじめとするメンバーがお客様と事業に本気で向き合う“カッコつけない”真摯な姿でした。
移籍からNECに戻った今、責任の重い仕事に向き合い多忙な日々を送りながらも「今が一番、“らく”で楽しいんです」と笑顔で答える實方さん。一年間の移籍を経て、仕事への向き合い方に大きな変化が生まれたといいます。その背景にはどのような経験があったのでしょうか。
目次
「新規事業を立ち上げたい」踏み出した挑戦の道
ー NECを選んだきっかけと、これまで経験された仕事を教えてください。
子どもの時から、パソコンやデジカメなどデジタル技術に触れることがずっと好きでした。いつか自分が電子機器のメーカーに入ってIT機器の仕事に関わりたいなと思っていたことから、ご縁をいただいてNECに入社しています。
入社して最初の5年間は、東京の本社で全国の国公立大学のお客様への営業の仕事をしました。その後仙台に異動し、東北地域の大学や研究機関に対してスーパーコンピューターや事務システムなどを販売する営業を担当しました。その後また東京に戻り、全国の地方公共団体様向けの営業の仕事に携わっていたタイミングで、今回のレンタル移籍を経験しました。
ー どのような経緯でレンタル移籍に挑戦しようと思ったのでしょうか。
僕は数年前から新規事業開発の仕事をしたいと思っていました。当時の上司に対しても、新規事業開発部門への異動の希望を伝えていたんです。その上司が「新規事業立ち上げに携わりたいのであれば、ベンチャー企業に移籍するプログラムがあるので参加して勉強してみたら良いんじゃないか」と、このプログラムを紹介してくれたことが応募のきっかけでした。
ー なぜ、数あるベンチャーの中からKAKEAIを移籍先に選んだのでしょうか。
最初はサービスに強く共感したことが大きかったです。「KAKEAI」は、上司と部下などの社内コミュニケーションを支援するプラットフォームサービスなんですね。サービスを知って、まず自分自身が「使いたい!」と思いましたし、このサービスをぜひ世の中に広めたいと思いました。また、面談で話した社長の本田さんの人柄や会社の雰囲気、会社が実現しようとしていることに対しても非常に共感したことから、ぜひこの会社で一緒に取り組んでみたいと思ったんです。
ギャップと向き合い続けたベンチャー企業の日々
— KAKEAIではどのような業務を担当したのでしょうか?
KAKEAIは、従業員が10名弱ほどの少数精鋭のチームで運営しています。僕は主として営業の役割で移籍してはいましたが、明確に職域が切り分けられているわけではありません。イベント企画の事務局やお客様サポートも担当するなど、まさに事業を推進するために全員でチームとしてできることを各々が進めるという働き方でした。
メンバー同士の距離も非常に近く、毎日メンバーの皆と一緒に仕事をしている感覚でしたね。移籍中は、社長である本田さんと取締役の皆川さん、特にこの2名が僕の上司として業務をサポートしてくださいました。ですが、特に社長である本田さんには、最初の頃は本当にめちゃくちゃ怒られて。ぶっちゃけ、移籍当初は苦手意識を持っていました(笑)。
—それは大変でしたね。移籍した当初は苦労したことも多かったのでしょうか?
とにかくベンチャーという環境にギャップを感じていましたね! 正直挙げるとキリがないのですが、基本的な仕事の進め方やコミュニケーションのとり方、仕事に対しての捉え方など、あらゆる点でギャップがありました。
— 想像と最も異なった点はどのような点でしたか。
僕は、ベンチャー企業は大企業より「自由」だと思っていたんです。
もともと移籍前は上司への報告や仕事の進め方のステップにおいて、“大企業ならではのルール”の方が多いのではと思っていました。ベンチャーの方が決まり事がなく、自分の思うままに動いて必要な時だけ連携する、そんなイメージだったのですが実際は真逆でした。
KAKEAIは、まさに事業の拡大フェーズの大事な時期でした。どんなに小さなチャンスも逃してはならないという状況の中で仕事を進めているので、小さな間違いや判断のミスが大きなチャンスを逃すことにもつながるんです。移籍前に想像していた以上に、メンバー同士お互いに細かく連携して目線を合わせながら、一つ一つのチャンスや仕事の効果を最大化しながら動くという大切さを思い知りました。それを大企業よりもより細やかに行う必要があるということを、移籍してから痛感したんです。
— なるほど。具体的にはどのような動きだったのでしょうか。
KAKEAIに移籍してからすぐ、本田さんに怒られました。僕の知人の会社にKAKEAIを紹介できるのではないかと思いついたのですが、自分自身の知り合いだったので、KAKEAIの多忙なメンバーに許可をとったり報告するレベルの話ではないと思い、自分の判断で予定を入れて会うことにしたんです。
