「韓国出身の南さんが日本の“お祭りベンチャー”で得たもの」 NTT西日本 南多泳さん-後編-
NTT西日本に勤めている南 多泳(なむ・だよん)さん。彼女が2019年4月に移籍した先は、祭りを活用したプロモーションの立案、祭りの運営サポートなどを行う株式会社オマツリジャパン。
「新規ビジネスの立ち上げ」という夢を抱いている南さんは、さまざまな経験を積み、スキルを高めるため、ベンチャー企業に飛び込みました。しかし、慣れない環境に戸惑うばかりで、当初は“受け身”になってしまったそう。6月から8月にかけて担当した案件を通じて、能動的に動くことの重要性に気づきますが、1年間のレンタル移籍が彼女にもたらしたものは、どのような成長だったのでしょうか。
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目次
タイムリミットがある自分だからこそ「改善点」を発信できた
――前半のインタビューの最後、「1人で仕事を進めていけるようになった」と話していましたが、オマツリジャパンでの仕事にもやりがいが見えてきましたか?
新たなお客様を開拓したり、案件を受注したりすることで、会社に貢献できている実感が湧いて、やりがいを感じられるようになりました。この部分は、ベンチャーならではだと思います。
少人数のベンチャー企業だと、自分が立てた売上が会社の利益に直結するので、貢献度が目に見えやすいと思うんです。だからこそ、入社してすぐ、なかなか売上を出せなかった頃は、早く成果を残さなきゃって焦る一方で不安もあり、自分から動き出せなかったのかもしれません。
――1人で1つの案件を担当するという経験が、自信にもつながったんでしょうね。
そうだと思います。あと、新規ビジネスに携わる中で気づいたことですが、私は企画書をゼロから作った経験がありませんでした。これまでは、既存の営業提案シートをアレンジすることはあっても、自分で組み立てることはなかったので、苦戦しましたね。
山本さんや大山くんを始め、従業員のみんなが過去の提案資料を見せてくれたり、アドバイスをくれたりしたおかげで、自分の力で企画書を書けるようになりました。ベンチャー留学(NTT西日本での「レンタル移籍」の別称)が終わる頃には、「企画書作りがうまくなったね」って褒めていただけて、うれしかったです。
――仲間の支えで苦手を克服し、やりがいを見出していったと。
はい。みんなとは、一緒にお祭りに行ったこともあって、仕事だけではなくプライベートでも仲良くなれたかなって思います。密度の高い時間を過ごして、深い関係が築けました。
――人間関係は好調だったんですね。
苦労はありましたよ(苦笑)。お祭りが好きな人が集まっているので、お祭りに関することは全員が理解している前提で話すんですよ。私はお祭りに関して素人なので、理解が追いつかないことが多かったです。
――会議の場だったりすると、内容を把握できずに困ったのでは?
そうなんです。最初は「わからない」と言えずに話が進んでしまって、悩みましたね。途中でおかしいと思ったことは伝えようと思い立ち、「お祭りに詳しくない人に親切じゃないと思います」と伝えました。
一度、商品開発のためのアンケート調査を行おうと、営業メンバーに「商談の時に先方に協力してほしい」とお願いしたのですが、なかなか回答が集まらなかったんです。その時も、メンバーにアンケートに答えてもらえない理由を直接ヒアリングして、改善策を考えました。
あと、オマツリジャパンでは、最終的な決定権が代表の山本さんに集中していて、ベンチャー企業としてはビジネスの進行具合が遅い方だということに気づいたんです。その状況がもったいないと感じたので、「ある程度、権限を営業メンバーに託した方がいい」といった話もしました。
――疑問を持ったことをうやむやにせず、声を上げて、改善の方向に進めていったんですね。
1年というタイムリミットがある自分だから、素直に発信できたんだと思います。オマツリジャパンの社員の方だと言いにくいこともあると思うので、私ならメンバーの声を聞いて、経営陣に伝える役割になれるんじゃないかって感じたんです。
私がオマツリジャパンを離れる時に、経営陣から「いろいろ意見を出してくれてよかった」と言っていただきました。一緒に働いていたメンバーからも感謝されて、動いてよかったなって思いましたね。
最大の成長は「今の自分の改善点」に気づけたこと
――今回のベンチャー留学を通じて、どのようなところが成長したと感じていますか?
もっとも成長したのは、マインドだと思います。受け身だったところから、能動的に変われたことは大きいですし、自分の改善点も見えてきました。
――どのような部分ですか?
大きく2つあって、1つは「実績」にこだわっていたこと。私は過去の経験や成果を重視しすぎるところがあったんです。だから、お客様に渡す提案資料にも、オマツリジャパンの実績を入れることばかり考えていました。
実際に営業の場に出て知ったのは、「実績」だけでなく「熱意」も必要だということです。オマツリジャパンの仲間はお祭りに対して熱い思いを持ち、お客様にも「可能性を信じてください!」と胸を張って訴えていたんです。実績を重んじるだけでなく、可能性を信じることも必要なんだと思い知らされましたね。
――これから実績を積み上げていくベンチャー企業だからこそ、知れた部分といえそうですね。では、もう1つの改善点は?
自分で決断を下せないところです。能動的に動けるようになったものの、最終的に山本さんのOKが出てから動き出すというシステムに甘えてしまって、判断を他の人に委ねてしまうことが多かったと気づきました。
特にベンチャー企業では、自分の判断が会社の財政に直結するので、「この案件のコスト算定に誤りがあったらどうしよう…」といった不安が積み重なり、自分自身で判断できませんでした。「権限を営業メンバーに渡した方がいい」と訴えながら、自分に与えられた権限をフル活用できなかったところが、今回の移籍で唯一の心残りです。
――その気づきを得られたこと自体が、新たな環境での挑戦の意義でもありますよね。
そうですね。大企業は社員が多い分、責任も分散するので、「自分が間違った判断をして、会社の経営に響いたらどうしよう…」という不安を感じることはなかったかもしれません。
――1年間の中で気づいた改善点は財産だと思いますが、NTT西日本に戻ってから活かせていますか?
