大企業人材2名が実現させたベンチャー発のソーシャルイベント
小野薬品工業株式会社(以下、小野薬品)で事業戦略本部に所属し、海外事業に従事していた中村順平さんと中田行紀さん。お二人は2022年10月から1年間、レンタル移籍に挑戦しました。
中村さんは、「社内外の巻き込み力」と「突破力」を身につけたいと、岐阜県羽島市で衣料向け繊維素材の企画・製造、自社ブランド事業を展開する三星毛糸株式会社(以下、三星毛糸)へ。創業136年を誇る老舗企業のアトツギベンチャー(注1)で、地域・産業の枠を超えた共創コミュニティの立ち上げと、尾州地域の繊維企業のDX化に取り組みました。中田さんは、「圧倒的な馬力」「巻き込み力」「問題解決力」を得たいと、一般社団法人 グラミン日本(以下、グラミン)へ。マイクロファイナンス(注2)の提供や、「でじたる女子」プログラム(注3)に取り組みました。
それぞれの移籍先で奮闘していたお二人ですが、移籍の最終月に三星毛糸 × グラミンのコラボ企画を実現!貧困問題解決に関心がある方を対象としたイベント「ソーシャルタキビコ with グラミン日本」を開催することに。
そこで今回、お二人がどうやってコラボイベントを実現させたのか。お話を伺いました。また、移籍者を受け入れた三星グループ代表 岩田真吾さん(以下、岩田さん)、グラミン理事長 百野公裕さん(以下、百野さん)から見て、お二人の活躍はどうだったのか? についてもお聞きしました。
ーイベント開催のきっかけはなんだったのでしょう?
移籍者・中田さん:1年前、移籍先を検討するときに三星毛糸の岩田さんと面談でお話ししたことがありました。最終的に、自分はグラミンへ移籍したのですが、そのご縁もあって今年の6月にLoanDEAL主催のイベントで岩田さんと再会したときに「一緒になにかやろうよ」と声をかけてもらったのがきっかけです。そこから中村さんと話を詰めていきました。
移籍者・中村さん:私が移籍した三星毛糸では、これまでもスタートアップ × アトツギ企業の共創イベントや、アフガニスタン避難民 × 地場企業の交流イベントなどを企画してきたので、グラミンとも共創イベントを行うことで、グラミンの知名度向上やシングルマザー支援につなげることができるかもしれないと感じました。
ー中田さん、中村さんのお二人は製薬企業で働いてこられたわけですが、ご自身がソーシャルなイベントを企画・運営するなんて思いもしなかったのでは?
移籍者・中田さん:製薬業界かつ海外事業の中にいたので、想像すらしていませんでした。ただ小野薬品でも「患者さんとそのご家族のために」という想いを持って働いていたので、通じる部分はあると思っています。
移籍者・中村さん:移籍をしていなかったら、こんな一歩は踏み出せなかったですね。
移籍者・中田さん:そもそも、こんなことを自分たちがやっていいんだ。という想像もできない。ソーシャルビジネスって、本来、社会課題をビジネスの手法で解決する事業で、事業収益を上げることで継続的な社会支援を可能にするものですが、どことなく社会貢献して、お金儲けしちゃいけないという空気があるように感じていました。
でも、そんな訳はない。改めて社会貢献してお金も稼いで、社会課題が解決すればより良くなる。今はそう思うようになりました。
ただ、実際に「イベントを実現しよう!」ってなったあとは、関係者への説明を何度も行ったり…、結構大変でした(笑)。
移籍者・中村さん:社内の巻き込みからはじまって、イベントの集客など…いままでの経験を全部使い切った感じです。
ーきっかけを作った岩田さんから見ていかがですか?
