「この仕事に、夢やビジョンはあるのか?」パナソニック 濵田 広大さん-後編-


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 先進技術と幅広いソリューションを展開するパナソニック株式会社の濵田 広大(はまだ・こうだい)さん。将来を見据え、ベンチャー企業で経験を積みたいとレンタル移籍を希望した。移籍先は大阪にある「YOLO JAPAN」。226ヵ国以上の在留外国人が登録している日本最大級のメディアを運営し、外国人の就労支援を行っている。
 前編では濵田さんが移籍してから、巨大イベント「YOLO JAPAN FESTIVAL」に取り組むまでをお話いただいた。果たしてイベントは無事成功したのか。さらにその後、コロナ禍の危機的状況をどのようにして乗り越えたのだろうか。


ー在留外国人の悩みに寄り添う

 ビッグイベントまで残り一ヵ月。濵田さんはあちこちに奔走していた。出演するゲストへの打診、飲食店など業者との打ち合わせ、コストの算出にWEBなどの広報活動。こんなにも多くの人が集まるイベントは初めてのこと。近隣対策のため、ビラを作って配り歩いた。

 「残り一ヵ月で、イベントの関係者100人ぐらいの人と会って、話をして。協賛をいただく企業への報告、会場の設備、宣伝用の広告物の制作…やることは次から次へと湧いてきました。忙しさで目が回りそうでしたよ」

 その甲斐あって多くの在留外国人がイベントに駆けつけた。このビッグイベントを通して、イベントに関する知識が備わった。英語も話せない自分がこんなにも多くの外国人と関わる日が来るなんてと、濵田さんは驚いた。

 イベントを通じて見えてきた課題もあった。外国人と接することで、まだまだ彼らの価値観を理解できていないと感じた。彼らがどんなことに悩み、喜びを感じるのか。まずはそこを理解しないと、この仕事の本質は掴めないのではないだろうかと。

 そこで濵田さんは、「外国人実習雇用士」という資格をとることに決めた。かなり幅広く専門知識を理解しないと合格は難しいとされているそうだ。例えば留学生だと、1週間に28時間(1日4h)しか働いてはいけない。同じ在留外国人でも、ビザ(在留資格)によって仕事に就ける条件は変わってくる。これはそういった法律などの外国人が就労するにあたり、必要な知識を習得できる資格なのだ。仕事の合間をぬって勉強し、見事合格を手にした。

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ーコロナによって折れてしまった三本の矢

 レンタルスペースの売り上げも順調に伸びていった。2019年12月には、目標金額まであとちょっとというところまで迫っていた。しかし事態は一変する。新型コロナウイルスの影響からイベントは軒並みキャンセル。宿泊業も利用客のほとんどがインバウンド客を占めていたため、大打撃を受けた。

 コロナウイルスの影響によって、YOLO JAPANがこれまで主軸としていた外国人への仕事の斡旋、宿泊業、英会話教室、これらすべてが立ち行かなくなった。4月から緊急事態宣言を受け、GWまで休館を余儀なくされた。

「外国人に仕事を与える立場なのに、30人以上いた外国人のアルバイトスタッフにも仕事を与えられない。本当に辛くて、毎日胃がキリキリ。スタッフを辞めさせたくはない、だけどYOLO BASEを存続させなければならない。その葛藤の日々でした。会社がつぶれるかもしれないということをこれほどリアルに感じたことはありませんでした。そして、こんなに素敵な会社でもつぶれてしまうのかという厳しい現実を思い知らさました」

 少しでもコストを軽減するために濵田さん自身がレンタル移籍を切り上げたほうが良いのではないかと考え、上司に相談した。すると当時の上司から「YOLO JAPANにとって濵田さんは戦力、この状況を打破するために力を貸してほしい」という言葉をもらう。そして、濵田さんはここに踏みとどまろうという覚悟を決めた。

「できることは何でもやろう」

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ーコロナに打ち勝つために

 状況を打破したのは、加地社長のこんな一言だった。「テレワークが増えてきたんだし、何か変えてみようか」と。ホテルの部屋のレイアウトを変更し、テレワーク・リモートワーク向けビジネスルーム「YOLO PREMIUM OFFICE」として再スタートを切ることにしたのだ。

「僕にはハウジングの経験があったので、これまでの雰囲気を壊さないように、レイアウトをどう変更するかを考えました。いかにコストをかけずに行えるかが重要なポイント。YOLOベースの中にある机や、量販店で売られている照明などを使い、この空間に最適な状況をつくりだすことができました。部屋のレイアウト変更から、WEBサイトなど広告物の作成を2週間で行い、とにかくスピーディーにリリースに漕ぎつけたんです」

