「移籍先でも活かした”やってみなはれ”精神」サントリー 山畑俊輔さん


サントリーホールディングス株式会社の山畑 俊輔(やまはた・しゅんすけ)さんは、2019年10月から1年間、株式会社小国士朗事務所(NPO法人deleteC)へのレンタル移籍を経験しました。

入社以来、12年間スーパーやドラッグストアへの酒類営業を担当していた山畑さんが、畑違いのNPO法人に飛び込み1年間のレンタル移籍を経て感じたこととは……。

一人目の留職者

――レンタル移籍のきっかけはなんだったのですか?

入社して12年、いつの間にか後輩が増え、上司との年齢は近づき、気づけば中堅社員になっていました。

営業一筋でやってきて、果たして、自分はこのままでいいのだろうか。自分のスキルは? 外の世界でもやっていけるのだろうか? そんな思いから、社内のキャリアチャレンジ制度に手を挙げたんです。

“キャリアチャレンジ制度”とは、現部署での業務を継続しながら1年間のタフなOFFJTプログラムを経て、その修了要件を達成すると、修了後1年以内にグローバル関連業務を含めた新しいアサインメントにチャレンジできるというサントリーの社内制度です。

その研修期間中、何度かキャリア面談を受けたのですが、自分のキャリアの方向性が定まらずにいました。

そんな中、「なにか新しいことをやりたい」という気持ちだけはあって、面談の中でも「新しいことがやってみたいです」それだけは言い続けていました。

――漠然とした不安や焦りから、キャリアチャレンジ制度へ参加していたのですね。

そんなある日、キャリア開発部の部長から呼び出され、「留職制度(レンタル移籍)」と書かれた一枚の紙を渡されました。

「こういうのあるんだけど、興味ある? 行ってみたいと思う?」
そう聞かれて、反射的に「行ってみたいです」と答えた自分がいました。

その一言で、サントリー初の留職制度(レンタル移籍)を活用し、ベンチャー企業へ研修に行くことになったのです。

メーカー営業からNPO勤務へ

山畑さんが移籍先に選んだのは、中島ナオさんと小国士朗さんが「みんなの力でがんを治せる病気にする」というビジョンの元に立ちあげ、がん治療研究に対する寄付・助成事業やがん治療研究に関する情報提供・啓発事業に取り組んでいるNPO法人deleteCでした。

ーーなぜdeleteCを選んだのですか?

まず、deleteCが社会の役に立つ事業を行っている点に惹かれました。

そして、設立されたのが、移籍がスタートする1ヶ月前(2019年の9月)ということで、組織をゼロから立ち上げる中で、営業に限らず色んな経験ができそうだなと思ったんです。

ーー実際deleteCに移籍してみてどうでしたか?

まさに法人としてスタートを切ったばかりで手探りの状況でした。

自分以外、全員がdeleteCのビジョンに賛同した兼業メンバー(副業やプロボノ)。オフィスもないため、メンバーに会えるのは多くて週に1回。

加えて、階層のある組織ではないため、業務に関する指示もありません。それぞれが自発的に動き組織に関わっていました。
今まで働いてきた環境とは全く違いました。

ーーdeleteCでは具体的にどんな業務を担当されましたか?

支援企業拡大のための渉外活動、NPOとしての基盤構築業務(法務、会計、事務局)そして、イベント運営やクラウドファンディングの運営など、資金管理からデザイン検討まで幅広い業務に携わりました。

ーー希望通り営業以外にも幅広い業務にチャレンジできたのですね

はい。そうなのですが、組織や業務の全体像が見えてくると、deleteCには法務・会計・広報・イベント企画といった、それぞれのプロフェッショナルな方たちが集まっていて。

そんなプロフェッショナル集団の中で、「一体自分に何ができるんだろう」という気持ちが芽生えたんです。

ーープロフェッショナル集団の中での「自分にできること」

自分だけが専業メンバーというポジションだったこともあり、「自分にできることはなんだ」と考えてしまって。

でも「自分にできることはなんだ」と考えても仕方がない。それならば、「なんでもやってみよう」そう思うようになりました。

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移籍先でも活かした「やってみなはれ」精神

ーーまずは行動してみることにしたのですね。

サントリーには「やってみなはれ」精神というのがあります。

やってみなければはじまらない。とにかく失敗してもいいからなんでもやってみる。そうすると何かしらの反応が返ってくる。

自分から動かないと、何も進まない。この感覚はメーカーの営業では経験したことがありませんでした。

既に完成した商品が世の中に流通している中で働いていたので、自分が動かないと物事が進まない。というよりも、むしろ自分がいなくても物事は進んでいく中にいました。

そこに、営業時代の自分は課題を感じていたことに気づきました。このままでいいのか。もっと自分で考えられるようになりたい。

そのために、自分の意見を言う。資料を作って提案してみるなど、まずは「投げかける」ことにしました。

ーーとにかく投げかける。実際に行動するのは難しくなかったですか?

