正解は追い求めても手に入らない。ベンチャーでわかった、正解のつくり方 -NTTドコモ 關瑞樹さん-


 株式会社NTTドコモに新卒で入社し、5年目を迎えた、關 瑞樹(せき・みずき)さん。大企業でありながら、次々と新たなサービスを生み出していく姿勢に感銘を受け入社した關さんは、いずれ自身で新規事業を立ち上げることを目標にしていました。しかし、はじめに配属されたのは法人営業部だったため、既存サービスの提案業務を担いながら経験を積む日々が続いていました。
  その状況においても、入社時の目標を忘れたくない、忘れてはならない、と感じた關さんは、事業を立ち上げる経験を積むため、「ドコモ出稽古プロジェクト(異業種OJT)」を通じて、「レンタル移籍」でベンチャーに出向くことを決めます。2021年4月から1年間移籍した会社は、地方共創事業を展開するオプスデータ株式会社でした。
  まったく異なる環境に身を置き、幅広い業務に取り組んだ關さんは、どのような発見と学びを得たのでしょうか。

得たかったのは“ゼロから生み出す力”

――NTTドコモに入社されたのは、どのような思いからだったのですか?
 
NTTドコモは、新しいサービスの創出に積極的に取り組んでいるイメージがあったんです。資金力や社会的信頼といった大きな後ろ盾がある中で、新サービスの開発に取り組めることに可能性を感じて、入社しました。
 
ただ、1~3年目は法人営業の部署に配属されたので、ゼロから事業を生み出すためのスキルという観点でいうとなかなか身につけられていない気がして。ゼロから立ち上げる業務を経験したいと思ったタイミングで、レンタル移籍を知りました。
 
もともとNTTドコモには「ドコモ出稽古プロジェクト」という制度があったのですが、出向く先としては大企業が主でした。その制度に、2020年度からベンチャーに行けるレンタル移籍の枠が設けられたと知って、興味が湧きましたね。
 
――移籍するベンチャーはどうやって選んだのですか?
 
選ぶ際には、会社の理念や成し遂げたいことを見ていました。会社とパートナーが“Give & Take”ではなく“Take & Take”の関係を築いているところが良かったんです。対等な立場で互いにとっていいことをした結果、社会が良くなる事業を進めているところがいいなと。
 
――“Take & Take”の考え方は、どこから芽生えたのでしょう?
 
以前、ボランティア活動に参加していたのですが、ボランティアを受けている側がどうしても引け目を感じているような、見えない上下関係が構築されているのがイヤだったんです。対等な関係を築ける取り組みがしたい、という思いが原点にあると思います。
 
その点で、移籍したオプスデータは「地方創生」ではなく「地方共創」という言葉を用いていたんです。地方を盛り上げてあげるのではなく、地方と共に創る。この考え方に共感しました。あと、代表の中野社長と面談した際に、一緒に働いてみたいと思って。
 
――中野社長のどのようなところに魅かれました?
 
面談の場で、上場企業の役員を退いてまで、ゼロから無名の状態で会社をスタートアップさせた話を伺ったんです。以前の会社を退いた理由が、社会や顧客への貢献よりも利益追求や安定性への考えが大きくなったことだったそうで、会社をつくるなら社会全体のためになることをしたいと再スタートを切ったと。その話がすごく響いたんですよね。

私を変えた言葉「確認より謝罪」

――2021年4月にオプスデータに移籍して、どのような業務を任されましたか?
 