 他にも外国人の雇用を生みだすために、飲食の配達サービス「YOLOデリバリー」や、ウイルス・細菌除菌サービスをスタート。企業が採用した外国人の入社時研修として日本語やビジネスマナーなどのサポートを行う「YOLOアカデミア」の立ち上げなど、折れてしまった3本の矢に変わるサービスを次々と発表した。

 また、コロナの影響で国外に出られないことを逆手に取り、国内で世界一周体験ができる「YOLOイングリッシュキャンプ」を開催することが決まった。留学に行くはずだった高校生が3日間、外国人と英語のみで接する体験をしてもらうサービスだ。これこそ、YOLO JAPANだからこそできた、マッチングの事例だろう。

 もがき苦しんだ時期を乗り越えて、ようやく光が見えてきた。とにもかくにもやれることを、と精いっぱい毎日を過ごしていた濵田さん。2020年の9月、YOLO JAPANでの任期を終えた。

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濵田さんがYOLO JAPANで企画した最初のイベント「留学生忘年会」。企画のみならず、司会、運営、集客など全部を行った ※写真は本人提供

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「外国人成人式」イベントで使用した、濵田さんお手製のフォトスポット
※写真は本人提供


ーYOLO JAPANで僕が得たこと

  YOLO JAPANでのレンタル移籍を終えた濵田さん。今、彼はYOLO JAPANに何を思うのだろうか。

 「YOLO JAPANは、たくさんの人から支援を受けている会社なんです。それは、YOLO JAPANが日本の将来を見据えて、社会課題の解決に取組みたいという志を持っているから。まるでアニメのワンピースの世界のように、頑張っているYOLO JAPANを、みんなが応援しているんだって。それを移籍中にすごく感じて」

 日本の人口が減少し、経済も縮小していく。その代わり、日本に在留する外国人は年間20万人ぐらい増えているそうだ。だからこそYOLO JAPANは、今後日本の経済を日本人と共に支えてくれる存在である外国人の支援をしている。濵田さんも共に働くうちに、加地社長の夢やビジョンに共感するようになった。なぜなら、濵田さん自身も日本の未来を豊かにしたいと願う内の一人だからだ。

 元の部署に戻り、あらためて自分の仕事と向き合ったときに「この仕事に、夢やビジョンはあるのか」と自ら問い直したそう。

 「利益も大事だけど、リソースに見合った商品を作るんじゃなくて、人の将来や暮らしに役立つからつくりたい商品が生まれるのではないか。もっと、熱い気持ちが必要なんじゃないかと思いました。人の役に立たないものだと誰も応援しないし、ついていこうとも思わない。一つひとつの意味を考えて、こつこつ取り組もうと思ったのです」

 大企業の中で、ベンチャーで学んだことをいきなり社内ではじめるのは難しい。けれど、今ある大きな事業を改善することを100個やると考えればそれは実現可能なんだと気づけたという。例えば見積もりの方法を変える、社内伝達の方法を考える。小さな改革を100個やることで、コスト削減や売上アップにつなげる。その利益を源に、次の豊かな暮らしを生みだせる商品を作ることができるかもしれない。

 「YOLO JAPANで学んだことは、いくつもあります。お金を使わずに小さくやってみる、失敗してあたりまえだと思って挑戦すること。不確実な環境の中で物事を成功させるには、高速でPDCAを回し、失敗を繰り返して成功を導き出すことが大切なんだと。この不確実なコロナ禍だからこそ、僕らだけじゃなく、関連しているすべての方々と共創の精神で社会に役立つものを生みだしていきたいですね」

 レンタル移籍が終わった今でも、濵田さんはYOLO JAPANに顔を出しているそう。それはきっと、YOLO JAPANと濵田さんの間に生まれた信頼関係が、今なお続いているからだ。互いの熱意や行動が相手を刺激し、関係性を深くする。濵田さんが起こす一つひとつの行動に引き寄せられ、これから社内にも社外にもどんどんと仲間が増えていくのだろう。そしてその仲間との結びつきが、未来を支える大きなパワーになるのではないだろうか。

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【レンタル移籍とは?】

大手企業の社員が、一定期間ベンチャー企業で事業開発などの取り組みを行う、株式会社ローンディールが提供するプログラム。ベンチャー企業の現場で新しい価値を創りだす実践的な経験を通じて、イノベーションを起こせる人材・組織に変革を起こせる次世代リーダーを育成することを目的に行われている。2015年のサービス開始以降、計43社118名のレンタル移籍が行なわれている(※2020年12月1日実績)。→詳しくはこちら

 

協力:パナソニック株式会社 / 株式会社YOLO JAPAN
文:三上 由香利
写真:其田 有輝也

 

 

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