たしかに、最初の頃はブレストのとき、アイディアといっても、なにも思い浮かばなくて一言も発することができませんでした。

でも、段々「言ってもいいんだ」と思えるようになり、徐々に発言できるようになっていきました。

ーーそれは大きな変化ですね。「言ってもいいんだ」そう思えたきっかけはなにかあったのですか?

小国さんが常々、「違和感を大事にしよう。そこにヒントがあるんだよ。」と言っていたことが大きいです。

だからdeleteCの中には、違和感や質問は口にしたほうがいいよね。という風土がありました。

なにも言わないことがだめ。というネガティブな気持ちから、なにか言わなくてはならない。と気負うのではなく、違和感を大事にしようとした結果、発言できるようになりました。

レンタル移籍を終えた今でも、疑問や質問を積極的に口に出すようになったので、習慣として身についた気がしています。

ーーなるほど。「違和感を大事に」されたのですね。
レンタル移籍の中で、特に印象に残っている出来事はありますか?

移籍が終わる2020年9月に大きなイベントを行ったのですが、実はこのイベントの開催自体が、前月の8月に決まったので、慌ただしい日々を経験しました。

そのイベントは、「deleteC大作戦」というもので、協賛企業の商品の「C」の文字を消して撮影した画像をSNSに投稿してもらうことで、その投稿数に応じて企業からの寄付金を募るという企画でした。

deleteCのバリュー(大切にする価値観)の中には、「エソラゴトを、本気でカタチにする」というものがあるのですが、小国さんはいつも描いた未来は、たぐりよせられる。みんなで思い切りエソラゴトを描きましょう。と言っていて。

一つのアイディアから、どんどん世界を広げて、発信して、具現化していく。そのプロセスを体感しました。

「エソラゴト」と「勝負どころ」

ーーエソラゴトをカタチに。素敵な言葉ですね。

deleteCのエソラゴトは、誰もが参加できて、みんなでがんの治療研究を応援していける仕組みをつくることです。そして、「がんを治せる病気にする日」を1日でも早く手繰り寄せることです。

「その風景を一緒に見たい」と思う人を募っていく。そのために、どんなアクションをしていけばいいのか。

小国さんやナオさんをはじめ、本業を抱えた兼業メンバーが自発的に動き、どんどんアイディアがでてきて、それがすごいスピードで形になっていきました。

正直、自分は企画自体がどんどんアップデートされ続けていく環境に、喰らいついていくのに必死でした。

期日が迫る中での、連日の打ち合わせ、渉外活動や資料作成、企画実施に向けた事務作業など、いっぱいいっぱいでした。

そんなとき、小国さんからここを乗り越えることで、「レンタル移籍後、サントリーに戻ったときに世界が変わると思う。“まさにここが勝負どころだよ”」と声をかけてもらったんです。

新しいことをやるためには、それぞれが100%、いや、それ以上のパワーを出して壁を超えていかないといけない。そう感じました。

ーー勝負どころを乗り越えた先に、なにか見えましたか?

結果的に、deleteC大作戦は、SNS上で100万回以上のリアクションをいただき、200万円を超える寄付をいただきました。

誤解を恐れずに言うのならば、みんなが狂ったような情熱で行動することで、はじめて世の中にインパクトを与えることができるのかもしれない。そんなことを思いました。

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気づかぬうちに培われていた力

ーーレンタル移籍を経験して、ご自身が変わったなと思うことはありますか?

「自分の価値」について考えるようになったことと、「ことば」に気を遣うようになりました。

「自分の価値」ってなんだろう? 改めて、この移籍期間中の自分の行動を振り返ってみると、サントリーの営業で培ったものがベースになっていると気づきました。

業種業態問わず渉外活動で50社以上の企業と打ち合わせを行ったのですが、相手に応じて資料作成をすることも、営業経験があったからこそでした。

ーーご自身の「価値」について考えてみたら、営業で培った力が活きていたのですね。

そうなんです。そして、自分の価値を考えると同時に、共に働く人の価値はなんだろう?とも考えるようになりました。

これはdeleteCで、多様なプロフェッショナルな方々と働く中で、プロに頼るべきところは頼る。という1年間を過ごしたことも強く影響しているのですが。

自分自身、営業経験の中で培った「できること」があったように、人にはそれぞれ強みにできるポイントがある。そう思うようになったんです。

ーー「強み」は誰にでもある。では、「ことば」に気を遣うようになったのはなぜですか?