オプスデータでは、特定の地域の生産品をまとめて送る「WAKEAU」というサブスクリプションサービスを展開しているのですが、そのサービスにかかわるほぼすべてでした。
 
技術的な分野以外のすべてだったので、地域や農家さんの開拓という営業的な部分から、運送業者との連携、梱包資材の手配、同梱する資料の作成、販促のための広告出稿、カスタマーサポートまで、サービスに関連することのほとんどを行わせてもらっていました。
 
――業務のひとつである営業も、法人営業とはタイプが違いそうですよね。
 
全然違いましたね。営業といっても、農家さんは顧客ではなくパートナーさんなので、ただ資料を見せて説明するだけでは話が通らなくて。会社の名前に頼らず、私という個人が実現したい思いを伝えて、「一緒にやりたい」と感じてくださる農家さんを探す必要があるので、最初はちょっと苦戦しました。
 
「WAKEAU」がリリースしたばかりのサービスで、「どんどん開拓していこう」というフェーズにあったこともあり、いろんな地域で農家さんと話す機会があったので、回を重ねて思いの伝え方を改善していきました。たとえば、「サービス」って言うと小難しく感じさせてしまうので、「仕組み」という言い方に変えてみたり。
 
――細かい部分も大事ですよね。初めての業務も多く、慣れるまで大変だったのでは?
 
業務そのものよりも、はじめはマインドセットに手間取りました(笑)。移籍当時「WAKEAU」は既に稼働しているサービスだったので、私は1を100にしていく過程にジョインしたんだと受け取っていて、本当に経験してみたかったゼロイチのフェーズはもう終わってしまっていたんだと思っていました。
 
ただその話をメンターの青木さんに話したら、「全然違うよ、まさに今が0から1にする最中だよ」というアドバイスをいただいたんです。中野社長も「今が最終形ではなくて、どんどん変えていく必要がある」と話していて、“ゼロイチ”ってこういうことなんだって知りました。
 
――まだ「WAKEAU」は完成していなかったんですね。
 
当時は1つの地域で始まったばかりで、確かに改善点も多かったんです。着想という本当のゼロのところに私はいませんでしたが、1をつくり上げる過程に参加させてもらえたんですよね。
 
その過程の中で、中野社長から言われた「確認より謝罪」という言葉も、強く残っています。移籍序盤の私は、何をするにも周りに確認をして、合意が取れてから動いていたんです。その様子を見た中野社長から「時間がもったいないし、俺はみんなのことを信じてるから、やれることはどんどんやってみてほしい。うまくいかなかったら謝罪して、改善すれば問題ないから」って言っていただいて。
 
法人営業はお客様ありきで、お客様が「OK」と言ったら実行するのが当たり前だったので、「確認より謝罪」という発想に驚かされましたし、大きな発見になりました。
 

オプスデータのメンバー・移籍者と

地道な積み重ねが“成功”につながる

 ――「WAKEAU」の業務は、滞りなく進んでいきましたか?
 
新しい地域のサブスクをいくつかリリースしたんですが、思うように売り上げが立たず、気持ちが落ちてしまったんですよね。最初にリリースしていた地域は好調なのに、同じ施策を打っても他の地域はうまくいかなくて。
 
その時に、中野社長に言われたんです。
 
「俺だって答えはわかんないから、今ある情報から仮説を立てて、できることを順繰りにやっていくしかない。正解は追い求めるものじゃない、つくるものだよ」
 
って。ハッとしましたね。
 
――そのひと言で、關さんの視野が開けたんですね。
 
はい、大きなターニングポイントになりました。それまでは広告の手法を変えるとか、小手先の工夫でなんとかしようとしてたんです。でも、実際はもっと試せることがたくさんあったし、見るべきものも広告効果などの数字ではなく、実は「人」だったんです。
 
なぜ売上が上がらないのか探るために、既存のお客様にアンケートを取ったり、1対1でヒアリングさせていただいたり、生の声を聞くようにしました。そこで出た意見を施策に反映して、その結果を見て、再度改善点を探す。そんな地道な作業を繰り返しましたね。
 
――その作業の先に、売上を上げるヒントは見つかりましたか?
 
