ベンチャーに行った大企業の2人がタッグを組んで推進する「ONE JAPAN事業共創プロジェクト」とは?



今回インタビューしたのは、東洋製罐グループホールディングス株式会社(以下、東洋製罐)の竹内友里(たけうち・ゆり)さんと、株式会社NTTドコモの泰松遼(やすまつ・りょう)さん。竹内さんと泰松さんは現在、「ONE JAPAN」という、大企業の若手有志が集まる団体で活動しています。異なる企業に勤めるお二人には、とある共通点が。実はお二人とも、「レンタル移籍」を通してベンチャーで働いた経験があるのです。ベンチャーの経験が現在の活動に生きていると語るお二人に、現在、どのような活動をし、いかにしてベンチャー経験を生かしているのか、お聞きしました。

ベンチャー経験を通して醸成された経験が、
「大企業とベンチャーを繋げたい」という想いへ

 
── お二人が活動する「ONE JAPAN」について教えていただけますか。
 
泰松:大企業で働く若手中堅社員を中心とした企業内有志団体が集う実践コミュニティです。特徴は、55社もの大企業のメンバーが所属していること。部署や会社を飛び越えて、社会全体を良くしていこうとするマインドの方が集い、実践していくコミュニティです。

その中でも、現在竹内さんと共に取り組んでいるのが、「事業共創プロジェクト」というもの。ベンチャーと「ONE JAPAN」に所属する企業の、事業共創機会の最大化を目指す取り組みで、今はピッチ機会の提供や、個別マッチング、共創支援などを行っています。
  

NTTドコモ・泰松遼さん /  ※ 写真はベンチャー移籍当時のもの

 
── 事業共創プロジェクトにおいて、お二人はどのような活動を担当されているのでしょうか?
 
泰松:私はベンチャーと大企業の間に立って、マッチングを支援する取り組みをしています。流れとしては、ONE JAPANの各団体の代表者などがオンラインで集う代表者会議という場でベンチャー企業にピッチしていただきます。その後、興味を持った大企業と、ベンチャー企業間で直接コミュニケーションをとり、双方の合意が取れればステップアップしていく、というものです。
 
その際に、スムーズなコミュニケーションを実現するため、私たちプロジェクトメンバーが間に入って、翻訳をする役割を担っています。課題とニーズがマッチングするのかを確かめ、協業の入り口まで伴走するイメージですね。
 
竹内:私も泰松さんと同様に、企業間のマッチングのサポートをしています。それと、事業共創プロジェクトを、大企業・ベンチャー企業にもっと認知してもらうためのPRも担当しています。ちなみに、私が今この活動をしているのはレンタル移籍を通じてベンチャーで働いた経験があったからなんです。
 
── 詳しく教えてください。
 
竹内:そもそも、レンタル移籍前は、ベンチャーってすごく遠い存在だったんですね。キラキラしていて遠い存在、私たちとは世界が違うんじゃないか、とも思っていました。でも、レンタル移籍を通してすごく身近な存在になって、もっとベンチャーと自社を繋いでいけたらと考えるようになったんです。
 
そんな背景があったので、このプロジェクトの話を聞いたとき、「自分も運営側で取り組んでみたい」と思い、手を挙げました。ベンチャーにとって大企業を身近に、大企業にとってベンチャーを身近にできたらいいなという思いで活動しています。
 

東洋製罐グループホールディングス・竹内友里さん / 写真はベンチャー移籍当時のもの

 
泰松:僕も、レンタル移籍中に感じたベンチャーの課題を解決できると感じて、この活動に参加しました。大企業は法人との繋がりも多いので、「この会社の担当者とお会いしたい」と思ったら、すんなりと機会を設けられるんですね。
 
でもベンチャーでは、コーポレートサイトの問い合わせフォームから地道にアポイントを取るほかなくて。こういった泥臭いやり方じゃないとビジネスのチャンスを掴めないんだと驚いて、もっと何かやり方はないのだろうか?と頭を悩ませたんです。
 
事業共創プロジェクトの話を聞いたとき、「まさに、自分が困っていたことだ!」と直感的に感じて、ぜひ一緒に取り組んでみたいと思いました。
 
── ベンチャーに飛び込んだからこそ、大企業とベンチャー企業の関係性の遠さや、課題を実感したんですね。
 
泰松:はい。大企業とベンチャーの間に立って翻訳するとき、自分は両方を経験しているので、双方の立場を理解しながら取り組めているのかなと思います。そういう意味では、実務面でもレンタル移籍の経験を生かせていますね。

協業することで、互いの強みを生かすことができる

 
── 事業共創プロジェクトは、ベンチャーと大企業、それぞれどのようなメリットがあるのでしょうか?
 