これも、渉外活動をする中で学んだことです。
deleteCの打ち合わせでは、初めて会う方ばかりで、業種も様々、情報レベルもバラバラの中、自分たちの想いを伝える必要がありました。

一期一会のお客様に想いを伝えるためには、自分の表現の仕方、言葉選びが非常に大切であると痛感しました。

ーー働く上でのマインドと、想いを伝える「ことば」について学びがあったのですね

はい、今の仕事でも、とても意識している部分です。

これからのチャレンジ

ーー今はどんなお仕事をされているのですか?
 
レンタル移籍後は、サントリーグループの中で健康食品や美容商品を販売する健康事業を担っているサントリーウエルネス株式会社でサービスの企画開発担当をしています。

長年携わってきた酒類営業から仕事内容が大きく変わり、2020年9月に立ち上がったばかりのチームという中、初めての企画開発に右往左往しています。

ーーまさに会社としての新しいチャレンジの中心にいるのですね。

そうですね。deleteCへのレンタル移籍で、スタートを切ったばかりの手探りの状況を経験してきたので、新しいことに対するストレスは感じていません。

大企業の中にいた自分の仕事のスタイルが、一度リセットされ、耐性ができたのかな…? と思っています。

――レンタル移籍の経験を活かしていることはありますか?

3つあります。

ひとつは、違和感を大事にしています。外からサントリーウエルネスに来た山畑として違和感を感じれることが、今の自分の価値だと思います。

もう一つは、やっぱり「ことば」です。
新規事業に挑戦するということは、自分の出したアイディアに共感してもらわないと、何も始まりません。

今までは、小国さんやナオさんの出しているこの指とまれの一本指を握っている側だったのが、今度は自分の指に止まってもらう側になりました。

そのために、想いを伝える言葉を常に意識しています。

そして、最後に「外とのつながり」です。

レンタル移籍を通じて、新しい世界に触れたことで、自分の世界は広がりました。自分から外に出て、仲間を増やしたいと思うようになったんです。

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レンタル移籍を経験して見えたもの

ーー山畑さんの感じた「外に出ていくことの大事さ」とは?

外の世界と触れ合うことで、「価値のかけ算」の枠が広がると思っています。

社外と触れ合うという意味もありますが、社内の自分の業務の枠内から出てみる。というのも意味があると思っています。

サントリーの中には、素晴らしい人がたくさんいます。でもサントリーの中しか知らない人たちもいると思うので、もっと外に触れると、もっといい会社になると思うんです。

小国さんの言葉を借りるならば「半歩はみ出す」と良いと思うんですよね。

半歩…半歩…半歩……。

みんながちょっとずつはみ出してみると、もっと世界は広がるのではないか。もし失敗したら戻ってきたら良いじゃないか。

外に出てみて、「やってみなはれの精神」でやってみました!を実践していけると、世の中がもっと明るくなるのではないか。そう思っています。

ーーそれはレンタル移籍を経て思うようになったのですか?

deleteCに行く前は、サントリーにいることが誇りでもあり、安心でもあり、そこにいれば大丈夫。その中で結果を残していこう、そう思っていたんです。

大企業の中の枠をはみ出すことは考えず、キャリアを考えるときも、会社の中での配属のことを考えていました。

そんな世界から、deleteCで「本当にやりたいことをやっている人たち」に触れたことで、自分のやりたいことってなんだろう?と考えるようになりました。

山畑さんのエソラゴトとは?

ーー世界が広がったのですね。最後に、山畑さん自身のエソラゴトについて教えて下さい。

今まさに新しい事業を開発するのがミッションなので、新規事業開発をマネージメントできるようになりたいと思っています。

アイディアを描き、どういう風に社内を巻き込んで、テストをしていくか。その仕組みを作り上げることができれば、サントリーの中における自分の価値を高めることができるんじゃないかと思っています。

これからもサントリーに軸足を起きつつ、外の世界にもはみ出し続けることで、自分自身の価値を膨らませていきたいと思っています。

Fin

 協力:サントリーホールディングス株式会社 / 株式会社小国士朗事務所 / 特定非営利活動法人deleteC
ライター:管井裕歌

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「自分自身のWILLを発掘するワークショップ」開催

***本イベントは終了いたしました***

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日 時:
Day 1:2021年1月18日(月)19:00〜20:30
Day 2:2021年2月1日(月) 19:00
20:30
  ※ 本ワークショップは2日間で1セットです

会場:オンラインでの開催です。Zoomにて配信予定
定員:20名 ※ 先着順
参加費:5,000円(両日合わせて)※定価10,000円 → 初回特別価格
対象:若手社員からマネジメント層まで大企業で働く個人
講師:大川 陽介(ローンディール 最高顧客責任者)
詳細:https://eventregist.com/e/JTunHayrkuQQ


【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計45社121名のレンタル移籍が行なわれている(※2021年1月1日実績)。

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