オプスデータとお客様の思考に、乖離があることに気づきました。これは一例ですが、サブスクサービスは価格が一定なので、生鮮品より高い加工品を多くした方がお得になりやすいんです。でも、お客様からするとボリュームと華やかさのある生鮮品の方が満足度が高いことがわかりました。
 
その気づきを生かして改善したりしたことによって、ものすごく跳ね上がったかというとそうではないんですが、お客様の満足度は上がりました。そして、何よりも私自身の思考が変わったので、とても貴重な経験をさせてもらったと感じています。
 
中野社長からは「ベンチャーで成功した人の共通点は、成功するまでやり続けたこと」という話も伺いました。何事も近道はなくて、考えられること、できることをやっていくしか、成功につながる道はないんだと実感しましたね。

石川県金沢市牧山町(まっきゃま)を訪れた際の1枚
鹿児島県指宿市でエルダーフラワーを育てる生産者の方のハウスで「WAKEAU」について対話している様子

道筋を立てて進んでいく“自走力”

――ベンチャーでの経験を通じて、当初期待していた経験はできましたか?
 
まさに0から1にする過程に参加して、貴重な経験をさせてもらえたと思います。新たな事業を立ち上げるスキルが身についたか、自分で判断するのは難しいですが、真っ白な地図に自分の理想を描いて、道筋を立てて進んでいく“自走力”みたいなものは高まったのではないかと感じています。仮説を立てて、ひたすらできることをやっていく経験が力になったんだと思います。
 
――「正解は追い求めるものじゃない、つくるものなんだ」の言葉が生きていますね。
 
とても大きな影響を受けたひと言でしたね。「小さな実験を繰り返す」が、今の私の課題です。
 
1人で考えて、時間をかけて練ったアイデアがダメになったら、また振り出しに戻りますよね。でも、いったん軽く準備をして試しにやってみれば、ダメならすぐやり直せるし、いい感じだったらアップグレードさせていける。そのやり方の方がロスが少ないし、いろいろな方法を試しやすいんですよね。そこを意識して仕事に向き合っていきたいです。
 
NTTドコモに戻ってから担当している業務においても、キャンペーン施策でお客様の視点を意識しながら、これまでの企画内容を少し変えてみたり、+αしてみたりとできることから進めてみているところです。
 
あと、「確認より謝罪」の言葉も大事にしています。NTTドコモは大きな会社なので確認すべきことが多くて、それも大事なことだと思うんですが、ある程度は自分で動ける部分もあると感じています。方向性だけでも自分で決めて、ただ確認するのではなく、「私はこう思います」と伝えるようにしています。

鹿児島県指宿市の生産者の方にWAKEAUの取り組みを紹介している様子

戻ってからの方が大変だけど面白い!?

――先ほど、キャンペーンを担当されているとお話しされていましたが、NTTドコモに戻られてからは、具体的にどのような業務を?
 
マーケティングの部署に異動して、dマーケットというオウンドメディアを担当しています。社内のコンテンツ系サービスの情報をメディアやSNSなどで発信したり、サービスに送客する仕組みをつくったりする担当です。
 
実は、今の部署の方が、オプスデータにいた時よりも大変なんです(笑)。オプスデータでは業務の幅が広くてタスクも多かったですが、1つのサービスに関連した業務だったのと、今に比べると関係者も少なかったため、なんとか自分の中でまとめることができたんですよね。
 
でも、今の部署は社内のさまざまなサービスやプロジェクトを同時進行で扱うので、とにかく社内調整がたくさんありますし、タスクの量やスピード感も入社以来経験してこなかった環境です。NTTドコモに戻ってから、再び越境してる感覚ですね(笑)。
 
――大変そうですが、やりがいはありそうですね。
 
そうですね。やりがいはあるんですけど、まだ自分が追いつけていないというか。業務自体は楽しめているんですが、ひとつの情報をリリースすることで、数万人、数十万人、数百万人に影響する仕事なので、怖さを感じることもあります。一方で、自分たちがつくった企画を通してサービスを利用してくれる人の規模を考えると、怖いけど面白い部分だなって感じています。
 
――顧客と向き合うという点では、「WAKEAU」と通じる部分がありますね。
 
そうですよね。そして、いずれは入社時からの目標である「ゼロから立ち上げる業務」に携わりたいと思っています。法人営業やオプスデータで培ったものも、これからマーケティング部門で培うものも持って、事業を立ち上げる経験をしたいですね。

人との出会いが教えてくれたこと

――改めてレンタル移籍を振り返って、關さん個人として影響を受けた部分はありましたか?
 