竹内:ベンチャーにとっては、自社の技術や商品をアピールし、ビジネスを広げる機会となります。大企業も、既存領域の拡張や新市場の参入に繋がる出会いのチャンスを得ることができる場です。
 
泰松:大企業は販路やチャネルが強いですが、新しい売上に繋げるためには、魅力的な技術や商品が必要になるんですね。一方、ベンチャーは革新的なものを作っているけれど、販路やチャネルをあまり持っていない。ベンチャーと大企業が協業することで、互いの強みを生かすことができるようになるんです。
 
── お二人が所属するのは大企業ですが、大企業側からしても、 事業共創プロジェクトは魅力的な取り組みということなんですね。
 
竹内:そうですね。大企業から見たときに、「このベンチャーの取り組み、すごく面白い」と思っても、どのようにコンタクトを取るべきか、悩ましく思っていたのが現状でした。ベンチャーの情報はデータベースなどで調べることができるけれど、実際にアポイントを取って会話に至るまではハードルが高い印象があって。
 
なので、この取り組みでは、私たちプロジェクト運営側がベンチャー企業と繋ぎ、コミュニケーションから支援します。大企業側の視点で見ても、すごくいい取り組みだと感じますね。
 
── 有志活動ということで、お二人は業務外でこのような活動をされているかと思います。業務との両立は容易ではないと想像しますが、なぜこういった活動をされているのでしょうか?
 
竹内:ベンチャーと大企業が結びつくと、まったく新しいイノベーションが起こると感じているからです。大企業だけでは生まれなかった、ベンチャーだけでは生まれなかったものが、この活動を通して世の中に誕生するって、ものすごく面白いと思うんですよ。その現場に立ち会えるのが、すごく魅力的かなと思います。
 
それに、「ONE JAPAN事業共創プロジェクト」の所属メンバーは大企業の中でも新規事業領域に近い方が多く、ベンチャーとよくやり取りされている方々です。そういったメンバーと話しをするだけでもすごく勉強になりますし、このプロジェクトでの経験は今後、会社の業務でも生きるという確信があります。また、メンバーみなさん個性的で素敵で、一緒に活動するのが単純に楽しいですね。
 
泰松:僕は、「想い」を持って行動している人が大好きなんです。その人の近くにいて、話を聞きたくてしょうがないんですよ(笑)。「ONE JAPAN事業共創プロジェクト」では、ベンチャー企業の創業者の方々と話せる機会が多いですし、大企業の方々も指示されたわけではなく有志で集まっているので、二重の意味で「想い」を持っている方々に出会えます。面白いですし、エネルギーをもらえますし……もういいことしかないな、と。
 
── お二人とも、魅力的な方々が集まる場に心惹かれていらっしゃるんですね。

外に出て気づいた、自社の“もったいない”

 
── これまで「ONE JAPAN事業共創プロジェクト」の活動についてお伺いしてきましたが、本業のお話も聞かせてください。レンタル移籍を終えられてからしばらく経過しましたが、今はどんなお仕事をしているのでしょうか。
 
竹内:私は、少し“尖った”活動をしています(笑)。会社を外側から見たことで、「こんなにいい会社なのに、なんで私はその良さに気付けなかったんだろう」と、ハッとしたんですね。そこで、自社の良さをもっと社内外に発信したいと思い、イベントを実施したり、漫画を制作したりしました。
 
イベントでは、会社を辞めて転職したメンバーをゲストに呼ぶという、自社にとってはチャレンジングな企画を提案。私と同じように外に出てみたことで気づいた自社の良さを語って欲しくて。人事やマネージャー陣を少々ヒヤヒヤさせた企画でしたが、結果的に「いい企画だった」と言っていただけて安心しました。
 
── 漫画というのは……?
 
竹内:レンタル移籍を通してどんな経験をして、どんな気付きを得たのかを分かりやすく発信したいと思って、私が主人公のドキュメンタリー方式の漫画を作りました(笑)。文章ですべてを表現するのは難しいと思い、漫画という形で発信することにしたんです。

マンガ制作:タソ(https://taso-id.com/

▼ マンガ掲載はこちら「OPEN UP!PROJECT」サイト内 ▼

 
── 漫画制作にも竹内さんが関わったのですか?