そうしたら、それを知った本田さんに「なんで一人で動くんだ」と強く叱られました。もちろん、自発的に動いたこと自体を咎められたわけではないのですが、これはつまり、相手は僕の知人ではあるものの、たとえば過去その会社に接点を持った人がKAKEAIの中にもしいるのであれば、その人からのアドバイスをもとにより確度の高い紹介や商談にできるかもしれない、という理由でした。「その可能性を生かさずに自分の判断だけでやろうとすることは、会社にとってももったいないことだ」と言われたことがとても印象に残っています。そこまで考えて行動することができていませんでした。
メンバーと触れる中で身につけた“カッコつけない”姿勢
—一歩先二歩先まで考えて行動する必要があったのですね。そうした中で、特に大きな気づきは何でしょうか。
とにかく、「カッコつける必要なんてない」ということと、お客様と事業に向き合うのが一番大事だということです。
僕は、移籍をする前まで仕事においてずっと「カッコつけてたな」と思います。自分を良く見せようということを意識し過ぎていたなと思います。たとえば、自分を無理に正当化したり、失敗したときに素直に謝れなかったりと、つまるところ自分をさらけ出せていなかった。自分ではそんな意識がなかったとしても、十数年働き、仕事のキャリアを重ねるうちに、いつのまにか「自分はできている」という勘違いや余計なプライドが積み上がっていたのではないかなと。
当初は、自分の間違いを素直に認めたり、わからないことを隠さず言い出しにくいと感じることもあったのですが、途中でそれは無駄だと気づきました。自分が間違ったときには素直に謝った方が楽で立て直せるスピードも速いし、わからない時は先輩後輩問わず聞いたりした方がスムーズに仕事が進みます。つまり、カッコつけてしまうことで、自分で自分の首を絞めていたんだなと気づいたんです。素直に謝って、素直にわからないって言って、どうしたらより良くなるかというのを皆で考えられた方がよっぽど楽しいし、その方が気が楽ですよね(笑)。
— その他、仕事への向かい方などで、得たことはありましたか。
KAKEAIの仕事を経て、もう一つの大きな学びは「責任感」でした。
移籍前も責任感をもって仕事をしてきたと思っていたのですが、大企業の恩恵で守られていることも多かったように思います。少人数のベンチャー企業でそれぞれが非常に重い責任を負うKAKEAIに行って痛感したのは、自分一人の行動が事業や会社に直接影響を与えるということでした。僕がお客様と事業に向き合う中でチャンスを生かすことができなかったり、ミスがあれば会社に悪影響を与えたり、当然皆に迷惑をかけてしまったりと、自分の言動や行動が結果に影響を与える責任感が非常に大きかったんです。
同時に、周囲で発生する事柄にも必ず自責が含まれているという「自分の責任感を拡大させる」という感覚も身につきました。例えば、「あの人はあの件で失敗したけれど、僕が気遣っていたら結果は変わっていたかもしれない、ひいては事業や会社にとってその方が良かったかもしれない」と捉える感覚です。「人の仕事だから関係ない」のではなく、いかに他者のアウトプットでも自分が少しでも貢献して良いものにできないかということを考え続けることの大切さに気づいたんです。
—チームメンバーとの関係性や責任の捉え方まで大きく変わられたのですね。
本当にそうですね。KAKEAIにいて強く感じたのは、とにかくお客様と事業に向き合い続けるという感覚です。
KAKEAIの方々は常にお客様のことを考えているので、事業のことを考えてチャレンジすることを誰も止めないし失敗したとしてもそれ自体を責めることはありません。むしろ、お客様と事業に対して向き合わなかったことや全力を尽くさなかったことの方がよっぽど責められる。それがあるからこそ、安心して自分をさらけ出せたっていうこともあるんだと思います。
移籍前は、自分が“むき出し”になっておらず、仕事において本当に大事な、事業を大きくすることや会社のためにより良いアウトプットをすることに注力しきれていなかった僕がいました。そんな僕でも、KAKEAIのメンバーと接することで変われたと思うんです。
「カッコつけない」よりも「カッコつけてる場合じゃない」、事業とお客様と向き合う責任があるので、自分をカッコよくみせるなんてどうでもいい、そんなことをしている余裕はないと今では思えることができました。
KAKEAIのメンバーとの1枚
— 変化も多く、乗り越えなければいけないことが多かった一年だったではないでしょうか。
当時のNECでの働き方と、KAKEAIへ移籍した後の働き方にはギャップが大きかったので、落ち込むことも多かったです。しかし、メンバーとは良い関係を築けましたし、本田さんが、実は僕の成長を考えて厳しく向き合ってくれている、ということがわかってからは、僕も向き合い方が変わりました。
最初のころは、「本田さんには嫌われているだろうな」とも思っていました(笑)。しかしある時、人づてに「本田さんを含め、私達はあなたが思っている以上にあなたのことを考えているよ。(僕は昨年子供が生まれたので)出産祝いだって、本田さんが選んだんだよ」と言われたことがありました。すごく嬉しかったですし、期待に応えなくてはいけないなという想いがそこから強まりましたね。