地方の方々とのつながりでしょうか。農家さんをはじめ、きっとレンタル移籍をしていなかったらお会いできなかった方々とコミュニケーションを取らせてもらって、視座みたいなところも勉強になったし、人生観やキャリアの考え方に影響を受けたんですよね。
 
NTTドコモはリモートスタンダードになったので、ほとんど出勤せずに自宅で一人仕事をしているんです。一方で「WAKEAU」を通してつながった農家さんは、朝早く起きて農作業をして、午後は自由に使える時間があって、週末はマルシェで地域の人とコミュニケーションを取る日々を送っているんですよね。
 
――都市部で働いている人にとっては、憧れの生活ですよね。
 
まさに豊かな暮らしだなぁって感じましたね。そういう生活を送っている農家さん・生産者さんとお話するだけでも、選択肢や視野が広がるので普段の生活圏を出て活動することがいかに大切かということを学びました。
 
冒頭でも話したように社員の私ではなく、いち個人の私としてコミュニケーションを取ることで、ビジネスを超えたつながりができることも教えてもらった気がします。人と人のつながりができると、いい意味で遠慮しなくなって、ビジネスにおいても垣根を越えやすくなるんですよね。
 
――その結果、複数の地域のサブスクも実現できたんですね。
 
そうだったんです。パートナーさんとのつながりが強くなると、できることも増えるんだなって。
 
これは純粋な思い出話なんですけど、私は自動車の免許を持っていなかったので、移籍中に教習所に通って2月末に取得したんです。その話を農家さんにしたら、初心者マークを用意してくれていて、ご自身の車を指さしながら「運転していいよ、ぶつけてもいいから」って。その時の車が、私が免許を取って初めて運転した車になりました。
 
――まさにビジネスを超えた関係性で、なんだかほっこりしますね。
 
はい、本当にかけがえのない出会いをたくさん経験させてもらいました。
現地の方とは今も連絡を取っていて、この間もオンライン飲み会をしたんです。「遊びに行く時は連絡しますね」って話してて、早くまた会いに行きたいですね。
 
――關さんも、いずれは地方に移住したいなと考えていたり?
 
NTTドコモでの仕事は続けたいので、2拠点生活がいいかもって思います。まだ夢の段階ですけど、さまざまなタイムラインで生きている方々と出会って影響を受けたので、皆さんの生活を取り入れていけたら、もっと視野が広がって面白い発想も生まれるかもしれないなって。

移籍者・大橋さん(左)と、鈴木さん(右)との1枚 

ベンチャーにゼロから事業を立ち上げる経験をしにいった關さん。その結果、得たものはスキルだけではなく、あらゆる仕事において重要になるであろう「正解は追い求めるんじゃない、つくるもの」というマインドでした。この言葉を胸に刻み、仕事への向き合い方も変わりつつある様子。新しい業務は困難も多いようですが、人との出会いによって視野も広がった關さんは、その壁を乗り越え、イノベーションを生み出していくことでしょう。

Fin

協力:株式会社NTTドコモ / オプスデータ株式会社
インタビュアー:有竹亮介(verb)
撮影:宮本七生

 

 

【ローンディール・イベント情報】

***本イベントは終了いたしました***

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石山先生とローンディールがタッグを組み、「これから越境学習を始めよう」と考える方に、アカデミックと実践の両面からお話してまいります。ローンディールが蓄積してきた越境学習者本人の声や、上司・送り出した人事の評価などもご紹介しながら、これから「越境学習」の導入を検討していく企業の皆様に参考となる情報をお届けしてまいります。
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