週1回のオンライン越境プログラム「outsight」が、研究開発に新たな風を吹き込む
目まぐるしく変化する時代の中で、自社の技術だけで新たな価値やサービスを生み出すことに限界が来ています。そこで、研究開発に関わる人材が、外の世界とつながり、社会の声を聞き、次世代の価値を創り出すことが期待されています。
ローンディールが提供する、週1回90分のオンライン越境プログラム「outsight」においても、研究開発部門の人材が数多く参加しています。「outsight」は、ベンチャー企業が抱える事業課題が「お題」として提示され、さまざま業界・職種の参加者が解決策を議論・提案するというもの。こうした他流試合の場を通じて、発想力を鍛えたり、思考力を高め、新たなビジネスチャンスを探すといったケースが増えています。
そこで今回、自社で新薬の開発業務に関わってきたという小野薬品工業株式会社(以下、小野薬品)・那須徹也(なす・てつや)さんと、印刷機の機械設計・開発業務を経て、現在は新規事業に取り組んでいるという理想科学工業株式会社(以下、理想科学)・武本和大(たけもと・かずひろ)さんに、「outsight」に参加したことで何を得たのか、どのような変化が生まれたのか、お話を伺いました。
目次
内向きになっていてはダメ。
技術だけではなく、マーケティング視点を磨く必要性
ーまずはおふたりの経歴について教えていただけますか。
小野薬品・那須:私は、小野薬品に入社して、MR(医薬情報担当者)を2年ほど経験しました。その後、開発部門に異動して、がん領域の新薬の開発に携わり、現在は開発業務部で会議運営や臨床試験情報の管理など、開発部門全体の活動をサポートする業務を担当しています。
理想科学・武本:理想科学で、印刷機の機械設計・開発業務を行っていました。その後、製品開発の新規事業に携わるように。2023年4月からは、新規事業の検討部署に異動して、今は、新しい事業アイデアを考えている段階です。
(写真左:那須さん / 写真右:武本さん)
ー今回outsightに参加することになった経緯を教えていただけますか。
那須:いくつかありますが、ひとつめは、さらなる企業成長に向けて、何か新しい柱となる取り組みが展開できないか、そのきっかけをつかみたいと考えたからです。新たな事業を考えるうえで、物事を論理的に考える力が必要だと思い、outsightで鍛えたいなと。また、ベンチャー企業の経営者と議論できるというのも普段はできないことなので、魅力に感じました。
もうひとつは、自分を変えたいと思ったことです。新しい業務で自分の強みをどのように発揮したらよいか試行錯誤していた時期だったので、自分の思考や会社での動き方を変える、そんなきっかけになると良いなと期待しました。
武本:私は、新規事業の部署で「新しい事業アイデアを出していく」ことに非常に課題を感じていた時期でした。どうすればいいのか、困っていたところにoutsightを知って、「やってみたい!」と思いました。
これまでさまざまな書籍を読んだり、セミナー等への参加をしたりして、新規事業については学んでいたのですが、「アイデアをどうビジネスにしていくのか」という学びはあっても、そもそもアイデアを出すのにどうしたらいいのか、というところはイマイチわからなくて。
outsightは、実践的な場所でアイデアを出すトレーニングができるので、良いなと。それに、自分の発想力が通じるのか試してみたいとも思いました。
ーおふたりとも、新しい事業を生み出す上での悩みがあったわけですね。加えて、そこに対する熱量がとても高いように思います。何かきっかけがあったのですか。
武本:僕の場合は痛烈な原体験が・・・。技術者として7年間取り組んできた事業が中断してしまったことがありました。そのときに、「自分がもっと貢献できたことがあったんじゃないか」と感じて。
エンジニアであっても、企画や戦略、マーケティングのことを考えられる人になりたいって、強く思いましたね。そこからですね。
那須:製薬業界において、革新的な医薬品を生み出し続けるには、自分たちの殻にこもるのではなく、最新情報をキャッチしながら、他者との共創を進めていくオープンイノベーションの姿勢が必要だと感じています。私自身もつい、社内というか目の前の業務ばかりに目が向いていたのですが、outsightに参加して、外を見る大切さを改めて思い出しました。
視野が広がり、これまでにないアイデアを出せるように
ーoutsightで印象的だった出来事や、参加して変化を感じたなどを教えてもらえますか。那須さんは1年間参加されていたということで、本当にいろいろなことがあったかなと思います。
那須:もうたくさんありすぎますね(笑)。たとえば、印象的だったことのひとつに、ベンチャー経営者の仕事に対するモチベーションがやっぱりすごいということ。「なんでその仕事をやるに至ったか」という動機や「自分がやるしかない」という覚悟を間近で感じることができました。
おかげで、「じゃあ自分はどうなんだろう」と考えてみるきっかけにもなった。その結果、医薬品開発のサポート業務を通じて、患者さんを救い、社会に貢献することができると強く実感し、患者さんを救いたいという入社時の熱い思いが蘇りました。当然、業務に対するモチベーションもあがりましたね。
ー自分の価値観や大切なものを再確認できたのは、大きな気づきですね。他に得たものはありますか。
那須:「視野が広がったこと」はインパクトがありました。たとえば、今まで「製薬業界の中でどうするか」という視点しか持てていませんでした。しかし、患者さんを救うということにおいては、決して、製薬企業だけの話ではありません。そういう意味で、もっと外を見ようと思うようになりましたし、さまざまな業界の人と対話して、世界が広がったというか、考える範囲が広がったのは、とても良かったと思います。