竹内:そうなんですよ。まったく初めてのことだらけで苦労しましたが、ベンチャーに行ったおかげで、未知なことに取り組むのは慣れていたのでやりきりました。マンガは、漫画家・イラストレーターのタソさんに描いていただいたのですが、ストーリー自体は自分で作る必要があったので、一生懸命言語化して、タソさんと相談しながら全体を構成。誰に向けて何を伝えたいかをしっかりと設計しないと、人に伝わるものは作れないんだということを学びました。結果的に、周りの方々からも、反響をいただけて嬉しかったですね。
 
現在は、社内報に1つにコーナーをもらって、社内外のイノベーション人材にインタビューをして記事化することにも取り組んでいます。
 
── 泰松さんは現在、どういったお仕事をされていますか?
 
泰松:エンタメ分野の戦略と、自然環境保全における課題を解決する新規事業、その2つに携わってます。業務内容には変化があって、以前はエンタメサービスのマーケティングをメインで担当していましたが、最近はUX改善やプロダクトの価値向上に携わっています。
 
個人的な活動も継続中です。「ONE JAPAN」のほか、懐かしいゲームで遊び放題の秘密基地「オトナ帝国」を作るプロジェクトも引き続き行っています。
 
── お二人とも、現在もアクティブに活動されているんですね。
 

大企業内にベンチャー経験者が増えると、
イノベーションが加速する!?

 
── ちなみに、お二人がレンタル移籍経験者ということは、活動の中で知ったのですか?
 
竹内:事業共創プロジェクト代表の福井さんから、「泰松さんもベンチャーに移籍していた」と教えていただき、レンタル移籍経験者という共通点があることを知りました。
 
泰松さんのことは、初対面で「ムードメーカーだ」と感じましたね。誰とでもすぐ仲良くなれるし、業務面でもスピード感がすごくある。どこか大企業では珍しいような雰囲気があったので、ベンチャー経験があると聞いて、「そうだったのか!」と納得しました。泰松さんは、普段から志を持って動かれている印象が強いです。

泰松:竹内さんがこのプロジェクトに加入されたのが1ヶ月くらい前なので、まだお会いしてからはわずかなのですが、すごく話しやすい方だなと。「泰松さんって、どういうことに興味があるんですか?」「今は何を担当されているんですか?」と、どんどん質問してくださるんです。興味を持って引き出してくださるので、僕としては嬉しかったです。
 
竹内:泰松さんはどうやって自分の思いを形にしているんだろう?なんでこんなにもスピード感があるんだろう?と純粋に気になって。自分も泰松さんから勉強したいな、周りにも伝えられたらいいな、と思ったんです。気になったら根掘り葉掘り聞いちゃうところがあるので、嫌な気持ちになられていないとわかって良かったです(笑)。
 
泰松:お互いベンチャーを経験しているからこそ、通じ合える部分もあって。ベンチャー経験者が大企業に増えると、共創も生まれやすく、社会が変わっていくんじゃないかなと思いますね。

── インタビュー中も、竹内さんと泰松さんは素敵なコミュニケーションを取られる方々だと感じていました。最後に、これからの目標を教えてください。
 
竹内:まだまだ、事業共創プロジェクトのことを知らないベンチャーの方が多いと思うので、PR活動にますます力を入れていきたいです。漫画制作やインタビュー記事作成で勉強してきたことを、ぜひ事業共創プロジェクトでも生かせたらと思っています。
 
泰松:僕は「アニメやゲームの世界を現実の世界に持ってくる」というのをどうしても実現したいんです。事業共創プロジェクトの活動をしていると、新規事業の作り方を学んだり、その領域に詳しい方からアドバイスをいただいたりすることができて、自分のやりたいことが、どんどんブラッシュアップされている感覚があって。自身の夢に向かって行動しつつ、ベンチャーや大企業の「想い」をこれからも紡いでいきたいですね。
 

レンタル移籍を終えて、所属企業に帰任された竹内さんと泰松さん。経験を現在の業務に生かすのみならず、有志活動にも参加し、ベンチャーや大企業を繋げる役割を担っています。ベンチャーと大企業、双方の視点を持つお二人は、今後も活躍し続けることでしょう。あらゆる場所で化学反応が生まれていくことを願ってやみません。
 

to be continued…
 

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協力:株式会社NTTドコモ / 東洋製罐グループホールディングス株式会社 / ONE JAPAN
インタビュー:早坂みさと
撮影:宮本七生

 

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