また、メンターの渡辺さんが、僕が本当はどうしたいのか、どうあるべきなのかということを導いてサポートしてくれたので、本当に感謝しています。
それから、僕が移籍した一年間、NECの上司も伴走してくれていたんです。業務も忙しい中、僕が提出する週報や月報に優しいことも厳しいこともコメントで伝えてくれたり、いつも的確なアドバイスをしてくれました。渡辺さんと、NECの上司の存在がなかったら、僕は途中でリタイアしていたような気がします。僕を支えてくれた方々に、心から感謝しています。
自然とできるようになった仕事への“意味づけ”
— 移籍を終えて、今はNECでどのようなお仕事を担当されていますか。
全国の地方公共団体様向けの事業部門で経営企画を担当しています。今は、事業部の中期経営計画の達成に向けた戦略立案や人材育成に取り組んでいます。
— NECに復職した際にどのようなことを感じましたか。
誤解を恐れず言うと前より「“らく”だし、楽しい」と感じています。
実際のところは、今は復職前よりも忙しいですし、初めて取り組む仕事ということもあり内容面や体力的にはずっと大変だし辛いはずなんです。それにもかかわらず、この十何年間で一番“らく”だなと思っています。それは、僕がKAKEAIへの移籍を通じて自然と「カッコつけなくなっていた」からだと思うんです。
たった一年間で生まれ変わったように変化を体感したのは人生で初めての体験でした。一緒に仕事する人たちとの関わり方、仕事に対する捉え方や考え方、明らかな変化を自分の中で日々実感するんです。これが本当に面白いんです。
—具体的にはどのように変わったのでしょうか。
たとえば、一年前であれば何か仕事をするときに「この仕事は意味がないんじゃないか」と思ってしまうことが正直ありました。「こんなの無駄だ」と思って切り捨てようとしたり、形式上だけの進め方にしていたりすることがあったのではと反省しています。移籍を経た今は、どの仕事に対してもどんな意味があるのかを考えたり、どうしたら誰かの役に立つ仕事になるんだろうと考えるなど、“意味づける”ということが自然にできるようになりました。
とはいえ、今の仕事は「楽しい」と感じてはいますが、実際は自分の知識やスキルという点ではまだまだ足りていないなと思います。より良いアウトプットをしていきたいのですが、出しきれていないなと感じるところはたくさんあるので、もっともっとインプットもしていかなければと思っています。
「変化」を伝えて役に立ちたい
— これから取り組んでみたいことはありますか。
僕自身の中で一年間の変化が本当に大きかったんです。今後は、自社で働く人たちにもそんな変化を起こすことができたらと思っています。自分は決して、もともとベーススキルが高かったり優秀な人間であるわけではないのですが、一年間でこんなに変われたという「変化」こそが本当に大きな価値だと思っているんです。
この変化を多くの人に起こすことができたら、組織も会社もいくらでも良い方向に変わっていけると思います。だからといって、決して僕自身が何かを押し付けるわけでも、僕のようになってほしいということでもなく、シンプルに「僕が経験させてもらった変化」をNECの人達に起こしていきたいなと思っています。そして自社に限らず、かつての僕のような「悶々としていて、なんとなく空回りしている」、そんな人たちがいるのであれば、何かしら伝えることができたらいいなと。
—自らの経験を社内や周りに還元していきたいという気持ちが強いのですね。ベンチャーでの日々が實方さんにとっていかにインパクトがあるものだったか、伝わってきます!
移籍当初は、ギャップばかりで大変なことが多かったのですが、だからこそ、あらゆる経験から本当に成長させてもらったと思います。KAKEAIでの日々はかけがえのないものですし、本田さんはじめ、メンバーにも心底感謝しているんです。KAKEAIのことが大好きですし、本当に行くことができて良かったなと思います。
そうした中で得た、お客様と事業に向き合っていれば、どんなことにチャレンジしてもいいし失敗してもいいということ。働く自分自身も、カッコつけないで仕事やお客様に向き合う方が“らく”だし“楽しい”という考え方を、これからも大事にしていきたいですね。
一年間を経て、ご自身で「生まれて初めての経験」と表現するほど貴重な変化を体感された實方さん。移籍中の経験を通じて、ともに働く人と信頼し合い力を合わせるチームのあり方を学ばれたのではないでしょうか。強い絆をもつメンバーとともに取り組む事業。そんな仕事を手がけた先に出会えるのは、達成した喜びを仲間と分かち合える素晴らしい未来かもしれません。
Fin
協力:日本電気株式会社 / 株式会社KAKEAI
インタビュー:大久保真衣
撮影:宮本七生
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計50社 145名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年7月1日実績)。