自分は元々MRをしていたので、社外の方とのコミュニケーションは大事にしていましたが、開発部門に来てからは、臨床試験に関するデータに向き合うことが増えました。それだけに、社外の方との交流は非常に貴重な機会でした。
武本:幅広い知識とか業界に触れられて良かった、というのはめちゃめちゃ共感できます。なんだかんだ、自分が興味を持てる範囲って決まってきてしまうので。
outsightは、さまざまな分野のベンチャーが登場するので、普段は接しないテーマや業界の課題を強制的に考えるいいきっかけになりました。知らない業界においてはアイデアが出しづらいんですけど、非常に鍛えられました。
ー武本さんは、「事業アイデアを考えるヒントをつかみたい」とおっしゃっていましたが、その点はいかがでしたか。
武本:かなりつかむことができたと思います。毎回outsightの場で、ファシリテーターの方から、「どういった道筋で考えていくと良いのか」といった、思考のプロセスを学ぶことができて。以前よりだいぶアイデアを出す力が身についたかなと思っています。
元々私自身、アイデアを考えることに苦手意識はありませんでした。事業戦略とかマーケティングも学んできたので、実は自信満々で参加したんですね。でも見事に鼻をへし折られましたね(苦笑)。回を追うごとに思考力が深まっていったかなと思います。
「機会を待つのではなく、自分から提案してみよう」。日々の業務で使える提案力が高まった
ー思考プロセスが整理されたり、新しい視点が身についたように思います。その他、参加してみて”意外な収穫”はありましたか。
武本:さまざまなビジネスシーンで使える「提案力」が身についたと思います。たとえば、社内で何かを提案する際、300文字で構造的にまとめて、わかりやすく伝えるとか。相手が「いいね」って言ってくれるような提案の仕方とか。
これらは、outsightの中で行っていたことです。実際、業務において、何か面白そうなテーマやスタートアップの技術などを見つけたときに、まずは「300文字で内容をまとめて提案してみよう!」などと決めて、実践しています。
那須:私は、ファシリテーターの方が、「ベンチャー経営者の視点や考え方みたいなところってどれくらい意識していますか」という話をしてくださったことが、「他の人の視点に立ってみる」という点で、とても役に立っています。
自分の業務に置き換えて、「(自分の)上司や他部署の方の視点ってどうなんだろう」って考える習慣ができて。相手が何を考えているか、自分がどう動けば相手が一番喜ぶのか。そうしたことを考えて提案できるようになりました。仕事が本当にやりやすくなりましたね。
ーー本業でも活きていることがたくさんあるようですね。今後、outsightの経験を活かして取り組みたいことを教えていただけますか。
武本:やはり自分で事業を考えて立ち上げたいと思っていますので、そのためにいいアイデアを出して、形にしていきたいと考えています。具体的にいくつか検証できそうなアイデアはあり、既に進めているところです。
新規事業や新しい取り組みは、すべてがうまくいくわけじゃないですし、すぐ結果が出るものでもない。「検証をたくさん繰り返していかないといけない」というのを今回outsightで非常に強く感じましたので、どんどん前に進めていきたいですね。
那須:outsightを受けた後に、新規事業の提案機会が社内であったので、そこでアイデアを提案してみました。結果、それ自体は採択されなかったのですが、改めて、機会を待つだけじゃなくて、自分から機会を作って社内に提案してみようと思えるようになりました。自分たちの部署だけで考えるのではなく、部を超えて、そういうことをしていいんだっていう。そう思えたのは自分の中で大きな変化ですね。
ーすでにさまざまな動きが生まれているとのことで、良かったです。最後に、outsightへの参加を検討している方に、経験者としてメッセージをいただけたら嬉しいです!
那須:日々の業務で忙しいと、なかなか時間が取れないとか、人にアイデアを評価される不安とかを感じて、ハードルが高いと感じる人もいるかもしれません。さまざまな業界の人と他流試合を行うので、苦手意識を持つ人もいると思います。
でも、これまでの自分を変えたいとか、新しいことにチャレンジする必要性があると感じながらも、自分ではそのきっかけがつかめないという人も多いと思うんです。そういう時に、「週1回、強制的に思考を回す。他流試合をする」というのは、変わるきっかけになると思います。ぜひ、そういう方々に参加して欲しいですね。
武本:敷居が高いと感じてしまう人もいるかもしれませんが、いいアイデアを出すと星がもらえたり、自分のアイデアに対してフィードバックをもらえる機会が豊富にあったりと、自然とモチベーションを高めてくれる仕掛けも豊富です。
なので、「まずは受けてみてください」というひとことに尽きますね。もしかしたら、今の自分は井の中の蛙になっているかもしれないですが、それは外に出てみないとわからないこと。週1回ですし、気軽にやってみていいんじゃないかと思います。
特に、自分のアイデアを試してみたい人や、社内でなかなか自分の提案が通らないと感じている方にはぜひ参加して欲しいですね。提案に足りていない要素や、提案を通すための考え方を学ぶことができますので。
ーありがとうございました! おふたりの活動が今度どのように広がっていくのか、楽しみにしています。
Fin
▼outsightのプログラムサイトはこちら
https://outsight.jp
協力:小野薬品工業株式会社 / 理想科学工業株式会社
インタビュー・文:小林こず恵