現在は新型コロナウイルスの影響もあり、自分で新規案件を進め、判断していくような業務はまだ発生していないのですが、意見の伝え方は変わった気がします。
これまでは上司や同僚に対して、「私はこう思うのですが、どう感じますか?」と判断を委ねていたのですが、最近は「私はこのやり方がいいと思います」と言い切れるようになりました。
――南さんにとって、大きな変化の1年だったことは間違いなさそうですね。
オマツリジャパンに入社した当初は、自治体や企業にアポを取ることも企画書を作ることも苦労したのですが、うまくいった時に大きなやりがいを感じられて、仕事に対する気持ちが盛り上がりました。
お祭りをいかにビジネスとマッチングさせ、お客様のニーズを満たすか、考える過程も新鮮で楽しかったです。最後の数カ月は、eスポーツの大会とお祭りをマッチングさせた企画を提案し、動かすこともできました。移籍期間が終わって引き継いだ後、新型コロナウイルスの影響で中止になってしまったようなので残念ですが、いい経験をさせてもらいました。
“初めての経験”のすべてが自分の糧になる
――NTT西日本に戻ってからは、どのような業務を担当しているんですか?
引き続きビジネスデザイン部に所属しているのですが、新規ビジネスを扱う部門に異動できたんです。今は、AIカメラで撮影したスポーツの試合の映像配信を行うNTTSportictと連携しながらビジネスを展開しています。
NTTSportictは4月に設立したばかりのグループ会社で、人数も少なく意思決定のスピードも早くてベンチャーに似てるところもあって面白いです。そのかたわら、新規ビジネスの創出というミッションも与えられています。
――ついに、思い描いていた仕事に就けたんですね。
はい、やっと(笑)。
――オマツリジャパンでの経験は、活かせそうですか?
オマツリジャパンでは、とにかくいろいろな経験をさせてもらったので、大なり小なり活きてくると思っています。
自治体の入札案件に参加すること、Googleにウェブ広告を出すこと、展示会に出展すること、大学でゲストスピーカーをさせてもらったこと、SlackやSalesforceといったツールを使うこと、他業種とつながりを持つこと、メンバーとお祭りに行くこと、そのすべてが初めて経験することでした。
たった1年という短い期間ではありましたが、数えきれないほどの経験をさせてもらって、オマツリジャパンにもNTT西日本にもローンディールにも、すごく感謝しています。
(展示会に出展した時のブース)
――多様な経験することの大切さにも気づけた、ということですね。
そうですね。あと、オマツリジャパンでは、メンバー全員が“祭りで日本を盛り上げる”というミッションを共有し、同じ方向を見て動いていたところにも、感銘を受けました。
私はNTT西日本にいる間、部署や個人の目標ばかりに目が行っていました。でも、この業務が会社にとってどういう意味があるのか、会社が何を目指しているのかを意識し、1つ1つの業務を大切にしていきたいと思えるようになれたんです。
そして、人とのつながりも、さらに重視するようになりました。移籍期間が終わる時、オマツリジャパンのみんなが「これから、仕事でもプライベートでも関わることができたら」って言ってくださったんです。実際に今も連絡を取っていますし、オマツリジャパンのホームページもよく覗いています。
別の会社で働く友達から、「新しいビジネスを考えていて、オマツリジャパンと連携したいんだよね」と相談されて、つないだこともあるんです。一緒に働いた仲間として、今後もオマツリジャパンに貢献していきたいですね。
――素敵なつながりが続いていて、何よりです。最後になりますが、南さんの現在の目標は?
新規ビジネスの創出です。ただ、ビジネスを考え出しても、トライアルで終わってしまったり、利益を生み出せなかったりしたら、意味がないと思っています。せっかく新規ビジネスの仕事に携わる部門に配属されたので、アイデアを出すだけでなく、しっかりと形にして、ビジネスとして成立するものを作っていきたいです。
ーーずっと思い描いていた夢をつかむため、新たな環境でのチャレンジに賭けた南さん。その過程で見えたものは、今取り組むべき課題。
ただ忙しさに流されるのではなく、慣れない業務に1つずつ取り組んでいったからこそ、自分に足りない部分と向き合う時間を持てたのでしょう。そして、ようやく「新規ビジネスの創出」という夢のスタート地点に立ちました。南さんが生み出すビジネスが、たくさんの笑顔につながっていくことを期待して。
Fin
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【株式会社オマツリジャパンより、
「オンライン夏祭り2020」開催のお知らせ】
コロナ禍で祭りが相次いで中止となっている中、中止となった祭りを応援する社会貢献イベントとして、オンラインで楽しめる夏祭りを企画致しました! 当日は徳島の阿波おどり、沖縄のエイサーなど全国の7つのお祭り団体に出演いただき、祭りを体験して楽しめるコンテンツを用意している他、投げ銭による祭り団体への寄付金収集も実施致します。
当プロジェクトのご協賛に少しでもご興味を持たれましたら、ぜひ下
記リンクをご参照の上、オマツリジャパンまでお問合せ下さい。
https://omatsurijapan.com/news/onlinefes-pr2
【レンタル移籍とは?】
大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計38社97名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年7月実績)。→詳しくはこちら
協力:西日本電信電話株式会社 / 株式会社オマツリジャパン
インタビューアー:有竹亮介(verb)