「修羅場を経験した人間は強い」 〜NTT西日本 山下氏に聞く! なぜ今「レンタル移籍」を選ぶのか?〜(前編)
2019年4月に、「レンタル移籍」第3期を送り出すことになるNTT西日本。これまで4名の移籍者を送り出し、既に2名は移籍を終え、残り2名もこの3月に終了予定だ。
そして、この4月から新たに2名がレンタル移籍を開始する。そこで、同社でレンタル移籍の推進を行うアライアンス営業部 ビジネスデザイン部の山下諭氏に「なぜ今、レンタル移籍を活用するのか?」その背景を伺った。
「レンタル移籍」とは?
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2016年のサービス開始以降、計15社30名以上のレンタル移籍が行なわれている(※2018年11月現在)。
導入企業の実績はこちらhttps://loandeal.jp/biography
PROFILE
山下 諭(やました さとし)
NTT西日本 アライアンス営業本部 ビジネスデザイン部 ビジネスプロデュース部門エンゲージメント担当 担当課長。1998年にNTTに入社以降、人事労務を中心に従事し、2015年より同担当にてイノベータ人材の人事・育成・マネージメントを行う。これまでに社外への出向や組合役員など社外での業務を経験。2017年より、同部よりレンタル移籍を導入する。
ー社員はどんどん外に出ていった方がいい
Q:そもそも山下さんが「レンタル移籍」を導入したきっかけはなんですか?
僕は今、ビジネスデザイン部で人材育成を担当しているのですが、4年前に異動してきてちょうど2年目になるときに、レンタル移籍の採用を考えました。
ビジネスデザイン部は、新たなビジネスやサービスを開発する部署です。
ここで必要とされるのは、世の中の動きや今後のトレンドを掴み、積極的に外部のパートナーと連携しながら事業を推進していく実行力です。そしてそれらを身につけるには、もっと外との接触機会を増やし、そこから学び、新たなものを生み出していくことが重要だと考えていました。
しかし、実際はそう簡単ではなく、なかなかブレイクスルーできていない状態。
元々社内で完結する業務も多く、そのため事業開発分野において会社の枠を超えた発想が生まれにくく、社員の自己実現の機会も狭めているように感じていました。なので、外で実践的な経験ができるというレンタル移籍は得るものが大きいだろうと思い、導入を決めました。
まあ、何よりも(ローンディール代表の)原田さん自身の原体験に基づく人材成長の機会の話を聞く中で、是非やってみようという気になったということもあります。
移籍を希望する社員が、自らこの機会に挑戦するため手を挙げ、行き先のベンチャー企業の経営者と会い、「移籍先で何をやりたいのか?」を決めるというアクションが、社員にとっては自己理解やビジョンの明確化につながるので、良い機会だと思っています。
自社でも、キャリア形成のための研修プログラムや上長との対話は行っているのですが、どうしても「NTT西日本でどうしたいのか?」という発想になってしまう。そうじゃなくて、その枠に縛られず、自分の人生・キャリアの中で何を実現したいのか? それを自ら絞り出し、そこにチャレンジする機会があるのは、大きな成長につながると確信しています。
Q:なるほど。山下さんが外に出ることを推奨する背景には、何か理由があるのでしょうか?
はい、実は僕も30歳前後くらいで、2年間ほど社外に出向した経験があるんです。だから、社外での経験がいかにプラスになるかは自信を持って言えます。
やはり1回外に出てみると、自社の課題も良いところも両方見えてきます。
違う業界の人、異なる価値観を持った人たちとの付き合いも増え、視野も広がりましたし、何よりも“社内の常識の枠内”で物事を考えなくなりました。
これからの時代は、自社の枠の中だけで考えるのではなく、自ら新しい枠を広げていくことが求められます。ですから、新規事業を推進していく上で社内の常識に捉われていてはイノベーションは生まれません。外の感覚を持っていることが大切なのです。
ー修羅場を経験した人間は強い!
Q:外は外でもベンチャー企業に行かせるということにおいて、環境の違いに不安はなかったのでしょうか? またどんな成長を期待していましたか?
ベンチャーに身を置くことで、世の中のトレンドやスピード感を掴んでほしいと思っていましたから、特に不安はありませんでした。むしろ、小さい規模でスピーディーにサービスを出していくという、アジャイル型の事業開発を経験させることが、今後のビジネス開発で重要だと思っていたので、ベンチャー企業での経験はかなり力になると思っていました。
それにこのプログラムに期待していたのは、何かスキルを身につけるということではなく、いい意味で修羅場を体験させることだったので。
やはり、修羅場を経験した人間は強いですからね(笑)。
Q:移籍期間は1年をベースにしているようですが、1年間、人材が抜けるわけですから社内での調整は大変だったのでは?
施策の趣旨については多くの方が賛成してくれました。
ただおっしゃるように、現実に自らの部署から人を出すとなると、すぐに承諾とはいかないですよ。
もちろんリソースの問題もありますし、さらには個々の社員をこう育てたいというプランを持っていますから、そこにも影響するわけです。なかなか苦労しました。
でも実は背景に、僕が(ビジネスデザイン部に)異動して1年目に、その要因は様々ですが、離職の問題が発生していました。「自らどこまでできるのか外の世界を見てみたい、もっとチャレンジしたい」と話すんですよね。もっと、社内でも自らの今後のキャリアを描けるようなフィールドがないものなのか、自己実現できる魅力のある会社になっていないのか、いろいろ考えました。
だからこそ、各部署の事情もありますが、自ら挑戦したいと手を挙げる社員には積極的に行かせてあげたいと考えました。そのような社員こそ良い経験をさせてあげることが、結果、会社のためにもなるわけですから。
ーベンチャー企業で仕事をつくるという経験
Q:行き先のベンチャー企業は本人が選ぶということですが、会社としてこんなベンチャーに行かせたい、という希望はありましたか? 例えば同じ業界が良いとか親和性がある企業がいいとか……。
いや。そこはないです。
育成目的にしているので、あえて会社から業種で絞ることもなければ、具体的にこの企業がいいなどの選定はしませんでした。むしろ、これまでとかけ離れた業界・業種でもいいと考えていました。
僕らとしては世の中の動きや技術、トレンドを体感しながら、物事を立ち上げていくという経験が重要でした。
ただ唯一気にしていたのは、経営者です。
こちらの「成長させたい」という想いを理解してくれる経営者のところで、その経営者のマインドに触れる機会の多い規模の会社に行かせたいという気持ちはありました。
とある移籍先のベンチャー企業の経営者と話した時に感じたのは、社員(移籍者)に求められることは、スキルではなく「本人は何がしたいのか? どうなりたいのか?」というビジョンやマインド。
それは、既存の枠にアサインするのではなく、やりたいことベースで仕事をつくっていくということなんですよね。
そういう場所なら、イメージ通りの成長を期待できますし、想像通りの修羅場も期待できると(笑)。また、情熱を持った経営者に日々接することで、間違いなく成長すると感じました。
僕も久々にベンチャー企業の雰囲気に触れて、送り出すのがますます楽しみになりました。
協力:NTT西日本
Interview:小林こず恵