「結局大事なのは“人”。移籍最終日に起こった奇跡とは・・・?」日本郵便 安井亮太さん【後編】
「外の世界で力試しができる…」
そんな思いを持って、ユニロボット株式会社でレンタル移籍を始めた日本郵便株式会社の安井亮太さん。前編では、「なぜ外の世界を経験したいと思ったのか」という背景の話、そして、営業でなかなか成果が出ず悩んだ話、それから、酒井社長の言葉によって行動が変わった話をお伝えしました。
後半では、経営者のすぐ隣で働いてわかったこと、そして今、日本郵便に戻って何を思うのか…? その胸の内を伺っていきます。
→ 前編はこちら
—積極的に切り込んでいった結果…
酒井社長の言葉により、積極的に動けるようになった安井さん。
安井さんは、とにかく相手に入り込んで仮説を立てていく、という方法で、提案を深めていきました。そして、移籍して2ヶ月が過ぎた頃には、かなり立体的な動きができるように。
「とにかく担当者と会って、しつこいくらいに食いついていかないと相手の課題がわからないと思い、積極的に切り込んで、会話する機会をつくりました。これを2ヶ月くらい繰り返しているうちに、勘どころがつかめるようになってきたと思います。業界のこともわかってきたので、仮説も立てられるようになって、仮説実証の反復をしました。何度もトライできるのはベンチャーの良さですね。
あとは、“売り方”というところでちょっと視点を変えてみました。ユニロボットは営業スタッフが少なかったので、売り手を増やしたいと思い、販売代理店の開拓もしました。
とはいえ、最初は、ひとつの提案が弾かれてしまったら『あぁ、ダメだった…』で止まって、次の一手が打てない状態が続いてしまい。自社(ユニロボット)のソリューションと相手の課題を、掛け算することができず…。なかなか膨らませられなくて悩みました。
その点、酒井社長は、アイデアがすぐに湧いてくる方で。この提案がダメだったら、じゃあ次の提案で…って、よくこんなに次から次へと出てくるなぁと…! やっぱり、毎日アイデアを考えていらっしゃるからだと思いましたし、これこそが“考える”ということなのかなと、僕も書き留めるようになりました」
—結局大事なのは“人”。最終日の奇跡
こうして安井さんは、日々チャレンジを繰り返していました。それと当時に、酒井社長の魅力を、すぐそばで感じていました。
「僕は、オフィスにいる時は酒井さんの隣の席だったので、会社の状況が結構ダイレクトに伝わってきていました。はたから見て『今、大変そうだなぁ…』という時もありました。それでも、酒井さんは、僕らにはそういう素振りを見せないですし、いつも社員のことを気にかけていたんです。そういうリーダーシップといいますか、配慮ができるのは本当にすごいなって。他の社員の方も、様々なバックグラウンドを持ったプロフェッショナルの方々ばかりでしたが、酒井さんの元で働くことをひとつの軸に、集まっているように思いました。
あとは、資金調達の現場や、株主とも触れる機会がありましたが、彼らは、プロダクトだけではなく、経営者である酒井さんの人としての魅力に投資をしているのだと感じました。酒井さんだからこそ、このビジネスがあるんだなぁと…。同時に、僕も酒井さんのような人間になりたいと思いました」
酒井社長のようになりたい。
そんな思いで、学べるところは徹底的に学んだ安井さん。そして、移籍終了が見えてきた頃には、営業先の業界の拡大や、「unibo」本体の販売だけではなく、ロボティクス技術そのものを提案するなど、その幅も広がっていました。
しかし、気づけば移籍終了まで残りわずか。
そんな中。
安井さんにとって、一生忘れられない、嬉しい出来事が起こったのです。
それは移籍最終日のことーーー。
「最後の方は、『unibo』の導入提案だけではなくて、ロボティクスの新技術の活用という部分でも、結構動いていました。やっぱり、まだ形のないものを考える、提案するというのは難しかったですね。日々、模索していました。これに関しては具体的なソリューションまで落とし込めず、終了期間を迎えてしまい消化不良なのですが、最終日に、本当に嬉しいことがあったんです。
