【第3章 思い出した、自分の好きなこと】製薬から音楽の世界へ 〜異業界で見つけた、自分のやりたいこと〜

<過去記事>
第1章 「大鵬薬品から音楽の世界へ」
第2章「あれもダメこれもダメ。「企画」って難しい!」

 

東京神田にある大鵬薬品のオフィス。
大西は自身の机でノートを広げ、黙々と何かを描いていた。

「よし……‼」
ノートに描かれていたのは、大西直筆のイラスト。

大西は移籍から戻ってきた後、企画書や資料をまとめる際、絵や図を描いて表現するようになった。
その方が伝わりやすいと、nana music での経験を通じて学んだからだ。

そして、子供の頃、絵を描くのが好きだったということを思い出したからである。

ーデザインするって楽しくて、奥深い!
「漫画家になりたかったあの頃……」を思い出して

大西は「飴づくり」を通じて、自分の好きなこと、得意なことを再発見できた。

大西が、特にワクワク感を感じたのは飴のパッケージやバナー制作。
どんなデザインが良いかイメージして、それをイラストで表現し、デザイナーに伝える。

大西の考えをデザイナーが上手に汲み取り、プロの思考の深さ、表現力によって形になる。

一つのデザインを考える時の奥深さ、そしてそのデザインが生み出すワクワク感に感動した。

また、飴を紹介するWEBページで使われるバナーのデザインも考えた。
楽しくて夢中になり、気付いたら何パターンもラフを描いていた。

「表現するってやっぱり楽しい……!」

ノートに描いた、大西が考えたバナーのイメージ。

大西は子供の頃、絵を描くのが好きだった。
漫画家になりたいと思った時期もある。

絵を描いたり、歌ったり、もともとクリエイティブなことに興味が強かったのだ。

しかし、年齢を重ねる毎に目の前にあるタスクだけに集中することが増え、興味は途絶えた。

また、就職してからはそれらを活かす場はなかった。
活かそうという発想すらなかった。

大西は、パッケージ作りやバナー作りを通じて、自分の「ワクワク感」を再発見し、新境地を見つけられた気がして嬉しかった。

 

———そして、2018年6月。
歌う人専用のど飴「utadama -歌玉-」が発売された。

合わせて、大西が原案を考え、デザイナーによって見事に仕上げられたバナーも無事に公開された。

ー「目先のことに捉われて、目的を見失ってはダメ」

「utadama -歌玉-」の発売直後、大西は浮かれていた。

というのも、「utadama -歌玉-」がAmazonストアで反響があり、想定以上の売れ行きだったからだ。

しかし細野から、
「本来の目的はなんだっけ?」と問われてハッとする。

そもそも「utadama -歌玉-」は「nana」の有料会員増加の施策として企画されていた。有料のプレミアム会員に入会すると無料でもらえるという、入会特典である。

Amazonでの反響は喜ばしいことだが、本筋ではなかった。

「目先のことにとらわれてはダメ。ブレてはいけない!」
再び細野からアドバイスをもらい、施策を変更。有料会員に誘導するため、更なるアプローチに着手した。

大西は発売に至れた達成感、そして反響があった喜びに気を取られ、本来の目的を見失っていた。

「これは何のための行動なのか、なぜこの商品を作るのか、「軸」を常にしっかり持っていないといけない……」
この経験が“ナイス学び”となり、以降大西は、ひとつひとつのアクションの目的を意識するようになった。

画像2

nana musicの社員で、飴のパッケージ詰めをした時の写真

ーはじめてのブログ発信。楽しいかも……!

このプロジェクトを通じて、もうひとつの新しい挑戦が「ブログ」だった。

商品に魅力を感じてもらうには、その商品の背景に有る「物語」を伝えなければいけない。nanaの公式ブログ内で『「utadama -歌玉-」物語』と題して、制作秘話を盛り込んだブログを書くことになった。

今までは、SNSをはじめ、ネット上で自分の言葉で表現することに苦手意識があり、発信することには抵抗があった。

しかし、発信しなければ伝わらない。
勇気を出し、少し無理のある「若さ」の演出も気にしながら、一生懸命言葉を紡いだ。そして、いざ発信してみると……、発信した自分以上に理解して楽しんでくれる人がいることを知った。また、ブログでの発信を通じて、自分の言葉で伝えていくことの楽しさも知った。

大西は、別のプロジェクトでもブログを書くことになる。

とあるカラオケチェーンとの取り組みで、「nana」のプレミアム会員は、一定時間ただでカラオケボックスが使えるというキャンペーンを行っていた。

大西は、10代の女子がどうしたらこのキャンペーンを利用したくなるのか、アンケートをはじめ、カラオケボックスに足を運ぶなどして調査し、キャンペーンの魅力を具体的にイメージしてもらえるよう、ブログで発信した。(※期間限定キャンペーンのブログのため、現在は非公開)

「ブログも楽しいかも……」
大西は、イラスト、歌に加え、文章で表現する楽しさも知った。

ー考えるより、まずは「作る! 動く!」の精神

大西が、飴づくりの傍ら参画していたもうひとつのプロジェクトがある。

それは、ユーザーの「歌う場所がない問題」を解決する商品開発である。「nana」は自分の歌や演奏を投稿するアプリ。特に歌を投稿する人には、思いきり歌えて綺麗な音が録れる環境が欲しいというニーズがある。しかも、自分の歌いたい時に、なるべく安く。

実際に、家の中で使える防音ボックスなどのアイテムは既に発売されているものの、価格帯が高く、「nana」のメインユーザーである10代の女子は手が出しにくい。

まずは一番お手軽な「家の中」でできる施策を考えた。

大西は、自分の部屋で、もっと手軽な防音スペースが作れないかと思い、自宅でダンボールやストッキングを使って、首から上(顔の周りだけ)が覆われるような防音ボックスを、イメージ共有のために自作した。

大西の作ったそれは、社員からは面白がられたものの、もちろん再現性は低く商品化は難しい。

そこで次は、外でできる防音スペースを考えた。

「ユーザーと親和性がある場所に、防音ブースを置けたりしないか?」という検討の中で、ゲームセンターが候補にあがる。歌えるゲームセンターということで、店舗への集客にもなるし、これはいける! と思った。

大西は、ゲームセンターを運営する様々な企業への提案資料を作った。
電話での営業をはじめ、アポイントを取って会いに行ったりもした。結果、興味を持って話を聞いてくれる企業もあったのだが、消防法などの規制上、密室となる防音ブースを設置するハードルは高く、結果置けないという結論に至り、企画は白紙に戻る。

このプロジェクトは移籍が終了した現在も続いているため、何か成果を出すまでにはたどり着かなかったが、「今まで誰もやったことがないアイディアを実現するために、自分で作って、探求していくって楽しい……」、
大西は自分がイメージする「防音ボックスの自作」や、「ゲームセンターへのアタック」などを通じて、自分が、強い探究心を持っていることに気付いた。

自分のワクワクすることや強みを再発見したことで、移籍終了を目前に、大西は、この後自分がすべきことが見えてきた気がした。

→ 最終章「「最小最速最短」の発想で」へ続く

取材協力:大鵬薬品工業株式会社、株式会社nana music
storyteller 小林こず恵

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