「エンジニアがスタートアップで見つけた“効率化の本質”」 リコー 片山絋さん -前編-

 複写機やレーザープリンター、デジタルカメラなどの精密機器メーカーの株式会社リコーに勤める片山絋(かたやま・ひろし)さん。2014年の入社時に画像エンジン開発本部に配属され、倉庫や工場内で物品を運搬するロボットの開発を担当してきました。6年間働く中で見えてきたものは、業務の非効率性。
 「もっとスムーズに業務を回せるのではないか」。そう感じていた片山さんのもとに届いたものが、スタートアップ留学(リコーでのレンタル移籍の呼称)の報せでした。スタートアップに“効率性”という可能性を期待し、すぐに立候補したとのこと。
 2020年1月から6月までの半年間、片山さんが移籍した先は、イメージセンサーと画像処理に特化したさまざまなソリューションを提案している株式会社フューチャースタンダード。「モノを作って、お客様に見てもらえる会社で働きたい」という片山さんの思いと、合致するスタートアップだったのです。
 「業務内容は、リコーにいた頃とほとんど変わらなかった」といいます。だからこそ、見えてきたものは、業務の進め方、コミュニケーションの取り方の違い。その中から、効率的に働くヒントを得られたのでしょうか。

「スタートアップは効率的に業務を進めているだろう」という期待

――片山さんはリコーでソフト開発を行っていましたが、もともと興味のある分野だったのですか?

 実は、興味があったわけではないんです。学生の頃は、「日焼け止めはどのように人の肌に浸透するか」といったテーマで研究をしていたので、プログラム言語などは一切知りませんでした。

――ということは、ソフト開発は未知の領域ですよね?

 そうですね。学生の頃の研究を続けるつもりはなくて、リコーに入社した時に「新規系のテーマを担当したいです」と話したんです。ちょうど倉庫で活躍するロボットのテーマがスタートしたばかりで、その部署に配属されました。

 入社当時は、本当にプログラムを書いたことがなかったので、効率の悪い仕事の進め方をしていたなって思います(苦笑)。部署の皆さんがやさしい方ばかりだったので、続けてこられたのだと思います。

――そのまま6年間、ロボット開発と向き合い続けるわけですが、異動しなかったということは自分に合っている仕事だと感じていましたか?

 そうですね。僕はどんな業務であっても、今やっていることを好きになれるタイプなんです。だから、ソフト開発も楽しんで続けられました。

 ただ、趣味ではなく仕事なので、楽しく働くだけでなく組織(テーマ)への貢献を高めたいと考えました。すると、僕自身を含めたメンバー全員に、改善するべきことが多くあることに気付きました。同時に、非効率に働いてしまっている現状を、一人一人の能力・意識の問題で終わらせてしまうのではなく、組織(テーマ)として取り組むべきこと、構築するべき仕組みがあるのではないかと考えるようになりました。

――非効率性を改善したい、という思いがあったのですね。

 はい。今のやり方で仕事を続けていたら、開発が遅れ、出せる成果も出せなくなってしまうのではないか、と感じていて、改善したい気持ちがありました。そのタイミングで、当時の上司から「スタートアップ留学制度のお知らせ」といったメールが届いたのです。

――スタートアップ留学を知って、どう感じました?

 すぐに行きたいと思いました。もともとリコーでは、「スタートアップから学ぼう」「1人ひとりが社長になったつもりで考えよう」という声かけがされていたんです。でも、スタートアップも社長業も経験がないから、いい機会になると感じました。

 あと、これはイメージでしたが、スタートアップは業務を進めるプロセスに関して、うまいこと工夫しているだろうと思ったんです。だから、案内のメールが届いたその日に、上司に「行きたいです」と返信しました。

――“思い立ったが吉日”ですね。

 メールが来て数分で返したので、もはや“吉分”でしたね(笑)。上司もすごく前向きで、「いいんじゃない。行ってきなよ」と、快く背中を押してくれました。


1~2週目の教訓「物理的な距離が“心の距離”に比例する」

――スタートアップ留学を決めた段階で、希望の業界や職種はありましたか?

 モノを作り、実際にお客様に見てもらっている会社に行きたい、という気持ちはありました。ただ、僕は業務のプロセスやマネジメントの方法、日々のコミュニケーションの取り方を学びたかったので、業界に希望はなかったんです。フューチャースタンダードは、自分の経験も活かせそうだったので、いいかなと感じました。

――大企業からスタートアップに移籍すると、環境の変化に戸惑いそうですが、片山さんはいかがでした?