しばらく『unibo』の提案を続けていた企業さんなのですが、なんと、移籍の最終日に、発注をしてくれたんです! 当初の話だと、発注が決まったとしても、僕の移籍期間中には間に合わないだろうと言われていたのですが、僕がレンタル移籍でここに来ていること、もうすぐ期間が終わることを伝えると、『だったら、それまでに発注できるようにしたい』って言ってくれて、社内手続きを間に合わせてくれたんです。本当に嬉しくて。相手の信頼を得ることができたからだと思いました。…少しだけですけど、社長に近づけた気がしました」
最後はやりきった安井さんですが、一方で、残り1ヶ月を切った頃から、日本郵便に戻った後のことも考えていたようです。
「実は、延長の話がありました。半年間はあっという間で、もっと成果を出したいという思いもあったのですが、お断りしました。というのも、日本郵便に早く帰って貢献したいって思いがあったからです。要員をひとり欠けさせている…っていう申し訳なさもありましたし。だから、最後の月に入ってからは、戻った後どうするかということも考え始めていました。事前の面談で、(戻った後に)どういうことをやるか、というのは聞いていました。
今までは、物流の既存システムの改良が主でしたが、戻った後は、同じ部門ではありますが、新しいシステムをつくる担当になりました。もともと上司からは『もう戻ってくるな』みたいな感じで、“巣立った”感がありましたし(笑)、新しいプロジェクトで、今回の経験が活かせそうだと思ったので、頑張ろうと、腹が決まりました」
—“自分の意見”を伝えるということ
こうして日本郵便に戻ってきた安井さん。
今、2ヶ月が経ち、行く前と比べ、明らかな変化があるといいます。
それは、自分の意見をよりクリアに言えるようになったこと。
「終わって2ヶ月が経って、何か結果が出ているかっていうとまだまだこれからなのですが、自信がつきました、明らかに。やっぱり営業で、相手に踏み込んでいったこととか、仮説検証によって成果が生まれた経験が大きいと思います。だからなのか、自分の思ったことを以前よりはっきり伝えられるようになりました。
あとは、自分の仕事を客観的に見られているような気がします。これは酒井さんのそばで学んだ経営者視点によって、視座が上がったからだと思います。『これって何のためにやるんだっけ?』って、そのタスクの意味まで落として考えられるようになったので、以前よりベストなアウトプットが出せるようになってきたんじゃないかなと。
今は、新規プロジェクトに向けて企画書を作る機会も多いのですが、実際、企画書を上司に提出した際、感謝されることが増えました(笑)。どうやら企画書の質があがったようです。やはり、作成するにあたってのヒアリングだったり、それを相手に伝えるという力が身についたからなのかなと思っています。ひたすら提案資料作っていましたから、頑張ってよかったなと思いますね」
以前より自信がついた安井さんは、とてもポジティブです。
そして、「これから先が楽しみです!」と爽やかに答えてくれました。
「以前のモヤモヤが完全に晴れた…とまではいかないですが、晴れていくんだろうなという予感はしています。それに、今は『やらねば!』という使命感も強い。業務が繁忙期の時にちょうど移籍が重なってしまい、それでも外に出してもらったので、恩返ししないと、という気持ちです。素晴らしい経験をもらったので、次は僕から返す番。
今はまだ企画の段階で、少人数で小さくやっている状態ですが、早く形にしていきたいですね。それから、企画を遂行していく過程で、やっぱり人を巻き込む力や、人の魅力みたいな部分が重要になってくると思うので、今回の経験を活かして力を発揮できたらと考えています。この先が楽しみです。今は、ひたすら前向きですね」
Fin
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【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計32社78名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2020年1月実績)。
協力:日本郵便株式会社 / ユニロボット株式会社
ストーリーテラー:小林こず恵