岩田さん:社長やリーダーって、社員や仲間が自分の想像を超えて成果を出してくれることが一番嬉しかったりするんですよね。中田さん、中村さんが主体的に動いて、1年前は想像もしていなかったグラミンさんとのイベントが実現できて本当に嬉しいですね。今回のことをきっかけに、東海エリアでグラミンさんが取り組んでいることを多くの方に知ってもらう機会になると良いなと思っています。
ー岩田さんにとっても想像していなかったことなのですね。ちなみに、イベントに限らず、実際にレンタル移籍者を受け入れてみていかがでしたか?
岩田さん:中村さんは大阪から岐阜に単身赴任して、地元密着型で働いてもらいました。やはり、その土地に入り込むことで見えることがありますので。そうした中で、地方のスタートアップ、地方のアトツギベンチャーと大企業の差を感じることも多ったのではないかと思います。
百野さん:グラミン日本では、リモートワークによるプロボノが運営主体として活動しています。中田さんもリモートワークでの活動が主体でした。時折、愛媛県・沖縄県といったそれぞれの現場でメンバーと一緒に活動しました。大企業だと会社の看板があることで身軽に動けないこともあったと思うのですが、グラミンでは名前を背負ってフットワーク軽く活動する経験ができたのではないかと思います。
岩田さん:自分で考えたことが、何でもできるという経験は大きいんじゃないかと思いますね。
ーレンタル移籍者を受け入れることで、事業に影響はありましたか?
岩田さん:中村さんには「アトツギ×スタートアップ共創基地 TAKIBI & Co.【タキビコ】」 と、尾州地域の繊維企業のDX推進プロジェクトの2つをミッションとして活動してもらっていました。中村さんがいなければこの2つを立ち上げることはできなかったと思っています。
ーこの一年で中村さんの変化を感じる場面はありましたか?
岩田さん:ミッションのうちの一つ「タキビコ」では、共創イベントの開催や、そのためのスペースの改装等に取り組んでもらったのですが、こちらはまずは僕がお願いしたことをこなしている印象でした。
変化があったのは半年ぐらい経ったときでしょうか。もう一つのミッションである「繊維企業のDX支援(経済産業省の補助事業を利用した、尾州地域の繊維企業のDXを推進するコミュニティを運営するプロジェクト)」の責任者に任命させてもらったのですが、中村さんが中心になって書き上げた申請書で採択されました。このとき、変化があったように感じます。中村さん自身が「こうやって動けばいいんだ」というのを掴んだのかもしれません。
タイミング的にも、移籍して半年経ち、三星毛糸内外の人間関係を把握し、枠を超えて中村さんの協力者が増えた頃のように思います。
ー百野さんはいかがでしょう?事業への影響はありましたか?
百野さん:ありましたよ。中田さんが移籍してくるまで、グラミンというと”女性による女性の支援”という色が強かったんですが、中田さんが ”当事者目線” で間に立って動いてくれたのが良かったですね。
ー中田さんにもターニングポイントがありましたか?
百野さん:愛媛県でシングルマザーを含む女性の方々に向けたワークショップを開催したことが転機になったように思います。ワークショップの企画運営を一人で全部やってもらったのですが、それがとても好評でした。その時から主体性が生まれ、仕事に対する取り組み方が変わったように思います。
ーお二人共、環境は違えど「現場」を通して気づきがあったようですね。
百野さん:現場を知っていると、解像度が全然違いますよね。
岩田さん:どうしても大きな組織にいると、手触り感が得られないことも多いと思います。顧客体験する機会がない。社内の調整のために仕事しているような感覚になってしまうことがありますよね。B to Bのビジネスの場合は特にそうかもしれません。そんな中で、レンタル移籍はよい機会になるのではないでしょうか。
ーお二人がレンタル移籍者に求める資質はありますか?
岩田さん:自分ができることとできないことを知る。というのは大事だなと思います。
百野さん:「素直にすぐ動く」も大切ですよね。
岩田さん:そうですよね、「素直さ」。そして、なにより事業に興味を持って、学びたい!という意欲がある人、好奇心がある人が来てくれるといいな
と思います。