【「未知」はこわくない。 老舗百貨店から飛び出し、「AIアイドル」と過ごした180日】三越伊勢丹 鳥谷悠見さん -後編-
老舗百貨店・伊勢丹から、まだない価値を生むベンチャー・ジーンアイドル社へレンタル移籍した鳥谷悠見さん。同社の目指す未来に共感し、それがパワーとなり奮闘していた様子。
後編では、サービスを広めるための施策に没頭した日々のこと、そして三越伊勢丹に戻ってからのチャレンジについて伺っていきます。
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すべて“物語の一部”になる
ー移籍した翌月には、To C向けのサービスがローンチしたわけですよね。To Bに取り組みながらも、To Cサービスの施策やキャンペーンにも取り組んでいらっしゃったとか。
そうなんです。まずは認知拡大のため、様々な施策を考えました。ちょうど年末も近かったので、まずはクリスマス時期に合わせてAIアイドルの人気投票企画をやって、年明けにはAIアイドルに振袖を着せて新たな魅力を知ってもらって。その後のバレンタインにつながるというストーリー。とにかくタッチポイントを増やすための施策を考えていました。
私が企画の概要や特設ページのレイアウトを考えて、細かいサイトの遷移図は他の人にまとめてもらって、と分業して。結果でいうと、正直、もっとできたんじゃないかなぁ…というのはあります。実際、もともと知ってくれていたコアなユーザーには参加してもらえたのですが、新規ユーザー獲得につながったかというとそうでもなくて。拡散につながるノウハウがあったわけではなかったので、施策が甘かったなとは思いますね。
—鳥谷さんのお話を伺っていると、常に全力で走っている印象を受けます。そしてその姿には、あまり大きく凹んだり、落ち込んでいる様子はないように見受けられますが、半年間、前向きに走り抜けたという感じでしょうか?
最初は落ち込みましたよ。というのも、なかなか自分の動きに対して成果が出ない期間が続いて。今まではアウトプットして結果を出して…というのが当たり前の世界だったので、すぐに成果に繋がらなかったことで、「これでいいんだろうか」って悩んでいました。
でも、代表の小幡さんの言葉に勇気付けられました。「自分たちは価値があるものより、意味があるものを作っている」と。「正解じゃなくて物語を求めている。だから動いていることすべてが物語だから、失敗とかはなくて、すべて物語の一部になる。動いてくれることに価値がある」って。それからは物語をつくることを最優先にしようって、振り切ることができました。リスクを恐れないで行動するということや、PlanよりDoからはじめるというマインドセットは本当にいい学びになりました。
また、悶々としていたとき、メンター・及川さんとの1 on 1で、かなり励まされました。言語化できないモヤモヤに対して「それってこういうことじゃないの?」って言ってくださるので、本当にすっきりして、頑張ることができました。
軽やかさを養えた
ー「すべてが物語になる…」それは勇気になりますね。そんな中で、バレンタイン企画も終わり、気づけば移籍期間も残り僅か。最後の方で意識したことはありますか?
移籍が終わる頃は、資金調達をどうするか、事業の方向性をどうするかということを社内でよく話し合っていました。あの手この手で事業計画を練っているという状況。そこに対して、私ができることは、引き続きTo Bの商談案件数を増やして、可能性のある事業領域・業界を明確にすること。なかなか思うようにいかない中で悶々とすることもありましたが、できる限りの行動はできたと思います。なので、自分の中ではやりきった感で終わりました。
ーちなみに、移籍前にブロックチェーンとオーガニック市場の仕組みが似ている…という仮説を立てていましたが、実際、どう感じましたか?
やっぱり似ているなって思いました。相互信頼と相互監視の中で成り立つという思想はめちゃくちゃ一緒だなって。すぐにではないかもしれませんが、これから事業をしていく中で、関連付けられることはあるんじゃないかなと、引き続き注目していくつもりです。
ーどんなシナジーが生まれるか、楽しみですね。今、三越伊勢丹に戻ってきて4ヶ月くらい経ちましたね。今はどんなお仕事を? また感じている変化はありますか?
戻ってきて、ブランディングの部署に配属になりました。百貨店事業の中でブランド力を強化していくという業務で、オーガニック商品に限らず、「三越」と「伊勢丹」という全体のブランディングに関わる仕事です。
変化でいうと…、越境力が養えました。別世界に対して臆せず飛び込んでみるとか、飛び込んだ先でリソースを組み合わせて価値創造を見立てるとか、それから飛び込んだ先の人を巻き込むとか。そういう軽やかさを養えたのが一番大きな変化だと感じています。それに、最初からわかりやすい成果が出るわけではないという、不確実性の中で進めていくやり方が、今の部門でも活かせるなって。
仲間と支え合いながら、挑戦を
—それは良かったですね! ちなみに、外に出て初めてわかった自社のことも、何かあったんじゃないですか?
そうですね。三越伊勢丹は、歴史もあってブランドにファンもいる。そういう物語が成立していることって、当たり前じゃないんだなって。お金では買えないものなんだなって。それを持っていることは強い、と改めて感じました。ベンチャーで物語のはじまりに携わったからこそ、わかったことです。
—最後に。これからどんなチャレンジをしていきたいですか?
今の部門は根底から改革を行うというところなんですね。なので、ベンチャーで色々なプロジェクトを動かしたように、大きい企業の中でも、事業創造できる人材になりたいです。大企業を動かすにはどうしたらいいのか? ということを、ゼロベースで積み上げていく必要があって、今はそこを強化していきたいです。
そのために、実際にやっていることもあって。すぐに試して成果を観察して次につなげる…、みたいな癖がついていたので、4月の在宅期間中から色々と動いています。たとえば、若手の有志で勉強会やワークショップを開催して、インターナル・ブランディングで活用したいプロダクトのプロトタイプを試してもらって、その反応を観察したり、検証してみたり。アクティブには動けています。
そんな中で、嬉しいこともあります。新設部署なので、メンバーは様々なところから集まってきていて、みんな、いろんな経験を持っている。そういう仲間と支え合いながら、事業創造していくことが、楽しみですね。
鳥谷さんはこれからも、仲間とともに挑戦を続けていくに違いありません。
そして、ベンチャーで新たな物語づくりを経験したことを活かしながら、きっとこの先、三越伊勢丹の未来へ続くストーリーを、全速前進で紡いでいくことでしょう。
Fin
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【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社100名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年8月実績)。→詳しくはこちら
協力:株式会社三越伊勢丹 /株式会社ジーンアイドル
撮影:MASA
インタビュー:小林こず恵