 漠然と、スタートアップって社員が4~5人しかいないイメージがあったんです。でも、フューチャースタンダードは思ったより社員数が多くて、びっくりしました。ですが、業務を進めるうえで、特に深く関わったのは同じ部署の4~5人でしたね。

――主に関わる人が4~5人であれば、すぐに打ち解けられそうですね。

 そうですね。僕以外にもレンタル移籍者がいたこともあって、フューチャースタンダードでも受け入れ態勢はできていたように感じます。

 ただ、最初の1~2週間は空いているデスクの関係で、同じ部署の方々と席が離れていたんです。物理的な距離があったので、コミュニケーションが取りづらくて、ちょっと不安でしたね。その期間は1週間が妙に長く感じて、これから大丈夫かな…って思いました(苦笑)。

――入社3週目以降は、席が近づいたんですか?

 はい。同じ部署の方と席が近くなってからは、すぐに馴染めたと思います。仕事をするうえで必要なコミュニケーションを取って、その流れで雑談をしたり。一緒に飲みに行くこともありました。それからは、時間が過ぎるスピードも速くなっていきましたね。

戸惑い悩んだのはスタートアップの“スピード感”

――フューチャースタンダードでは、どのような業務を任されていたのですか?

 AIのモデルを渡されて、システムを作るという業務が主でした。概ね要件定義まで済んでいる案件を営業の方から渡されて、フューチャースタンダードの過去のリソースなどをもとに、作り上げていく役割です。

 具体的には、工場で働く人の動きや設備の状態に異常がないか検出するシステム、サーモカメラで温度を検出するシステムなどを担当しました。

片山さんが携わった、映像解析AIプラットフォーム「SCORER」

――開発の仕事ということは、リコーでの業務と近しいですね。

 近かったと思います。新たなシステムを作って、グループ会社やお客様に試してもらい、不具合があれば修正するという流れは、ほとんど同じでした。

――開発するモノは違っても、経験のある業務だとそこまで苦労しなかったのでは?

 業務は同じでも仕事の進め方は違ったので、大変な部分はありましたね。先ほど「要件定義まで済んでいる」と話したのですが、大枠しか決まっていなかったり、仕様書から見直さないといけなかったりすることがありました。これはスピード感を求めるスタートアップならではだと思います。

 リコーでは仕様書のフォーマットが決まっているし、細かなところまで詰めてから動き出すので、その違いに戸惑いましたね。そして、仕様書で違和感のある部分を、自分なりの解釈で修正して進めていいのか、迷いました。スタートアップに来たからにはそこの常識で働きたいけど、果たして自分で修正することが正解なのかなって。

――どのように乗り切ったのですか?

 フューチャースタンダードの上司に、「レンタル移籍者としての半年間をいいものにするには、迷った時に周りに聞くべきか、自分で踏ん張るべきか、どっちがいいでしょう?」と聞きました。その答えは、「自分で考えつつ、行き詰まったら聞いてほしい」だったんです。

 足りない情報を積極的にかき集め、上司や仲間とディスカッションを重ねながら判断し、迅速かつ丁寧に進めていきました。

――スピード感を出しつつも、丁寧に進めていくことが大事だったんですね。

 リコーで培った丁寧に業務を進めていく部分が、ありがたがられることがありました。例えば、システムの性能評価をすることは、リコーでは当たり前です。しかし、フューチャースタンダードでは、動作のバラつきやノイズの回数などをリスト化しただけで、「そこまで見てくれたんだ!」と言われました。

――片山さんが、スタートアップになかった文化を取り入れたといえそうですね。

そう思ってもらえていたら、うれしいですね。

写真左が片山さん。右はフューチャースタンダートCKO インテグレーション部 部長の林さん。

業務の進め方の違いに戸惑ったものの、これまで培ってきた丁寧な仕事ぶりで、評価を得てきたように見える片山さん。しかし、大企業で働いてきたからこその“思考のクセ”によって、躓いてしまう時がきます。後半では、留学中の失敗と気づき、“効率化”の本質について伺います。

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https://www.futurestandard.co.jp/news/988

 

【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計41社115名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年10月1日実績)。→詳しくはこちら

 


協力:株式会社リコー / 株式会社フューチャースタンダード
インタビュアー:有竹亮介(verb)

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